Act.0011:まさか、つながっていると?

 警務所内で個室を持っているのは、大隊長と所長だけだった。

 大隊長兼所長代理である【神守 大介】は、つまり2つの個室を使えるわけだが、そのまま大隊長としての個室を利用している。

 所長代理は、あくまで代理だ。

 腹立たしいが、アラベラの言うとおり、必ずしも自分が正式な所長になると決まったわけではない。

 調子に乗って所長室を使って、そこから出戻りなどかっこ悪い。


 無論、大介としても警務所長になりたいとは思っている。

 性格的には、大隊長のような現場主義の方が合っていると思っているが、それ以上にもっと街を守るために力が欲しいという現実的な想いもあったのだ。

 前の所長は事なかれ主義で自発的にあまり動かず、テロリストと通じていたかつての大隊長キースにいいように操られていた。

 おかげで大介が望んだ改善案が、ほぼ通らなかったのだ。

 しかし、キースは牢獄行きで死刑確定、所長は【四阿の月食】で死亡。

 不幸中の幸いではあるが、大介はこれでもう少しましな警務隊になると思っていたのだ。


(世の中、ままならねーや……)


 そう思いながら、大隊長室で横長の立派な机に突っ伏す。

 目の前には、書類の山。

 復旧作業が遅々として進まない街。

 続く犯罪と、住民からのクレーム。

 底をつく予算。

 馬の合わない女大隊長の出現。

 大介にしてみれば、弱り目に祟り目である。

 さらに今朝早く、新たな情報が流れてきた。

 この街の襲撃を考えている山賊どもがいるらしいというのだ。

 しかも、その襲撃予定日は今日の夜。

 おかけで大介の部隊は、朝から警備体制を強化しなければならなくなった。

 仮にも警務隊が機能している街で、テロリストならまだしも山賊ごときに襲われるなど前代未聞である。


(まさに青天の霹靂……)


 大介は背後の窓を見やり、カーテンを少し開ける。

 眩い陽射しは、夏間近を感じさせてくれる。

 こんな良い天気なのだから、陰鬱なこの部屋に閉じこもっていないで見回り警備さんぽにでも行きたいものだ。



――コンッ!



 まるで、その大介の不埒な考えを戒めるように、切れのいいノック音が部屋に響いた。

 思わず大介は、姿勢を正してしまう。


「あ……どうぞ」


 ドアが開くのと同時に、「失礼いたします」という堅苦しい男の声。

 もちろん、大介が知っている声だ。


「どうした、ジョー。お前がここに来るなんて珍しいな。アラベラ殿に見つかったら、裏切り者呼ばわりされるのではないか?」


 銀髪の小隊長は、相変わらず表情をキリッと崩さずに敬礼を行うと部屋に入ってくる。

 そして、その真面目くさった顔のままで開口する。


「ええ。ですので、アラベラ大隊長がいない間にお伺いしました」


 ジョーの言葉に、大介はやれやれとため息をつく。

 これはまちがいなく厄介ごとだ。


「……なんだ、まずいことなのか?」


「アラベラ大隊長は、本日の夕刻に【赤月の紋】のアジトへ襲撃をかけるつもりです」


「……なあぁ~にいぃ~!? どーりで朝からアラベラ大隊がコソコソとドタバタ・・・・・・・・・しているわけだ。アジトの場所は、タレコミがあったのか?」


「タレコミではありません。アラベラ大隊長に降格された者が名誉挽回にと、かなり無理をして情報をとってきたようです。偵察部隊が先日の朝、確かに確認してきています。本日の昼には、アラベラ大隊長が取り寄せた大型魔動車2台を使用して強襲をかける作戦です」


「魔動車2台とはまた豪勢だな。貴族のアラベラ殿は自腹を切ってまで手柄を欲しているのか。しかも、また殲滅戦? 気にくわねぇ」


 大介は顎髭を撫でながら顔を顰めた。

 だが、ジョーが表情を崩さずに答える。


「殲滅戦であること、その点を私は問題視していません。特に今回は戦力的に余裕もありません」


 冷たく言い返したジョーが、そのことに関して取りつく島もない様子を見せる。

 これは無理だと、大介は早々に説得を諦めた。

 そもそもあらゆるリソース不足は、自分に責がある。

 それを解決できていない自分に、説得などできるわけがないのだ。


 それに、だ。

 今は、そんな融通が利きにくいジョーが、アラベラに命令された守秘を破ってまで、ここに来たことの方が気になる。


「……規模は?」


「敵の数は、おおよそ100名。魔生機甲レムロイドは5機。こちらは兵が30名で、魔生機甲レムロイドが4機」


「4? 2機しか……。ああ。あのアラベラが連れてきた2人が自前のを持ってきているのか。それでやれるのか?」


「一応、夕方の敵が出払った時間を狙います」


「なるほど……。奇襲でもあるし、やれないことはないか。まあ、【赤月の紋】は俺も早めに何とかしたいと思っていた。殲滅戦は別にして、手を貸してやりたいが、こちらも警備を今夜は強めなきゃならない」


