第2話

少年は父親を亡くしてから、一人で流浪するように暮らしていました。

ふらふらと、街から街へ。


母親は、少年を産んで直ぐに、死にました。

だから、少年は一人ぼっちでした。



故郷によく似た港町で、彼は海を見ていました。

行くあてもなく、頼れる人もいません。

少年はどうすることも出来ず、どうすればいいかも分からず、途方に暮れていました。


そんな時に、少年はルチに出会ったのです。




こうして、ルチと少年は一緒に暮らし始めました。

ルチは少年が働けそうな仕事を探し、文字の読み書きを教え、食事などの身の回りの世話をしました。

ルチはとても小さく、そして非力でしたので、出来ることは多くはありませんでしたが。


それから、天気の変わる兆しも教えました。

船乗りになるのでしたら、きっと役に立つだろうと思ったのです。

雨の前の空気の感じや、雲の形の変化の理由、それから動物達の行動など。

ルチが知っていることすべてを、少年に教えました。



月日が経ち、少年は船乗りの見習いになりました。

親方の船に乗り、朝から晩まで働きました。

一日でも早く、一人前になるために。その為に少年は働き続けました。



さらに時は過ぎて――。




少年は大きくなり、青年になりました。

船乗りとしても成長し、親方と一緒に数日間、海に出ることも少なくありませんでした。


彼の瞳には、ルチの姿がほとんど見えなくなりつつありました。

ですが、曇った窓についた小さな手形や、空中にふわりと浮かぶ光跡が、ルチが側に居ることを感じさせてくれました。



自分の姿が見えなくなりつつあることを、ルチは寂しく思いました。

それでもルチは、青年のことを、誇らしく感じました。




ある日のことです。

青年は、親方から船を一艘、任されることになりました。

親方の船と並んで出港し、漁を行い、そして港に戻りました。

親方から船を譲られたのは、その次の日のことです。




ルチの姿も、声も。

彼には、もう見聞きすることが出来なくなっていました。

窓につく小さな手形も、空中を漂う光跡も。


青年は、ルチに告げました。


「俺、親父の船を探しに行くよ」




青年の船が海を進むのを、ルチはじっと見つめていました。

港を離れた船が小さくなり、やがて水平線の向こうに消えるまで。

まばたきを忘れてしまうほど、ただ見つめました。



幾日か過ぎた、ある朝のことです。


ルチは、自分が魔女になっていることに気が付きました。

そして自分が、誰であったかのかを、思い出しました。

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