Act.0072:この世界はね……

「いったい……これは何の冗談なのだ!?」


 いちずは、驚くしかなかった。

 いや。こういうもの・・・・・・構築ビルドされることはわかってはいた。

 しかし、目の当たりにすれば、わかっていても冗談だと思いたくなる。


 10メートル四方ぐらいのコックピット……いや、艦橋ブリッジの前面と側面半分には、細長い大きな窓がついている。

 そこから広がる、高さ7~80メートルはある場所から眺める景色。

 いちずは圧倒されてしまい、そこからしばらく声が出なかった。


「いやはや。感動しますなぁ、ジェネはん……」


「うんうん。やっぱりロマンだよね、こういうのは……」


「ロマンやわぁ。……なんや、感動しすぎて涙でてきてしまいますえ……」


「ボクもだよ。苦労した甲斐があったねぇ~……」


「ほんまやわぁ~」


 世代セダイもクエも、普段からは考えられないほど興奮し、そして感動にうち震えている。

 クエに至っては、シルバーリムのメガネを持ち上げ、涙をふくような真似までして見せた。

 その様子はまるで、長年の夢を叶えて無邪気に喜ぶ子供のようだ。


 だが、いちずも他のメンバーも、それどころではない。

 感動する前に、これがいったい何なのだか、よく理解できないでいた。



 ――その日の昼過ぎのことだった。



 世代セダイとクエは、二人の共同開発で生まれたという魔生機甲設計書ビルモアをみんなに見せた。

 レベルにして92というハイレベルの魔生機甲レムロイドだというのだが、どう見ても内容がおかしい。

 魔生機甲レムロイドの設計図にしては、余計な物が多すぎるのだ。


 とにかく、その高レベルな魔生機甲レムロイド構築ビルドするには、いちず、双葉、ミカ、フォーに加えて、ヤンとウェイウェイの協力も必要だという。

 すでに荷物をまとめていたいちずたちは、もう帰らない覚悟で、世代セダイとクエの言うがままに、広大な何もない荒野が広がる場所まで来ていた。


 いちずはもちろん、家族を置き去りにすることになる双葉も、本心では街を離れることは嫌だった。

 しかし、2人ともすでに世代セダイの関係者として見られている可能性が高く、このまま街にいても危険なことはまちがいなかった。

 それに、世代セダイと離れるという選択肢は、彼女たちにはなかった。


 だから言うとおりに、6人でその魔生機甲レムロイド構築ビルドしたのだ。

 しかし、出てきたのは、魔生機甲レムロイドとはとても言えないものだった。


「ちょっと、ご主人様! これ、なんなのよ!?」


 双葉がどこか怯えた口調で尋ねるが、世代セダイとクエはニヤニヤとするばかりだ。

 それを見て双葉が、我慢できずにまた大声で尋ねる。


「ちょっとご主人様! 聞いてるの!?」


「……あ、ごめん。聞いてなかった」


「ひどっ! 聞いてよ! これ魔生機甲レムロイドじゃないでしょ!」


「ううん。一応、魔生機甲レムロイドということになっている。魔生機甲レムロイド【ヘハイム・バーシス】」


「ヘハイム? でもこれ……巨大な船みたいだけど……」


 その双葉の疑問に、クエが答える。


「まあ、今はシップモードやけど、どちらか言うと、これはうちらの秘密基地や」


「ひっ、秘密基地!? 魔生機甲レムロイドなのに基地なの!? っていうか、こんなに大きかったら秘密でも何でもないよね!?」


「そこはノリやね!」


「ちょっ! クイーンさんも、やっぱ変だよ!」


「そうだぞ。クイーンはすごく変だぞ」


「そうなのね。変なのね。変なのね」


 双葉の意見に、ヤンとウェイウェイが同意した。


「ちょい! あんたはんたち!」


 クエが怒鳴るが、2人はそっぽを向いてしまう。


「だってよー、こんな巨大なもの作ってどーすんだよ。俺たちに、あんなにいろいろお使いやらせてさぁ」


「そうなのね。こんなの長時間、維持できるわけないのね。無用の長物なのね」


