家康公の決定~孔明の真似は罠でした

元亀3年、それは1572年。


武田軍に大敗を喫した家康は、二俣城にて籠城をしてた。


家康軍はその数1200人、それに対して武田軍は27000人。


おおよそ戦力差30倍といった絶望的な戦況、おまけに城は包囲されているという状況。



将棋にしろ囲碁に例えるにしろ、完全な詰みといっていい状況である。


しかし、守りに関しては、一つ利点があった。

敵方が攻める場合、急こう配になっていて、その狭い道は頭上から、放物線を描いて飛んでくる矢の嵐となり、敵の進軍を妨げたのだ。だが、いつまでも籠城では士気も下がる一方であり、補給も出来ない状況。


ジリ貧である。


だが、この場合に幸いにして雨の恵みもあり、武田軍は攻めあぐねていた。しかし、信玄も優秀な将である、これ以上は兵士は減らしたくない。


と考え水を絶つことにした、桶で水を引き上げよいしょ、よいしょである。



ある時、部下が家康に報告をした。


「大殿! 敵は城攻めは分が悪いと考え、二俣城の水を絶つ作戦の模様です。このままでは城の士気も下がる一方、討って出ましょう! 我ら三河武士の意地を見せてやるのです!」


「なるほど……信玄め、なかなかやりおる!」



「大殿、どう致しましょうか!?」



ここで家康の脳裏に電撃閃きっ……!

勝利の予感っ! 方程式が舞い降りるっ天啓……!


ここで孔明のファンである家康は考えた。


今回の同じような状況にあって、あの蜀の有名軍師である孔明はなんと門を開放したのだ。


そして、敵の進軍を歓迎するかのように、盛大にかがり火を焚き、兵士を門の奥に並べ、城に使える侍女に演奏までさせたというエピソードだ。


それを見た敵は罠だと勘違いし、撤退していったのだった。


家康は含み笑いを漏らした。

フフフ……ここでこんな奇策を思いつくとは、やだワシって優秀……!


「よし開門せよ! そして門の前にかがり火を並べ、使用人の女共に演奏をさせよ!」


「お……大殿? そ、それは一体どういう……それに演奏のできる女などおりませんが?」


「ええ~い! ならば、笛なり琴なり口笛なり、ぴーひゃらぴーひゃら吹かせて何とかせい!」


「は……はあ」



案外、家康は無茶振りだった。


そして門は開門され当然の如く、信玄は攻めてきた。

といっても警戒しているようで、先頭を来る歩兵達の足取りは重く、首と視線は左右に良く動いていた。本来なら飛んでくるはずの矢は未だ一本すら、飛んで来ない。


とすると、家康の狙いは何だ?

いよいよ観念して、白旗を振る気にでもなったか?……それなら事前に城を明け渡すはず。だから何か罠があるに違いない、しかし門を開放するとは気でも狂ったか家康。



信玄は歴戦の武将で兵法に長けた者である。

その信玄もそう結論づけ、気のこもった声で采配を振るう。


「全軍突撃! 包囲殲滅陣じゃ!」


「いや待て……これは、楽器じゃと!?」


信玄が動揺しているように、門の中に入った兵達は動きを止めてしまった。


矢が舞い、兵士が背水の陣で捨て身で突っ込んでくると思えば、口笛なり琴なり不揃いな演奏が聞こえてくるのだ。


しかも、不協和音で耳障りだ。



「家康これは、どういうつもりじゃああ!?」


家康はその問いに答えない。

天守閣からから慌てふためく信玄をニヤニヤと眺めていた。


さあ、とっとと帰れ! 

いや~ワシって本当、優秀!

ぷっくっくっくっく。

家康は自分の采配に酔っていた。


「全軍突撃ぃいいいい!」


「え……な……なんだと! 進軍!? くっ孔明の罠を見破ったというのか信玄! おのれ孔明ぃいいい!」



家康は逆切れし、とても激おこだった。

のだが、門まで入られた家康は、普通に見せ場もなくだ。

敗戦したのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショートショート(しょーとしょーと) 横浜のたぬき @pixia-sai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