第9話 俺のターン 俺と【賢王 ディケッド・コウカン王】
「【賢王 ディケッド・コウカン王】……」
「はじめましてじゃな、姫君に導かれし迷い人よ」
会議の間において俺が一番目についたのがこの人だ。
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賢王 ディケッド・コウカン王
コウカン軍 王
レア 光
コスト5 軽減:なし
パワー3000
効果:このカードが場に出た時、あなたは好きな枚数の手札を
山札に戻し切り直す。その後戻した枚数だけカードを引く。
③このカードを手札に戻す。
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カオスアメイジングにおいて逸話に事欠かないキャラクターだ。
第二弾に収録されていた彼は、その能力が当時便利だったこともありデッキに採用されていた。
そしてその名前と能力から、いつからかプレイヤーに『チケット交換』と言われるようになった。
「それじゃあ、チケット交換三枚で!」なんて仲間内で遊んでいる時にはよく飛び交っていたセリフだ。
そんなネタに公式が飛びついた。
なんと公式は二年目の第二ブロックからパックに『コウカン王のチケット』をランダムで封入したのだ。
このチケットは特定の枚数を集めると、カードスリーブやプレイマット、特殊プロモカード、果ては限定冊子などと交換できるようにしたのだ。そして、その顔元となったのが彼である。
一応公式の設定では彼がコントラスターの持ってくるチケットに対し、王家の財宝を開放している。というスタンスであった。
「陛下、王女メアリー参上いたしましたわ」
「よい、この場は非公式だ。さっそくだがいろいろ聞かせてもらうぞ?」
「わかりましたわ御父様」
「うむ」
「それでは姫様、キョウゴク様こちらへお座りください」
案内されてテーブルの一角へと座る。
上座の王様の隣にメアリーと丞相が座る。メアリーの隣に俺は座った。
「それでは、陛下初めてもよろしいでしょうか?」
「うむ丞相よ、よろしく頼む」
「はい、それではまず今回この場を開いた目的となります。今回は姫様より第三種警戒宣言が発令された故にございます」
「第三種警戒宣言?」
なんだか仰々しい名前が出てきたな。
「そうです、キョウゴク様。先ほどの『エルフ』と言っていた事にもなります」
「ここはわたくしがご説明いたしましょう。アツム様、今回の発令の暗喩は『エルフが森を焼いた』。エルフは元来森と共に生きる種族です。彼らが森を焼くことなどあり得ない。転じて国家級のありえない事態が発生したという警戒態勢への宣言をした事になるのですわ」
「それで俺がエルフっていうのは……」
「森を焼いた当人、転じて警戒する対象となるわけですわ」
「なるほど」
そりゃあ、そんな宣言をされた人物が王女と一緒に忽然と消えて、必死に探したら王女と一緒に馬車から出てきたら厳戒態勢も敷かれるに決まってるわ。
「それではキョウゴク様、自己紹介をお願いできますか? 私も含めキョウゴク様がどんな御方なのか知りたいのです」
「了解。えーっとご紹介にあずかりました京極集です。京極がファミリーネーム、アツムがファーストネームです。俺自身まだ全部を把握していないんで分かる事と現状だけ説明します」
「キョウゴクは珍しい名前をしておるな、どこ出身なのだ?」
「俺はメアリーに召喚された召喚者です」
「何ですって?」
「召喚者じゃと?」
信じられないという顔をしている。
それもそうかもしれない、この世界では召喚者の足元には魔法陣がある筈だ。今の俺の足元には存在しない。
いわれただけでおいそれと信じることはできないだろう。
「そしてメアリーと契約をしたのですが、ここでイレギュラーが起きました」
「イレギュラーとな」
「御父様、そのご説明はわたくしがいたしますわ。今回の召喚でわたくしは、アツム様を召喚し契約しようとしたのです。ですが契約が上手くいかずわたくしがアツム様の契約者となりました」
「どういう事じゃ?」
「アツム様はコントラスターなのです。それもわたくしより強大な力を持った」
「なんと!」
「キョウゴク様、それは誠ですか?」
「あぁ、証拠が必要なら見せるがここで召喚者は出さないほうがいいだろう? デッキやシンボルを出すくらいはしてもいいですよ?」
ここで、召喚者なんて出したらパニックが起きるのは目に見えている。
デッキやコレクションブック位なら出してもいいけどな。
「シンボルまで扱えるのか……」
「その事でもご報告があります。アツム様は我が国のロードレスシンボル『混乱と破壊の手引書』の主となりました」
「なんと!」
「ですがその内容はアツム様の世界と同じところから来たコントラスターが、この世界で力を扱うための指南書だったようです。この世界に破壊と混乱をもたらす災いの書ではありませんでしたわ」
「そうであったか……」
そういえばそういう扱いだったね、俺にとってはただのルールブックだったから気にも留めてなかったわ。
しかしあれか? そうなるとそういう扱いの物を主とした危険人物みたいな扱いをされるのか?
