エピローグ

Act.0035:……変態だあぁぁぁ!!!

「神守警務所長、ご就任おめでとうございます」


 所長席に座った大介に、獅子王が机を挟んで会釈をして見せた。

 それに大介は、苦笑するしかなかった。


「ありがとうよ、獅子王。これも、お前のおかげだ。まさかあんなにアラベラの奴が素直に俺を認めてくれるとはな……」


「私はなにもしていませんよ。神守警務所長の人徳です」


 その物言いに、また苦笑してしまう。


 今、目の前に居るのは、和真ではなく獅子王だ。

 獅子のかぶり物をかぶり、そのしなやかな女体を青いジャケットとグレーのズボンで隠している。

 下は前から着ていた真っ黒な女体化スーツなのだが、そのタイトなラインを見せて戦うのはやめることになった。

 理由は、世間体だ。


「まあ、とにかくこれからも頼む。今日から、獅子王は正式に四阿警務隊の外部協力員となったんだ。期間限定だけどな」


「ええ。任せてください。と言っても、私がやることは変わりませんけどね」


 そう微笑む獅子王の顔は、目許と口許しか見えない。

 しかし、それだけでも充分にその魅力が伝わってくる。

 もし、普段の和真を知らなければ、大介とて見とれてしまう美しさがある。

 だからつい、大介も口を滑らしてしまう。


「……しかし、なんだな。お前は女にしておくのも、男にしておくのももったいないな」


「神守警務所長……協力員をやめてもいいんですよ?」


「ああ、すまん、すまん! 許してくれ」


 少し揶揄するように笑うが、獅子王もあきらめているのか、かるくため息をついて流してくれる。


 獅子王を協力員にするアイデアは、前々からもっていた。

 理由はいくつかある。

 ひとつは、獅子王の人気だ。

 その人気を取りこむことで、警務隊の支持率を上げようとしたのだ。

 もうひとつは、獅子王のためだ。

 警務隊公認となれば、彼も行動がとりやすくなるはずである。

 警務隊から咎められたり、揉め事になったりしなくなるだろう。


 だが、そのアイデアは和真から断られていた。

 理由は、やはり秘密の保持だ。

 嫌々ながらも女体化変装などしているのは、雷獅子オンウィーア・レウ魔生機甲設計書ビルモアを隠すためだ。

 もし警務隊が獅子王を裏切り、正体を探ろうとしたら止めることができないかも知れない。

 そうなれば、魔生機甲設計書ビルモアの没収もなんだかんだと理由をつけて成されてしまうかもしれない。

 だから、和真は条件付き・・・・で断ってきたのだ。



――大介さんが警務所長にならないかぎりはお断りしますよ。



 少なくとも四阿の警務所長になれば、エリア統括本部命令でもない限りは獅子王に対する保護をすることができる。

 たとえ上層部から命令が来ても、所長権限を使えば対応方法もいろいろとある。

 それもあり、大介は似合わないものの所長になることを望んでいた。


「ところで男の方……和真の方はどうだ?」


「どうだ……とは?」


 獅子王の目を見すえて、大介は真摯に語る。


「俺は、女としての獅子王だけではなく、男としての雷堂和真にも……いや、和真にこそ警務隊に入って欲しいと思っている」


「…………」


「資格なら問題ないはずだ。基本研修すれば、すぐに大隊長になれるだろう。推薦は所長の俺に、アラベラ大隊長ものってくれると言っている。どうだろうか、雷堂和真。大隊長になって、俺を助けてくれないか?」


 大介は、一縷の望みをかけて獅子王の明眸の奥にいる和真に話しかけた。

 大介が今、一番欲しているのは人材だった。

 それも戦いが強いだけではなく、回転の早い頭脳と、人々から好かれる人望、さらに正義感があり、大介が信頼できる人物でなくてはならない。

 そんな条件に合う人物が、そうそういるわけがないのだ。

 だから大介は、切に和真を求めていた。


「……すいません、大介さん」


 獅子王が和真の言葉で謝る。

 それはわかっていた答えだった。

 警務隊に入るということは、これから先が縛られると言うことだ。

 それは和真が望んでいる生き方を妨げることになる。


「本当にすいません」


「いや。俺こそ、お前の気持ちをわかっていて無理を言って済まなかったな……」


「大介さん……」


「好きなんだろう、東城世代セダイが」


「……はい?」


「だから、後を追っていきたいんだろう?」


「……あんた、なに言ってんです?」


「だってお前、あんなに熱く東城世代セダイの事を褒めてたじゃないか」


「話がちげーよ!!」


「――その話、本当なの、和真にーちゃん!」


 所長室のドアが勢いよく開いた。

 そこに立っていたのはススム、そしてその後ろに、ミチヨとアラベラもいる。

 どうやら、大隊長自ら率先して立ち聞きしていたらしい。


「和真にーちゃん……世代セダイさんのことが好きだったの!?」


「違う! 違うぞ、ススム!」


「それは初耳だな、獅子王。獅子王も和真も私のものだろう?」


「――なっ! こらっ! 腕にしがみつくな、アラベラ! 胸が……」


「そ、そうよ! アラベラさん、離れなさいよ! 和真は昔からあたいので……」


「お、おい……ミチヨまで……離れろって!」


「和真にーちゃん……女の姿で女とイチャついて……しかも、世代セダイさんまで狙うなんて」


「イチャ……狙うっ!? 違う、ススム違うぞ。これはな……」


「男も女も見境なしなんて……美人になっても……硬派な和真にーちゃんのこと好きだったのに……獅子王の姿も好きだったのに……」


「お、おちつけ。聞いてくれ、ススム……」


「か……和真にーちゃんなんて……にーちゃんなんて……変態だあぁぁぁ!!!」


「違うんだああぁぁぁ!! ススムー――ゥ!!!」


 逃げるススムを追いかける獅子王。

 さらにその後ろに2人の女性が続く。


 静かになった所長室で、やれやれと大介は肩を揺する。

 火付け役のくせに、彼はまるで他人事のようにため息を吐いて笑った。


「あははは……。しばらくは落ちつきそうにないな、こりゃ」




 ――だが、その頃から街は急激に復興していく。

 和真が四阿を旅立ったのは、大介が所長に就任してからたった半年後のことだった。

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