Act.0048:いいでしょう。勝負しましょう

「……それ、本気で言っているのか?」


 和真はいちずに連れられて、2人だけで工房に移った。

 そして、いちずが自分の気持ちを和真に語りはじめた。


 和真と結婚する気がないこと。


 好きな相手がいること。


 そして、それが誰なのかも告げられた。


「本気だ。すまない……」


「すまないって……。そんな簡単に割りきれるか!」


 自分が今、みっともないことをしていることを和真はわかっていた。

 だが、簡単に引き下がれる話ではないし、引き下がってはいけない。

 いちずが好きな相手が、あの変態ではなおさらだ。

 しかも、双葉とミカというライバルまでいる。

 いちずが不幸になることは、目に見えている。


「言ってくれ、いちず。俺のどこが悪いのか。あいつが現れる前から、おまえは俺の求婚に答えてくれなかった。なにか気に入らないことがあったんだろう?」


 なるべく冷静に、冷静にと、和真は自分に言い聞かせる。

 しかし、自分でもみっともなく言葉の端々が震えていることに気がついていた。


「和真に悪いところなんてないさ」


 いちずが微笑を浮かべた。

 だが、やはりその微笑もどこか硬い。


「和真は、頼りがいがあって、社交的で、パイロットとしても優秀で、何でも1人でできてしっかり者だ。それでいて、正義感もあるし、常識的だし、優しいし、面倒見もいい。私にとっても双葉にとっても、和真は自慢の幼なじみなんだよ」


「……なら、なんで!」


 たぶん今、自分で鏡を見たら「なんて情けない顔をしているんだ!」と怒鳴りつけたことだろう。

 和真は、自分でそういう顔をしていることを自覚した。

 泣きそうな顔を無理矢理、笑顔にしようとしてひきつっている顔だ。

 なんとか相手の情けにすがりつきたいと思っている顔だ。


「私も和真に話さなければならないと考えて、実はいろいろと考えていたのだ。どうしてなのか……と。でも、正直なところ、これといった理由は思いつかなかった」


「…………」


「ただ、私はお前と結婚する……いや、お前のパートナーとなる自分が想像できなかったんだよ」


「な、なに言ってるんだよ。パイロットとしても、何度も一緒に戦ってきて、息もぴったりでいいパートナーだと……」


「ああ。なるほど。それなのかもしれないな……」


 いちずが寂しく口元を歪めた。

 そんな表情を見たくはないが、問いつめる視線を抑えきれない。


「和真は、共に横に並んで戦うパートナーが欲しかったのだろう。でも、私にしてみれば、和真は何でも1人でできて、とてもパートナーが必要な風には……違うな。私は、お前のパートナーになる自信がなかったんだ」


「そんなことない! いちずほど俺を理解してくれるパートナーなんていない!」


 和真はいちずの両肩をつかんだ。

 そして、そのまま抱き寄せようとして留まる。

 彼の理性が、それを何とか抑える。


「あいつなら……あの世代セダイという男なら、横に並んで戦う、バランスの取れたパートナーになるというのか」


「いや……ならないだろうな」


「――!? じゃあ……」


「違うんだ。世代セダイには世代セダイの戦場があり、私には私の戦場がある。互いにできないことを補いあい、助けあいながら生きていける。助けている、助けられていると実感できる形。それでより大きな存在になれる実感……たぶん、私の理想なのだろう」


「共に並んで戦っても、互いの背後を預け、助けあうパートナーに違いはないだろう……」


「そうだな……。でも、その形はきっと、パートナーとライバルにならないといけない」


「……それが嫌なのか?」


「……すまん。なんだろうな。本当に私にも理解不能なんだ」


「…………」


 いちずの瞳から、静かに滴が流れだす。

 笑顔のまま、堪えきれずにひと筋だけ。


 抱きしめたかった。

 このまま何も考えずに抱きしめたかった。

 だが、和真には強い理性があり、その理性が自分に語りかけている。

 泣かせているのは、自分なのだと。


「……すまん」


 そう言うと、和真は手を離して後ろを向いた。

 これ以上、いちずを責めても仕方がない。

 そうだ。責め・・るのではなく、攻め・・なくてはならない。

 和真の心に、一つの決意が生まれる。


「いちずの気持ちはわかった。でも、俺だって簡単にあきらめられないし、特に相手があいつでは認められない。……だから……」


 和真は、そのままドアに向かった。

 ダイニングのある、木製のドア。

 彼はその前で、一気に空気を吸いこんで声をあげる。


「東城世代セダイ、勝負だ! 出てこい!」


 しばらくすると、ドアを開けて、世代セダイが本気で迷惑そうな顔を向ける。


「勝負?」


「そうだ。俺と戦って、お前が勝ったら、いちずから俺が身をひく。しかし、お前が負けたら、お前がいちずから身をひけ!」


「――無茶だ!」


 とめたのは、後ろで呆気にとられていたいちずだった。


「和真は空手に柔術、ほかにもいろいろ身につけているじゃないか! それに対して、世代セダイはどうみても、ただの変態だ!」


 庇うつもりで混乱して口を滑らすいちずだが、それを誰も突っこまない。


「……いいでしょう。勝負しましょう」


 そして、世代セダイは否定しないどころか、また予想外のことを言いだす。

 和真とて、きっと「別にどうでもいいから勝負しない」と言うに決まっていると思っていたのだ。

 その時にどう言い返すかも、一応は考えていたぐらいだ。

 しかし、逆に勝負を受けられてしまって、言葉を詰まらせてしまう。


 そこに世代セダイが畳みかけてくる。


「ただし、ボクもあなたも魔生機甲レムロイドに携わる者同士。ここは喧嘩という乱暴なやり方ではなく、魔生機甲レムロイドの対戦で勝負をつけませんか?」


「……言っておくが、俺は今度の【東王杯】の優勝候補だぞ」


「じゃあ、その【東王杯】でどちらが勝つか決めましょう。あなたが操縦する魔生機甲レムロイドが勝つか、ボクの魔生機甲レムロイドが勝つか。直接対戦しなかった場合は、優勝により近づいた方が勝ち。負けた方が、いちずさんから手を引くということでいいですね」


「ああ。かまわない!」


「では、みなさんも今の私の条件と約束を一言一句まちがえずに記憶しておいてくださいね。みなさんが、この戦いの証人ですよ。和真さんも、後で約束を反故にしたりしないようにしてくださいね」


「……ふん! 当たり前だ!」


 和真は、最後のチャンスと意気込んだ。

 しかし、すでにこの時、和真は世代セダイの罠へ誘いこまれていた。

 そのことに、彼が気がついたのは、大会が始まってからのことだった。

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