「話を元に戻します。当初予定していた契約が出来ずわたくしがアツム様の召喚者になってしまったからなのか、アツム様が元の世界に帰れなくなってしまったのです」
「それで姫様と行動を共にしていたのですか」
「そのとおりですわ丞相。さらに付け加えるならば、契約した内容が問題なのです」
「契約内容とな?」
「はい、御父様。契約内容はこうですわ。アツム様はこの世界にいる限りわたくしに知恵と力を貸し出す。わたくしはアツム様がこの世界にいる限りすべてを貸し出す。と」
「ではキョウゴクがいる限りメアリーはキョウゴクのものとなるのか!」
「それについては二人で新たな契約を交わしましたよ。緊急性が無い場合はお互いの契約を強制しない、という契約を増やしました」
一応のフォローはしておく、ここには喧嘩をしに来たわけじゃないからね。
喧嘩を売られるのはヤンキー大幹部ぐらいのもんにしてほしい。いや、そもそも喧嘩を売られたくはないんだけど。
「そもそも、この条件でアツム様を召喚し契約しようとしたのはわたくしです。本来想定されていたことが全く真逆になっただけですわ」
「コントラスターとは契約に縛られる物だと聞いておりましたが、ここまでとは……」
「条件自体はコントラスターとして一般的なものですわ。本来であれば、この条件が働くのはわたくしがアツム様を召喚している間だけ発動するものだったのですから」
「なるほどのう。メアリーがキョウゴクを召喚者として呼んでいる間は力を借りる、その代わりにコントラスターとして力を貸す。という所か」
「その通りですわ御父様」
「なるほどのう」
現状の認識だけは出来たのか王様は溜息を吐いている。
本来であればありえない事態がやはり想定以上だったのであろう。
「つきましては、問題が解決するまではアツム様をわたくしの御客人として扱いたく思います。御父様、よろしいですか?」
「ふむ、キョウゴクにいくつか訊ねたい事がある」
「どうぞ」
王様直々の問ってのは少しばかり緊張するね。
まぁ、俺としては取引先の社長を相手にするような感じなんだけど。
「キョウゴクがここへ召喚されたのはなぜじゃ?」
「分かりません。少なくとも俺は自分の意思でここにきてはいません」
「そうなのか」
「はい、元の世界でとある物を入手した時に光に包まれ、気が付いたらメアリーの前に立っておりました」
嘘は言っていない。俺が自分の意思で来たわけじゃないんだ。メアリーが俺を呼んだのもそういう設定をしただけといっていたしな。
「ふむ、なるほどな。次じゃ、お主はこの国に力を貸してくれるのか?」
「その問いに答えるだけならいいえです。俺はメアリーと契約したのであって、この国と契約したわけではありません。メアリーのお願いを聞くことは構いませんが国からの命令を聞くことはありません」
「この国にいてそれが通るとでも?」
鋭い目をさらに細めて、丞相が俺に挑発的な言葉を投げてくる。
転がり込んできたおいしいものを自分のものにしようと企んでいる感じだな。
どういうつもりなのか分からんが、こういう場での喧嘩なら買おう。
後悔するなよ?
