第7話古代兵器とドラゴン王

  『グラセス』到来まであと数時間。

勇者のためのお祭りを開くため大にぎわいだった『王都ラノラグ』には今ひとっこひとりいなくなり冒険者のギルド内にだけ大勢の冒険者がひしめいている。

なんでも王族とその他の国民は腕利きの騎士団と共に遠くの街に避難しているらしく、国王は冒険者たちで『グラセス』を報酬は弾むので何とかしてくれと無茶ぶりしたらしい。

報酬は弾むと言われても総勢100名程度の即席のメンバーでは竜王に炭にされるだけだ。

2日前ほどに偵察に向かった冒険者たちとの連絡も途絶えギルド内は暗い雰囲気に飲まれていた。

「何で俺がこんなめに遭っているんだよ。…童貞のまま死ぬのか俺。…なぁべリア。」

「変態は炭にされた方が社会のためです。」

おっと、さすがの俺も心にくるよ。

「お前だって処女だろ?どうせ死ぬならお互いに卒業だけしとくか?」

こんなことを言う俺にべリアが顔を真っ赤にする。

「貴方って人は俺に任せろ的なことも言えないんですか!?それになんてこと言うんですか最低です!」

「仕方ないだろ…せっかく覚えた魔法も誰かさんのせいで使えないんだし。」

俺の一言にビクッとするべリア。

昨日の夜卵から孵った猫と犬の出来損ないみたいな奴は7つの神器に対抗するために創られた『魔器ケロベロス』のそれではなく博学で有名なヴァンパイアたちが作ったいわゆるパチモンらしい。

しかも厄介なことに孵って最初に見たものを親だと認識し成熟するまでそいつの魔力を吸って成長するとのこと、幸い魔力だけは多い俺は魔法の連発ができないだけで普通に生活出来るらしい。

「あいつが俺の刻印の中にいるせいで魔力の制御がしにくいし何より魔力を吸われているせいで強力な魔法は放てない。…全部お前のせいなんだ'よ!わかったら『グラセス』の討伐にはお前だけで行ってください!俺は荷物まとめて今から遠くに避難するから!!」

「あぁ!!今言っちゃいけないこと言った!うら若き乙女を竜王に差し出すなんてなに考えてるんですか!?」

「うるせぇBBAが!!お前はもう十分生きただろ!俺にはまだ未来があるし未練もあんだよ!」

泣きそうな顔で頬をふくらませるべリアの肩を揺すって叫ぶ。

「そもそも俺はこつこつバイトしてのんびり生きていくつもりだったんだ!冒険者になんてなるつもりなかったしましてや竜王討伐なんて関わるつもりもなかったのに!」

「え?なに言ってるんですかこのクエストは竜王討伐ではなく…」

べリアの言葉を遮る警報が街に響き渡った。

『グラセスが接近!!冒険者の皆さんはすぐさま武装して戦闘に備えてください!』

「来ちゃった…竜王が。糞っ!もうやるしかねぇ。べリア行くぞ!!」

「やっとやる気になりましたねカル!竜王が何ですか!賞金は私のものですよ!」

もしも本当にこいつが賞金を得たら全部ふんだくって遠くに行こう。そうしてのんびり暮らすんだ。

冒険者の集まっている街の門はギルドのすぐそばだ走ればすぐに着く。

「竜王がなんぼのもんじゃぃぃぃ!!…なんだ…あれ?えぇ!べリアあれなに!?」

「あれが竜王と言われる『グラセス』です。神話にすら登場するいわば神竜。あの巨体から放たれる業火で全てを消し炭にします。」

や…山が飛んでいる。あ、これ無理なやつだ。

父さんまたすぐ会えるねそしたらまた本でも読んでよ。

「べリア今までありがとな。…色々言ったけど本当に感謝してるよ。」

べリアがギョッとした顔になる。

「何諦めちゃってるんですか!?さっき未練があるっていってたじゃないですか!」

未練?未練ってなんだ…あんな反則級のモンスターを前にしてでも生きる理由って?…理由。

「俺まだ童貞だったぁぁぁぁ!!あの鱗野郎ぶっ殺して絶対卒業してやる!いや卒業しないと死んでも死にきれねぇ!」

「だからカルは何を言っているんですか?今回のクエストの目的は竜王の討伐ではなく…」

冒険者たちの声が一斉に挙がった。

「『グラセス』が来たぞぉぉ!!飛んでちゃ攻撃ができねぇ!A級以上の魔法が使える奴はトカゲ野郎の羽めがけてぶちこめ!!」

「A級以上の魔法が打てるやつなんて王族の護衛にまわっちまったよ!あぁもう終わりだ!」

まさに阿鼻叫喚だ。正直俺は足がすくんで動けずいた。

やべぇよ…あれはマジで反則級だよ。

そんな状況に終わりを告げる誰かの悲鳴が響い

た。

「ブレスが来るぞ!炭になりたくない奴は逃げろぉぉ!!」

「うわぁぁぁ!!に…逃げろ逃げろ!!」

「焼け死にたくないよぉ!早く逃げてぇ!」

冒険者が波をなして逃げ惑うなか数々の悲鳴がとびかう。

あ…足が動かん死ぬ。いくら再生能力が高くたって無理だあれは無理だ…だ、だって体が全て消し炭になったら再生どころじゃない。

固まったままの俺に竜王が獄炎を吐き出した。

「あ、嘘だろ…」

呟く俺の声を後ろから聞こえる憎いあの女の声が上書きする。

「『シルフィスウィンドブレス』ッッ!!!」

轟音を響かせる竜巻が業火を呑み込み爆ぜる。

俺は泣きべそかきながら後ろを振り向く。

「キ…キルテさぁん!」

「英雄一人はいりました。」

何度めかの貧乳とのエンカウントだった。

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魔王のムスコでしたが勇者のせいで路頭にマヨイマシタ サンジ関数 @noiru

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