「それなんです、神守大隊長」


 どうしたものかと頭を掻いていた大介は、ジョーの言葉に首を捻る。


「それ……とは?」


「街を襲うという情報は、どこからでしょうか?」


「……タレコミだ」


「裏はとれておりますか?」


「とれていない。ただ、ジョーも知っているだろうが、住民の間でもここ数日、『山賊が力をつけて街に攻めてくる』という噂が立っていて……」


「タイミングが……良すぎませんか?」


 そのジョーの疑念で、大介の明眸に力がこもる。


「まさか、つながっていると?」


「根拠はありません。私の勘です」


「勘……か……」


 大介は、腕を組んで考えこむ。

 ジョーの勘は妙に良く当たることを知っているし、また「確かにそうだ」と納得してしまったのだ。

 そうなると、そう・・としか思えなくなる。

 だがもし、そう・・ならば「どちらなのか?」というのが問題だ。


はったりブラフは?」


「街の方かと……」


「だよなぁ~」


 迷わず答えたジョーに、大介も同意する。

 本命ならば、噂などが広まるはずもない。

 しかし、街のリスクは0ではない。


「おまえのことだ。俺のところに来る前に、アラベラ殿には話したんだろう?」


「はい。気にしすぎだ。罠のはずがない。だから、襲撃をやめるつもりはないと……」


「――くそっ!」


 椅子を弾きとばし、机を叩いて大介は怒りあらわに立ちあがる。

 机の上の書類の山が崩れ、床に散らかってしまう。

 だが、大介の意識に、そんなことは入っていない。


「功を焦りすぎやがって。そんなに所長の椅子が欲しいのか! それとも、これも奴の復讐という正義感か!?」


 自ら口にだしながらも、大介はそんなことどうでもいいと頭をリセットする。

 今、考えるべきは、アラベラを説得できるか、戦力を割けるのか、どうやって正しい情報をいかに早く入手するのか……いろいろな可能性を計算する。


「すいません。神守大隊長。もうあなたに頼るしか……」


「俺は所長代理でもあるんだ。それはかまわん!」


 静かに頭をさげるジョーの姿が痛々しい。

 彼とて、小隊長として数名の部下をもっている立場だ。

 下手をすれば、その部下たちを死地に連れて行くことになる。

 それどころか、アラベラ大隊全員が死ぬことにもなりかねない。

 そんな最悪は、どうやってもさけなければならない。


「しかし、問題はあのバカ女……もとい、アラベラ殿が俺の説得を聞くとは思えんことだな……。かといって、ここで力づくなどできない。内部抗争みたいな真似をして、住人に対する警務隊の信頼をこれ以上、落とすわけにもいかん。だが、みすみす見逃すわけにも……」


 戦力、情報、スピード……この問題を解決するため、すべての力が今、必要となる。

 もちろん、そんなものが一朝一夕に手に入るわけがない。

 しかし、大介にはひとつだけ当てがあった。

 このすべての力を手にする者に。


「ジョー・タリル小隊長。いざという時・・・・・・、なるべく生き残ることに専念するよう行動せよ。また、このことを他の小隊長にも伝えておくのだ」


「はっ! ……しかし……」


 敬礼をしながらも、ジョーの顔が憂いで歪む。


「すまない。すべては私の力不足だ。だが、万が一の時に、その力不足を補ってくれる者に心当たりがある。まにあうかどうかは微妙だがな……」


「なんと……。その者とはいったい?」


「それは……変態仮面だ!」


「へ……変態仮面……」


「ああ。変態仮面だ……」


「…………」


「…………」


「……神守大隊長……長い間、お世話になりました」


「――不安になるなよ!」


 自分が「獅子王と知り合い」と説明できないとはいえ、もう少し言い方を考えれば良かったと思う大介であった。

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