まずは、テンポを作るためのワンツー。
「丞相、間違えないでいただきたい。俺は俺とメアリーの為にこの国にいるつもりなんだ。いいか? この契約は俺がコントラスター側でメアリーが召喚者側だ」
「それがどうしたというのかね?」
自分の利を確保しようと躍起になるヤツは、事実を公表してもそれを受け入れることをしない。
自分に都合のいい情報だけを見て、自分に都合の悪い情報からは目を背けるからだ。
そして自分の中で都合のいいように情報を改竄する。
おおかた丞相は、鴨が葱を背負って来たとでも思っていたのだろう。
メアリーはお前の鴨でもないし、俺は葱というには辛すぎるぜ?
「分からないか? いざとなったら俺はメアリーを連れてこの国から消えるぞ?」
「なっ!?」
さきほどメアリーに説明をした事実を突きつける。
丞相から言葉が出なくなるほどいいストレートだったようだ。
「もう一度言うぞ? 俺が聞くのはメアリーのお願いだけだ。国からの命令を聞くつもりは全く無い」
「……アツム様」
追い打ちのアッパー。権力者に顎でこき使われるなんてまっぴらごめんだ。
そんなことになる位なら、ここでないどこかへ行けばいいだけの話だ。
この国の人間でない俺に、この国に従う義務はない。
「いいかい、丞相? 俺がしたのはメアリーと俺との契約だ。そこにあんた達の国が入っている訳じゃないんだ」
「……っ!」
勘違いを正してやる。なんでも自分の思ったとおりになると信じているなら大間違いだ。
俺とメアリーが個人で交わした契約に、国なんて言う大きなものが入る余地はない。
あくまでメアリーが国の権力に近い場所にあって、俺を利用できるだけだ。
国がメアリーを使って俺を使うのは許さない。
「俺とメアリーの契約に外部から口を出せると思うな、いいか今日からメアリーは俺の物だ。お前たちの物じゃない」
今までとは違う。
メアリーは王女であり、この国唯一のコントラスターだった。だが今日、この日に俺の契約者となった。
メアリーが国の傍観者に使いつぶされるのを見るくらいなら俺が攫って逃げてやる。
「そんな馬鹿な事が許されると思うか!」
「何を言っている、俺は誰に許されなければいけないんだ?」
また見当違いな方へ言葉を投げてきたもんだ。
国の権力者が使いたがる抑止力が今の俺の状況に利く訳が無い。
「はっ?」
「メアリーのコントラスターであり、メアリー以上の力を持つ俺は誰かから許されなければいけないのか?」
「そのような脅しなど」
「脅しじゃないさ。それが許されないからこの国から出ていけと言われたなら、先ほども言ったようにメアリーを連れて出て行こう」
ただ淡々と。
俺が思う未来を提示する。
俺はこの未来でも構わない。それを許せないのは国の方なのだ。
そんな事になれば国が滅ぶ。ただそれだけ。脅しなど必要ない。
本当に必要ならただ黙って実行すればいいだけなのだから。
「卑怯ではないか!」
「まだ勘違いしているな丞相、俺が言っているのは事実の確認と報告だ。提案や譲歩などでは無い」
「な、なにを……」
「今まで通りに好き勝手出来るとは思わない事だ。今、この国のコントラスターと召喚者を握っているのは、あなたではなく俺だ」
この国唯一のコントラスターを召喚者として契約したコントラスターである俺。
その俺を無理やり御そうとするならば、それ相応の覚悟はしてもらわないとな。
「そ、んな……」
「だがな俺はメアリーのプライドを高く買っている。メアリーが王女として、この国のコントラスターとして誇りをもって生きている姿は俺の琴線に触れた」
「あ、あのアツム様?」
メアリーはわたわたと慌てている。きっと人前で褒められることもなかったのであろう。
この国の王女であるメアリーは出来る事が当たり前。
この国唯一のコントラスターであるメアリーはやって当たり前。
そんな状況の中褒めるなんてことはしない。
やって当たり前の仕事を褒める大人はいないからな。
「だからメアリーの誇りを俺が汚す訳にはいかん。この国に居なくてはメアリーの誇りは保たれん。ゆえにメアリーと共にこの国に残るのだ」
「くっ!うぅ……」
「もうよい丞相、そこまでにせよ。しかし……そうか、我が娘の誇りは稀代のコントラスターを動かすに十分か」
「御父様?」
