Act.0066:絶望したかい?

「ア……アハハハ……。これは何の冗談なんだよ……」


 名月は、今まで感じたことがない複雑な感情に襲われていた。

 忿怒、怨嗟、混乱、驚駭……そして興奮と愉悦。


(やべぇぜ……。こんなにむかついて、楽しいことは初めてだ!)


 一瞬で、組織の新型が4機も沈められた。

 まだ、そこまでは不意打ちされたからだと思った。


 しかし、挟み撃ちするために、北から3機、南から3機で仕掛けた。

 その結果、北の3機も一瞬で沈められた。

 正直、何が起こったのかわからない。

 ものすごい爆音が響いたことはわかったし、なにか爆発が連続して起こっていたことはわかった。


 最初は、【爆散火炎巨弾ばくさんかえんきょだん】という高等な、火系戦術一級魔法かと思った。

 だが、3機とも結界を張っていたはずだ。

 そのため、生半可な魔力では結界を破ることはできないし、それほど巨大な魔法を1人であんなに連続で撃てるわけがない。


「こりゃ……バケモノがいる……想像を超えるバケモノがいるぜ!」


 ここまできて、初めて相手がただの不意打ち野郎ではないと確信した。

 あれだけの巨体が浮かびあがらせ、遠距離から結界をものともせずに打ち破り、一瞬で大爆発を連続で起こして3機を沈めるバケモノ。

 もちろん、思い当たる節はある。


「東城世代セダイの未確認オリジナル魔生機甲レムロイド……」


 きっと5機目があったのだろう。

 たった1機でこれほどの戦力を持つ東城世代セダイのオリジナル魔生機甲レムロイド

 もし、その5機すべてを手中に納めれば、世界を変えられる威力になるかもしれない。

 魔生機甲レムロイド中隊相手ならば、対等に渡り合えるどころか勝利できてしまえる力だ。


「止まれ! そこの岩山に隠れろ!」


 部下の2機を左右それぞれの岩山に隠す。

 そして、自分は一歩引いて、様子をうかがう。

 まだ敵との距離は離れている。

 作戦を立てなければならない。


(欲しい……欲しい! これがあれば、ちまちまと火種を作る必要なんてない! いきなりでかい戦争を起こせるはずだ!)


