Act.0013:ところで、飯はまだですか?
少し憮然とした顔ながら、いちずが雰囲気をリセットするかのように咳払いをひとつした。
そして、正面の席にゆっくりと腰をおろす。
「まずは、あらためてお礼と自己紹介をさせてくれ」
そう言うと、彼女は真摯な視線を向けながら姿勢を正す。
「命を助けてくれてありがとう。私の名は、【
「それはご愁傷様です。お悔やみ申し上げます」
出会ったばかりだが、
彼とて、その手の常識ぐらいは持っている。
「ありがとう。……父はこの工房で、
「そんなに工房があるんですか?」
「ああ。この街だけで、15はあるな」
「なるほど」
うなずいて見たものの、15と言われても
ただ、きっと話の流れから、15は多いと推測はできた。
つまり、それほど
ならば、
「あの5冊の
「形見って言っていたのに、売っちゃうんですか?」
「仕方ないのだ。私は、
「……すいません。それをボクが書き込んでしまったわけですね」
「いや。謝らないでいい。むしろ、それで助かったわけだし、もしかしたら売らなくても済むことになるかもしれないわけだからな」
「はぁ……?」
意味ありげな言い方に、
だが、まだ話すつもりはないのか、いちずはニヤリと笑うだけだった。
「……で、君は何者なのだ?」
「名前は名のったとおり、【東城
「こうこう?」
「学校ですが……」
「おお。学校に行くとは金持ちなんだな」
「そうなんですか?」
「そりゃ、そうだろう。この規模の街では学校なんてない。都会の方にしかなく、都会には金がなければ住むことなんてできな……って、
「都会と言えば都会ですね。東京都ですから」
「おお! 東京か! すごいでは……東京『都』? 東京とは違うのか?」
どうやらこの世界にも「東京」があるらしいと知るが、この様子では「都」ではないのだろう。
仕方なく、概要を簡単に説明してみることにする。
「えっと、ボクはこの世界の人間ではありません。別の世界から、なぜかこちらの世界に来てしまったのです」
「…………」
「…………」
「…………」
「……いや、ちょっと。そんな可哀想な子を見るような目で見ないでくださいよ」
「あ、すまん。しかしだな。そんな突拍子もない話は……あ。いや、待てよ」
いちずが、顎に手を当てて何か考え始める。
そして、さんざん低く唸ったあと……開口する。
「うん、すまん。気のせいだ!」
「……思わせぶりすぎますよ」
「すまんすまん。まあ、とりあえずだ、
「ないですね……」
「ならばだ! そこでいい話があるのだ」
いちずは、両手をドンとテーブルに置いて、ずいっと上半身を
それは故意的なのか、また非常に胸が強調されるポーズだった。
しかし、
「相談ですか?」
「ああ。
「……ヴァルクじゃだめなんですか?」
「あれは、今の私では扱いきれん。せめてレベル25……つまり、25ページ程度でデザインして欲しいのだ」
「戦闘用……ですよね?」
「ああ。今度行われる、この街の
「ぷぐな?」
「そうだ。この街の資産家がマッチメーカーとなり、
(対戦試合……某ロボットアニメのバトリングみたいなのか……)
「私はもともと、
「なら、今はもう宣伝しても……」
「もちろん。今回の目当ては、賞金だけだ。だから、父の
「生活費のために金が欲しい……ということ?」
「いや。生活費ぐらいなら別に蓄えもあるしな。実はあの5冊の
「えっ? マジですか……」
思わず
未払品のノートに落書きをしてしまったようなものだ。
「謝らなくていい」とは言われたが、「弁償しなくていい」とは言われていない。
あとで高額な請求が来たらどうしようと、
「あっ、えーっと……ボク、ちょっと用事を思いだして……」
そんな
「ふぅ……。安心しろ。君に、金を要求したりはしないから」
「ああ。なーんだ。安心しました。……ところで、飯はまだですか?」
「…………」
彼は非常に現金だった。
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