第10話 おじんちゃ、3人娘と町に行く

 

 

 とりあえず今の名前を少しもじって、バルは3人の名付けを行った。

 イヌマルはルーマ。

 サルカはカーサ。

 ファルカはルーファ。

 

 もじるどころか逆さま読みに長音を足しただけのものだ。

 バルにしてもそれ程知識があるという訳でもない。

 だが3人共とくに不満を漏らすようなこともなく(逆に気に入ったようで笑顔満面)、バルも安堵の息を漏らすことになる。

 

 名付けが一段落したことで落ち着きを取り戻した3人と共に、バルはキスケに乗り込み麓へと向かう。

 城下町近くの丘までキスケで飛んで行き、そこからは歩きで向かう事とする。

 

 昼前ということで人の行き交う姿が数多く見受けられる。

 その中を老人と薄衣一枚で若い娘が3人歩いていれば、悪目立ちもしようというものだ。

 ましてや見目がこの国の人間とは違う美しい少女であれば尚更であった。


 バルはまず寄合所へ向かう間に着る物を誂える為に古着屋へと向かうことにする。

 取り敢えず着る物だけでも目立たなくしたいとバルは考えたのだ。

 

「まずは服屋に向かうことにするぜ」

「「「は〜〜い」」」

「くえっく」

 

 そしてもう1体。3人の返事の後に承知とばかりにひと声上げるものがいた。

 大人が抱えるくらいの大きさの空渡水鳥くどすいちょう

 だが普通は蒼い体毛は黄色であった。

 見るものが見ればあまりにも目を惹くものである。

 

 が誰もそれに目を留めることはなかった。というよりその存在を認識できないというのが正しいだろう。

 現界と精霊界の間というあまりにも曖昧な場所に、キスケはその身を置いていたのだから。

 要は素と元の間といえばいいのだろう。それが彼ら精霊獣の存在の在り場所というものらしい。

 

 面倒事が少なくなるのはバルとしても歓迎するものなので何を言うでもない。

 だがそうは上手く行くものではないというものなのだろう。

 バル達の行く手を遮るように、男が3人やって来たのだ。

  

「お嬢さん方。そんな爺さんを相手にしてないで俺達と楽しいことをやらないか?美味いものや綺麗な着物を着せてやるよ。なぁ、どうだい?」

 

 言葉自体は丁寧な物言いに聞こえはするが、年の頃は二十歳ほどのバルより頭ひとつ分ほど高い筋肉質の男の顔は、あまりにも下卑たものであった。

 

「そうだぜぇ。楽しくて良いところに連れて行ってやるからよぉ」

「そうそう。この世のものと思えないとこだ。へっへっへ」


 大男に倣うようにそばの2人がやはり下卑た顔で言ってくる。 

 いつの世のどこにでも、こういう手合いの輩はいなくなることはない。

 バルはやれやれと溜め息を吐きながら、3人の代わりに答える。

 

「悪ぃがそんな暇ぁこいつ等にゃあねぇんだ。ほかぁ――――」

「っせいっっ!じじいは黙ってろっ!!」

 

 バルの返答を遮り怒鳴りつけながら、大男はその腕を無造作にバルへと振りなぐ。

 

「ぐっ、ぎゃ……うぅ!」

 

 グシャリという骨が砕ける音が響く。ふわりと白い裾が舞い上がり、細くも端正な右足が空へと伸びる。

 その足先は男の顎をガッチリと捉えていた。

 

「ファ………ルーファよ」

「………は、失礼しました。つい」

 

 ルーファはバルの視線に気付き、すぐに足を戻しささっと後ろへと下がっていく。

 支えを失った男はそのまま前のめりにドスンと倒れる。

 

「あるじ様に危害が加わると悟ったので、つい」

「ぼ、坊っちゃん!」

「兄貴っ!」

 

 駆け寄り介抱する男2人を横目にルーファが告げる。

 だからと言って顎を砕くこたぁないと思うがなぁと、バルは内心呆れながらこそりと回復魔法を唱えて大男の顎を元に戻していく。

 

「お役人様お役人様――――っっ!!」

 

