Act.0069:クイーン……君は……
最初、
真っ青な顔をして地面に力なく座りこみ、顔や肩にはたっぷりと血糊がついていたのだ。
彼女は駆けよって
だが、その返り血の理由を聞いた時、
もう、ほとんどできってしまっているのか、ゲェーゲェーと言うだけで唾液しか吐きだされていない。
今にも崩れそうな体を膝に手を置いて支えている。
鼻につく酸い匂いと、どこか生臭さが彼から漂う。
そんな
「ジェネはんは、ほんにこん世界の人たちを人間として認めてはるのやなぁ」
額に汗を浮かべた
「逆に言うと、人殺しを認める……ってことだけどね……」
「――あっ! 堪忍しとくれやす! うち、つい……心のうことを……」
「別にかまわないよ。ヴァルクと共に罪を背負えるなんて快感だ」
「……さすがに、そら嘘やろ?」
「…………」
クエの言葉には応えず、
「最初は平気かなって……遠くからコックピットを貫いても、さほどではなかったんだけど。目の前での爆破シーンは辛すぎ……た……うぇ~~~っ……」
だが、
「ヴァルクの中で
「……このボクが愛しいヴァルクの中で?」
「愚問どした」
クエは、クスリと笑う。
いや。正確には、「本気をだす」と言うべきだろう。
愛すべきロボットの機能をすべて引きだすため、全身全霊をかけて操縦するのだ。
そのために、彼は鬼気迫った近寄りがたい雰囲気をだす。
その姿を見せた大会で、アナウンサーに「鬼将軍」と形容されたぐらいだ。
そんな彼のことだから、「人を殺した」という罪の意識さえも、乗っている間は張り詰めた精神で抑えこんでいたのだろう。
「まあ、ジェネはんががんばったおかげで、あのお三方は気ぃしてへんようやな」
戦いの最中、彼女らは
その状態で、メインのコントロールをすべて
それにこの世界は、元の世界よりも戦いが日常の中にある。
だから、そもそもの感覚がかなり違うことは、クエも感じていた。
もちろん、
もしかしたら、本当にヴァルクを他人に操縦させるのが嫌で、そうしただけかもしれない。
だが、少なくともこの男は、ロボットがらみならば絶対に逃げたり、誰かに責任を押しつけたりしないだろう。
そして、大好きなロボットを好きな人のことも、実は大事にする男であることをクエは知っている。
彼女は、あるBMRS関係のイベントで、たまたま
その時、彼はロボット好きな子供たちの相手をしていた。
しかも、人づきあいが面倒そうに、顰めっ面や愛想笑いをしている、普段の
子供たちにロボットの説明をわかりやすく話したり、子供たちのロボットの夢を真剣に、そして楽しそうに聞いていたのだ。
最初、そんな
だが、彼と何度も戦ううちに、なんとなくクエにも彼という人物がわかってきた。
ある意味、度が過ぎるほど真面目なのだ。
「
「クイーンこそ、巻きこんでごめんよ。そっちはどうだった?」
「問題ありませんえ。
「ありがとう。助かったよ」
「
「そうか。万年3位を返上しないとね」
「そや。万年3……2位や!」
「まあ、それはともかく――」
「流さんといて!」
「――敵の隊長から、面白い話を聞いた」
仕方なく、クエは続きをうながす。
「はぁ……。なんですの?」
すると、ロボットにも乗っていないのに、
そのただならぬ様子に、クエにまで緊張が走る。
「解放軍の幹部たちは、『ロボット』という呼称を口にするらしいよ」
「……えっ!?」
その
(ロボット? だからなに? ……って、え? 幹部?)
そして、それを理解した時に、クエは「仲間がいるかもしれない」という喜びよりも、得体の知れない不安を感じてしまった。
まるで、周囲の気温が下がったのかと勘違いするほど、血の気がさがって寒気を感じる。
「それ、ほんま?」
「さあ。でも、あの状態でわざわざそんな嘘を言うとは思えないよ」
「…………」
クエは、頭の中で瞬間的に思考を巡らせた。
その言葉を使う可能性。
そして、もし、だったら……そして目的。
情報が少なすぎて答えなど出せないが、彼女の思考は悪い方へ悪い方へと流れてしまう。
「なんや……悪いことしか浮かばへんな……」
「奇遇だね。ボクもだよ……」
だが、今はこれ以上、考えても仕方ないことだ。
今、考えるのは別のことだと、クエは頭を切り換える。
「とりあえず、ジェネはんのパイロットのお嬢たちが心配してはるさかい、そろそろ戻りまひょ」
そう言うと、クエは
だいたい、人間に興味がないと言いながら、妙なところで気を使う。
「いいから、早よう。3人とも心配してはったで。……というか、ジェネはんはいつの間に、そないにモテる男になりはったん?」
「別に……。ボクは、手なんてだしてないよ」
「そんなこと、承知してます。ジェネはんが手をだすのは、ロボットだけや」
「……うん。クイーンはよくわかっているな。ボク、立派な変態だから」
「はいはい。そん変態はんは、これからいろいろやることがおますやろ」
「……なにが?」
「ジェネはんのことや。街、こないな事になったこと、少なからず責任、感じてはるはずや。街のために何か……とか考えてはるやろ?」
「…………」
黙っている
「ジェネはんは、こん世界では
どうだとばかり、クエは
しかし、
その様子に、クエは口元を少し緩める。
「時間もあんまりのうさかい、手伝いますえ」
クエは、その返事を待つように止って待つ。
だが、彼女は
最初、これは単なる勘違いだと思っていた。
ひどい思いこみだと恥ずかしくなったこともあった。
しかし、そのうち「繋がっている」という感触を否定できなくなった。
言葉にはできないが、あのBMRSの機械を通じて、少なくとも戦っている最中だけは、
だから、今もわかる。
自分の予想は、絶対に当たっている。
「ふぅ……。クイーン」
「今だから言うけどね。ボクは万年2位の【エンペラー】より、万年3位のクイーンの方が戦いにくかったよ」
「……それはそれはおおきに。光栄なこと……って、ちゃう! 万年3位ちゃう! うちは、万年2位……ああ、それもちゃう!」
「え? 別に1位以外は、にたりよったりじゃない」
「大雑把すぎます! ……まあ、確かにうちは、順位は別にいいんや。目的は、ジェネはんを倒すことだけ。そのために、うちはわざわざここまできたんや!」
「……え?」
「――あっ!!」
クエは滑った口を塞ぐがもう遅い。
はっきり、きっぱりと言ってしまった。
「もしかして、クイーンはボクを追いかけるためにBMRSで……」
「…………」
今度はクエが顔を背ける番だった。
紅潮する頬を抑えきれず、今すぐ彼を放りだして逃げだしたくなる。
確かに、
だが、別に
彼を倒すことが目的だ。
それこそがすべて。
彼がいない世界に生きがいなどなかった。
だからこれは、決して恋慕などではないのだ。
(――本当に?)
誰かの声が頭の中で響いた。
もちろん、すぐに「本当だ」と反論するが、顔の赤味は酷くなる一方だ。
「クイーン……君は……こんな世界にまで……」
クエは反論を考える。
ここで下手な言い訳をしたら、逆にツンデレみたくなってしまう。
そうじゃない、そうじゃないのだと思うが、頭が混乱してわからなくなってしまう。
「クイーン……君は……君は、なんて変な奴なんだ! 頭、おかしいんじゃないか?」
「…………」
クエは、
変態に「変だ」と侮辱されるのが、こんなに腹が立つことだとは思いもしなかった。
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