第十三レポート:希望の光

 最終的に何が決め手になったのかわからないが、元々その判断はスピカに任せていたものだ。

 急ぎ足で宿に戻った俺を、私服に着替えたアメリアが迎えた。


 メイスを壁に立てかける。外套を脱ぎ、それを掛ける。その間も、俺はずっとどうすべきか考えていた。


「おかえりなさい、アレスさん。どうでしたか?」


「ああ、問題ない。グレゴリオがしばらく外に出る事はないだろう」


 観察すれば嘘をついていないかどうかくらいわかる。

 少なくとも今の時点でグレゴリオが何かしでかす気はないだろう。状況が変わったらどうなるかわからないが……。

 そして、別の教会に滞在する藤堂たちが、用事のない第三教会にわざわざ行くという事もまたあり得ない。


 グレゴリオの方から思考を切り離し、アメリアに尋ねる。


「それで、スピカの方は?」


 アメリアからの連絡。それは、スピカが藤堂のパーティに入る事を了承したという報告だった。


 俺の中でのスピカの評価は下の中だ。


 アンデッドに対する恐怖は拭ったし最低限のレベルにはしたが、スピカには経験がなく知識もなく、年若く才能がなくそして何よりも、リミスやアリアと違って藤堂のパーティに入る理由がない。

 メリットは大きいがそれ以上にデメリットが大きい。スピカは現段階では空っぽの器だ。足りないものがありすぎるのだ。


 俺はスピカに藤堂のパーティに入るべきか問われた際に、スピカの意志に決定を委ねた。しかし本音を言わせてもらうと、入るべきではないと思っていた。アリアやリミスも途中で死ぬ可能性が多分にあるが、それ以上にスピカが死傷する確率は高い。彼女はあくまでただの教会の手伝いをこなして生きてきた孤児であり、経験は浅くとも魔物との戦闘に手間取らなかったリミスやアリアとは違う。


 といっても、今更詮無きこと。その意志は何者よりも優先される。藤堂が参入を断るのならばまだしも、藤堂の方からスカウトをかけてきているのだ。


 スピカが藤堂のパーティに付いていくと決めたのならば、俺たちはそのサポートに当たる。それだけの事だ。


 僧侶プリーストとして動いていくための心得に、そのための装備。レベルの上げ方、神力の高め方。それらを、同じく僧侶として生きてきた俺はよく知っている。


 最低限の装備は既に与えてあるが、本格的に藤堂達に付いていくのならば揃えるべきものはまだ沢山あった。


「必要な道具を揃える。教会に連絡してくれ」


「既に連絡済みです」


 道具の類は教会を通じて与える事ができる。この街に在庫がなかったとしても次の街までに本部から取り寄せればいい。


 一番大きな問題は、スピカ自身の能力をどうするかにあった。


 神聖術が使えないのはまだいい。あれは、時間さえあれば誰でも使えるようになるものだ。また、俺はスピカの前で一度『奇跡』を見せ、その信仰を補強している。手順さえ誤らなければそう遠くない内に神聖術を使えるようになるだろう。


「問題はスピカのレベル上げをどうするかだな……」


「そうですね……」


 僧侶のレベル上げは大変だ。教義故に刃物を持つことができず、神聖術ホーリー・プレイには一般的な魔物に対する攻撃魔法が存在しない。

 どのパーティでも僧侶のレベル上げは悩みの種である。特にスピカはまだ十二歳、筋力がまだ発達しておらず、俺の持つようなバトルメイスも満足に振り回す事が出来ない。

 一番効率がいいのは、俺がやったように強力な補助をかけてアンデッドを相手に戦わせる事だ。だが、それではまともな戦闘経験も積めないし、そもそも、低レベル向けでレベル上げに適したアンデッドの生息する地はここくらいしか存在しない。退魔術を覚えればアンデッド相手に一人で戦えるだろうが、どれ位で覚えられるかには個人差がある。


 この地でしばらくレベルを上げさせるべきか……?

 アンデッドを恐れている藤堂がそれを是とするだろうか?