目の前で行われていた舌戦に終止符を打ち、しみじみとした顔で何かを想いふける王様。
「その通りです陛下、だからこそ俺はメアリーの誇りが汚されるようなことがあれば、誰であろうとも許さないでしょう。それはたとえ俺自身でもそうです」
「コントラスター、キョウゴク」
「なんでしょう?」
「そなたはわが娘をその誇りと共に守ってくれるか?」
「俺が出来うる限りを尽くそうとは思っております」
「そうか、メアリー」
「はい、御父様」
「お前はキョウゴクに守られることを良しとするか?」
「いいえ、御父様。このようになってしまったのはわたくしが招いた結果です。アツム様に守られるのではなく、共に事の解決を進めたいと思います」
「そうか。最後にキョウゴク、国からの命令ではなく、儂から願いや依頼だとするならコントラスターとして引き受けてくれるか?」
「メアリーがそれを望むのであれば」
上からの圧力による義務ではなく、あくまでお願いなら聞く。というスタンスを取る。
義務や責任があるならばそれに伴う対価や権利があってしかるべきなのだ。
今までのメアリーと同じように国に縛られるような立ち振る舞いはしない。
「あい、わかった。それではキョウゴク・アツムのこの国での待遇についてコウカン国の王として伝える」
「はい」
王様が最高権力者としての言葉を発する。
空気が緊張を纏い、皆が次に続く王様の言葉を待った。
「キョウゴクには私公爵としての身分を与えると共に、メアリー第一王女の婚約者として迎え入れるものとする」
「……はい?」
「御父様っ!?」
「陛下!?」
「一月以内に爵位を預け、婚約発表をするのでそのつもりでな」
出てきた内容はあまりにぶっ飛んでいる内容だった。
「御父様! なぜわたくしがアツム様と婚約なのですか!?」
「陛下、いくら何でもこのような人物に私公爵を与えるのはなりません!」
「二人とも聞きなさい。キョウゴクもよいな?」
「あっ、ハイ」
俺の思考回路はショート寸前、今すぐは動かないよ。
「よろしい、ではまず婚約の事だが『婚約者』としておけばメアリーとキョウゴクが常に二人でいても問題あるまい」
「わたくしとアツム様が?」
「さよう、ことこれからは時を同じにする場面が増えるであろう。そうした時婚約者なのであれば周りからの目を欺ける」
「あー、メアリーと一緒にいる男が何者かっていう噂への隠れ蓑なわけか」
王様の言わんとすることが少しだけわかる。
いままで孤高の人間だったメアリーに、まとわりつく男が急に現れたらどうなるか。考えるだけでもめんどくさい。
「残念ながら周辺には邪推する者も多いのでな、敵も味方も」
「ですがそれなら護衛などでかまわないではありませんか! 私公爵にした上で婚約者にする必要などありません!」
「私公爵にしたのはメアリーとの婚約者にする為もあるが、王家に連なる者だと儂が保証するためでもある」
「ん? どういう事? そもそ私公爵ってなに? どんな位?」
「私公爵というのは、王族が一代限りでその人に渡す公爵の称号ですわ。それをアツム様が名乗るという事は、コウカン国がアツム様を国の権力者として認めるという事ですわ」
「そうまでして俺を囲っておきたいですか?」
「これでも儂は足りんと思っておるくらいじゃがの」
にやりと目だけで笑う王様。器用な事すんなぁオイ。
「貴族とか、煩わしいのは苦手なんだけど」
「そなたに一般的な貴族と同じことなど求めんよ、そういったことは儂の方でなんとかするから心配せんでよい」
「なんか至れり尽くせりだな」
「これくらいでこの国に留まってくれるのであれば安いモノよ」
「……さようで」
あくまで政治的に俺がこの国に留まりやすいようにする処置みたいだな。
「王としては優秀なコントラスターが一人増えたのだ。囲ってもおきたくはなる」
「王としては?」
「そうじゃな、親としては娘の初恋ぐらいかなえてやりたいと思っただけじゃ」
「お、お、お、御父様!? 急に何を、おっしゃるのですか!?」
「ハハハ、たった半日で何があったかはわからんが良い顔をしておったわ。どうじゃ、図星であろう?」
「……あぅ」
顔を真っ赤にしてうつむいているメアリー。
マジか!俺なんて向こうの世界では35歳童貞だった男だぞ?
