実習期間中 回想 ~向き合うこと~
『花卉特別支援学校』に通い出してから、中学3年生となり
色づいた紅葉の葉が落ち、冬の寒さが近づく晩秋のある日。
突然
『喪中の葉書』が届いた。
『似顔絵先生』が
【急性の心不全】で亡くなっていたらしい。
出会った頃から既に、結構年配でいらしたから
それでも
あまりに突然の別れで、その事実を知った時
彼女は
あの日以来、初めて人前で、声の涙の涸れる限りを尽くし、大声で泣き崩れた。
【心の支え】を喪ってからの彼女は
見るからに元気を失くして、いつもの明るい笑顔は影を潜め、生気阻喪とした姿を見せ
この学校に通い出してから、いつも にこやかな顔をしていたので
こんなにも感情を顕わに人目を憚らず泣いている姿を見るのは、初めてだったから
周りに居た誰もが皆、『何事かと』彼女の事を、凄く心配して
そして校内では
彼女が泣いている姿を見て、つられて泣き出す子も現れたので
学校中が、天手古舞いの大騒ぎとなり、職員は慌てふためき大変だった。
それから暫くの間
周囲はずっと、元気のない姿で居る彼女を見るのが、心苦しく気が気でなかった。
その後、数日経ったある日。
出張先から戻り、職員からここ暫くの【彼女の様子】を聴いた『芹山校長』が
黄昏の教室に1人残り、外をボンヤリと眺めている彼女を見かけ、声を掛けた。
彼女はまた大切な人を喪い
更に将来何になるかも決められず、漠然と意味もなくその日だけを生きていたけれど
ただ何となく『人の役には立ちたい。』と、心の何処かでは思いながら、それでも自分に何が出来るのかが分からずにいて
そんな時に彼女は
芹山校長から話しかけられて、2人で話をしている中
『世の中には、一般の公立・市立・私立の学校に通っている
自分と同じような【悩みを抱える子ども達】が居る事を知った。』
するとかつての何気ない日常の一コマから、『涼早先生』の言葉を思い出して
「サエはさぁ、いつも周りの子や先生に気遣いできるし、面倒見もえぇし優しいし
将来は教師とか、案外向いとるのかもしれへんな。」と言ってくれた事があって
頭の片隅の何処かに『先生』という選択肢は、いつでもあったのかもしれない。
それでか、彼女はふと急に何故か心の奥底から沸々と
『自分と同じような【悩みを抱える子ども達】の
少しでも支えとなれたら、居場所のない子ども達の居場所になれたら』と
誰かの為、誰かの役に立ちたい、という強い思いが湧きあがり
「私っ、将来は【学校の先生】になりたい!」との決意を伝え
あまりに唐突な宣言で、芹沢校長は驚いてはいたが
彼女の決意に溢れた、真剣な表情を見て
「そっか、冴香もようやく【将来の夢】を見つけたんだね。
そうかぁ~、冴香がねぇ。
けれども
【学校の先生】になると言うのは、大変な事だぞ?
それでも冴香が、本気で叶えたいと願うのであれば
周りが全力でサポートをするから、やれる限りを尽くしてやってみたらいい!」
それからの彼女は、覚悟をしたようで
周りへ【学校の先生となる夢】を相談し、悩み考えた上、数学が得意だったから
『中学校の数学教師』を目指す事にして、日々その為に勉強をした。
【将来の夢・目標】を見つけてからの彼女は
徐々に以前のような明るさを取り戻しつつ、意気軒昂たる姿を周りに魅せたので、
その姿を見て職員は、「冴香ならもう大丈夫だ。」と、ほっと胸を撫で下ろした。
きっと、彼女の心の片隅には
今は亡き『似顔絵先生』への憧れが、やはりまだ何処にあったのかもしれない。
いつも彼女を心配し、支えてくれている先生への憧れがあったのかもしれない。
何かをウシナッタ分だけ
彼女は前を向き、夢や目標へ気持ちを切り替え、自分の全てを費やすようになる。
『人は誰しも
デアイ と ワカレ
それを
繰り返すと言うけれど
それは
公平ではなく 平等ではなく 対等ではなく
デアイ と ワカレ
それは
あくまで異なるモノであり
そもそも
その2つは同じモノではないのだから
私の中では
デアイ と ワカレ
それを
同列・同等と
捉えて考える事は出来なかった
私にとっては
ワカレの方が
印象的でどうしても強くて
それは
大切なモノが
いつも私の目の前からナクナッテしまうから
でもこの時に
デアイ と ワカレ
その
考え方・捉え方・感じ方が
私の中で立場を逆転した。』
『今までウシナッタモノも多いけれど
ミエテきたモノも確かにあった
辛くて塞ぎ込んでしまう事もあったけれど
それでも
色々な人に出会えたから
だから
私は少しずつ変われた。』
そして
彼女は気付いたら、ベッドで寝ていて
辺りはまだ少し暗かったが、もう朝が近づいていた。
実習での疲れからか
いつの間にか寝てしまい、ずっと夢を見ていたらしい。
何だかボンヤリとして、少し曖昧だったが
『何か大切な事を思い出しながら、夢をみたような
閉ざされていた心の奥深くの扉が、開いたような
懐かしい夢を、まるで誰かと一緒にみてたような』
そんな気がして
不思議な感覚がしていた。
目覚めて、ベットから起き上がった彼女は
いつものように、【似顔絵先生から貰った色紙】を見るが
いつもと違って、目覚めた彼女はすぐ椅子に座り、机の上のパソコンの電源を入れ画面と向かい合い、全校集会の場で話す『スピーチの原稿』を書いた。
そして
『スピーチの原稿』を書き上げた彼女は、無性に何だか人を恋しく感じて、急いで着替えを済ませると、すぐに部屋を出て行き、食堂へと向かった。
普段はそんな事を感じないのだが
今朝は何故か、すぐに誰かと会いたくなって
もしかしたら
潜在的な無意識の内、『傍に居てくれる誰か』を求めていたのかもしれない。
いろのひと、母 your @youth
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