Act.0041:異世界人という危険な存在を
長門は、こんなに夜更かししたのは久々だった。
体力を限界まで使い切った老体に鞭を打ち、日の出を見るぐらい早起きすると、大きな欠伸をひとつした。
年を取ると睡眠時間が短くなるというのは本当で、ここしばらく睡眠時間が減っていたが、さすがに今日は眠たい。
それでも最高の夜をプレゼントしてくれた若き友を見送らないわけにはいかないと早起きし、その使命を無事に果たした。
「さて……と」
本当はミーシャがくたばっているベッドに戻って、ゆっくりと二度寝でもしたいところだが、そうも言ってられない。
「あなた、お食事は軽いものにしておきますね」
見送りに際して素早く化粧でクマを消した美月は、眠気を感じさせないようほほえみを長門に向ける。
長年連れそった彼女のほほえみと気遣いは、長門にいつも力をくれる。
「ありがとう」
「……あら? ふふ。どういたしまして」
少し、彼女が驚いた顔をした。
その理由がわからず考え、しばらくしてから長門は気がついた。
妻へ礼を口にしたことが、久々だったのだと。
別に感謝していなかったわけではない。
それどころか、いつも苦労をかけていたと思っている。
ただでさえ25年ほど前から、その「月」を含む名前のせいで、いらぬ中傷を受けていた時期もあった彼女。
本人自身もいろいろと大変だったというのに、彼女はいつでも長門のことを優先して考えてくれていた。
(なにか気分が若返ったせいか、昨夜から忘れていたことをいろいろと思い出させられている気がするね……)
美月に少し仕事があるからと言って、長門は自分の仕事部屋に向かった。
壁一面が本棚となり、多くの書籍が並ぶ16畳ほどの部屋。
そこにはいると鍵を閉めて、2メートル以上は幅がある巨大な机に着く。
(……そういえば、あの娘の名前……いや、まさかな。でも、好んでつけるのかね。……まあ、あの時期、田舎なら知らない者もいたか……)
自問自答してから、気になったことはとりあえず頭の隅に寄せる。
今はまず、確認しておかなければならないことがある。
(さて。世代が言った『ロボット』……思いだしたぞ……たしか……)
彼は分厚い本を1冊、机の隅から取り上げる。
タイトルは【
長門は用事のある人物の情報が記載されているページを開くと、そこに手をのせた。
「……
しばらくすると、本の中から何やら音が聞こえてくる。
『……おお。これは先生。おはようございます。こんな早朝にどうしました?』
そして、【伝話帳】から男の低い声が話しかけてきた。
「おはよう。すまんね、忙しい中。ちょっと聞きたいことがあるんだが」
『はい。なんですか?』
「前にお主が言っていた、異世界から来たという奴のことなんだが……」
『あれ? 異世界なんてたわごとだと……』
「ちょっと事情が変わってね。異世界人という
長門の双眸に、剣呑な光が宿った。
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