「それにお前はすでにキョウゴクに全てを差し出す契約であろう? それを目に見える形にしただけじゃ」
とんでもねぇことをさらりと言いやがるなこの王様は。
しかもお互いに確認を取らずに一存で決めやがった。
「そんなぁ」
「なんじゃ? キョウゴクの事は嫌いか?」
「そんな事ありませんわ! むしろどっちかっていうと好きでっ! ……ぁう」
「ハハハ、ならば良いではないか」
「御父様が意地悪ですわぁ」
「なんだメアリーいい弄られ方してるじゃないか」
「え?」
親子のそれははたから見ていて王族であることなど関係ないような、優しい父と娘の関係だった。
「親子としての愛情は間違いなくあるって事さ、見てて微笑ましいぐらいにはな」
「そのような事を儂達に言えるのはキョウゴク位のものであろうよ」
「そりゃあ王族にこんな軽口たたけるのがそうそういるとは思えないですし」
「その中途半端な敬語も辞めてよいぞ?」
「いいのか……、じゃあ遠慮なく」
いいかげん、敬語かどうかすら危うかった。
前の世界ではちゃんと話せていたはずなんだがな? 何でだろう。
「これからはキョウゴクは婿になるわけじゃしのう」
「あー、あー、そうかそうなるか。」
言われて気が付く、つまりはそういう事だ。
同族になるから敬語がいらないってことだ。
「お婿さん……、アツム様がわたくしの……お婿さん」
「メアリーがまたポンコツになってるな」
「言うてくれるな、コレとて日々頑張っておるのじゃ。これくらい許してやってくれ」
「いや、むしろ俺は年相応だし好ましく思ってるぜ?」
普段の凛とした姿も人間としては好ましいけどな。
年相応の表情を出すメアリーはカオスアメイジングにずっぷりと嵌った俺にはどんなイラストレーターが描いた彼女よりも魅力的に見えた。
「ふむ? メアリーの年を知っておいるのか?」
「さっきちょっとな、そうだこの世界での成人と結婚ってどうなるんだ?」
「ふむ、成人は15歳じゃな。結婚も同じく15歳からできるぞ」
「……結婚、……お婿さん、……15歳」
15歳で成人。俺は35歳だから年齢的には問題ないが、少々犯罪チックな感じだな。
メアリーは14歳だから来年には成人だ。成人してすぐでもこの世界では構わないんだろうが良心がゴリゴリ削れる音がするな。
「一つだけ婚約に織り込みたいことがあるんだがいいか?」
「ふむ、言うてみぃ」
「もし結婚するとしたら、結婚するのはメアリーが16歳になってからにしてほしいんだ。」
「……もしのぅ、してそれはなぜじゃ?」
「俺の世界でのルールだな。男は18、女は16からじゃないと結婚できない」
あくまで日本のルールだ、諸外国だと他の年齢で結婚できるところなどいくらでもある。
ただ、35年間過ごしてきた俺にとっては体に染みついたルールでもあった。
「しかしここは光の世界じゃぞ?」
「まぁ、俺のプライドってやつだ。あとはそれまでに俺がこの世界から消えるかもしれない」
「ふむ、聞こうではないか」
「さっきも言ったように俺がこの世界にいるのはイレギュラーなんだ。どんな形でこの世界を去るかもしれない、少なくとも一年は様子を見たいってのが本音だ」
「一年間帰らなければこの世界に根を下ろすのか?」
「多分な、先の事はわからん。だけどそうなったとして、先に結婚しているから。という理由にしたくない」
結婚しているからこの世界に居座る。
この世界に居座るから結婚する。
他人から見ればどちらでも構わないのだろう。ただ俺はメアリーを理由に自分をだましたくなかった。
自分で覚悟を決めてからメアリーを迎え入れたい。ただそれだけ。
本当にちっぽけな俺の男としての我儘だ。
「難儀な性格じゃのう」
「自分に嘘はつきたくないんでね」
「まぁよい、分かった。ではメアリーが16歳まで婚約者、そののちに結婚という事でかまわぬな?」
「オッケーだ」
「16歳、結婚、婚約、お婿さん、はっ!?」
「おぅ、メアリー帰ってきたか?」
「メアリー、お前の16歳の誕生日に婿殿と結婚式を挙げる旨を婚約式で発表するからそのつもりでな」
