第3話「似たもの同士」
村の広場に簡単に作られた試合のステージ。
そこだけ土を盛り、地面より少しだけ高くしてある。
そして、次々と始まっては終わっていく試合。
いつもは気のいい村のおっちゃん達も、この日ばかりは皆闘士をメラメラと燃やして戦っているように見えた。
ちなみに試合のルールは、相手の木剣を手から弾き飛ばした方が勝ちだが、相手を気絶させても勝ちというもので、今年も一人既に、木剣をもろに腹に受け気絶して負ける者がいた。
だから試合が全く怖くないというわけではないが、今まで死んだ者はいないらしいから大丈夫だろう。
そして、とうとう俺の番が来た。
ステージに上がり、木剣を手に試合相手を顔を見る。
その顔は小さい頃からよく見てきた顔だが、表情だけはいつもと違っていた。
真剣にこっちを見ている。
「なんだ、ユアンびびってるのか?」
そう挑発を受けて俺は――。
「びびってないさ、嬉しいんだ。マーク、お前も同じだろ?」
「ああ、俺も同じだ。奇遇なことにな」
そんな風に、互いに口の端を緩め、視線を合わせたまま心地よい軽口を叩き合う。
それは俺とマークが、
だからこそ――――俺たちは――――。
試合開始の合図が鳴り、お互い木剣を構え、ほんの数秒の静寂が訪れる。
張り詰めた緊張は、爆発の瞬間を待っていた。
「行くぞ、ユアン!」
先に動いたのはマークだった。
加速度的に動き、剣をななめに振り下ろしてくる。
遠慮がない本気の一撃、それは直撃すれば俺の意識ぐらいなら簡単にもっていくほどの威力。
「う……、重いっ……!」
ズザン。
木と木がぶつかりあった時の甲高い音が辺りに響く。
俺は冷静にマークの剣の動きを見て、木剣でそれを受け止めたのだ。
だが――重すぎる。マークの剣を受け止めた時、予想外の威力に思わずそう思った。
これは――まさか――。
「マーク、いつの間に魔力を……!」
俺は木剣をなんとか受け止めつつもマークに語りかける。
そう、マークが魔力の力をコントロールして戦っていることに気付いたのだ。
「へ、これは奥の手だったんだがな。ユアン相手となると話は別だ! 最初から全力でやって勝たせてもらうぜ!」
つまり、マークのこの力は鍛えた筋力からのみきているのではなく、魔力による肉体強化の力も含んでいるということだ。でなければ、これほどまでに急激に剣の威力が増すとは思えない。最後に打ち合ってからまだ数ヶ月しか経ってないのに、今俺の剣が受けている衝撃はその時の二倍ほどにすら感じる。
まあ、俺たち程度の少ない魔力じゃ、強化できると言ってもほんの少しだが。それでも、あるかないかでは
だが本当に驚いた。村の男連中でも、魔力をコントロールできているものは今までの大会で見たことがないほどだからだ。それほどまでに、凡人である俺たちには難しい技術なのだ。
ギギギ。
押し込まれた俺の木剣が
俺の方も魔力で強化して振られた木剣をこれ以上受け止めてはいられない。
このままではあと数秒後には、俺の剣が宙を舞う。いや、下手したらそのままの勢いで胴に木剣を受け、気絶もあるか。
しかし、俺にも奥の手が存在した。
体の奥にあるものも、呼び起こす。
「マーク、結局俺たちって似たもの同士だったんだな」
俺は剣をギリギリで持ち堪えながら、小さくそう呟く。
そして次の瞬間、俺はマークの剣を押し弾いた。
「なに……まさか!?」
「ああ……俺も使えるんだ」
そして俺は思いっきり剣を振り切る。
そう、俺も密かに練習していた魔力の力のコントロール。
単純な筋力では敵わないことの多い、村の大人連中への対抗策でもあった。
練習では失敗が多かったが、今日は運が良く成功したようだ。
俺の筋力が魔力の力によって強化される。
不意をついたことで、試合がすぐに決まるかと思ったが。
「まだだっ!!」
マークがギリギリで体勢を立て直し、防いできた。
そこからは力はほぼ互角、だから互いの意思のぶつかり合いのようなもので。
お互い攻めては攻められ、20回近く剣を打ち合った。
そして最後は、単純に回数の差が出た。
「へっ、剣の扱い方は、ユアンの方が上だったってことか……」
「ああ、俺の勝ちだ」
ドン。
マークが俺の木剣を胴に受け、地面に倒れる。
そう、俺は戦いの中でマークの構えの隙を見つけ、そこを斬ったのだ。
そしてこれは、単純にマークと俺の練習配分の差だった。
俺は魔力のコントロールにかける時間以上に剣を振り、マークはその逆だったのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今日一番の歓声が沸き起こる。
俺たちがした試合はたぶん、いまのところ今日一番の激しい戦いだったからだ。
村の者の中にも俺たちが魔力をコントロールして戦ったことに、気付いた者もいるかもしれない。
でも、今はそんなことよりも、マークに勝てたことを嬉しく思う。
マークは気絶していたが、しばらくすると目を覚まし、悔しがっていた。
話を聞くと、マークは密かに練習していたこの力で優勝するつもりだったらしい。
確かに、魔力を確実にコントロールし戦えば、この村のトーナメントで優勝することはできただろう。