 やはり、この2人も、今自分たちが乗っている巨大な「秘密基地」と呼ばれたものに疑問を持っていた。

 もちろん、いちずもわからずに、世代セダイの顔を見つめて視線で問いかける。


 すると、世代セダイが気がついて開口した。


魔生機甲レムロイドって別に人型じゃなくてもいいんだよね」


「ああ。まあ、そうだが……」


 魔生機甲レムロイドは、確かに人型である必要性はない。

 しかし、不思議なことに、人型にしたほうが反応等の性能がよくなることがわかっている。

 そのため、普通は人型にするのだが、用途によって人型ではないものもたまに作成される。


「それなら、こういうのもありかと思ってね。全長約130メートル、全幅約50メートル。ここは艦橋ブリッジだけど、この下のボディ部分は居住スペースとして、個室が10部屋用意されて暮らせるようになっている」


「く、暮らせる!? まさか、これは移動する家ということなのか?」


「だから、秘密基地、言うとりますえ」


 クエが割りこんで答えてきた。

 いちずは、対抗するように続けざまに質問する。


「しかし、レベル92でこれだけの巨体では、コントロールも難しいし、魔力も持たぬではないか?」


「まず、レベル92のコントロールに関しては、マニュアルでやることでほぼ問題あらへん。特にシップモードの時は、魔生機甲レムロイドモード時よりも操作は簡単。自動車……魔動車みたいなもん想像してもらえばええはずですえ」


「……ちょっと待ってくれ。魔生機甲レムロイドモードって、まさか……」


「そや。この【ヘハイム・バーシス】は、変形して人型になることもできます」


「へ、変形だと!?」


 いちずだけではなく、そこに居た多くの者が目を丸くする。


 その様子を楽しそうに見てから、クエは目線で世代に合図を送る。

 すると、世代セダイは首肯して中央にある席について、そこに設置されていたコンソールパネルを操作し始めた。


 前方の窓の上にモニターが表示され、そこになにやら上面図と側面図が表示される。

 メタルグレーを基調にした重厚そうなボディだ。


「これが【ヘハイム・バーシス】の全体図。今は、シップモードだね。これがこのように変形する」


 その図が少しずつ動いて、確かに人型に変形していく。


 簡単に言えば、シップモードは人が前に足を伸ばし、後ろに手をついているような状態だった。

 今いるブリッジは、ちょうど頭部に当たる部分である。

 ただし、シップモード時と魔生機甲レムロイドモード時のボディは、前後が逆向きとなっている。

 また、シップモード時は、腕が異常に長くなっており、肘が地面につくぐらいになっていた。

 魔生機甲レムロイドモード時には、それが縮んで人型としてバランスが取れるようになるらしい。


「こ、これ……魔生機甲レムロイドになると、どのぐらいの高さになるのだ?」


「150メートルぐらいだね。まあ、ボクらの世界にあった、この手のロボットの設定で見れば、さほど大きくないかな」


「じゅ、十分でかいぞ!?」


「この世界では、でかい方だろうね。一応、戦闘時というより、シップモードで入りにくい地形を抜ける時のためのモードだよ。ただ、動きが複雑になる分、魔力の消費が激しくなるので、滅多にやるつもりはないけど」


「そうだ! その魔力は!? 私たちの魔力が切れたら、強制格納ストレージ・インされてしまうのではないか?」


「そこが【ヘハイム・バーシス】の目玉や!」


 また、横からクエが口を挟む。

 本当に嬉しそうな顔で、人差し指を立てながら説明し始める。


「こん魔生機甲レムロイドには、その巨大さを活かして、大量の魔力バッテリーシステムというのを積みこんどります。魔力を蓄える性質のある【竜胆石りゅうたんせき】と、魔力を吸収する【魔消石ましょうせき】、それにジェネはんが作らはった【ヘクサ・ペガスス】の【魔力吸収蓄積装置ヘクサ・レザボア】を組み合わせて、なんと動作に必要な魔力を供給する仕組みなのですえ!」