「え?」
「じゃぁ、そういう事でよろしくなメアリー」
「えぇぇええぇぇぇっ!!」
大きな声を出しメアリーが再びショートしてしまうのは誰の目から見ても明らかだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さてと話が変わるんだがいいか?」
「良いぞ、何じゃ?」
「俺のシンボルと今日の騒ぎについてだな」
ここにいる事の本題その二。
「成程、聞こうではないか。ほれ二人ともいつまでぼけっとしておるのじゃ!」
「はっ!?」
「はいですわ!?」
丞相とメアリーが、まるでメンテナンスをしていない5年物のパソコンのような起動速度で意識を覚醒させて来る。
「それじゃあまず俺のシンボルなんだが、コントラスターとしてのデッキ。それと預言書に近い能力を持つ本の二つだ」
「預言書?」
「まぁ、まず見てくれ。コレクションブック!」
俺の左手にコレクションブックが現れる。
俺の左手をしげしげと見つめる王様と丞相。
「これがシンボルか」
「あぁ、この本はこの世界の召喚者や呪文、建造物のエピソードが書かれている」
「ふむ」
「そして、俺がそのエピソードを見届けると契約の証として俺が使えるようになる」
「なんと!?」
「すさまじい能力じゃな」
そう、すさまじい。コントラスターとしては破格の性能を持つシンボルだと思う。
「ただ、まだ確認できていないことが多すぎて、そうではないかという憶測の部分を出ない」
「ではなぜそのような事になっていると分かったのじゃ?」
さすがにそんな情報があれば鵜呑みにはしてこない。流石賢王の二つ名を持つ王様だな。
「今日だけで二例、その現象が起きたからだ」
「その二例とは……」
「ここにいる【コントラスター・メアリー王女】と、闇の召喚者【ゴルガス帝国怪人:クー・タラチュニア】だ」
「それで、今日の騒ぎと何の関係が?」
「闇の召喚者である【ゴルガス帝国怪人:クー・タラチュニア】のページが今日の出来事を忠実になぞっていたのさ」
「なるほどのぅ、それで預言書か」
「そういう訳だ」
ただ、順序は逆なんだけどな。タラチュニアのページを見て行動を起こし、それをこなして見せてカードを手に入れたわけだから。
「なんとも、まぁ破格の性能を持つシンボルだな」
「まぁ、欠点もあるな。そもそも俺以外には読めない」
「見せてもらってもよいかのぅ?」
「えーっと、コレで見えるか?」
「なるほど……」
テーブルの中心に皆が見えるようにコレクションブックを広げ置く。
「これは確かに読めぬな、そしてこの文字は」
「はい、わたくし達のロードレスシンボルであった『混乱と破壊の手引書』と同じ文字だったのです」
「ちなみにそれも出せるぞ」
「あれを取り込んだのか……」
「そういう事なのかな? ルールブック!」
俺の手にあったコレクションブックが青い光を発しルールブックに変わる。
「成程、完全に婿殿のシンボルになっておるな」
俺の手にあるルールブックをのぞき込み王様は感心したように言う。
「すさまじいのはそれだけではありません。アツム様が扱える召喚者の数、呪文、建造物それにオドまで過去知りえる限りのコントラスターを凌駕しておられますわ」
「それほどまでか!?」
「さっきタラニチュアを獲得したから使用可能な召喚者の種類は17種だな、呪文は7種、建造物は4種だ」
それでも、スターターにメアリーとタラチュニアを2枚足しただけだ。
スターターだって1BOX分しかないから一枚しかないカードは使い勝手が悪い。
「……なんと」
「呪文や建造物もそこまで扱えたのですね」
「いや、俺からしたらこれでも少ない方だぞ? 俺が知る限りこの世界の契約の証は一万を超えるはずだ」
「いちっ!?」
「そんなに……」
カオスアメイジングは毎年ブロックで発売される。
一年のブロックは基本弾が初弾と四弾が100枚、二、三、五、六段が60枚と決まっている。
さらに一年に数回特別弾が発売されることもありこちらも一弾につき100枚。