逆にいうと俺は、まだコントロールできる確率が三割程度で、優勝できるかどうか分からないというのが現状だ。
でも――。
「俺を倒したんだ――負けるなよ」
そう、目を覚ましたマークに言われたからには、優勝しなければいけない気がした。
そして俺は――順調に勝ち進んでいき、本当に優勝することができた。
「ユアンよくやった、その
村の皆が拍手をくれる。
その中には悔しそうにするマークの顔や、俺の優勝を心から喜んでくれる母さんや妹の顔が見えた。
「ありがとうございます」
俺はそう村長に言葉を返す。
「だが今年はもう一試合、特別試合を用意しておる」
「えっ」
「今年は初めて勇者様が我々の村の大会を見て下さり、しかも興味を持って頂いたのじゃ」
「まさか……」
村長の手が向けられた方向にいたのは一人だった。
銀髪で高そうな服を来た男、あいつは――。
「皆の者聞くのだ! 今日は勇者様が特別に大会に出てくださるそうだ。勇者様の戦いが見れる機会なんて滅多にないのだから、感謝するように」
そう村長が説明する声も、俺の耳にはあまり入ってこない。
「ゆう……しゃ……が、対戦相手――」
この俺が勇者に勝てるはずがない。
村の者だってそうだ、強い魔力をコントロールして戦うことができる勇者に勝てるものなんて、この国を探してもそうそうはいないのだから。
「ユアン、戦えるね?」
そう村長は俺に聞いてくる。
しかしこのタイミングで聞かれても、俺の答えは一つしか残されていなかった。
なぜなら村のほとんどの者が、勇者の戦う姿を一目見たいと思っているのだから。
「分かりました、やります」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ステージに上がってきた相手を見る。
「まさか勇者様と剣を交える日が来るとは思いませんでしたよ」
俺はそう、少しの
「ははは、君があの大人達を倒して優勝するとはね。まあこんな村じゃ、魔力を扱える者なんてほとんどいないのだから、少しでも魔力をコントロールして戦えた君たちのどちらかが優勝するのは当たり前だったのかもしれないな」
「……」
「なんだ怖いのか? 顔が硬いぞ」
やはり魔力を使用して戦っていたのは分かっていたか。
まあ、魔力を扱える者としては当然見たら分かることなのだろうが。
上級勇者シルバー・レイモンド。まさか村の大会でこうやって勇者と手合わせすることになるとは夢にも思っていなかった。
勇者にとってみれば、この大会に出たのは遊び感覚で、本気を出すことはないのだろう。
最強の魔力を持ち魔王を倒すべく存在している勇者が本気を出せば、俺は一瞬で殺されるのだろうから。
だから勝てるなんて思ってはいない。けれど――棄権はしない。
お偉い勇者の力を、実際に自分で確かめてみたいと思うし、それに――。
次の大会は一年後だ、今日だけは俺は貧乏農家の一人息子ではなく、かつて村を救った英雄のような剣士でいられるんだ。
だから――。
「怖くは――ない、それに相手が誰であろうと関係ない。俺は――俺にできることをする。それだけだ」
「そうか、威勢だけはいいようだな。ではせいぜいやってみるがいい」
そして試合開始の合図が鳴る。
俺は集中して木剣を構えた。
そしてマークと戦った時の様に体内の魔力で筋力を上げる。
成功率は30パーセントほどだったのだが――――よし、うまくいった。
今日は調子が良いようだ。
体に力が漲り、準備は整った。
「行くぞ、勇者!! はぁあああああああああああ!!」
俺は剣を手に、なおも余裕を見せる勇者に斬りかかる。
しかし、俺の剣は勇者には届かない。
やすやすと受け止められた。
剣を押し込もうとしても、全く動かない。
勇者も魔力で筋力を強化しているのだろう。そしてその力は俺よりも格段に上だ。
「やはりこの程度か、では勇者の力を少し見せてやろう」
「勇者の力だと……なに、目が赤く……」
目が赤くなった勇者の顔を見たと思った瞬間、視界から勇者が消え、胸に激痛が走る。
「うぐっ……」
意識が痛みに追いついた時には勇者は俺の後ろを歩いていた。
この痛みは……そうか、剣をずらされ、木剣で胸を突かれたのか。
その動きすらも捉えることができなかった。これが力の差か。
俺は痛みで膝を付く。ぎりぎりで意識を保ち、木剣だけはまだその手に握られている。
だから、まだ負けてないない。
「ほう、手加減したとはいえ、まだ意識があるのか。だが――それではもう戦えまい」
勇者はなおも片目があかくなったままそう言葉をかけてくる。
俺は胸を突かれた衝撃で、ろくに声を返せない。
「そうだ村長、まだ言ってないことがあった。この村では女を貰いたい。この大会の真の優勝商品としてな」
「え、勇者様……それは……」
「いや、もう決めたんだ。そうだな、あの若い娘を貰っていくぞ。もし嫌なら誰かこの俺に勝ってみせることだな」
上級勇者は俺の妹のいる方向にピンと指を指した。
「ですがあの娘、サラはまだ
「決めたと言ったであろう。もし、断ればこの村はただでは済まないと思え」
「では……分かりました」
村長は断りきれずにその提案を飲んだ。
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