 エキサイトしてくる心を抑えこみ、名月は思考をめぐらす。

 とにかく、戦力が足らない。

 まずは、一度さがって【木通あけび】に行き、そこにいる2機と合流する。

 もちろん、4機でも勝てないだろう。

 しかし、木通には人質がいる。

 それを盾にすれば、勝機はあるはずだ。

 こんなことなら、この街も殲滅ではなく、歩兵部隊を導入して人質をとっておくべきだったと後悔する。


「フルムーン・アルファ3号機、4号機。応答しろ! …………? 早く応答しないか!」


 名月は、すぐに木通の部隊に伝話で連絡を取ろうとした。

 しかし、なぜか2機とも返事をしない。

 おかしいと思い、木通にいる地上部隊にも連絡を入れた。

 だが、そちらも誰一人として返事がこないのだ。


「……ま、まさか……」


 名月の背筋に冷たい汗が流れる。

 あちらの町に抵抗戦力などないはずだし、一番近いこの街から援軍なんてだせるわけがない。

 それに他の街から援軍がでたという情報もない。


 ならばいったい誰が、警務隊の魔生機甲レムロイドさえ寄せつけない、あの2機を相手にして斃したのだろうか。

 それに、人質を盾にできる歩兵部隊の6名をいったいどうやって斃したというのだろうか。


「ちっ! おい、6号機、7号機! 一度、さがっ――!?」


 まるで名月の言葉を遮るように、激しく唸る轟音と眩い光の棒ができた。


 どこまでも、どこまでも……真っ直ぐな2本の黄色く赤く光る棒。


 部下2機の魔生機甲レムロイドは、厚さ50メートルはありそうな2つの岩山にそれぞれ身を隠していた。

 しかし、光の棒はそれを無視するかのように貫いている。

 そして、もちろん、その裏にいた部下2機の魔生機甲レムロイドの胴体にも、まるで透過するように貫通している。


「…………」


 呆気にとられた1秒後。


 フルムーン・アルファの胴に突き刺さった光の棒は、そのまま細くなって消えていった。


 そこには、丸くきれいな穴が開いた、岩山と魔生機甲レムロイドが2つずつ残った。

 きれいに空いたトンネルからは、見ているだけで焦げた臭いが漂いそうな煙が立ち上っている。


 そして風穴を開けた魔生機甲レムロイド2機が、崩れるように倒れていく。


「うっそ……だろ……おい…………この岩山……ごと?」


 気がつけば、残っているのは自分の魔生機甲レムロイドのみだった。

 もう、他に戦力などありはしない。


 魔生機甲レムロイドは、疑似生命体であるため、多少の自己回復能力を持つ。

 また、魔生機甲設計書ビルモアさえ無事ならば、格納ストレージ・インされれば魔力により急速に回復していく。

 強制フォース格納ストレージ・インされるような半壊状態でも、1週間しないうちに回復するぐらいだ。

 場合によっては追加素材が必要な場合もあるが、ある程度は増殖して修復してくれる。

 そんな非常に便利な兵器であった。


 しかし、それも魔生機甲設計書ビルモアが残っていればの話だ。

 魔生機甲レムロイドを生かしているのは、あくまで魔生機甲設計書ビルモアとパイロットである。

 魔生機甲設計書ビルモアが一緒に消失すれば、その途端に魔生機甲レムロイドはただの人型の塊となる。

 しばらくすれば、目の前の2機も完全に魔力が抜けて、メインフレームに当たる魔生機甲レムロイドの芯がくずれ、人の形さえもなくなるだろう。


 これで名月が指揮する部隊のフルムーン・アルファ9機は、すべてコックピットこど壊された。つまり、魔生機甲設計書ビルモアが消されてしまい、復活できなくされてしまったのだ。

 さらにたぶん、木通にいた2機も、その可能性が高い。

 それは、組織が大金をかけて作った最新鋭11機が一瞬にして、完全に失われてしまったということなのだ。

 この損害は、とてつもなく大きい。

 もし、このまま無事に組織に戻ったとしても、名月は責任をとらされて始末されることだろう。


 だが、今の名月にとって、そんなことはどうでもよかった。

 彼の恐怖と興奮は、まさにマックスになっていた。

 とんでもない力。

 それに自分の力をぶつけたい。

 自分の行き場のない、使い道のない、意味のわからない、わきあがることを止められない力をぶつけたい。

 いいや。

 これこそが、きっと求めてきた力の使い道に違いない。


 彼の脳内で大量のアドレナリンがさらに分泌される。

 だが、彼はわかっていた。

 自分もかなわないだろうことを。

 あの火力で狙われれば、一瞬で消されてしまうはずだ。


(くそっ……。剣を使える間合いなら、もっと楽しめたのによ……)


 心で独り言ちて、ほとんど覚悟を決める。

 ところが――。

 まさか相手に、彼の心の声が届いたのだろうか。

 なんと敵が、ノコノコと近づいてくるではないか。


(何で……)


 名月が驚きのあまり呆然としていると、5~600メートルほど離れたところで巨体が止まった。

 黒を基調とし、赤いラインが禍々しく入っている。

 それでいて、関節やところどころに金色が光り、威圧感を増している。

 分厚い装甲、そして全身にある砲門らしき武装。

 それがこけおどしではないことは、これまでの戦いで名月にも十分わかっていた。


(それなのに、なんで近づいてきた……?)


