エピローグ

Act.0073:この世界の行く末を占う方法を……

「おいおい。長門。今さら、おれたちを集めて何事だよ。くだらねぇ用ならぶっ飛ばすぞ」


 【大和やまと たける】は、シェービングクリームでもたっぷりと塗りたくったような口ひげと顎髭を携え、70代とは思えない屈強な体を椅子にふんぞり返って見せた。

 木製の椅子がミシミシと悲鳴をあげることも気にせず、【鬼神】と呼ばれる彼の眼光が、残りの2人を順番に睨む。

 その鋭さは、魔法の【石鏃】よりも鋭く強烈で、気の弱い者など目線を向けられただけで気を失うと言われているぐらいだった。

 しかし、その場にいた2人は、平然とその威圧を受け流す。


「そうですね。我々はそろそろ引退の身。現役で顔を合わせることも、もうないでしょうという話をしていたばかり。そもそもあなたが、引退の一番手だったはずですが?」


 老体とは思えないまっすぐのびた姿勢に、パリッとした英国紳士風のスーツに身を固めた【ウィリアム・ブレイク】も肩をすくめた。

 オールバックにした、雪の白銀を思わすシルバーブロンドを一度かるく撫でる。

 流氷のあおを思わす青眼、氷山を思わす鋭く高い鼻、そして柔らかそうな口ぶりながら、どこか冷たい声質。

 故に彼のあざなは、【アイスマン】。

 この中で一番の若手だが、それでも60代。

 しかし、真っ白で皺一つない肌などからも、かなり若く見える容姿だった。


「すまんな。老体に鞭打たせて遠路はるばると」


 そんな2人に、長門が挑戦的な言葉を投げた。

 その声は、凜として10席ほどある大部屋のすみからすみまで響く。


 アーチを描いた天井は高く、天窓から陽射しが降りそそいでいる。

 ステンドグラスに飾られたいくつもある大窓も、明るい陽射しを取りこんでいた。

 その陽射しを浴びて立つ長門は、まさに全盛時代の二つ名【天陽てんよう】の威厳を放っていた。


「なにが老体だ。てめーが一番、くたばりそうだったくせに」


 その長門の姿に大和は、少しだけ目を丸くしていた。

 最後に見た彼の記憶にあった長門と、今の長門は別人のようなのだ。


「まあ、言い方は悪いですが、確かに。前にお会いした時のミスター長門は、もう抜け殻のように見えたのですが……。今はずいぶんと、若返りましたな」


 ウィリアムも驚きを隠せない。

 興味津々とばかりに、少しだけ体を前のめりにする。


「なにね。わしもこのまま、ただ年老いるわけにはいかなくなってね」


 長門の不敵な微笑に、2人は視線をそらせない。


「……で、どうした?」


 大和が高い鼻をかるく鳴らした。

 それは早くしろという催促。

 長門は、静かに肯いてから口を動かす。


「前々から話に出ていた、【異世界リアル】の話なんだ」


「おいおい。その話は、妄想に過ぎないと決着がついたじゃねーか……」


 期待して損したとばかり、大和がため息と共にまたふんぞり返る。

 だが、長門の笑みは消えない。


「それがね、大和さん。わしは、2人の【異世界リアル人】と接触したんだ」


「またか。そいつらも、今までと同じパターンで妄想癖じゃないのか?」


「いいや。この2人は、今までと違う。この世界での出生を持っていないのだよ」


「……なんですと?」


「マジか、それは!?」


「どうやら、【異世界リアル人】にもいろいろあるようですよ」


「ってことは、【異世界リアル】はマジ話だってーのか……」


「そうなると、日本王国が言っていることはもしかして……」


 3人の間に重たい空気が流れる。


「たぶん、我々がつかんでいない情報を日本王国、そして解放軍の奴らはもっているのでしょうな」



――ドンッ!



 大和が机に拳を打った。


「ふざけやがって! あいつら締めあげてやる!」


「無茶を言いますね、ミスター大和。相手は両方とも強大な戦力を持っているのですよ。いくら我々が三大名工と謳われようと、所詮は魔生機甲設計者レムロイドビルダー。どうにもなりません」


