28.世間知らずの説得②

「俺の言いたいことはただ一つ。俺は人間と魔族の共存を掲げる、そのためにできることはこの身で切り開いてやるつもりだ。俺の戯れ言に付いて来いよ、マジリカ。お前がその子と平穏に暮らしたいってんなら、いい提案だぜ?」


 マジリカは荒げていた息を整え、ラミィへ視線をやる。父親のような暖かい眼差しだ。種族さえ違えど、そこには確かな絆が見えている。

 マジリカは、視線を俺に返した。


「貴様は平和のため、共存のため、一体何をするつもりだ?」

「大それた動きはできねぇよ? お前とラミィのような、そういう関係を個でなく集団にするだけだ」

「……最近。貴様の言う通り、魔王様はどこか焦っているように思われた。しかし、まだ信じられんが、もし――魔王様がこの世界を破壊しようとしているのだとしたら貴様はどうやって止める?」

「殴って止める。俺にできるのはそれだけだぜ」

「殺すのか。平和のために?」


 ああ。こいつが言いたかったのは、そういうことか。


「そうなってみねぇと分からないさ。相手が魔王となると俺は手加減できない。最後まで抵抗を止めないのであれば――そうなるな」

「殺さないと確約することもできんのか。流石は人間、所詮は口だけだな」

「じゃあ魔王はお前が説得して止めてみろ。どのみち“破壊魔法”が発動すりゃ魔王は生きてはいられない。俺に殺されるのか、魔法で自滅するのか、お前が説得して生きるのか。それとも俺に倒されて、それでも生きている可能性に懸けるか……」


 これは町に置いてあった文献で調べたことだ。

 魔族の詠唱は人間と違い、特殊であること。構成された肉体に含まれる魔力が人間より遙かに濃く、魔族そのものが魔力結晶のような存在だということ。故に魔法との結び付きが強く、固有の魔法を編み出すことができるのだと。

 オルフェニカの自爆は、自らの肉体を魔法に置き換えたから発生する現象だったというわけだ。つまり、それを魔王が行えば――。


 自らの全てを犠牲に、この世界の全てを破壊することも可能。オルフェニカのようにすぐできる魔法じゃないと思うが、発動されたら終わりってこった。


「生憎と俺はぶつかるだけしか能の無い人間でな。立ち塞がるなら蹴散らして進む。障害となるならぶっ壊して進む。ご丁寧に退かしたり避けたりはできねえんだよ。それでも俺は共存を唱え、いずれは実現させる。そのための過程が気に食わねぇのなら、お前が修正してくれよ。ただ意見するだけじゃなく、隣で自分で動いてくれねぇか、マジリカ。後はお前が考えろ。俺が信用ならないなら付いて来なくていいし、高いとこから馬鹿にして笑えばいい。魔王の手助けになって、ここで俺の邪魔をするのもいい。俺がどんなに言おうと、最後に決断するのはお前だ。よく考えて決めろ。以上だ」


 マジリカには俺の正体を明かし、全てを伝えた。残念ながら証拠はないが……ここまで言って動じなければ、それは仕方のないことだろう。

 まあ、ここまで言えば大丈夫だろうがな。


「……やはり、戯れ言だな」


 マジリカは、そう吐き捨て――。

 続く言葉を、紡いだ。


「貴様は本当に余所者だ。見通しが甘く、明確な方策も決まっていない。――しかし、そこまで言うのなら乗ってやろうではないか。貴様の戯れ言が何を成すのか、それとも何も為さないまま終わるか。我がこの目で確かめてみせよう」

「っは、随分な物言いだが、まあいい。俺に付いてくんなら必ずや後悔しねぇ未来を見せてやるよ。楽しみにしておけ」


 はぁ。

 もしかすると駄目かと思っていたが、どうやら説得には成功したらしい。監視という名目だが、マジリカの目は間違いなく変化に期待していた。


 まあ。仲間に魔族のオーフェンが居て、加えてマジリカが運良く人間に助けられていなければ、決して辿り着くことのなかった考えだろう。

 巡り合わせの良さに、感謝しておかなければな。


「それじゃあこれからよろしく頼むぞ、マジリカ。ちなみに俺が異世界人で神の回し者ってことをぶっちゃけたのはお前が最初だ、他言無用で頼む」

「そのような話は信じていない。神などこの世に存在するわけがないのだ。貴様の話が本当かどうかかこれからじっくり判断させて貰う」


 残念だけど実際にいるんだな、これが。まあ、現地人のお前が天上の存在を信じる必要は全くない。どうせ一生会うことのないだろう存在だ。


「ところでマジリカ。俺と行動を共にするってことは魔王軍に反旗を翻すってことだが、そこはいいのか? まぁ人間と暮らしてるって時点でお察しだがな」

「ふん……あの程度の手勢しか寄越さず、敗北の後に我を捨てた軍など、どうでもいいわ」

「お前さっき魔王のこと庇ってなかったか?」

「あれは貴様を試しただけだ。魔王軍は一枚岩ではないのだ」


 そりゃいいことを聞いた。


 俺はオーフェン達を呼び戻し、マジリカのことを伝える。モブ達は恐ろしい表情をして固まっていたが、反対にオーフェンは喜んでいた。複雑な心境は変わらないだろうが、直属の上司が仲間となるのは嬉しいだろう。

 お前ついこの前まで裏切られたと思ってマジリカに暴言吐いてたのにな。まぁそいつは言わないでおいてやるよ、オーフェン。


 こうして。

 オーフェンの家族に話を通し、予想外ではあったがマジリカとオマケでラミィという人間の女の子も俺と共に付いて来ることとなった。随分と濃くちぐはぐな面子が揃ったもんだ。


 さて。そろそろ、あいつらを迎えに行かなきゃな。

 なぁ? レティシア、フェルナンデス。俺がいねぇとそろそろ寂しいだろ。即行で帰ってやるから、もう少し待ってろ。

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