ステファン・ベロニドはお仕事がしたい②
ステファンは自分をやればできる人間だと思っている。
昔から皆にそう言われてきたし、学校の成績も優秀だった。レベルだって高い。
だから、失敗したって、誰から何を言われたってくじけない。
いつだって仕事に対しては真摯でいた。注意不足でミスをする事はあったが、悪気は全くなかったし嘘をついた事もない。
例え見ている人がいなかったとしてもサボろうなどとは思わない。だから、今回のアレスの任務についてもステファンは今まで以上に気合を入れていて望んでいた。
失敗してはならないという緊張感。恐らく、それ故なのだろう。いつもはある小さな失敗もなく、順調に任務は進行していた。
いつもは何体も現れるゴーレムが現れず、藤堂達は不審そうな表情をしていたが、ステファンにとってそれはどうでもいいことだ。
レベル上げはうまく行くに越した事はないが、それは二の次三の次。ステファンの聞いている任務はあくまで勇者に何かあった時のサポートだ。
ステファンは既にアレスから自分が一度に幾つもの事をできる程器用ではないと言う驚愕の真実を教えられていた。
信じがたいが、こちらを信用して任務を与えてくれたアレスを信用しないのは良くない事だ。
だから、ステファンはたった一つだけ、ずっと声に出さずに自分の中で反芻しながら歩いていた。
『獣人やあるいは藤堂達が敵わないような強力なゴーレムが現れたらお前が土魔法でそいつの動きを止めるんだ。仕留められるなら仕留めてしまってもいい』
獣人や強いゴーレムが現れたら動きを止める。そしてやっつける。レベルの高いステファンにしか出来ない重要な任務だ。
故に、周囲に細心の注意を払い歩いていたステファンが見えないくらい空高くを跳んでいた鳥型の獣人を見逃さないのは当然だったし、藤堂達の前に現れたそれに対して魔法を使うというのは判断の余地のない事だった。
豆粒程の大きさの獣人の影。それを見つけた瞬間、ほぼ反射的にステファンは魔法を使っていた。
この間思い出したばかりの重力加算の魔法だ。土属性の精霊魔術は本来射程が短いが、大地の精霊であふれるゴーレム・バレーでならば普段以上の力が発揮できる。
ステファンが多めに魔力を込めた魔法が見事に効果を発揮し、空を悠々と泳ぐように跳んでいた獣人がまるで足を掴まれたかのように体勢を崩し、引きずり込まれるかのように地面に落ちる。
目の前ではなかったが、まるで落石でもあったかのような大きな音が峡谷に響き渡った。
突然の異音にざわめく藤堂達を他所に、ステファンは真剣な表情で指を折ると、何も考えずに次の行動に移った。
アレスの言うとおり、カカオちゃんの力を借りて動きを止めた。ならば次にしなくてはならないのはとどめを差すことだ。仕留められるようなら仕留める、それが任務である。
「ちょ、何? 何なの?」
混乱するリミス。置いていくわけにもいかなかったので、ちょっと考えて説明する。
情報を漏らしてはならないと命令は受けていない。名前以外は。
「私のお仕事です! 魔王の手の者が現れたらやっつけるって、命令を受けてます!」
「え……えええええ!? ステイ、お前がか?」
「はい! 私が、です!」
愕然として聞いてくるアリアに少しだけ誇らしげな気分で頷く。そして、てきぱきした動作で次の任務に移る。決行するだけだ、考えるまでもないのだ。
転ばないように気をつけながら落下地点に向かう。早足でたどり着いたそこに待っていたのは、ステファンにとって予想外の光景だった。
滑らかな曲線を描く金属質なボディ。人に似た形をした魔導人形――五体と、それに拘束された、ステイの落とした獣人の姿だ。
立ち並ぶ魔導人形はまるで軍団のように毅然としていて、絶句する藤堂達に顔を向けてきた。
それに対して、ステファンは即座に行動を開始した。
伝わってくる強力な力。
魔導師のステファンだからわかる。相手はステファンの目で見たところ、相当強力なゴーレムである。言っちゃ悪いが、藤堂達で敵うとは思えない。
そして、藤堂達で敵わないゴーレムが現れたらステファンが相手をしなくてはならない。そういう命令を受けている。
『獣人やあるいは藤堂達が敵わないような強力なゴーレムが現れたらお前が土魔法でそいつの動きを止めるんだ。仕留められるなら仕留めてしまってもいい』
まずは動きを止める。そして、仕留められそうなら仕留める。
珍しいことにいやいやと首を横に振るカカオに命令し、ステファンは全魔力を込めてメタル・ゴーレムの群れと獣人に向かって『
§
「うぅ……何が悪かったんですかぁ? わたし、ちゃんとやったのにぃ……」
そりゃぁゴーレムの方は倒せなかったですけど……と、ステファンがうじうじと訴えかける。
でも、それは仕方ないことだ。土属性の攻撃魔法は攻撃力はそれほど高くない。金属の杭だってメタル・ゴーレムには刺さらなかった。何より、その後放たれたリミスの火属性の攻撃魔法も効かなかったのだ、自分の土魔法が通じる訳が無い。
聞かれた事は全部答えたし、命令された事はできるだけ全うしたと思う。それなのにあっさり売り払われた事に、ステファンは納得がいっていなかった。あんなに自分を褒めてくれていたのに……手のひらを返すのが早すぎる。
バーナードが手慣れた動作でステファンを持ち上げ、馬車に詰め込む。ヴィルマが、どんよりとした様子のステファンにたしなめるように言う。
「……はいはい、言い訳は後で聞きますから……」
「アレスさん、私のこと命知らずだっていってました……」
「はいはい。後で思う存分お父上に愚痴をいいなさってください」
その言葉に、ステファンの頭に天啓が舞い降りた。顔を上げ、ぽんと手を叩く。
「……あ……そっかぁ。パパを説得すればいいんだぁ!」
ステファンは父親と仲がいい。交換手についたのもステファンの希望で口利きしてもらったのだ。
明るい表情のステファンに、ヴィルマはアレスと交渉していた時と同じくらい引きつった表情を浮かべた。
ただでさえゴーレム・バレーとピュリフと教会本部を行ったり来たりさせられてうんざりしているのに、これ以上の面倒事は勘弁して欲しい。
「!? ……さ、さぁ。帰りますよ! ステファン様も疲れているでしょう、教会に帰ってゆーっくりお休みください」
「えぇ? 全然疲れてないですよう。カカオちゃんばっかり楽しそうでずーるーいーでーすー」
足をばたばたさせるステファンを乗せて、馬車がでこぼこした道をかけていった。
【NAME】ステファン・ベロニド
【LV】72
【職業】聖魔導師(精霊魔導師+僧侶)
【性別】女
【能力】
筋力;ぜんぜんない
耐久:ちょっと高め
敏捷:ふつう
魔力:かなり高い
神力:かなり高い
意志:高い
運:高い
【装備】
武器:なし(危ないから)
身体:改造特製法衣(汚れの目立たない黒。ボタンが木製に改造されている)
契約精霊:
カカオ(色がカカオみたいだから)
水飴(色が水飴みたいだから)
ハンバーグ(ハンバーグを焼くのに使ってたから)
ざわざわ(いつもざわざわしてるから) 他
【次のレベルまで後】77777777
【特記】
家事ができるがたまに転ぶ。
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