第1話『彼女たちの戦闘風景!!』

「こちら桜。敵禍神発見。方位十時、距離350メートル。菊は援護、椿は討ち漏らしの処理を」


「了解」


「了解!」


 常時展開される通信術式から、そんなやり取りが聞こえてくる。

 京都第3包囲結界内、周辺無人領域。


 その端に立つ俺の目の前では、魔法少女3人による禍神の討滅作戦が開始されていた。


 通常三人一組スリーマンセルで行動する魔法少女たちの例外にもれず、今回の作戦行動を行う彼女たちも3人で一つのチームを組んでいる。

 チーム名は『プランセス・ド・フルール』通称フルール。そのリーダーを務めているのが先ほども通信術式で指揮をとっていた彼女――上泉桜かみいずみさくらだ。

 絹のように繊細な黒髪に、可愛らしさと美しさが見事に同居する顔立ち。白と桜色を基調とした戦闘礼装コスチュームの腰には左右二振りずつ、計四振りの日本刀を差している。その天使のような容姿や温厚な性格とは裏腹に、近接戦闘能力は機構随一。


「手早くすませます!」


 言葉と共に踏み出された一歩が、その身を弾丸の如く加速させる。まさに神速。細身な体からは想像もできない圧倒的な身体能力は、350メートルという彼我の距離を一瞬でゼロにした。力強く踏み込まれた地面が遅れて弾け、それに伴う爆音が空を打つ。


「はぁっ!」


 飛び込んだ先、状況に対応しきれず密集したままの禍神に対して、烈破の気合いと共に繰り出される抜刀一閃。

 抜き放たれた左腰の一刀は、空間さえも斬り裂くような鋭さで斬線上の一切合切を斬り飛ばした。両断された禍神の数、実に12。通常の剣術ではありえない攻撃範囲と威力を、超絶無比な技巧と膂力が可能にする。


 残る禍神の数は13体。しかし相手も馬鹿ではない。標的を絞らせないよう、桜を中心にバラバラの方向へと散開する。すでに半数近くがやられてしまっている状況では、どちらにせよ手遅れな感じがしなくもないが。


「そもそも、いつなにをしようと無意味だがな」


 俺が一人で呟くのと同時、桜を囲むように散らばっていた禍神へと無数の攻撃が降り注いだ。

 その内訳は炎の槍、水の剣、土の礫と様々だが、どれもが的確に敵を葬ってゆく。さらに言えば数に任せて攻撃しているように見えて、あれはしっかりと計算された攻撃だ。

 陰陽術での『五行思想』、魔術での『四大元素』など、この世にはいたるところに属性の相性というものが存在する。先ほどの攻撃は、それぞれの禍神がもつ生体属性を正確に判断したうえで、相手の弱点となる属性の攻撃を的確に撃ち込む高等技術。


「数ですり潰す」


 そしてそれを難なくこなしたのが彼女――雑賀菊さいかきく。愛称お菊さんだが、本人はこの愛称が嫌いなようで呼ぶとすぐキレる。


「流石ですお菊さん!」


「その名で呼ぶな!!」


 笑顔で振り返った桜にお菊さんの魔術が飛び、一刀の元に切り捨てられた。元気だなあいつら。

 ふんっ、と息を吐いたお菊さんは、腰まである緩いウェーブの茶髪を軽く払い、その鋭利な美貌と蒼い瞳に冷たい光を宿して残った禍神を睥睨する。


「残りもすり潰す」


 普段はちょっと怖いだけのクールな美少女なのだが、こと戦いとなるとただただ物騒である。口癖は『すり潰す』。フードプロセッサーかなにかか。


「ちょっとー! 二人とも張り切りすぎ!」


 と、黒と蒼色を基調とした戦闘礼装コスチュームを翻したお菊さんがさらなる攻撃を繰り出そうとした瞬間、その動きを横合いからの声が遮った。


「もー! 楽なのは助かるけど、禍神の撃破数はお給料にも関わるんだから少しは私の分も残しておいてよ!!」


 中々に現実的な文句を言いつつお菊さんの隣に並ぶのは、フルール最後のメンバー――土御門椿つちみかどつばき。持ち前の元気でチームを引っ張るムードメーカーだ。

 肩口で切りそろえられた橙色オレンジの髪を風に靡かせ、白と赤色を基調とした戦闘礼服コスチュームに身を包んだ彼女は、その可愛らしい顔で頬を膨らませて怒りを表現する。


「まったくもう。最後の討ち漏らしを倒すのは私の仕事だよ!」


 言下に、色とりどりの術式が残った禍神へと襲い掛かった。お菊さんと同じ、相手の属性に対応した複数の攻撃術式による絨毯爆撃。ただし見る者が見れば、椿の術式の方が構成に無駄がなく威力も高いことに気づくだろう。

 もっとも、そもそもお菊さんの専門は術式ではないし、逆に椿は術式を専門とする機構全体でもトップクラスの術者なのだから、そこに差が出るのは致し方ないことだ。


「よーっし、これですべて撃破だね!」


「お疲れ様でした!」


「ま、余裕だったね」


 こうして、今回出現した禍神の集団は結局なにもさせてもらえないまま撃破された。第八等が2体とか第九等が3体とか、そんなのもまったく関係なくまとめて鏖殺である。もはやちょっとかわいそうな領域だ。


「クレープ楽しみですね!」


「お腹すいたからご飯も食べたい」


「いいね! 奢ってもらおう!!」


 クレープに加えて食事の話題でも盛り上がり始めた3人が戻ってくるのを待ちつつ、俺は作戦行動の度に思うことを今日も考えるのだった。


「いつも思うけど、これ俺はいる必要あるのか?」


 そんな独り言は、雲一つない快晴の空へと吸い込まれていった。


 

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彼女たちは魔法少女!! 彩葉屋 仙左衛門 @iroha_kotodama

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