それが20年つづいたカオスアメイジングのカードプールは悠に一万を超える。
詳しい枚数は覚えていないけど内容はかなり覚えている。
「俺が元の世界で知っている分だけでもそれだからな、それに比べたら今使えるのなんて誤差の範囲みたいなもんだ」
「いやはや、なんともまぁ」
「文字通り桁が違いますわ」
「そういうわけで契約の証を増やす方法もメアリーと一緒に検証していくからな。よろしくなメアリー」
「わ、わたくしですの?」
「お前以外に誰がいるんだよ」
「分かりましたわ。微力ながら全力を尽くさせていただきます」
「まぁ、ほどほどにな」
フンス! と鼻を鳴らすように気合を入れるメアリーがちょっとだけ可愛く思えた。
「さて、俺のシンボルについてはこの位でいいだろう。次だ、そもそもこっちが本命だ」
「今日の騒ぎの事じゃな」
「あぁ」
今日の襲撃者騒ぎ、国としてはほっておけない大事件。
「まだ報告書が上がってきておりませんので、恐縮ですが口頭にてご説明願えますでしょうか」
「ではわたくしから説明いたしますわ」
「ふむ」
「今日の昼過ぎごろ、北の広場にて召喚者の襲撃がありましたわ。それに伴いわたくしとアツム様が早馬車にて移動、わたくしが一名、アツム様が二名の召喚者を撤退させておりますわ」
「城の方に報告があった件じゃな」
「はい、召喚者としての実力は高かったと思います。がアツム様の作戦でこちらが到着してからは、死亡者は出しておりませんわ」
「それは凄いのぅ」
「はい、もし仮にわたくしだけだった場合、召喚者をすべて撤退させる事も出来たかどうかわかりませんわ」
「それほどまでですか?」
いままでメアリー一人でこなしてきたことを、メアリーの口から出来たか分からないという発言が飛び出してきたのだ。
その発言に丞相が懐疑的な表情をあらわにする。
「彼らのスペックを開示しようか?」
「そのような事までできるのですか?」
「俺の武器は知識だからな、それでいるのか?」
「お願い致します」
シンボルをコレクションブックに変え、対象のページを出し説明する。
「それじゃあ、俺が相手にした二名な。まず【ボルネの四十八柱:メガヴォイド】、闇の召喚者でパワーは3000、中型犬のような姿で大きな爪を持ち、枝がある刀のような尾を武器にする」
「厄介な相手じゃな」
「パワーが3000もあるとわたくしの手持ちでは【忘却の神杖巨兵】でしか対応できませんわ」
「今日戦った感じ、一対一だと逃げられるだろうな。スピード重視で連続して攻撃してくるので隙が少ない」
「そうですわね、下手な獣よりも俊敏でしたわ」
「んでもう一名は【ボルネの六十九柱:メガザジン】、蠍の姿を持つパワー1000の闇の召喚者だな」
「そのスペックなら姫様でも勝てたのでは?」
「持っている能力が悪い。こいつは【必殺】持ちなんだ」
「【必殺】とな?」
「あぁ、この能力は戦闘を行った相手を必ず撤退させる能力だ。俺の召喚者も一体はコレでやられている」
「むぅ、厳しいのぅ」
パワーだけで勝負が決まらない。事カードでのバトルでは余計だ。
除去持ちの効果を持つカードにはどんなファッティもバニラじゃ返り討ちにされてしまう。
「最後にメアリーが相手をした【ボルネの四十六柱:メガヴァイゼ】。二メートルを超える狼男ですさまじい防御力と攻撃力、状況判断力があったな、ちなみにパワーは5000」
「ごっ!?」
「そやつ一名だけでも野放しにすればこの国が滅ぶレベルじゃな」
「わたくしの【忘却の神杖巨兵】が撤退させましたので問題は無いですわ」
「と、ここまでが北の広場での召喚者との戦いだな」
「今日この日に婿殿がメアリーの前に現れたのは必然だったのかもしれんのぅ」
「一歩間違えたら今日コウカンは無くなっていたかもしれません」
報告のあった北の広場の戦闘能力だけでさえこのありさまだった。
「それで、だ。北の広場の襲撃が陽動だと知識で知っていた俺はメアリーにシンボルの事を話したのさ」
「そして東の孤児院に向かったのですわ」
