エピローグ
【冬】と探した雪帽子。寒さは木々を解放し、新たな季節を迎える用意。
冬眠していた寝坊助の【ヤマネ】。木の実をどこに埋めたのだっけと、うっかり【リス】と祭りの準備。
桜の舞台で音楽会。【テントウムシ】が奏でる音で、【ウグイス】【メジロ】の歌声響く。
【ミツバチ】の国の隣には、【モンキチョウ】達が暮らす【チョウ】の国。【アゲハチョウ】と小さな命を、【カラスアゲハ】が守る国。
四人のきょうだい、渡るバトン。吹き抜ける風が野山を起こす。繋がる新たな旅路の記録に、長女の【春】はにこりと笑んだ。
*
「素晴らしい」
数え切れない花が並ぶ花屋。そのカウンターに陣取った彼が愛でるのは、咲いたばかりの五つの鉢植え。タンポポ、アネモネ、マーガレット、チューリップ、そしてサクラ。
……いや、五つだけではなく。
「ね、また増えたよ」
頬杖をついてクスクスと肩を揺らす。蜂蜜色の優しい眼差しは、いくつかの別の鉢に注がれた。そこに植えられたものは、どれも未だ蕾のまま。
「ソルはいっつもお別れが下手なんだわ! だからこうやって戻って来ちゃう」
「いいじゃないか。ルナだって寂しかったろう?」
男の肩に座った小さな少女が、腕組みをしてそっぽを向いた。その様子に更に楽しげに笑った彼は、頬杖をついていない側の腕をおもむろに伸ばし、人差し指を立てる。
「ごらん、君のおかげでこの花は咲いた」
言葉は少女に向けられたものではない。少女の方も男の指先を見て、穏やかに表情を崩した。
「新しい蕾は、あなたの物語が誰かを楽しませた証」
「君が辿ってきた旅は、少なくとも僕達を喜ばせたよ」
ひらり、ひらり。男の指先にとまる【モンシロチョウ】。
不思議な街の不思議な花屋、店主の名前は【太陽】と【月】。
「お帰り、ピエリス」
笑顔の花咲く、この世界のどこかに。
Post nubila Phoebus. 笛吹葉月 @aug
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