Act.0072:この世界はね……
「いったい……これは何の冗談なのだ!?」
いちずは、驚くしかなかった。
いや。
しかし、目の当たりにすれば、わかっていても冗談だと思いたくなる。
10メートル四方ぐらいのコックピット……いや、
そこから広がる、高さ7~80メートルはある場所から眺める景色。
いちずは圧倒されてしまい、そこからしばらく声が出なかった。
「いやはや。感動しますなぁ、ジェネはん……」
「うんうん。やっぱりロマンだよね、こういうのは……」
「ロマンやわぁ。……なんや、感動しすぎて涙でてきてしまいますえ……」
「ボクもだよ。苦労した甲斐があったねぇ~……」
「ほんまやわぁ~」
クエに至っては、シルバーリムのメガネを持ち上げ、涙をふくような真似までして見せた。
その様子はまるで、長年の夢を叶えて無邪気に喜ぶ子供のようだ。
だが、いちずも他のメンバーも、それどころではない。
感動する前に、これがいったい何なのだか、よく理解できないでいた。
――その日の昼過ぎのことだった。
レベルにして92というハイレベルの
とにかく、その高レベルな
すでに荷物をまとめていたいちずたちは、もう帰らない覚悟で、
いちずはもちろん、家族を置き去りにすることになる双葉も、本心では街を離れることは嫌だった。
しかし、2人ともすでに
それに、
だから言うとおりに、6人でその
しかし、出てきたのは、
「ちょっと、ご主人様! これ、なんなのよ!?」
双葉がどこか怯えた口調で尋ねるが、
それを見て双葉が、我慢できずにまた大声で尋ねる。
「ちょっとご主人様! 聞いてるの!?」
「……あ、ごめん。聞いてなかった」
「ひどっ! 聞いてよ! これ
「ううん。一応、
「ヘハイム? でもこれ……巨大な船みたいだけど……」
その双葉の疑問に、クエが答える。
「まあ、今はシップモードやけど、どちらか言うと、これはうちらの秘密基地や」
「ひっ、秘密基地!?
「そこはノリやね!」
「ちょっ! クイーンさんも、やっぱ変だよ!」
「そうだぞ。クイーンはすごく変だぞ」
「そうなのね。変なのね。変なのね」
双葉の意見に、ヤンとウェイウェイが同意した。
「ちょい! あんたはんたち!」
クエが怒鳴るが、2人はそっぽを向いてしまう。
「だってよー、こんな巨大なもの作ってどーすんだよ。俺たちに、あんなにいろいろお使いやらせてさぁ」
「そうなのね。こんなの長時間、維持できるわけないのね。無用の長物なのね」
やはり、この2人も、今自分たちが乗っている巨大な「秘密基地」と呼ばれたものに疑問を持っていた。
もちろん、いちずもわからずに、
すると、
「
「ああ。まあ、そうだが……」
しかし、不思議なことに、人型にしたほうが反応等の性能がよくなることがわかっている。
そのため、普通は人型にするのだが、用途によって人型ではないものもたまに作成される。
「それなら、こういうのもありかと思ってね。全長約150メートル、全幅約50メートル。ここは
「く、暮らせる!? まさか、これは移動する家ということなのか?」
「だから、秘密基地、言うとりますえ」
クエが割りこんで答えてきた。
いちずは、対抗するように続けざまに質問する。
「しかし、レベル92でこれだけの巨体では、コントロールも難しいし、魔力も持たぬではないか?」
「まず、レベル92のコントロールに関しては、マニュアルでやることでほぼ問題あらへん。特にシップモードの時は、
「……ちょっと待ってくれ。
「そや。この【ヘハイム・バーシス】は、変形して人型になることもできます」
「へ、変形だと!?」
いちずだけではなく、そこに居た多くの者が目を丸くする。
その様子を楽しそうに見てから、クエは目線で世代に合図を送る。
すると、
前方の窓の上にモニターが表示され、そこになにやら上面図と側面図が表示される。
メタルグレーを基調にした重厚そうなボディだ。
「これが【ヘハイム・バーシス】の全体図。今は、シップモードだね。これがこのように変形する」
その図が少しずつ動いて、確かに人型に変形していく。
簡単に言えば、シップモードは人が前に足を伸ばし、後ろに手をついているような状態だった。
今いるブリッジは、ちょうど頭部に当たる部分である。
ただし、シップモード時と
また、シップモード時は、腕が異常に長くなっており、肘が地面につくぐらいになっていた。
「こ、これ……
「160メートルぐらいだね。まあ、ボクらの世界にあった、この手のロボットの設定で見れば、さほど大きくないかな」
「じゅ、十分でかいぞ!?」
「この世界では、でかい方だろうね。一応、戦闘時というより、シップモードで入りにくい地形を抜ける時のためのモードだよ。ただ、動きが複雑になる分、魔力の消費が激しくなるので、滅多にやるつもりはないけど」
「そうだ! その魔力は!? 私たちの魔力が切れたら、強制
「そこが【ヘハイム・バーシス】の目玉や!」
また、横からクエが口を挟む。
本当に嬉しそうな顔で、人差し指を立てながら説明し始める。
「こん
最後にクエが、「どや!」というような顔を見せる。
だが、どんなに自慢されても、いちずも、そして他の者も理解はできていない。
「……すまぬ、クイーン殿。仕組みは、今ひとつわからぬが、【
ミカが横から疑問を尋ねる。
それは、いちずも浮かんでいた疑問だった。
「それは、長門が融通してくれたんだよ」
いとも簡単そうに、
「長門に連絡を取ったら、
「乗せろって……そんな簡単な。とんでもない立て替え額であろう。まったくあの御仁も非常識な……」
「まあ、類は友を呼ぶって奴だよ」
「それ、ご自分で言われてしまうのか、主殿……」
「ともかく、長門がいろいろなコネを使って集めてくれたらしいので、フォーにヘクサで受け取りに行ってもらった。ヘクサの飛行能力と、フォーの魔力量なら1日で往復できたしね」
「その代わり超疲れたね。想定外ね」
「悪かったねぇ。でも、運搬にも
「ほんまですえ。いろいろと夢のようですわ」
先ほどから、
それだけに、驚愕しまくっている周囲との温度差が激しかった。
「ともかく。【ヘハイム・バーシス】は、動作制御には
「ちょっと待って!」
今度は双葉が挙手して口を挟んだ。
「つまり……クイーンさんも、一緒に行くってこと?」
「ん? あきまへんか? この子【ヘハイム・バーシス】は、いわばジェネはんと、うちの子みたいなもんや。一緒に行くのは、当然やろ」
「うぐっ……子って……」
双葉が苦虫をかみつぶしたような顔を見せる。
同時に、クエが妙にニヤニヤとしている。
完全に、双葉はもてあそばれていた。
そして悔しいことに、いちずもやきもきしてしまう。
もしかしたら、クエこそが一番の
「ああ。それから、ヤンとウェイウェイもしばらくは一緒するのでよろしゅう頼みますえ」
「よろしく」
「よろしくなのね。よろしくなのね!」
みんなも2人に挨拶する。
「それでマスター。これからどうするね?」
一通り挨拶が終わると、フォーが口を開いた。
「伝えたとおり、明日には国務隊がくる。あいつらくると、下手すればマスターたちは拘束されるかもしれない。想定内ね」
「これから6時間ほど魔力を蓄えて、深夜に出発する。まずは、クエが暮らしていた街に向かう。その後は、またその時に!」
「ずいぶんと適当だな!」
いちずのツッコミに、
「ボクは
だが、いちずがその時の彼の気持ちを理解するのは、それからずっと先のことだった。
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