Act.0037:全部、見せてください!

「お、そうだ。いちずさんと言ったよね」


 急に長門に声をかけられ、いちずは「はい?」とふりむいた。


「君の魔生機甲レムロイドは見せてもらえんのかね?」


「あ、いえ……。私は持っていないのです」


「おや? ……せぇ~だぁ~いぃ~ぃ~……。自分の女は、平等に扱わないとダメではないか」


 まるで酔っ払いのように絡む長門に、世代セダイはめんどくさそうに無表情を返す。


「あ、長門先生。違うのです、これには事情がありまして……」


 この件で世代セダイが責められるいわれはない。

 いちずは慌てて事情を説明した。


「ふむ。要するに、お前の唯一の弱点がでてしまったわけか」


 聞き終わった長門が、顎髭を撫でながら世代セダイを見つめた。


世代セダイ、お前は魔生機甲レムロイド以外、興味がない。つまり、パイロットには興味がないんだろう?」


「うん。ほぼない」


「つまり、いちず嬢ちゃんにも興味がない」


「うん。ほぼない」


「――うぐっ!」


 横で聞いていた、いちずがダメージを受ける。


「ただ、いちずさんには世話になっているし、何とかしたいとは思っているよ」


「せ、世代セダイ……」


 いちずは、少しだけ救われた気分になる。

 同時に、この男の一言一句にふりまわされている自分が、内心で少し滑稽に感じてしまう。


「よし、ではいい方法を教えてやろう。この方法でお前は、いちず嬢ちゃんに最高の魔生機甲レムロイドを作ってやれるはずだ」


「ほう。聞こうじゃないか」


 なぜか偉そうな世代セダイだが、気にした様子もなく長門は続ける。


「では、まず質問だ。魔生機甲レムロイドで一番大切な部分はどこだと思う?」


「コックピット」


 一瞬も悩まず答える世代セダイに、長門が深くうなずく。


「そう。すべての機能が集中する、まさに頭脳であり心臓部だ」


「うん」


「しかし、それもパイロットがいなければ成り立たない」


「うん」


「ならば、生命あるがごとく動く魔生機甲レムロイドにとって、パイロットは必需品ともいえないか?」


「必需……?」


「そうだよ。魔生機甲レムロイドにとって、パイロットは最重要パーツなのだと考えられんかね!!」


「――!!」


 落雷を受けたような衝撃的な表情で、世代セダイの顔が固まった。


「ちょっ! それ、ひどくない!?」


「そ、それはさすがにいかがなものかと……」


 さすがの双葉とミカも反論する。

 もちろん、いちずとて同じ思いだ。


「長門先生、それは逆です! あくまでパイロットのために道具として魔生機甲レムロイドがあるわけで――」


「――その発想はなかった! さすが年の功!」


「えー――っ!? ちょっ! おい! 待て、世代セダイ!」


 たぶん、さすがの世代セダイさえも、今までパイロットと魔生機甲レムロイドの関係は、主をパイロット、従を魔生機甲レムロイドと考えていたのだろう。

 しかし、目から鱗が落ちるように、彼の考えが変わってしまう。

 それはいちずに向けられた、熱い視線ですぐにわかった。


「そうか……そうだよね! 汎用は別にして、少なくとも個人専用魔生機甲レムロイドにとっては、パイロットも体の一部なんだ! 最重要パーツなんだ……。ああ、そう思うと、いちずさんが、すごく愛おしく思えてきた!」


「……えっ……えええぇぇぇぇっっっっ!?」


 突然、絶対に言われないだろうと思っていた言葉と、絶対に向けられることはないだろうと思っていた熱い視線を受けて、いちずはパニックを起こす。


「――な、な、な、な……なに……なに……なにをいっ……て……」


「そうか、ボクに足らなかったのは、いちずさんをパーツとして愛する心だ!」


「いや、ちょっ、パーツとしてって……あ、愛するぅ~!?」


「ボクは、いちずさんのことをもっと知りたい!」


「えっ?! えええぇぇ……」


 人間と見られていないということが、悲しく辛く嫌なはずなのに、それ以上に愛ある視線と、心のこもった言葉に、いちずはまともな判断ができなくなる。


「情報が足らない! いちずさんのすみからすみまで……すべてを知らなくてはならない!」


「す、すみっ!? す、すべてえぇぇぇ~!?」


「そう! 全部、見せてください! まずは採寸だね! よし、さっそく脱いで!」


「ぬぬぬぬぬ……脱ぐううぅぅぅっっっ!? そそそそそそ、そんなことできるわ――」


「ボクは、いちずさんのすべてが知りたい! いちずさんは、大事な大事なパーツなんです・・・・・・・!」


「だ、大事な……パートナー・・・・・です・・うぅ!?」


 大混乱中のいちずは、とうとう脳内変換まで始まってしまう。


「そ、そこまで言うなら……べ、別に……私も覚悟を……」


「よし! ならば、向こうの部屋で――」


「――待てえぇぇぇい!」


 双葉が二人の間に割ってはいる。


「その考え方は、さすがに容認できない! カットゥはあたしの一部だけど、あたしは――」


「あ! そうか! カットゥも専用だったね!」


「……え?」


 キラキラとした熱い視線に貫かれて、双葉は動きを封じられてしまう。


「――はうっ!?」


「双葉のコックピットも調整しないとね! そうだよ、なんで思いつかなかったんだ! 双葉がぴったりとはまるようにするために、もっとできることがあったんだ! うん。双葉をもっと大事に保護しないと……」


「え? え? あ、あたしのため……? 大事にしてくれるの?」


 双葉のオーバーヒートは、いちずよりも遙かに簡単だった。


「もちろん! よし、双葉も採寸だ。服を脱いでくれるかな!」


「も、もち! いいとも!」


「これ、双葉。お前まで呑まれてどうするか」


 今度は、ミカがわってはいる。


「いくら主殿とはいえ、パイロットを取り替え可能のように、パーツ呼ばわりするとは――」


「違うよ! 取り替えなんてできるわけがない! ミカは唯一無二だろう!」


「……え?」


「ミカを失ったら、もう終わりだ! だからこそ、ミカが大切で愛おしいんじゃないか!」


 そう言われながら、世代セダイに力強く両肩をつかまれてミカは固まる。

 真っ正面に、真摯に、どこまでも真摯な明眸が輝いている。

 ミカは感じた。

 世代セダイの言葉に欠片も嘘はない。

 彼の言葉はすべて本心で、そこから発せられている、深く突き刺さるような強い愛情も本物なのだ。


 ……ただし、魔生機甲レムロイドのパーツとしてだが。


「ミカ。ボクが作るコックピットに、パーツきみの命を預けてもらえないか!」


「わ、我が命を御身に預ける……」


 すでに正常な判断を失いかけ始めていたところに、ミカの弱点たるフレーズか浴びせられる。

 陥落は、一瞬だった。


「――はっ!」


 その場で彼女は、片膝をついて頭を垂れる。


「元より、この命は主殿のもの。ご自由にお使いください!」


「ありがとう! じゃあ、向こうで裸になって!」


「畏まりました!」


「はい、そこまでです」


 突如、世代セダイの体が力が抜けたように崩れる。

 だが、倒れこむことはなかった。

 ミーシャが片手で、彼を抱えている。

 彼女はもともとパイロットで、長門の警備もしていた腕利きだ。

 世代セダイの気を失わせることなど朝飯前である。


 その様子に、はたと正気に戻る3人。


「……やれやれ。こいつは、大してかっこよくもないくせに、とんでもないタラシになりそうだねぇ」


 自分でたきつけておきながら、他人事のように長門は苦笑した。


 ちなみにその後、採寸は女性達が互いにやりあうことになった。

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