 それに気付くこと無く男のうちの1人が声を荒らげて叫び始める。

 バルはその事に辟易しながらも止めることもせず様子を見るに留める。

 そこへ示し合わせるように1人の役人らしき男がやって来る。

 鉤爪の付いた鉄棒のようなものを手に持ち、それで肩をポンポンと叩きながらこちらに向かって来る。

 

 とんだ茶番だとバルはふつふつと怒りに近しいものが湧き上がって来るのを腹に感じる。

 ガマガエルのような顔と固太りをした身体を持ちニヤニヤしたその役人に、バルはつい威圧を込めて気を放ってしまう。

 

「どうしたい、お前ら。何をや…………あがっ、ひぃいいっっ!?」

 

 まるで台本でもあるような物言いの後、突然膝をがたがたと震わせ顔を青くさせる。

 精霊獣たる3人はその様子を首を傾けながら、しばらく何もせずに見守る事にする。

 

「うちの若旦那がいきなり殴られて怪我を負ったんです!早くこいつ等をとっ捕まえておくれよっ!」

 

 その役人―――憲兵役たる人間の様子にも気づかずその男はまくし立てる。

 実際にはすでに怪我などは直しているので、何か危害を加えたという事実はないに等しいいものだ。

 

「お、おめぇえ………。な、何をしやがったっ!?」 

 

 若干および腰になりながらも何とか言葉を紡ぐ役人。

 

「何をしたのも何も、いきなりその男が殴りかかろうとしたのでうちの娘が防いだだけの事だがな。それが罪になるっていうんかい?お役人さんよ」

 

 さらに威圧の率を少しだけ上げるバル。

 

「ひっ、ひぃいいっ!て、てめぇえ!?………ななな何をおおおっ!?」 

 

 威圧により役人が身体と足をがくがく震わせながら声を上げる。 

 せっかくの城下町ではあるが、こういう事になるのであれば他の街に向かおうかという考えが浮かぶ程にバルは苛ついていた。

 後ひと時この状態が続けば一触即発というその時、1人の男がその場に割り入って来た。

 

「あいや、待たれい御老人」

 

 その声にさすがにやり過ぎたかと、バルは威圧をやめて息を吐きだした後に声の方へと顔を向ける。

 そこには髪を総髪にし後ろで結い上げた身形の良い壮年の男性が立っていた。

 よくよく周囲を見てみると、他にも町の人間があちらこちらにひと塊となってこちらを遠巻きに眺めていた。

 

 いつになく頭に血が上っていたバルは、その事でようやく己の態度を改めることにする。

 まったく今日は一体どうしたことやらと、わが身を省みるばかりだ。

 

「こいつは申し分けない。いきなりこちらの御仁が何やら無体なことを言おうとしてきたんでな。つい頭に血が上っちまった。済まねぇな」

「お、お役人様っ!こ、この娘がいきなりうちの若旦那を蹴りつけたんでさっ!ほらっ、見て下せえ!若旦那の酷い傷をっ!!」

 

 大男のそばにいた2人のうちの1人が、口から唾を飛ばしながらその壮年の男性へと訴えている。

 バルがその男性をよくよく見ると、黒い羽織りものに前袷《まえあわせ」の上着そして下履きは足元に行くにつれ太くなったのもだ。

 そして腰には反りのある大小の剣を2つ佩いている。

 

 どうやら衛兵、近衛兵が着るようなものなのかと、その質の良さげな着衣を見てバルは判断する。

 3人の娘がバルに寄り添い心配そうな顔を向けるのに、安心せさせるようにニカリと笑う。

 

「悪ぃ、つい昔の癖が出ちまった」

「いいえ、あるじ様。私こそ申し訳ありませんでした。あまりの態度の酷さについ足が出てしまいました。もっと穏便に済ませられものを………」

 

 肩を落とししゅんと項垂れるファルカ―――ルーファの頭を優しく撫でて宥めるバル。

 

「どの道あの小役人が出張って何かを言って来たと思うから関係ないわよ。だからしゅ様もつい力を使ったのだし」

「マスターあの手の衛兵大っ嫌いだもんねぇ」

 

 カーサのその言葉にバルはなる程と得心がいった。だから己はあそこまで血が上ってしまったのかと。

 勇者時代はあの手の輩に散々っぱら苦い思いをうけていたバルだった。おそらくそれを思い出したが故の行動なのだと。

 

「ん?なんともないではないか。気を失ってはいるが、身体に別状はないようだぞ?」

 

