Act.0010:あえて言うなら……かっこよさじゃないか?

「断る……というのか?」


 アラベラは、和真の返答に驚いた。

 まさか断ってくるとは思わなかったのだ。


 部下2人を門番にして、雷堂和真の家に入ったアラベラは、明日の作戦のことを説明した。

 ダイニングテーブルに座り、正面に座る和真へ、この作戦がどれだけ重要なことなのか切々と語る。

 あらかじめ和真という男が、正義感が強く、困った人間を見逃すことができない人間だとは聞いていた。

 だから、敵がどれだけ悪で、自分たちがやろうとしていることがどれだけ正義なのかをせつせつと語って聞かせた。


 内容的には単純明快で、山賊団【赤月の紋】のアジトを発見したから襲撃するというものだ。

 ただ、情報に寄れば、敵の数は警務隊を上回っている。

 敵の魔生機甲レムロイドは5機、歩兵で100人ほどの規模らしい。

 そこで奴らが山賊行為を行う夕方を逆に狙う作戦を立てた。

 多くの戦力が出払っている隙をついて攻めいるわけだ。


 しかし、それでも人手は足りていない。

 30人からの部隊の中でも、軟弱で使いものにならない者達数名を事務方にはずした上、用意できる魔生機甲レムロイドは最新鋭と言えど2機。

 個人的に昔の部下を呼び寄せ、それで2機追加。


 だからと言って、頭の硬い神守大隊長の部下を割いてもらうことも望めない。

 アラベラの作戦に同意するわけがないからだ。


 だがまさか、ただの傭兵である和真までもが、同じような理由で断るとは彼女も思わなかったのだ。


「俺だってガキじゃない。別に殺すななどはいわないが、山賊団を殲滅する理由があるのか?」


 腕を組んで特に感情も見せず話す和真に、アラベラはまだとりつく島があると推測する。


「我々には、リソースがない。捕らえても監禁する施設、じっくりと裁く人材、そして今回の戦力もギリギリだ。手加減だって難しい。……それに、こういう奴らは同じ事をくりかえす。反省したふりをしてもな」


「確かにな……」


 同意する和真に、アラベラは手応えを感じる。

 この作戦は総力戦になる。

 この街で最も優れたパイロットである和真の助力は確保しておきたい。


「恥ずかしながら、警務隊の戦力は不足気味。この状態で貴殿のようなすばらしいパイロットにぜひ力になってもらいたいのだ。それに我ら警務隊は正義。悪を倒さなければならない。雷堂和真、貴殿は正義感の強い若者だと聞いている。我らは協力してやっていけるはずだ。それに報酬も破格だ。断る理由などなかろう」


 ダメ押しとばかりアラベラは迫る。

 いくら強いと言っても、しょせんはただの傭兵だ。

 大した学もないだろう。

 しかも、4~5才は年下の男である。

 若い男など単純だ。

 褒めて、おだてて、はやしたてればいい。

 自分が口説けぬはずがない、彼女はそう信じていた。


「…………」


 だが、帰ってきたのは、失望に似たため息だった。


「俺はあんたの正義に残念ながら同意できない」


「……なんだと?」


「あんたは、『悪を倒すのが正義』だと言うんだろう?」


「……それ以外になにがあると?」


「俺にとって、『悪を倒すのが正義』じゃない。『大事な物を守るのが正義』なんだよ」


「……傭兵として多くの命を奪ってきた雷堂和真ともあろう者が、ずいぶんと甘いことを言うものだな」


 アラベラの言葉に険が立つ。

 信じるものを否定される苛立ち。

 そして、「こいつもか」という落胆。

 彼女の中に、漣のように怒りが広がる。


「悪から大切なものを守るためには、悪と戦う必要があるであろう? 理由はともかく、結果は同じではないか!」


「いいや、違うさ。その理由こそが問題なんだ。『正義』の『義』は、『人道』『理由』『意味』を表している。大切なのは、行動自体ではなく理由だ。なんのために動くか・・・・・・・・・、それが正しくなければ、『正義』なんてなんの意味もない」


 もう不機嫌さは隠していない。

 アラベラは眉を顰めて、睨みつけるように和真を見やる。


「……ならば、その正しさは、どうやって計る?」


 相手を燃やすように、アラベラは瞳に力をこめる。

 それは彼女からの挑戦状であり、そして彼女自身の長年の疑問でもあった。


(偉そうに言うお前は、私の問いに答えられるのか。答えられなければ、口ばかりのくだらない男に過ぎぬ!)


