Act.0016:よくわからないが、善処しよう
「えー……っと。さっきの
訝しむように、彼女の大きかった瞳が細められ、眉間に皺が深く刻まれている。
「な、なんでもないんだ。気にしないでくれ。まだ寝ぼけていたんだろう」
「……ふ~ん。ま、いいけど。でも、まあ、特に美形とかじゃないけど、普通に見た目は合格だね」
双葉が値踏みするように、
いちずは男性にあまり強い関心を示さないが、双葉は同年代だとすぐに値踏みを始める。
「まあ、もう少し体つきが男らしい方がいいかなぁ……」
いちずは双葉の言葉をかるく流して、目玉焼きの一つを双葉の前の皿に載せてやる。
そして、もう一つの目玉焼きは、自分の皿に置く。
「ありがと。いただきまーす」
動作に欠片の躊躇いもなく、双葉が目の前のロールパンをつかみ取る。
休みの日に双葉が朝食を食べに来るのは、ほぼ恒例だった。
「双葉、紅茶でいいのか?」
「うん。ミルクティーね」
「ああ。わかってる」
そんないつもの会話の後に、双葉が「それで?」といつもと違う質問を投げる。
「どーして、工房のソファで寝かせていたわけ? というか、色っぽい話じゃないとしたら、どうして家に連れてきたの?」
「実は今度の大会に出るために、
「――!?」
一瞬、パンを詰まらせそうになり、双葉は慌ててミルクティーを飲む。
が、それがまだ少し熱かったのか、口に当てた途端、こぼしそうになってしまう。
「……あひぃ、あひぃ……」
「だ、大丈夫か? 驚きすぎだろう」
「そ、そりゃあ、驚くよ! なんであの人に? だってまだ同じぐらいでしょ?」
「ああ、同じ年だった」
「なら、まだ
「それなんだが、やはり見てもらった方が……」
と、そこにタイミング良く、
顔を洗ってシャキッとしたのか、今は眠たそうではない。
「あ、
「あ、どうも。……で、これは頼まれたやつね」
そう言うと、
「えっ!? もうできたのか!?」
卵焼きを
「ヴァルクで5~6時間ぐらいだからね。それにくらべて、今回は25ページだったし、アイデアもあったから、徹夜でやればまあ……」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!」
次に驚きの声をあげたのは、双葉だった。
「冗談でしょ! レベル25を一晩で書き上げたっていうの!?」
まるで苛立ちをこめるように、双葉が
「あのねぇ、プロでもレベル25を仕上げるのに数日はかかるのよ! あなたみたいな素人に毛が生えたような人が一晩でデザインしたら、手抜きの酷いものになって使い物にならないわよ!」
「……いただきます」
「聞いてんの!?
「……そうか。大事なことを忘れていたよ」
「忘れていたって、あんたね!」
「ボクは、目玉焼きには醤油派なんだ。醤油ある?」
「そんなこと、聞いてないわよ!」
幼く愛らしい顔に怒気をみなぎらす双葉に、いちずが後ろから肩に手をのせて宥める。
そして、わざわざ
「ちょっと、いちず! あなたもね……」
怒り収まらぬ双葉を手で制止して、いちずは
そして自分の席に座ると、それを開いて中身を確認しだす。
「ほぉ……さすがだな、
そして、感嘆のため息と共にボソッと呟く。
その様子に、また双葉が驚き、いちずと
「ちょ、ちょっとどういうこと、いちず? それ、あたしにも見せてよ」
「ああ、かまわんよ」
「待ってくれ!」
と、それをとめたのは
「先に言っておきたいことがあるんだ」
その言葉に、いちずも双葉も動きをピッタリととめてしまう。
「少し言いにくいんだけど……」
「な、なんだ? なんでも、言ってくれ!」
「わかった。じゃあ、言わせてもらうよ……」
「目玉焼きの焼き方は、ぜひターンオーバーにしてほしい。ターンオーバーって、なんかメカニカルな響きで好きなんだよ」
「……よ、よくわからないが、善処しよう」
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