 最後にクエが、「どや!」というような顔を見せる。

 だが、どんなに自慢されても、いちずも、そして他の者も理解はできていない。


「……すまぬ、クイーン殿。仕組みは、今ひとつわからぬが、【竜胆石りゅうたんせき】は、確か非常に貴重な品で、高額ではなかっただろうか? この短期間で数を集めるのは大変だし、いくら2人の資産でも、そんな金額は……」


 ミカが横から疑問を尋ねる。

 それは、いちずも浮かんでいた疑問だった。


「それは、長門が融通してくれたんだよ」


 いとも簡単そうに、世代セダイが答えた。


「長門に連絡を取ったら、つてがあると言うから頼んだ。料金はある時払いで立て替えてくれると。『その代わり、今度それに乗せろ!』と言ってきたけど」


「乗せろって……そんな簡単な。とんでもない立て替え額であろう。まったくあの御仁も非常識な……」


「まあ、類は友を呼ぶって奴だよ」


「それ、ご自分で言われてしまうのか、主殿……」


「ともかく、長門がいろいろなコネを使って集めてくれたらしいので、フォーにヘクサで受け取りに行ってもらった。ヘクサの飛行能力と、フォーの魔力量なら1日で往復できたしね」


「その代わり超疲れたね。想定外ね」


「悪かったねぇ。でも、運搬にも魔生機甲設計書ビルモアって便利でいいね。何しろ素材登録してしまえば、どんなに量があっても関係ないんだから」


「ほんまですえ。いろいろと夢のようですわ」


 先ほどから、世代セダイとクエのニコニコ顔が止らない。

 それだけに、驚愕しまくっている周囲との温度差が激しかった。


「ともかく。【ヘハイム・バーシス】は、動作制御には構築ビルドした者達の魔力を使っておます。単純な動作制御やさかい、利用する魔力もほんのわずかで済みます。実際の移動等の魔力は、自力で蓄積できるのですえ。ただし、6時間駆動するためには、6時間は止って魔力を蓄えなあきまへん。まあ、その他にもぎょーさん機能はありますさかい、それはおいおいな。わからへんことがあれば、外装とフレーム等はジェネはん、内装と魔力バッテリーシステムはうちに聞きなはれ」


「ちょっと待って!」


 今度は双葉が挙手して口を挟んだ。


「つまり……クイーンさんも、一緒に行くってこと?」


「ん? あきまへんか? この子【ヘハイム・バーシス】は、いわばジェネはんと、うちの子みたいなもんや。一緒に行くのは、当然やろ」


「うぐっ……子って……」


 双葉が苦虫をかみつぶしたような顔を見せる。

 同時に、クエが妙にニヤニヤとしている。

 完全に、双葉はもてあそばれていた。

 そして悔しいことに、いちずもやきもきしてしまう。

 もしかしたら、クエこそが一番の恋敵ライバルかもしれない。


「ああ。それから、ヤンとウェイウェイもしばらくは一緒するのでよろしゅう頼みますえ」


「よろしく」


「よろしくなのね。よろしくなのね!」


 みんなも2人に挨拶する。


「それでマスター。これからどうするね?」


 一通り挨拶が終わると、フォーが口を開いた。


「伝えたとおり、明日には国務隊がくる。あいつらくると、下手すればマスターたちは拘束されるかもしれない。想定内ね」


「これから6時間ほど魔力を蓄えて、深夜に出発する。まずは、クエが暮らしていた街に向かう。その後は、またその時に!」


「ずいぶんと適当だな!」


 いちずのツッコミに、世代セダイは笑う。


「ボクは魔生機甲レムロイドを愛でられれば、それでいいよ。それに適当に冒険するのがちょうどいいんだよ、この世界はね……」


 世代セダイが遠くに視線を向けて、物思いにふけるように語った。

 だが、いちずがその時の彼の気持ちを理解するのは、それからずっと先のことだった。



 世代セダイたちの冒険は、こうして始まったのだ……。

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