 男の訴えにその壮年男性が大男を見分するも、気絶しているのみでその身体には怪我も何も負っている様子は見受けられない。

 

「そ、そんなっ!だって骨が砕ける音がっ………」

 

 男は壮年男性の脇から大男に近付きその身体を見るが、気絶しただけなのを見やるとバルを睨みつけ無体(でもないが)なことを言い出す。

 

「て、てめえ等何をやりやがったっ!!確かに顎が砕けてたんだ!何をしたああっっ!?」

 

 あまりにもあまりな物言いに呆れながら、バルは言い諭すように反論に出た。

 

「何をやったも何も、俺ぁコイツに殴られそうになったところをこの娘が防いでくれたって話だろうがよ。それにこんな娘っ子がこんな大男の顎を砕けるもんじゃなかろうが?それが道理ってもんじゃなえぇのかい?」

「う、いやっ!だがっ、俺は確かに見た―――」

 

 バル達を睨みつけ、さらに言葉を発しようとした男の言葉そこで途切れることになる。

 なぜなら気絶していた大男が目覚めたからだ。

 

「ぐっ……!このっ!くそ爺ぃ―――――っっ!!」

 

 ガバリと起き上がり、バルを殴りつけようと拳を振り上げたところに、白刃がピタリと大男の首元に当てられた。

 

「ひっ!あっ、カ、カキサ様っ!?」

「おうよー。大店おおだなボンがこんなところで気を失ってると思いきや、今度は御老人に拳を振り上げるとはどういう了見だ?ちょいと聞かせて貰おうか?」

「ひ、ひいっ………!」

 

 バルはそのカキサと呼ばれた男の所作にほうと感嘆の声を上げる。

 抜き打ちというのだろうか。腰に佩いた片刃の剣を間をおかず抜き放ち、ピタリと止める技量は生半な修行では出来ないであろうとバルは察する。

 それは側にいる3人も同様で微かにほうとかへえという声が漏れていた。

 

「そしてザゴン。貴様、何故ここにいる?ここは貴様の見廻りどころではないはずだが?」

 

 大男へと白刃をきらめかせつつ、カキサは側にいた小役人へと問い掛ける。

 

「はっ!?い、いえっ、その、あっしはたまたまこちらに来ていたのものでさぁ、決して見廻りを怠っていたわけではないでさぁ」

「ふむ、某は再三貴様に注意していたが、どうやら聞き入れてはいなかったようだなザゴンよ」

「ひっ、お、お待ちくださいっ!カキサ様っ!」

 

 どうやらこの役人の手下てからしきガマガエル顔の男は、慌てながら手を前に弁明を始める。

 

「本当でございますっ!あっしは決して含むことなどっ!!」

「言い訳無用。坊もとっとと去ぬがいい。貴様の親父殿にはきつく言いおく。覚悟せい」

「………」

 

 しぶしぶと言った体で大男はこちらを睨み、去っていく。 

 弁明にもならない弁明を耳にしながら、カキサと呼ばれたその人は剣を納めバルへと顔を向け頭を下げる。

 

「ご老人も我が配下が申し訳ないことをした。この者達の沙汰はおって伝えることにしたい。今はこれにて」

「お気にならずに。何事も無かったということでよしなに」

 

 バルが軽くカキサという人に頭を下げて、手打ちにすることを伝える。後はそちらにお任せしますと。

 

「あい承った。来るがいいザゴン!」

「へ、へいっ!」

 

 バルと3人娘が見やる中、カキサとザゴンという役人は去って行った。

 

「やれやれ、どちらも穴取らぬよな」

 

 穴取らぬとはこちらの格言で抜け目がないとか侮れないというものだ。

 おそらくあのカキサという役人も、どこぞで待ち構えていたのだろう。なんともやれやれなことだと、バルは疲れ気味に息を吐く。

 

「災難でしたね、バル爺様。大丈夫ですか?」


 騒動が収まった人々が散り散りになったところで声を掛けられる。

 

「おう、リンカさんか。大丈夫さな。調度良かった、これからそっちに行くとこだったんだよ」

古着屋うちにですか?」 

「ああ、この子らの服を見繕って貰いたくてな」

 

