Act.0059:今日は楽しく、奪って殺そうぜ!
――クエには、絶対に勝ちたい相手がいた。
彼女は成績優秀で常に学校でトップを誇った。
運動神経もよく、球技も得意で、走れば短距離走でも長距離走でもマルチに活躍できた。
さらに生徒会長の経験もあり、教師達にも一目置かれる存在だった。
高校生活では、いつの間にか「クイーン」などと呼ばれ、周りからもチヤホヤされて生活していた毎日。
まさに、「勝者」という言葉が似合う存在だったのだ。
そんな中、ちょっとしたことで知ったBMRSに、彼女ははまり始めた。
だが、ここでも彼女の才能は遺憾なく発揮され、あっという間にランキング上位に躍り出てしまう。
ああ、やはりここでも自分はトップなのだ。
彼女はそんな自分を信じて疑わなかった。
だが、最後の最後に大きな壁にぶつかってしまう。
自分を含めて「三強」と呼ばれていた3人の中でも、特に飛び抜けた絶対王者。
どんなにがんばっても、BMRSで勝てない相手。
東日本地区の王者にして、世界選手権の覇者。
プレイヤーネーム【ジェネ】こと、【東城
プレイヤーネームの由来は、どうやら「世代=ジェネレーション」の事らしかった。
しかし、その強さから、【ジェネラル】とも呼ばれているほどの彼。
どんなに追い詰めても追いつめても、紙一重……いや、たとえるなら1ドットの差でひらりとかわすようなテクニックは、まるでレムロイドと一体化しているかのよう。
レムロイドを理解し、とことんまで突き詰めた技術。
それはまさに、ロボットへの愛であるとクエにはすぐ理解できた。
周りには隠していたが、実は彼女もロボットが大好きな少女だった。
だから、まるで現実にロボットを作り上げ操縦できるようなBMRSを見た時、内に秘めた情熱を抑えることができなかったのだ。
そしてその想いは、ジェネにも負けないはずだと信じていた。
それを証明するためにも、勝たなければならない。
ここ半年の間、彼女は彼に勝つことが生きがいとなっていたのだ。
そんな最中に、彼がトラン・トランで行方不明になったという噂を聞いた。
彼女は、本当に愕然とした。
今まで目の前に在り、壊そうと叩き続けていた壁が、突如として消失してしまったのだ。
感触のない、空を切る拳のなんと虚しいことなのか。
この時、彼女は初めて気がついたのだ。
数度しか会ったことはないが、ネット越しで戦ってきたジェネというライバルが、自分の中でどれだけ大きな存在になっていたのかといことに。
彼が消えたと知った次の日。
目標を完全に失ったとわかった彼女は、学校まで休んで一日まったくの無気力で過ごした。
そして、次の日。
彼女はある決心をして、彼の情報をできる限り探った。
ジェネは、BMRSの超高難易度モードをクリア直後にトラン・トランで姿をくらましたらしい。
クリアログは掲載されているので、それはまちがいないだろう。
ならば、自分もBMRSで超高難易度モードをクリアしたら、トラン・トランが発生するのではないか。
そしてまた、ジェネと戦えるのではないだろうか。
無論、トラン・トランなど戯言かもしれない。
だが、他にこの虚しさを解決する術が思いつけなかった。
今までもシングルモードで超高難易度【アドバンスドスーパーエクストラハード】には、何度も挑戦している。
だが、まだクリアにはほど遠い。
こうなれば、全身全霊をかけて挑むしかない。
彼女は決意を新たに学校まで休み、BMRSを一日中プレイしていたのだ。
そして翌日。
彼女は見事にゲームをクリアし、トラン・トランによりこの世界にやってきた。
(やっと逢えたんさかい、絶対にたたこうてもらわな!)
それには今、ジェネこと
だから、彼女は進んで協力を申しでて、危険を承知で自分に託された役目を果たしにきた。
連れのヤンとウェイウェイも来たがっていたが、2人をできたらまきこみたくない。
彼女は不安ながらも1人で、とある家にたどりついていた。
――コンコンッ!
大きく深呼吸をしてから、木製のドアにつけられた真鍮のドアノッカーをかるく叩いた。
すると、しばらくして体格のいい、顎髭の生えた男が顔をだす。
「……誰だい?」
「神守大隊長はんでよろしゅうおますか?」
「よろしゅ? ……ああ、まあ、そうだが」
「東城
「…………」
彼は一瞬、周囲を見まわした。
だが、特に何も感じなかったのか、視線を戻して彼はクエをしばらく睨む。
「……なんの話だ?」
「警務隊に内通者がおります」
「――なっ!? ……と、とにかく入れ」
彼は頭の切れる男だと、クエも聞いていた。
ゆえに、クエの言葉に何か思うところがあったのだろう。
クエを招きいれると、彼はもう一度、周囲を見回してからドアを閉めた。
これで彼女の第一段階は成功だった。
だが、問題は第二段階だった。
彼を説得して動かすことができるかどうか。
それが勝負の分水嶺だった。
◆
「全部で10機か……」
名月は、目の前に立つパイロットたちを眺めて思わず笑みをこぼした。
彼らが脇に持つ
その威力は、先ほど実戦で実証済みだった。
なにしろ、警務隊の
たった2機の
今は、かなりの人数を血祭りにあげ、完全に町を支配下においていた。
ただ、【
あそこは、見せしめであり、【東城
だから、完全に滅ぼしてもよかったのだが、どうせなら解放軍の奴隷として働いてもらう方がよりいいだろうと考えた。
だから、2機はそこに残らせておいた。
全部で17機完成した【フルムーン・アルファ】。
内5機分の
つまり、残りは10機というわけだ。
目の前には、パイロットが9人いる。
1機は、名月が自分で乗る事を考えていた。
あの性能で思いっきり暴れ、街の人間達を手当たり次第に殺し、この国がどんな状態なのかを教えてやりたい。
日本王国に占領された国の人々が、どんな思いだったのかを知らしめてやりたい。
……いや。それは彼にとって、対外的な大義名分でしかない。
「……名月」
ニヤニヤと気持ち悪く笑う名月の背後から、朔が声をかけた。
「……スパイから連絡が来たよ」
「おお! どうだった? そろったって?」
嬉しそうな名月に、朔は首をゆっくりとふる。
「……だめ。やはり
「ちっ。どこ行ったんだ、その東城
「……でも、
「ま、そうだな。今回は、それであきらめるか」
「……欲張りよくない」
「わーった、わーったよ。……さて。そろそろ時間かな。みんな! 今日は楽しく、奪って殺そうぜ!」
パイロット達は、威勢よく応じる。
名月は上唇を少し舐めてから、満面の笑みを浮かべるのだった。
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