 僧侶は意識してレベルを上げていかないと、あっという間に他のメンバーとレベル差が発生してしまう。


「アメリア、アメリアはどうやってレベルを上げた?」


「私は……魔術も使えますので、退魔術を覚えるまではそれで……」


 こいつ、まさか攻撃魔法も使えるのか……?


 思わずアメリアの方をまじまじと見つめる。

 まあ、下位の攻撃魔法よりも難易度の高い探査魔法と通信魔法を使えるのだ、別に何ら不思議ではないが……全然参考にならねえ。


 俺の視線に、アメリアが顔を背け、聞き返してくる。


「アレスさんは?」


「俺は最初から退魔術エクソシズムを使えてたからな……」


 退魔術だけではない。補助魔法も回復魔法も使えていたし、メイスも振り回していた。加えて、異端殲滅官は特例で刃物を持ち歩くことが許されている。

 眉を潜め、昔を思い出す。


「最初はパーティに入って戦闘経験を積んだが……困った事はなかったな」


 そもそも、俺のバックボーンは一般的な僧侶とは違う。

 俺は異端殲滅官にスカウトされて教会に入ったので、教会側から与えられたカリキュラムもそれに準じたものだった。参考にならない。


「せめて三ヶ月くらいくれれば、最低限鍛えられるんだが……」


「三ヶ月ですか……」


 戦士は一日にしてならない。実践は人を大きく成長させるがそれにだって限界はある。

 今回の場合スピカに課されるべき役割は補助なのでまだマシだが、ある程度のレベル上げは急務だった。


 次向かう予定になっているゴーレム・バレー。そこに生息する魔導人形ゴーレムは非常に防御力が高い事で有名であり、例えば、俺はヴェールの村でリミスに銃を買い与えたが、あれを使ってもその装甲は貫けないだろう。

 その手の魔物は打撃武器と相性がいいが、今のスピカじゃ倒すのは無理だ。というか、無理。力がないのである。もしかしたらアメリアでも難しいかもしれない。


 元々、スピカが藤堂のパーティに入る事にした場合、藤堂と一緒にこの地でレベル上げをさせるつもりだったのだ。あの男がいなければ。


「ゴーレム・バレーに向かう前に間に一個別の場所を挟むべきか?」


「……」


 いや、それこそ本末転倒だ。効率。効率を重視しなくては。

 重要なのは藤堂だ。藤堂だけだ。効率を落としてレベル上げが足りなくなったら目も当てられない。既にレベル上げは遅れているのだ。最悪スピカは……死んでもいい。


 息を飲み込み、冷静さを取り戻すべく試みる。

 アメリアが俺の答えを待っている。彼女はあくまでサポートであり、最終的には俺が決めなくてはならない。


 そこまで考え、俺は自らの誤りに気づいた。

 違う。違うな。最終的に決めるのは俺じゃない。藤堂だ。俺に出来る事はあくまで誘導であり、ユーティス大墳墓に進路を変更したのも奴の意志であり――。


 ふと先程のグレゴリオの言葉を思い出す。


 運命の歯車。


 顔を上げる。腹を決めて、じっとこちらを見ていたアメリアの方に視線を合わせる。


「グレゴリオとは交渉した。少なくとも、数日は大人しくしているだろう。数日でスピカのレベルをある程度上げ、藤堂たちがアンデッドを克服し、次のフィールドに向かうのが最善だ」


 最善。ただの最善だ。世の中、そううまくはできていない。その事を俺は、ヴェールの村で痛いほど思い知ってる。

 だがやるしかない。うまくいかないとわかっていてもやるしかない。


「それまでにこちらも準備……ですか」


「こちらの準備は引き続き進める。だが、藤堂たちがどうするかは藤堂次第だ」


 完全なカバーは無理だし、完全な誘導もまた無理だ。そもそも、聖勇者の行動を強制する事は出来ないし、強制したところで藤堂は大人しく従うような玉ではない。




§




 自分の意志で決めろ、とアレスは、そして藤堂は言った。

 それは優しく、しかし残酷な言葉だ。スピカ・ロイルは自らの意志で何かを決めた事が殆どない。


 だから、一晩ゆっくりと考えた末、最終的にスピカが頷いたのは、スピカを頷かせたのは結局のところ、藤堂がスピカを助けに来てくれたからとかそういう理由ではなく、女だとわかったからとかそういう理由でもなく誰かに必要とされるという事実が嬉しかったからなのだろう。