 そこにはバルが初めて立ち寄った古着屋の少女の姿があった。

 リンカはまじまじとルーファ、ルーマ、カーサを見てからバルへと頷く。

 

「分かりましたっ!じゃあ店に行きましょうっ!!」

 

 何やら気分が高揚したらしく、リンカがピョンピョンと足取りを弾ませながら歩き出す。

 そしてバル達はそのリンカの後へとついて行った。

 そこに慌てながら路地から出てバルの後へとキスケが続く。

 その路地には先ほど大男とつるんでいた小男が身体を痺れさせて仰臥していた。

 

 男は理由が分からず痺れ動かぬ身体で、ただ呻くばかりであった。

 どうやら他に仲間を呼ぼうと動いたところを、先んじてキスケが動きを封じたようだった。

 ある意味お手柄である。余計な面倒事を事前に防いだのだから

 そのことで後でキスケはバルに褒められることとなり、ルーファ、ルーマ、カーサに軽く睨まれることになったりする。

 

 こうしてリンカが働く古着屋へ向かい、何着かの衣服を誂えることになった。

 以前より来た時より少しばかり物が多くなった気がしたバルは、リンカがするままに任せることにする。

 おそらく繁盛しているのだろう。

 

 勇者として戦っていた人間としては、その戦い以外には皆無と言っていいほど他のことには疎かったのである。

 ましてや女子おなごの服など門外漢と言っていいものだ。

 要はバルにとって着るものとは、動きに支障がなく丈夫で長持ちすれば問題ないという程度だった。あとは動きやすければ言うこと無い。

 

 なのでこの手のことは、それを知悉している人間に任せると行くことが一番正しいことを自身の経験で学んでいた。(たまにそれを逆手にとる人間もいたが)

 こうしてルーファには赤を、カーサが黄色を、ルーマが蒼を基調にした衣服をいくつか見繕ってもらう。

 金はあるし、人間の女子になった3人ならば、それなりの格好をさせたいとバルとしても思わないでもなかった訳である。

 

「ぬっひょ〜〜っ!これです、これっ!綺麗なお姉さん方ならこれがいいですよねっ!ふっふ〜〜っっ!!」

 

 リンカがものすごく頬を赤らめて興奮しながら身体をくねくね動かしている。

 そしてやりきった感丸出しでバルを見る。

 

「あるじ様どうですか?」

「マスターほらほらぁ〜」

「しゅ様、如何でしょうか?」

 

 そんなバルの思いも特に考えることもなく、3人娘はその美しい姿をバルへと見せる。

 こういう時に言うことなど1つなのは充分バルにも理解できている。

 

「ああっ!よぉおっくと似合ってるぜ!」

「ひゃっほーっ!」

「当然ですね」

「ふふっ………ふふー」

 

 バルの褒め言葉を聞き3人がそれぞれの反応リアクションをする。

 カーサがぴょんこと飛び跳ね、ルーファが当然とばかりに胸を反らすもその顔はにやけ、ルーマが俯きながら身体をくねくねと揺らしている。

 まぁ………、喜んでいるのなら何よりだと、バルは少し引き気味になりつつも表には出すことなく3人を見守る。

 普段着るものをある程度誂えた後は、残りの1着を見繕ってもらう為、バルはリンカへと頼む。

 

「あとぉは、武生者が着るようなもんを頼めるか?」

 

 バルのその言葉にリンカは眉を顰めてえ゛え゛〜?という顔をする。

 

「こんな綺麗なお姉さんを武生者にするんですか?」 

 

 ずずいとバルへとリンカが詰め寄ってくる。

 そのような顔をされても致し方ない部分ああるのだ。

 バルと同様に生まれの定かでない人間が、その身の証明にはそれが一番の手段であるのだから。

 

「ふむ、リンカさんよ。何かこの国で身立てが出来る術ってのは他にあるんかい?」

 

 そうであるなら、バルとしては両手を上げてそちらに舵を切れるのだ。

 たとえ力を持つ精霊獣といえど、無理に戦う必要などバルにはない訳だ。

 だがバルの言葉にリンカは口籠る。

 

 そう、外ツ国より来たものが出来るのはもちろん幾つかある。

 その1つが武生者に登録するなることだ。

 1つが城主しろなぬしからの許可。

 そして他の方法というのは、その土地の人間と婚姻を結ぶというものであった。

 これだけの器量よしの3人であれば引く手数多であろうが、本人達がそれを望むべくもないのは、3人の様子を見れば明白となる。

 

