Act.0025:どこまでもカッコ悪い女だな、私は……
たまに冗談めかして、乙女とガランに言われることがあった。
「アラベラ様は、運が悪い」
内心、アラベラ自身も感じていたことだ。
しかし、アラベラは運のせいにしたくなかった。
父が死んだことも運のせいと言えなくもないが、それは違うと胸をかきむしる想いで否定した。
父が悪いのだ。
悪を許した父の自業自得なのだと。
だって、運のせいにしてしまったら、それは自分の力で解決できないことになるではないか。
いくら正しく生きても、運のせいで悪に負けるなど認めたくない。
だが、ここまでくると「運が悪い」としか思えなくなってきていた。
部下に裏切られたのは、まだ自分に非があったとしよう。
しかし、敵がここまで強力な兵器をそろえていたのは、運が悪いと言えるのではないだろうか。
いいや。それさえも情報収集能力不足と、自省もできる。
(さりとて、これはさすがに……)
敵陣に近づき、草むらに身を隠したとたんだった。
あちらこちらに松明と
瞬間的に見つかったと体を強ばらせたアラベラだったが、そういうわけではないらしい。
しかし、
明らかに、敵が大規模な周囲の探索を始めたのだ。
(……どうなっている?)
幸い、山賊たちの
というより、もしかしたら森に入ることを警戒しているのかもしれない。
獅子王に斃された山賊のフルムーン・ベータのコックピットは、凄惨を極め、山賊たちに少なからず恐怖を与えたことだろう。
彼らもその原因が、コックピットの正面装甲上に打ちこまれた魔法陣の印にあることまではわかったとしても、どのようにそれが作られたかまではわかる者もいないはずだ。
となれば、高い木々がある森の中には迂闊には入りたくないはずである。
(しかし、これでは……)
行動を迷っている内に、かなり逃げにくい状態にまでなってしまっている。
アラベラの数メートル先にも、3~4人の捜索チームらしき者たちが通り過ぎる。
「相手は2人で、1人は怪我人だ! この森をそう簡単に逃げられやしない! もう殺してもいいから逃がすな!」
そんな野太い声も聞こえてくる。
(2人……
アラベラの背筋に冷たいものが走る。
直感的にわかる。
乙女とガランは、どちらかが怪我を負いながらも自力で逃げたのだ。
思わず自嘲がもれる。
ああ。本当になんと運がないことだろうか。
これぞ、まさに無駄足ではないか。
運が悪いと言うよりも、まぬけな話だ。
(……いや。そうでもないか)
先ほど、「1人は怪我人」と言っていた。
その状況で、逃げるのは辛いはずだ。
だったら、アラベラがここで敵を引きつければ、2人を安全に逃がすことができるかもしれない。
そもそも敵の狙いは、仲間を問答無用で葬った自分である。
その自分が身をさらせば、奴らは2人を追う必要もなくなるだろう。
(しかし、生身では……)
武器は、腰につけた短剣がある程度だ。
いくら魔法が使えても、魔術師でもない限り大規模な攻撃など使えやしない。
時間稼ぎもできずに捕まるのが関の山だ。
(…………)
暗闇の中、2つつけていたウェストバッグの1つから、
そして、それに掌をかざす。
それは、和真から借りてきた……いや、盗んできたもの。
警務隊大隊長ともあろう者が、
公務のための非常徴収と言えば通らなくもないが、それは体のいい言い訳にすぎない。
話を和真から聞いてわかっている。
これは、今の彼の魂。
それがわかっていて、恩を仇で返すように自分の都合で奪ってきたのだ。
(本当に……どこまでもカッコ悪い女だな、私は……)
情けない自分を嘲るが、ここまできたらと決意を固める。
和真の魂にかざした掌へ願いをこめる。
(頼む……私に……カッコ悪い私に、カッコいい正義を見せてくれ……)
魔力が掌に宿る。
洞窟で見せてもらった時、臨戦態勢のために【
あとは、最後の呪文を唱えるだけ――
「――
――のはずだった。
しかし、
おかしいと思い、もう一度、「
たとえ、パイロットロックと呼ばれる規制がかかっていたとしても、少なくとも
おかしいと思い、【
違う。無反応ではなく、あろうことか魔力を受けつけていないように感じる。
(どういうことだ!?)
アラベラは草むらから少し動いて、周囲からの明かりを手元の
そこに浮かびあがる文字は――
【女パイロットのオークマニュアル~凌辱編】
「――エロ本に戻しておくな、変態め!!」
「おい! あそこに誰かいるぞ!」
「……あ……」
見つかった。
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