「……計り方か。最近、似たような話をしたな」


 対する和真は、アラベラの熱を受けつけない。

 どこまでも彼は、静かに口を開く。


「あえて言うなら……かっこよさじゃないか?」


「――!! ふざけるな!!」


 怒りあらわにアラベラは立ちあがった。

 少しでも内心で期待していた自分に恥じる。

 やはり男など、見かけ倒し。

 ろくなのがいないのだ。

 そう。「やはり」なのだ。

 今さら改めて落胆してどうするというのだろう。

 彼女は身につけていた警務隊のジャケットの襟を正し、ため息のような深呼吸をひとつその場に捨てた。


「どうやら見込み違いだった。失礼する」


「……悪いな」


「ああ。それから、わかっているとは思うが、このことは他言無用で願いたい。その階段の上で聞いている2人・・・・・・・・・・・・・・もな」


 アラベラはダイニング横の階段の上に視線を投げた。

 とたん、ガタッとそこから物音がする。

 そして諦めたのか、とぼとぼと2つの影が現れた。

 若い女性と、幼い子供だ。

 2人とも悪戯を見つかったような顔をしている。


「家族か?」


「……みたいなもんだ」


 頭を掻きながら気まずそうにする和真。

 その様子が面白く、アラベラの口はつい動いてしまう。


「あまりいいしつけとは言えないな」


「すまん。無論、あいつらにも余計なことは言わせない。俺が責任を持つ」


「いいだろう。その点は軽薄なことせぬと信じている」


「ありがたいね」


「ただ、【赤月の紋】が力をつけてくれば、やがて貴殿の家族にも被害がおよぶやもしれんぞ」


「わかっている。だから、せめてあんたらの邪魔はしないよ」


「そう願っている」


 ここで言質をとっておけば、和真という男は余計なことを言わないだろう。

 せっかく内密に動いているというのに、下手に【神守 大介】の耳にでも入れば面倒になる。

 とにかく当ては外れた。

 ここにいる意味はない……と思ったが、アラベラはふと1つのことを思いだす。


「おっと、ひとつ聞いておきたいことがあった」


 アラベラは上半身だけ振りむいて、和真に尋ねる。


「貴殿はこの街に詳しいのだろう。獅子王というのを知っているか?」


「……ああ、まあそりゃな」


 唐突な質問すぎたのか、和真が少しとまどいながら答えた。


「それがどうかしたか?」


「奴の正体は知らぬのか? または知っている者はいないのか?」


「さ、さあなぁ……。謎の【正義の味方】らしいからな」


「なにが【正義の味方】だ。くだらん。ただの変態仮面ではないか」


「――変態仮面じゃ……な、ないんじゃないかなぁ~」


 和真の声は、いきなり怒鳴ったかと思ったら、途中で急に尻つぼみになった。

 アラベラは違和感を感じる。

 獅子王は、街の英雄ともてはやされているようだ。

 もしかしたら、和真も硬派に見えて獅子王のファンなのかも知れない。


「変態であろう。あのようなハレンチな服で、無駄にでかい胸を強調しおって」


「……い、いや、そんなにハレンチでも……な、ないかなぁ……って……」


「……ああ、なるほど。貴様もしょせんはただの男か。乳のでかい女のああいう服装が好きなのであろう」


「…………」


「まったく、男はこれだからな。あんな女から見てもハレンチ極まりない変態女を……。まあ、よい。邪魔したな」


 アラベラは、そのまま家を出て2人の連れと共に家路につく。

 その間も、苛立ちは消えない。

 甘っちょろい生意気な男に勝手なことを言われた。

 なにもわかっていない男に。

 今度、会った時には、和真を必ずぐうの音も出ないようにしてやる。

 そう心に決めていた。



 ――まさかその時。

 アラベラの言葉に、両手を床につきながら和真が、ぐうの音も出ないほど落ちこんでいるとは……アラベラも思いもしなかったのである。

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