「東の孤児院?」
「なぜそのような場所へ?」
こちらの報告はまだ上がってきていないみたいだな。
「ゴルガス帝国の本当の作戦は、孤児院から子供たちを誘拐する事だったからな」
「なんじゃと!?」
「そのような事が!?」
「落ち着いてくださいませ、その場もアツム様がきちんと収めてくださいましたわ」
「なんという事じゃ」
「そんな事まで」
「ちなみに孤児院で事を起こしていたやつらに一般人がいたからメアリーがひっ捕らえてくれたぞ」
「捕らえたのはわたくしではなく兵士の皆さまですわ。わたくしは指揮をしただけですわ」
あとで煮るなり焼くなり好きにしてくれ。
これだけの大がかりな事件の片棒を担いだんだ、無罪という訳にはいかないだろうな。
「そうだな、んでおれが相対した召喚者が【ゴルガス帝国怪人:クー・タラチュニア】と【ゴルガス帝国戦闘員】だな」
「戦闘員に怪人まで出て来ていたのか」
「それだけじゃないぞ、それらを撤退させたら出てきたのが【ゴルガス帝国大幹部:サー・ゲニアス】だったからな」
「だ、大幹部じゃと!?」
「コウカンに入り込んでいたのですか?」
「あぁ、ただ、召喚者だったぞ? そのせいで【帰還】を使われて逃げられたし」
「何よりすごいのは、帝国の大幹部を【帰還】にまで追いつめたアツム様だと思うのですわ」
逃げられたことに変わりはないんだけどな。
「俺のサインをくみ取ってきちんと指示してくれたメアリーと、その命令を実行してくれた兵士さん達のお陰だけどな」
「大幹部を追い払ったのですか!?」
「本当はとっ捕まえたかったんだけどな、顔も名前も覚えられたし。何よりコントラスターだとばれたのは痛い」
「帝国には既に婿殿の情報が知られてしまっているのか……」
「あの場ではしかたなかったかもな。まぁ、俺の行動に反省点が無いわけじゃないけど」
アホみたいな挑発をせずに最大戦力で挑んだ方がよかったのかもしれない。
まぁ、たらればの話だがな。
「大幹部を相手にこちらが無傷な時点で十分だと思いますわ」
「メアリーの言う通りじゃ、これは王として礼を言わねばならんな。ありがとう、婿殿」
「まさかここまでの活躍だったとは、先程の無礼誠に申し訳ありません」
「お礼は受け取っておくよ、詫びもね」
「こんな口答だけでなくきちんとした恩賞も貰うべきですわ」
「メアリー、勿論渡すとも。このような事態を解決できるものなど他におらんだろうな」
「メアリーにも言ったけど、たまたまだった部分が多いんであんまり期待しないでくださいよ?」
「これだけの事をやった人間のセリフではないわい」
少しだけ呆れ顔の王様が楽しそうに返してくる。
「まぁ、そういう事にしておいてくださいよ。大まかな事はこんな感じですね、細かい事は後日報告書で上げたいと思ってますよ」
「報告書を書いてくれるのか!?」
「メアリーに頼まれましたからね。ただ俺はこの世界の文字が書けないから報告書を書ける人間を貸してください」
「無論だとも、必要な時に呼ぶと良い。こちらで手配しておこう」
「ありがとうございます」
「礼を言うのはこちらじゃ。なんだかんだ言いながら色々してくれて感謝しておる」
「本当にありがとうございますわ、アツム様」
「あいよ」
「それでは、今日はこの辺にしておこうか。婿殿に部屋や人などもつけねばならんでな」
「御父様、アツム様にはわたくしの客間を使っていただくつもりですわ」
「なるほど、あそこか。あい分かった、ほかに必要なものがあれば用意させるから儂に言いなさい」
「御父様! ありがとうございますわ」
「なんのなんの、娘の婿であり国の恩人じゃ、これくらいの事はさせておくれ。ではな、婿殿失礼させてもらうよ」
そういって席を立ち俺の方にポンと手を置いて退出していった王様は、俺が思っている以上にいい人だった。
カオス・アメイジング 眞辺 健之 @jetmk2kai
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