Act.0045:味はどう……かな?

 とにかく席に着けと、いちずに引っぱられて和真は渋々と従った。

 と言っても、ダイニングテーブルの席は4つしかない。

 そこには、世代セダイと呼ばれた「のぼーっ」とした男子と双葉、それにミカと銀髪の少女が座る。

 さらに受付用の椅子を移動させ、上座にいちず、下座に和真が座ることになった。

 ちょっとした会議の始まり……というわけではなく、まずは冷める前に食事をとることになった。


 今日の夕飯は、シチュー。

 とろりとしたクリームの中に、ごろっとしたジャガイモにニンジン、タマネギ、そして柔らかな鶏肉が入り、具だくさんである。

 それにカゴに入ったロールパンが大量に積まれ、さらにサラダがテーブルの上を飾っていた。


「いただきます」


 全員がミカの号令に従い、「いただきます」と言うとスプーンがスープ皿に当たる音が響く。


(くっ……空腹には勝てねぇ……)


 言いたいことや聞きたいことがたくさんある和真も、とりあえずスプーンをとった。

 温かい湯気に包まれながら、口に運ばれたスープは口から喉を通り、すーっと胃の中を暖めていく。

 さらにむね肉をスプーンで突いてみると、ほつれて繊維質のようになり、簡単にほぐれていく。

 かなり時間をかけて煮込んだのだろう。

 とはいえ、パサパサしているわけではない。

 口に入れると、旨味がしっかり残っており、空腹だった和真の胃をドンドン満たしていく。

 ジャガイモもニンジンも、大粒だがやはりホクホクだった。

 いちずがどれだけ手間をかけたのか、伝わってくるような料理だった。


「うまい! やっぱりいちずの飯は最高だ! ずっといちずの飯を食いたかったんだぜ! ああ、うまい!」


 いつも通りに感情のまま褒めまくる言葉に、いちずがそっと微笑する。


「そうか。美味いか。……うむ。ならば、よかった」


「…………」


 その反応は、和真が知っているものではなかった。

 今までなら、「わかったから、静かに喰え」とかあしらってきたはずだ。

 だが、今は明らかに褒めたことを喜んでいた。


(むおっ!? もしかして、脈が出てきたのか!?)


 と期待してしまうが、どうも様子がおかしい。

 こっそりと彼女の様子をうかがうと、あまりスプーンが動かず、しきりに世代セダイという男をチラチラと見ている気がする。

 その様子が普段のいちずらしくなく、和真には怖々とした感じに見えた。


(……なんだ? 怯えているのか? もしかして脅されている?)


 それならば、その原因を探って彼女を助ける必要がある。


「いちずさん、おかわり」


「おっ、おおう!」


 世代セダイがさしだした木のボールをいちずが受けとり、そのまま席を立って後ろを向く。

 と、コンロのところまで行かずに、ふと足をとめた。


「あ、味はどう……かな?」


 そして背中を見せたまま、彼女は尋ねた。

 和真にはその背中が、いつもより小さく見える。


「あっ! ごめん。美味すぎて食べる事に集中してしまった。今日のはまた一段とおいしいです。いちずさんは、料理が本当にうまいよなぁ」


「そそそそ、そうか! 褒めるの忘れるぐらいうまいのか! そんなにうまいか。うん……そうか……」


 そのいちずの態度は、明らかにおかしい。

 和真は非常に嫌な予感に襲われる。


「ご主人様は、魔生機甲レムロイドの次に、食べることにこだわるよね。次が風呂?」


「……って、おい! 今、ご主人様って!?」


 流しそうになった双葉の言葉の内容に気がつき、和真は口に入れたシチューを思わず吹きだしそうになる。


「双葉、おまえ結婚したのか!?」


「ん? 残念ながら、まだしてないよ」


「はあぁ~? じゃあ、なんでご主人様なんだよ!」


「ちょっと待て!」


 そこにシチューをよそってきたいちずが割りこんだ。

 彼女はシチューを世代セダイに渡してから、ゆっくとり席に着く。


「まず順序立てて話そう。どちらにしろ、和真にはきちんと説明しようと思っていたからな」


「お、おおう……」


 どこか変わってしまった年下の幼なじみが、今度は妙に大人じみて見えて、和真は悪い予感しかしなかった。

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