「いや。それがそうでもないのですよ、ウィリアムさん」


 長門が楽しそうに口元を歪める。


「私が見つけた【異世界リアル人】……とんでもなく面白いですぞ。わしを若返らすぐらいに」


「……どういうことです?」


「その2人。二十歳にも満たないのに、そろって我らを凌ぐ魔生機甲設計者レムロイドビルダーだ……と言ったら?」


「……いやいや、ミスター・長門。さすがにそれはないでしょう」


 両手の平を上に向け、ウィリアムは嘲笑まじりに首を横にふる。


「そんな子供に三大名工が負ける? それどころかまともな魔生機甲レムロイドを創りだすことさえ……」


「わしの魔生機甲レムロイドは、そのうちの1人の少年が生みだした魔生機甲レムロイドに倒された」


「――なっ!? いくらなんでも……」


 ウィリアムの驚愕にかぶせるように、大和が口を挟む。


「――待て。まさかそれ、四阿の事件で現れた謎の魔生機甲レムロイドか? 大会にもとんでもないのが出てきたと報告が来たが……」


「ええ。貴方の息子さんの工房がある四阿を襲った解放軍の魔生機甲レムロイド10機は、警務隊をいとも簡単に全滅させた。しかし、その10機を1機で沈めたのは、その少年が初めて生みだしたレベル50の魔生機甲レムロイドだった」


「……はあ~? 待て待て待て」


 思わず大和が立ちあがる。


「警務隊を全滅させる魔生機甲レムロイド10機を1機? 初めてでレベル50? 長門、お前、冗談にもほどがあるぞ……」


 それに対して長門は、先ほどの不敵さとは違い、心から楽しそうな笑みを浮かべる。

 まるで子供が自慢のコレクションでもお披露目しているかのように目が輝く。


「まだあるのだよ。その10機の解放軍の魔生機甲レムロイドは、その少年の魔生機甲設計書ビルモアを盗んで作った劣化コピーなのだ」


「……ってと、劣化コピーでさえ、警務隊を寄せつけない強さだった。オリジナルは、さらにそれを寄せつけない強さ……そんなバカな……」


「私も信じられませんな。しかし、ミスター・長門が嘘をついているようにも見えない」


 テーブルに両肘をつき、指を組んだウィリアムが、長門をじっと見つめる。


「そして万が一、それが本当ならば、その1機は国務隊の1中隊ともやりあえる……」


「1機? いやいや。レベル25クラスが3機、レベル42が1機ある。さらに詳しくは知らないがあと2機あるらしい。そして彼は、これを1ヶ月程度で創りあげた」


「――ちょっ、ちょっと待ってくれ! ミスター・長門! それはさすがに……」


「ああ。信じられねーな」


 信じられないと言いながらも、2人はそれ以上、否定もできない。

 ウィリアムが言ったとおり、長門に嘘をつく必要性などないのだ。

 それに嘘をつくなら、もっとリアリティのある嘘をつくはずだ。

 こんな真実うそ、虚実よりも信じがたい。


「それからね……」


「おいおい。まだあるのかよ……」


 うんざり気味の大和に、長門の楽しそうな笑みが止まらない。


「エリアチャンピオンのヤンは知っているかね?」


「ああ。知ってる。四阿のあるエリアでは、接近戦で雷堂と五分の腕前があった奴だ。かなり優秀なパイロットだというじゃねぇか」


 その大和の説明に、ウィリアムもうなずいた。

 それを確認してから、長門はわざわざ席を立って、ゆっくりと歩きながら口を開く。


「そうだ。そのヤンは、【異世界リアル人】のもうひとりの少女にパイロットとして一度も勝てないでいるらしい」


「……その少女レディというのは、魔生機甲設計者レムロイドビルダーであり、エリアチャンピオンさえも勝てぬ腕前のパイロットでもあると?」


「ああ。だが、少女だけではない。少年もだ。そしてその少女は、その少年に1度たりとも勝ったことがないそうだ」


「「――!?」」


 2人の息が止まる。

 奇妙な沈黙が訪れる。

 その様子を楽しむかのように歩いていた長門が窓際に辿りついた。

 彼は色とりどり光を放つ大窓のひとつをゆっくりと外に開く。

 陽光が容赦なく差しこみ、からっとした冷たい空気がその場の熱を冷やすように吹きこんだ。


「……なるほど。ミスター・長門が若返るはずです」


 最初に口を開いたのはウィリアムだった。

 彼はどこか自嘲気味に頬をひきつらせている。


「今までの我々の経験則が、なにひとつ通用しない」


「ああ。初めて聞くことばかりだ。オレの常識がぶっ壊れそうだぜ……」


 大和の言葉に「まったくです」とウィリアムがつけたす。


「我々は凝り固まった頭を若返らす必要がありそうですね。……ところで、戦力の話はなんとなくわかりました。しかし、その【異世界リアル人】が我らの味方になって戦ってくれると?」


「さあ、わかりません。ただ、2人にも協力してもらえるなら、彼らを最終的に日本列島・東京に向かわせようかと思いましてね」


「……じれってーな。詳しく話せ!」


 長門は、そこでやっと笑みを潜ませた。

 そして、背中に陽光を浴びながら、彼は明眸に煌めきを宿らす。


「では、お話ししましょう。この世界の行く末を占う方法を……」


 この世界の流れは加速し始めていた。

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