第三章:正義の矜持
Act.0014:あの時も見えていた……
橙の空はどこか、のっぺりとしていた。
立体感なく、絵の具がのされているように見えてしまう。
その橙の上で、時期をまちがえた羊雲がそこかしこに放牧され、ゆるりゆるりと進んでいる。
この季節に見えないはずの羊雲が見えるのは、周囲の魔力が不安定になっている証拠だという。
そして、昔からよくないことが起こる前触れとも言われていた。
(あの時も見えていた……)
嫌な記憶が脳裏をよぎり、
ただの偶然。
大事な作戦前に、なにを弱気になっているのかと喝をいれる。
不安……その原因はわかっている。
部下のジョー・タリルからの進言についてだ。
当然ながら、アラベラとて誘い出された可能性を考えなかったわけではなかった。
散々、【赤月の紋】の下位組織を殲滅してきたのだから、怒り心頭であろうことも想像に難くない。
しかし、戦力的には問題ないはずだ。
かの【四阿の月食】で猛威をふるった解放軍【
それをどこからか手に入れた警務隊本部は、その専用武器【ヘキサ・バレル】に注目した。
今までのように魔法を発動してただ放つのではなく、ヘキサ・バレルの
さらに
そこを通る魔力によって、魔方陣に組み込まれた威力強化のための大呪文が高速詠唱され、威力を増すようになっていた。
これにより、フルムーン・アルファでは【
この仕組みを採用して、警務隊により生みだされたのが、中距離狙撃型
しかも、このヘキサ・バレルは、さらに改良されて飛距離は、通常の3倍。
つまり位置取りさえ成功してしまえば、たとえ敵がフルムーン・アルファであろうと、攻撃範囲内にはいる前に斃すことができてしまう。
まさに【四阿の月食】でやられた作戦を逆に行えるようになったわけである。
これが2機、すでに配置についていた。
そこに加えて、アラベラの懐刀の2人。
【紅島 乙女】の強襲型
【ガラン・ガラン】の超近接型
この2機が、撃ちもらした敵を斃す算段である。
そして、乙女とガラン以外には隠していたが、アラベラ所有の新型が1機あった。
それが今、アラベラが乗っている
【
――である。
これは最強の水陸両用
【
それにヘキサ・バレルを両肩に2門装備したのが、【A-17PSY】だった。
水陸両用だが水中行動に主体を置いており、地上での動きは愚鈍。
接近されてしまえば、いい鴨になってしまうことはまちがいない。
しかし、高圧型外殻故の重装甲を持つため、半固定砲台のように運用すれば、拠点攻略には適している。
これを手に入れるためにアラベラは、純真だった秋月をたぶらかした。
色香に物を言わせ、思わせぶりなことを繰り返して、とうとう彼からテスト運用という名目で預けてもらうことに成功したのだ。
警務隊でさえ持っていない最新鋭の
ともかくこれで
しかも、敵の
たとえ、これが敵の待ち伏せであったとしても、力尽くでねじ伏せられるはずである。
――こちら
――こらち
それでも次々入ってくる念話の報告に、少しだけアラベラは違和感を感じた。
敵の見張りが、ここまで確認できないのはおかしいのではないだろうか。
いや、しかしと、彼女はその違和感を否定する。
我々がこの距離から、まさか攻撃できるとは、敵も思っていないのだろう。
だから、この辺りにはまだ見張りがいないのではないか。
それに、ここまで来てさがれるものかと、アラベラは意を決する。
(
――こちら
(
――こちら
まずは、敵の
そしてアラベラは、
そこから逃げる者たちを歩兵部隊が掃討する。
これだけだ。
アラベラは球体グリップに魔力を流し込み、
ずんぐりむっくりとした、すべてが楕円形で構成された濃紺のボディをのっそりと動かしていく。
座って身を隠していた岩山から、
それは、自分が目立って敵のターゲットとなるため。
【
その横長の
遠くに見える、うっそうと茂る森。
その木々の隙間からうかがえる、木造の建造物。
右横には、木々より少し高い物見やぐらがある。
左横には、
2機のアルマースも、それぞれ左右に展開して、巨岩を盾にし、腕に取り付けたヘクサ・バレルをかまえている。
準備はできた。
両手をそれぞれ両肩のヘクサ・バレルに手を添える。
あとは魔力を込めるだけ。
――!!
だが、そこに激しい衝撃音が響いた。
アラベラは刹那、アルマースが指示を待たずに狙撃してしまったのかと思った。
だが違う。
見張り台も見張り役の
むしろ倒れようとしているのは、衝撃音を発していたアルマース。
「――なにかっ!?」
叫んでも聞こえないことを忘れて口を動かす。
だが、そこにもうひとつ衝撃音。
今度は逆のアルマース。
アラベラを挟むように、くの字に倒れる2機。
間をおかずに鳴る、2つの地響き。
その横腹に立つ、岩石の墓標。
それは魔法で射出された石の矢。
森の中と背後で次々と立つ、光の柱。
その数、おおよそ10数本。
(――
返らぬ、後方待機していた見張り部隊の返事。
「なぜだっ!? ……な……ぜ……まさかっ!?」
ここに至り、アラベラはある男の顔が浮かぶ。
情報を持ってきておきながら、退職した1人の隊員。
――そうだ。
あの濁った眼が語っていたのだ。
この戦いが、始まる前から敗北するということを……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます