Act.0022:ご主人様は?

「……できたよ」


 世代セダイにとって2台目の魔生機甲レムロイド【ジルヴァラ・カットゥ】を双葉に渡してから4日後。

 疲れ果てた顔の世代セダイが、3台目の魔生機甲レムロイドが書かれた魔生機甲設計書ビルモアをさしだしてきた。


「ありがとう、世代セダイ


 いちずは、それを受けとって頭を深々とさげた。


 実は、大会まであと20日しかないため、いちずは少々焦っていた。

 しかし、世代セダイががんばっていることは、端から見ていても十分にわかった。

 前よりも時間がかかったのも、よりよくできないかと、彼が工房にあった資料を読みあさっていたからだった。

 どうやら、カットゥで採用した風の自動魔法の便利さに感動したらしく、他にも利用できるものがないかと、積極的にいろいろと調べ始めたのである。

 出会ったばかりのころ、「魔法はなし」と言っていたのがウソのようだ。


「やりなおしなんてさせて、すまない」


「いや。別にどうせ、もっともっと描くつもりだし。ってか、まだ1冊あるから、それも描かせてよ」


「いや、それはかまわぬが、少し休んでからにしろ。それに、まずはこれを見させてくれ」


 苦笑交じりにそう言うと、世代セダイが風呂に入ると言いだした。


 一緒に暮らしてわかったが、世代セダイは意外に風呂好きだ。

 根をつめると風呂に入るのも忘れるが、一段落すると必ず入りたがる。

 彼曰く「風呂とか便所って、なんかアイデアがでてきやすいんだよね」だそうだ。

 だから、いちずは彼がいつでも風呂が入れるように、準備だけはいつもしていたし、そろそろかなと思った時も風呂を沸かすようにしていた。


 今回も予想はピッタリだった。

 準備ができている旨を伝えると、世代セダイは喜んで風呂に向かっていった。


「さて……と」


 いちずはワクワクとしながら、ダイニングのテーブルに腰かける。

 そして一度、目を閉じてから深く深呼吸し、目の前に置いた魔生機甲設計書ビルモアの表紙を眺めた。

 そこには、世代セダイの3作目魔生機甲レムロイド【ズワールド・アダラ】の文字がある。


「……世代セダイの命名は、意味がわからんな」


 一般的な魔生機甲レムロイドで、わりあい廉価で出回っているのは、【武者○号】や【騎士○号】などのコピー品だった。

 昔の魔生機甲設計者レムロイドビルダーが作ったものを基本に、いろいろと改造されて売り出されているのだ。

 もちろん、同じ【騎士三号】でも作った者により性能が変わってくるため、名前だけでは判断できないのが、魔生機甲レムロイドの難しいところでもある。


 これに対して、一点物の高級品だと個性的な名前がつく事が多い。

 有名なのだと、【ライジングカイザー】【破天荒】【ディスティニーZZZ】などがある。


 しかし、これももちろん、同じ名前の魔生機甲設計書ビルモアだからと言って安心できない。

 有名品には、コピーものがつきものなのだ。


(まあ、世代セダイのデザインは、簡単にマネできないだろうがな……)


 そう思いながら、1ページ目を彼女はゆっくり開いた。

 そして一瞬だけジッと見た後、パタンッとすぐに閉じてしまう。


(……い、いまのは……まさか……)


 もう一度、ゆっくりと表紙をあげて、横から覗きこむように1ページを見る。

 そこに描いてあるのは、全体のデザイン概要。


 全体は青と水色が基調になっていた。

 部分的に透けるようなパーツも使用されていて、まるで氷やクリスタルを思わすような美しさがある。

 イメージは鋭角的な面で構成されていて、小さいながら漆黒の鋭い目つきが印象的だった。


 問題は、その顔のデザインだった。

 しゅっと細長い顔のモチーフが、どうしても「蛇」に見えてしまうのだ。

 4本の赤い角があり、別に大きな口や、長い舌がヒョロヒョロとでているわけでもないのに、どこか蛇に見えて仕方がない。


 だが、それだけではなかった。

 関節がやたらに多い腕は、蛇の胴体を思わせる。

 さらに手の甲の辺りにあるパーツが、角張ってはいるものの蛇の顔に見えて仕方がない。

 そして、尻尾だ。

 これも、やはり蛇、しかも氷でできた蛇を思わせる。


(こ、これは……困った……)


――コンコンッ


 困惑をノックが遮る。


 玄関に行くと、そこにいたのは満面の笑みを見せる双葉だった。


「聞いて! 勝ったよ! ミカにも勝ったの! あたし、優勝したんだよ!」


「そ、そう。おめでとう」


「ありがとう! ご主人様は?」


「ご主人様って……別に世代セダイでいいのではないか?」


「いいの、ご主人様で。まずは呼び方からだけでもね」


「ん? なんのことだ?」


「なーんでもない。……で、どこ? ご主人様が作ったカットゥで勝った報告するんだから!」


「今は風呂だが……」


 いちずは後ろをふり向き、風呂のある方に視線をやる。


「な~んだ。……ってか、いちず、もしかしてなんか元気ない?」


 興奮が一段落したのか、双葉が覗きこむように、いちずの顔を見る。


「まあ、元気がないというか、困ったというか……ん?」


 向きなおったいちずは、双葉の後ろの人影に気がついた。

 しかも、かなり珍しい人物だ。


「なんだ、双葉。なぜ、彼女を連れてきたのだ?」


「……え?」


 驚いた顔で、双葉が振りかえる。

 とたん、錯愕とする。


「――えっ!? な、なんで!? どーして!? なんで、ここにミカがいるの!?」


 対して、いつの間にか後ろに立っていた彼女は、楚々とした態度でお辞儀をする。


「失礼。どうしても会いたくてきてしまったのだ。あの魔生機甲レムロイドを作った者……その、ご主人様とやらに」


 ミカはニヤリと口角を上げ、双葉は「あちゃ~」と顔を押さえた。

 その様子に事情が分からなかったいちずは、唖然とするばかりだった。

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