21.慕ってくれる者達と

 荷物を纏めたオーフェンを連れ、俺達二人は余計な混乱を生まないように身を隠しながら町の門まで歩いていった。


 この時間なら通行人もそこまでいない。門番に話を通し、俺とオーフェンの二人で出掛けること、俺の代わりにレティシアとフェルナンデスを公都レーデルハイルの援軍に回すことを伝える。

 それで納得したのか、門番は頷いた。


「オーフェン。お前の家族はどこの大陸にいるんだ?」

「今の住居は向こう、海を越えたところにある魔大陸だ。枯れ果てた大地だからって理由で好んで住む魔族もいないから、行けば直ぐに見つかるはず」

「了解、じゃあ道案内は任せる。途中に何かの障害があるかもしれんが、それは全て俺に任せろ」


 オーフェンの情報が魔王軍に伝わっていたら、ちょっと面倒だ。これからの道程で俺に同行していることがばれても微妙なところ。

 唯一の救いは、直属の上司であるマジリカの所在が掴めないことくらいか……。


「門番、馬車を一台頼む。返せる保証はできんから、おんぼろでも構わない」

「了解です。これでも戦時中ですので、本当に最低限の馬車しか渡せませんし、今は御者も遣わすことができませんが……」

「それで十分だ。すまないな」


 そもそも、この世界に馬が存在していたのは驚きだ。移動手段が徒歩しかない場合は相当苦労しただろう。そう考えれば、マジリカの転移魔法はかなり秀逸と言える。

 ……本人が方向音痴でなければな。


 まあ、生憎と馬の操り方は知らんが、そこは気合いでなんとかするしかないだろうな。まあなんとかなるだろ。

 門番が中へ連絡を取り、しばらくして馬車が外まで到着する。木造でできているようで、最低クラスの馬車にしては中々に頑丈な造りをしている。

 でこぼこの地形だと大変なのだろうか。


「オーフェン、一応聞いとくが馬の扱いに覚えはあるか? 馬だし」

「俺は馬面であって馬ではないけど……すみません、馬の扱いは一度も」

「そうか、知ってた」


 元々これは人間の移動手段だ、魔族のこいつが乗れるわけないか。


 俺は馬の状態を眺め、首筋でも撫でてやる。ひひんひひんと鳴く様は、まるでオーフェンみたいだな。

 それから御者台に乗り、手綱を握る。ケツの部分が硬く乗り心地はそう良いものではないが、仕方ない。


「感謝するぜ、この馬車はきっと返す」


 オーフェンが後ろに乗り、ぎしりと馬車が軋んだ感覚を身に感じる。俺は出発しようと手綱を――。


「ちょっとちょっと、待ってくれよ!」


 取ろうとして、やめた。

 御者席から顔を乗り出して声のする方向を見やれば、そこにはあの風魔法使いの……名前は聞いてなかったな。そいつら三人が、息を荒げて馬車のところまで来ていた。


「こんな時間に馬車なんかって思って来てみたらよぉ……水くせぇじゃねーか、オーちゃん!」


 そういやこいつら無駄に仲良しだったな。確かオーフェンが宿屋で働き始めた後も、ちょくちょくこいつらとは飲んでいたらしい。


「何だお前等、別れの挨拶ならさっさと済ませろ」

「違うぜ。その、オーちゃん連れてこれから何かするんだろ……? 俺達も連れてってくれ」


 緑色のローブ集団は杖を振り、天高く掲げる。

 俺は若干面倒に思いながらも、口々に叫ぶこいつらの言葉を聞くことにした。


「このままじゃ俺達、口だけでなんにもオーちゃんの力になれてねぇんだ……! だから、英雄様! 頼む!」

「連れてってくれるなら、必ず力になる、だから!」

「英雄様、俺は副業で御者の仕事もしていたんだ。だから馬車の扱いには慣れてるぜ。どうだ?」

「……ほう」


 馬車は御者台含めずに四人乗り。まあ、ぎりぎり連れていけるな。俺は御者台から降りて、風魔法使いの肩を叩く。


「馬の扱いが上手いってのはお前が言ったな」

「……そ、そうだけど?」

「よし来い、お前は御者台で馬操ってくれ。魔大陸に行きたいから、そこの港町まで頼む」


 そうかそうか。俺はこいつらの存在をてっきり忘れていた。どこにでもよくいる使えないトリオみたいなイメージだったからな。はっはっは。


「後の二人は後ろに乗れ。必ず役に立つって言ったな? 役立たずだったら途中で投げ捨てるからな」

「……おお、流石は英雄様!」

「その厳しさがまたたまらねぇぜ、おお役立ってやらぁ!」


 意気込んだ二人が一足先に馬車へ乗り込んでいく。お前等、御者台の奴に感謝しろよ。あいつがいなかったら間違いなく連れてってないからな。


 俺も乗り込み、御者台と同じく固い席に座る。シートベルトのようなもので腰を固定し、御者台の奴に指示を出した。

 ああ、こいつらに後で名前聞いとかないとな。


「よし、出してくれ。なるべく早く向かいたい!」

「おうよ!」


 こうして。

 男臭さの増した五名を乗せる馬車は、グレゴリアを離れていく。うるさい馬車は、がたがたと揺れながら草原を抜けて、消えていった――。

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