ゼロの使い魔 ~神鳥の遣いと虚無の魔法使い~

夢幻一夜

第1巻 禍福は糾える縄の如し

第一部 王道を往くもの

序章 魔法使いは夜明けを待つ

 今日はフェオの月ユルの曜日―――トリステイン魔法学院の二年生への進級試験である「使い魔召喚の儀」の日である。|鳥達のさえずりが学院の生徒達を優しく起こし、暖かな日差しが朝を告げる。実に爽やかな一日の始まりである。

 そう、この日新二年生になる学院の子弟にとっては非常に爽やかな朝の一コマなのである。

 ただ一人、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールを除いては、である。

 朝から彼女の機嫌は最悪だった。

 理由は簡単だった。

 それは昨日の早晩、売り言葉に買い言葉の、その場の勢いで隣室の宿敵を前にしてハッキリキッパリと

「私、召喚魔法…サモンサーヴァントだけは自信があるの! 見てなさい、あんたたち全員でも及ばないほど神聖で、美しく、そして強力な使い魔を呼び出してみせるわ!」

 ―――と、宣言してしまったのである。

「言うんじゃなった……」

 ベッドにうつ伏せ、枕に顔を埋めて呟くが…時すでに遅し。そして言わずもがな、自信など欠片ほどもなかったのである。


 そして夜は明け、朝になってしまった。

「いよいよ今日は、召喚の儀式であります。これは、二年生に進級した君達の最初の試験でもあり、貴族として一生を共にする使い魔との神聖な出会いの日でもあります。」

 使い魔召喚の儀の監督、コルベールが生徒達の前で高らかに告げる。今日は絶好の召喚日和です――などと、のんきそうに語る彼を、しかしルイズは正視できないでいた。理由は昨晩の自分のセリフのせいでいある。

「楽しみだわぁ~。貴女がどんな凄い使い魔を呼び出すか」

 宿敵たるツェルプストーがニヤニヤと笑いながら話しかけてくるが、正直今はどーでもいい。

 一部の生徒はルイズ同様に彼を正視できないでいたが、それはコルベールの禿頭の頭皮が反射した日の光に目をそむけようとした結果であり、けっしてやましい所があったからではない。

「では、まずミス・ブーヤコーニッシュ」

 コルベールが点呼を取り生徒達がそれに従って次々と自らの使い魔を召喚していく。喜ぶ者、悲観にくれる者、悲喜交々ひきこもごもではあるものの、みなそれぞれの属性にあった一生のパートナーたる使い魔を召喚していき、残すはルイズ一人となった。

 しかし、彼女の魔法は普段と変わる事もなく爆発の連鎖という結果だけが示された。

 否、その常たる爆発は今までの比ではなかった。杖を振って数えることすら億劫になる程の回数、それは普段通りだった。悲しくなる程普段通りに砂埃が舞い上がり、それが風で流された後に残されていたのは無残なクレーターであった。

 そして「もうこの辺りで・・・」と監督教諭のコルベールに言われ「あと1回、あと1回だけ」と頼み込み、どこかやけっぱちの気すらも見て取れる切羽詰まった声音で、彼女――ルイズは召喚の祝詞のりとを高らかに詠みあげた。

「宇宙のどこかにいる私のしもべよ、神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ。私は心より求め、訴えるわ!我が導きに応えなさいっ!!」

 その直後、何もない空間が突如内側に向けて収縮し、その収縮が止まると同時中空に亀裂が入り、炸裂し、酷い爆風と閃光、そして砂塵が舞った。

 ルイズの後ろは酷い突風によってめくれそうになるスカートを抑える女生徒や、砂埃から目を庇おうと腕で顔を抑える者など多種多様だ。

 そんな中、監督役のコルベールだけは爆発の中心点を凝視していた。

「……!」

 

 後の多くの歴史家に「時代の転換点というものがあるとするならば、それはここに違いない」と言われることとなる瞬間だった。

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