 それに武生者になれても、それなりに義務が生じる。

 一定期間魔獣討伐や寄合所の依頼を受けないと、その資格を失うことになるわけだ。

 自由を得るためには、ある程度の不自由リスクも伴うというものなのだろう。

 であればこそ、それなりに騒動も起こるというものなのだが。

 まぁこ後に余所者が来るということは、それ程稀という話なのでそこまで深刻になるものでもなかったのだ。

 

「はぁあ………、仕方ないですね。それじゃあ……、分かりましたちょっと待ってて下さい。う〜ん………あったかなぁー?」

 

 リンカが顎をさすりながら奥へと行ってしまう。

 

「うぬぅ、やっぱり武生者用のものはここじゃあちと無理があった見てぇだな………」

 

 それならそれで他で見繕えばいいだけの話になるのだ。

 だがバルのその考えは杞憂であったようだ。

 奥からリンカが両手いっぱいに衣服を抱えて戻ってきたからだ。

 いや、さすがにそんなにいらんぞ?おい………。

 

 バルはそう思ったのだが、口には出さずに黙ってそれを見やる。

 バルの数少ない経験則でも、このような状況の時においての余計な口出しは、とてつもなく危険であると認識していた。

 

 3人も興味津々といった体で、リンカの持ってきた衣装を手に取り確かめるように見ていく。

 こちらは全員それぞれ柄は違うものの、地味目なものを選んでいく。

 無難といえば無難な選択である。

 

 というか3人も戦いにおいて目立つことがあまり益にならないと知悉しているのだ。

 今迄の戦いを鑑みれば道理とも言える。

 サッソク3人はさっき来た普段着用のものから武生者のものへと着替えていった。(もちろん更衣室でだ)

 

「うんうん。いいな!みんなぁ、似合うぜ」

 

 それぞれルーファ、ルーマ、カーサは紺、茶、緑地の柄の入った揃いの上下を纏っていた。

 袖の先は細めになっていて、動きやすく工夫がなされている。

 上着は腰下まで伸びており、胴部分を太めの帯でしっかりと留められている。

 

「どぉーですか?これなら文句なしでしょっ!」

 

 3人がきゃっきゃと喜ぶ中、リンカが胸を張ってどうだと言わんばかりに言ってくる。

 

「大したもんだ。文句なんぞありゃあしねぇよ。それと似たようなもんをあと3着ほど頼むわ」

「分かりました!あ、そうそうバル爺様」

 

 バルの言葉にリンカが笑顔を見せて、そのあと小声で話しかけてくる。

 そのことに思い至らなかったバルは全面的にリンカに任せることにする。


「悪ぃがおめぇさんに全部任せるんで見繕ってもらえるか?手間賃は出すからよ」

「毎度ありぃ!」


 バルの了解を得たリンカはニカリと笑い3人を連れて意気揚々と店を出ていく。

 さすがに下着のことまで頭が回らないバルであった。

 まぁこれで衣服は何とかなったなと、バルはほうとひと息吐く。

 

 城下町に来ただけでこれなのだ。寄合所に行けば、さらに面倒事が起きそうな予感がバルには少なからずあった。しばらくして3人とリンカが戻ってくる。

 3人とも満面の笑みを浮かべている。こちらを見るその視線は何とも妖し過ぎた。

 こうしてバルと3人は支払いを済ませてから古着屋を出て、武生者寄合所へと向かうのであった。

 

 

 その少し前、寄合所近くの裏路地で、十数人の男達が集まり大男からの指示を受けていた。

 

「いいか!寄合所に入る前に片を付ける。爺をぶちのめしても構わねぇ、女共を攫っちまえばこっちのもんだ!」

 

 大男が舌舐めずりをして声を上げる。

 

『『『へいっ!若旦那っ!!』』』

 

 男達は下卑た目を浮かべその声に応える。

 だが彼等は気付いていなかった。その後ろに黄色い鳥が潜んでいることに。

 

 

 

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その勇者はおじんちゃになって田舎暮らしを始めました パッペッポ13世(ぷっぷくぷー5064) @pappeppo-no13

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