第二章:双葉
Act.0015:昨夜はそんなにお楽しみでしたか!
――コンコンッ!
真鍮で作られた獅子の顔をしたドアノッカー。
朝早くから、その小気味よい音が響く。
――コンコンッ!
「はいよ、待ってくれ~」
料理をしていたいちずは、卵を焼いていたフライパンを薪のコンロから降ろすと、勝手口まで小走りした。
横の窓でドアの向こうの相手を確認すると、予想通りの相手だったので、閂を解除して厚みのあるドアを押し開ける。
「おはよう、いちず!」
そこにいたのは、いつもにもましてニコニコとした顔を見せる幼なじみだった。
丸い輪郭に、丸い目、少し茶色い髪まで、後頭部でアップポニーにされて円を描いている。
そのおかげか、彼女は実年齢より、かなり幼く見える。
いちずと同じ17才のはずなのに、首から上だけ見れば、12才と言われても信じてしまうような顔立ちだ。
しかし、彼女は顔の幼さに反して、プロポーションがすごかった。
身長はいちずより一回り低いのだが、胸だけはいちずよりも大きいぐらいだ。
そのうえ、ウエスト周りはいちずより細いときている。
そしてそれを武器にするように、彼女は新緑色のスポーツブラのような服と、タイトなスパッツでヘソ出しルック姿だった。
「今日は、いつもより早いではないか。どうしたのだ、双葉」
「どうしたのだ……じゃないわよ! 聞いたんだからね!」
そう言いながら、遠慮なく双葉は家に入ってくる。
そして、「いつもそうしています」というように、ダイニングの椅子に腰かけた。
「若い男、連れこんだんだって?」
「つ、連れこっ……違う!」
「ごまかさなくていいわよ。教えたとおりの服を着けておいて」
「いっ、いや、こ、これは……」
慌てて自分の身を隠すように、いちずは両手で胸を隠す。
言い訳の余地もなく、まさに昨日、
「パパから聞いたもーん。その人、コソ泥柳生を捕まえたんだって?」
双葉の父親は、警務隊の大隊長だった。
きっと、昨日の事件の顛末を双葉も聞いたのだろう。
いちずは、あきらめたようにため息をつく。
「……まあ、そうなんだが」
「で? そのナイト様はどちら?」
「まだ、寝ている」
「おお! 昨夜はそんなにお楽しみでしたか!」
「ばっ、ばかっ! 違うっ!」
ニヤニヤと笑いが止らない双葉に、いちずが慌てて怒鳴る。
「難攻不落の姫君いちずも、とうとう大人になっちゃったんだね~」
「だから、違うと言っているだろう! そんな色っぽい話など欠片もないぞ! 彼が寝ているのは、工房のソファだ!」
「……え? 恩ある客人を工房のソファで寝かせたの?」
心底びっくりしたのか、ニヤニヤ顔が消え失せて、目をパチクリとさせる。
「もちろん、父の使っていたベッドを勧めたさ。しかしだな――」
――バタンッ!
廊下と繋がるドアが開き、いちずの声を遮った。
そこには、昨日のしわしわになったワイシャツと黒いズボンのままの
「おお。おはよう、
「……おはようっす」
目を擦りながら、まだ眠そうにしていた。
「目が覚めぬか? いったい、何時までやってたんだ?」
「……外が明らんでいたのは覚えているよ」
「根をつめすぎだ……」
いちずは思わず苦笑する。
「今、朝飯を作っているが、食べるか?」
「食べるけど……」
そう言いながら、
「彼女は……」
「ああ。すまん。紹介してなかったな。彼女は――」
「……
「だ、だから、換算するな!」
叱りながらも、自分の方が評価が高いことに内心で少し嬉しい、いちずであった。
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