Act.0010.5:――しねーよ!!

 アラベラが去った後、和真はその場で両膝から崩れおち、両手を手前についた。

 まさに四つん這い状態で、その様子は絶望感にあふれている。


「か、かず……ま……?」


 ミチヨは階段を降りてくると、近寄ってようすを見ようとする。

 が、近寄れない。

 名状しがたい空気が、彼の周りを包んでいる。

 近づくだけで、闇に呑まれそうな雰囲気だ。


「お……俺は……や……やはり……は、はれんち……なのかあぁぁぁ……」


 首が垂れ下がり、その表情は見えない。

 だが、長い付き合いのミチヨには、容易に思い浮かべることができる。


「あ、あのさ、和真……」


「別に……大きい乳房が欲しかった……わけじゃ……」


「ちょ、ちょっと……和真?」


「お、女から見ても……はれん……ち……」


 床に向かって呟く和真は、かなりメンタルがヤバい。

 恋心を受け入れてくれない腹いせに、ここまで追いこんでしまったのは自分なのだが、これはさすがにまずいとミチヨも心配になる。


「俺はハレンチな変態……変態仮面……なのか……」


「そ、そんなことはないよ、うん!」


「じょ、女装だって……やりたくて、しているなら……まだしも……俺は……」


「あ。じゃあ、もう開きなおって女装を好きになっちゃえば?」


「…………」


「和真……?」


「…………」


「……大丈夫? 女装する?」


「――しねーよ!!」


 さすがに哀れに感じたミチヨは、獅子王の時に着る上着を用意することにしたのだった。

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