 と疑問に思った瞬間、またそれにこたえるように正面モニターに「伝話」の文字が浮かぶ。

 まちがいなく正面から直接、魔力を送りこんできているのだろう。


「……受話」


 名月は一旦、悩んでから、話を受ける。


〈……絶望したかい?〉


 名月よりも若い男の声。

 しかし、異様に落ち着いていて、冷たい声。

 声質は若いが、実年齢はいい年なのかもしれない。


「……絶望ねぇ。オレはもともとこの世界に絶望してたからな。ただ、せめて貴様とは、剣でやりあいたかったぜ」


〈なるほど。剣術なら希望があると思っているのか。……いいよ、やろう。もともと、そのつもりだしね〉


「……え?」


 驚いて、目の前のバケモノを見ていると、次々と武装が光の粒子となって消えていく。

 部分的にパーツを格納ストレージ・インしている。

 大きな砲門も消える。

 盾も消える。

 ただのゴツイだけの魔生機甲レムロイドになってしまう。


「パーツアウトなんてして、どーいうつもりだ!?」


〈剣なら勝てると、希望を持っているんだろう? こっちもレーザーサーベルではなく、実体剣で相手をするよ〉


 そういうと、今度は背中に回した手で、一振りの巨大な日本刀を持ちだした。

 その刃は、真っ赤に染まっている。


「……てめぇ。マジか?」


〈わりと。さあ、やろう〉


「……いいねぇ! 気に入った! 最高だ!」


 名月も魔生機甲レムロイドを操作し、腰背部に横付けしていた剣を手にする。

 幅広で湾曲したサーベルだ。

 これは使い慣れた武器で、彼はどの魔生機甲レムロイドに乗っても必ず、この装備を持たせていた。

 やはり、魔法をただぶっ放すだけではつまらない。

 直接、切り刻む方が数倍楽しい。


「じゃあ、お言葉に甘えて行くぜ!」


〈こっちから行くよ〉


 そう言ったとたん、目の前のバケモノは、空気をまきあげ、地面を滑るように高速で迫ってくる。


「アハハ! なんだ、そりゃ!」


 見たことのない移動方法だったし、その速度もすさまじい。

 しかし、ほぼ一直線だ。

 あの動きでは、急な方向転換もできまい。

 名月は、剣術に自信がある。

 迎えうてるなら勝機はある。


 だが、間合いに入る寸前。


 バケモノの頭がわずかに沈んだ。


 瞬間、地面を削りながら、巨体がかるがるとスピンし始める。


 巻き上がる、土に草木。


 さっきまで浮いていた足は、地についていた。


 足底についた車輪が、唸りをあげている。


 完全に名月は、サーベルをふるタイミングを失った。


 そこに見える、軸線がずれた敵の背中。


 慌てて、左手でサーベルをふる。


 それは、悪手だった。


 その反転速度は、まさに疾風。


 素早く斬りあげられた敵の刃が、出遅れた腕に走る。


「ちぃぃぃぃっ!!!」


 サーベルを握った腕を肘あたりから斬りおとされる。


 ズンッという重い落下音と共に腕ごと剣を失う。


「くっ……」


 だが、そこで敵は予想外の行動にでた。

 落ちたこちらのサーベルを拾って、投げ渡してくる。

 とっさに名月は、残った手で受け取る。


「……いいね。やめないところ、好みだ!」


 しかし、利き手ではない右手ではあきらかに不利だ。


「ならば……【火弾かだん】!」


 剣を指先だけで握り、手の甲の付け根についたヘクサバレルから炎の弾を発射する。


 だが、それをまるで読んでいたように、黒い機体は横に滑る。


 もちろん、名月も避けられるのは折りこみ済み。


 逃げた先に、飛び回し蹴りを入れる。


 が、前腕で外受けされて払われる。


 その回し蹴りを上回るパワーに、バランスを崩す。


 開いた間合いを詰めるため、【火弾かだん】で牽制する。


 その攻撃も、バケモノは上半身の体捌きだけで避ける。


(とんでもない反射神経だ……)


 が、絶好の間合いになった。


「――もらった!」


 名月は、袈裟斬りにサーベルをふりおろす。


 ところが、間合いが刹那で変わる。


 足の裏のタイヤが動き、バケモノはその姿勢のまま懐に入ってくる。


「なにぃ――っ?!」


 右手が伸びてきて、前腕についている金色のクローが顔面を襲う。



――バキッバキッバキッ!!!!!



 頭がもがれる音が頭上で響く。


 視界が一瞬、ブラックアウトする。


 目を開き、目の前の物理モニターに視界を移す。


 画面いっぱいに、真っ赤に光る猛禽類のような目。


「――ヒイッ!」


 思わず情けない悲鳴を上げた。


 刹那、物理モニターも、衝撃とともにブラックアウト。


 そして、次の衝撃。


 たぶん、残っていた腕も斬りおとされた。


 腕も頭もなく、薄闇のコックピットに名月はひとり残される。


(こいつ……知り尽くしてやがる……)


 こちらの魔生機甲レムロイドの動作、カメラの位置、強制フォース格納ストレージ・インされないぐらいの壊し方……それのどれもが、構造を知り尽くしている者であることを感じさせる。


〈――絶望したかい?〉


 あの声がまた響く。


「……なんでそんなに、オレを絶望させたい?」


〈あんたが、ボクの魔生機甲レムロイドのコピーで、生身の人間を殺しまくったからだよ。あんたがまき散らした絶望のかけらだけでも、味わってもらうかと思ってね〉


「……そうか。やっぱりおまえ、東城世代セダイか。まさか優秀な魔生機甲設計者レムロイドビルダーの上に、優れたパイロットだとは思わなかったぜ。しかも、偽善者かよ」


 名月は、くっくっと漏れるように嗤いだす。

 そして、我慢できなくなったように、馬鹿笑いをし始める。


「アハハハハハ! なにが人間を殺しただよ、偽善者め! お前だって、オレの部下を大量に殺しまくってくれたじゃねーかよ! 正義のためか? 正義のためだったら殺していいとか言うのか? ……アハハハハハ! ふざけんなよ、おい! なら、オレにはオレの正義があるぜ! 人間を殺すことに良い悪いがあるのかよ!」


 名月は、見えない相手に嘲るように言葉を投げつけた。

 少し強がりながらも、彼は答えを求めるように返事を待つ。 


〈わかってないな……〉


 だが、帰ってきたのは、彼が求めた答えではなかった。

 冷たいあきれ果てた感じの声。


 そして、下から突き上げるような衝撃。


「――ぐはっ!」


 浮き上がる感覚。


 名月はコンソールパネルに、したたか頭を打つ。


 チカチカとする視界をなんとか開けると、そこは光の粒子に包まれた外の風景だった。


 最後のフルムーン・アルファも沈んでしまったのだ。


〈ごちそうさま……〉


 場違いなセリフで、勝利を宣言する声が耳に入る。

 黒いバケモノの巨大な手が伸びてきて、身体を握って自由を奪ってくる。

 もう、名月は抵抗することをやめていた。

 だが、意志までは縛られない。


「おい、東城世代セダイ! なにがわかっていないって言うんだ!?」


 どうでもいいことだ。

 しかし、どうしても気になることだった。

 だから、名月は睨みながら答えを求めた。

 すると一拍置いてから、問いに対する返事が黒いバケモノから聞こえてくる。


「ボクは人を殺したこと自体を責めているんじゃない」


「……なんだと?」


「あんたは、魔生機甲レムロイドを貶める使い方をした。それが許せないんだよ」


「…………」


 それは名月が、予想だにしない回答だった。

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