 それでも、スピカの中には僅かな迷いが、不安があった。

 ほぼ初めて自分で決めたその選択が正しいのか、どうか。


 今までずっと、孤児だった自分の世話をしてくれたシスターの元にその事を伝えにいったその時も、スピカはずっと迷っていた。

 あらゆる他愛もない考えが頭に浮かび消えていった。それは、今後の先行きについてのものだけではない。

 例えば――今まで教会で下働きをしていた自分がいなくなって大丈夫か。他の友達に負担がいくのではないのか。そして、自分の決定が今まで育ててくれたシスターに対して恩を仇で返す結果にならないか。


 だから、今までずっと自分を育ててくれた初老のシスターが微笑んでスピカの決定を肯定してくれた時は驚いたし、それ以上に嬉しかった。


「スピカ・ロイル。貴女がそう決めたのならば、私は秩序神の信徒としてその前途を祝福しましょう。今後貴女の往く道に幸多からん事を」


 シスターのその言葉が、即座に出された了承が、事前にアレスにより成された根回しによるものだとスピカが気づく事はなかったが、とにかくその答えにより、スピカの中にあった迷いは消えないまでも、小さくなったのである。



「スピカ……本当にありがとう。君の決意に僕は敬意を表する。一緒に頑張っていこう」


 藤堂が滞在している第一教会の一室。藤堂が厳かな声でスピカの加入を祝福した。

 教会に部屋を借りているので歓迎会のような事はできなかったが、卓の上には飲み物と軽食が並んでいる。

 スピカの参加前まではその若さ故にその参加に難色を示していたアリアとリミスも、今はただ藤堂と一緒に祝福の言葉をかける。

 グレシャはいつもと変わらない表情で何も言わずに干し肉を齧っている。


「改めて……アリア・リザース。このパーティでは剣士を担当している。これからよろしく頼む」


「リミス・アル・フリーディア。精霊魔術師よ。得意なのは火の魔法。貴女と同じ後衛だから……よろしくね」


「スピカ・ロイル。レベルは10。僧侶プリーストの見習いで……まだ神聖術は使えません。よろしくお願いします」


 各々自己紹介を行い、最後に藤堂が立ち上がる。


「藤堂直継。このパーティのリーダーだよ。基本的には剣で戦うけど、魔法も神聖術も使えるから……神聖術を教える事も出来ると思う」


「神聖……術……?」


 その言葉にスピカが瞬きして藤堂を見る。

 神聖術は僧侶以外は使えないはずだ。少なくとも、スピカは他に使っている者を見たことがない。

 スピカは内心首を傾げたが、すぐに自分の知識が足りていないのだろうと納得する事にした。


「よろしく……お願いします」


「ああ。よろしく」


 藤堂が笑顔で差し出した手を握り、握手を交わす。


 そして、スピカはずっと気になっていた事を聞いた。何一つ言葉を発する事なく、ムスッとした表情でずっと干し肉を齧っている少女の方に視線を向ける。

 藤堂たちとは何度か顔を合わせたが、その女の子が言葉を話しているのを見たことがない。


「あの……そこの子は?」


「ああ……彼女は……グレシャだよ。ちょっとした事情があって……行動を共にしてる。……あまり話さないけど……たまに役に立つんだ」


 名前を呼ばれ、グレシャは一瞬藤堂の方に視線を向けるが、すぐに視線を背けた。

 その挙動に、藤堂が諦めたような笑みを浮かべる。


 グレシャとのコミュニケーションは藤堂パーティの持つ課題の一つだった。

 大墳墓の中で全滅した際に運んでもらったり、役に立つ事は立つのだが、いくらコミュニケーションを取ろうとしてもなかなか話そうとしないのでどうしようもない。何を考えているのかもわからない。

 仲間に入れてから十日あまり。根気よく話しかけてはいるが、今のところ大きな進歩はない。


 そんなグレシャの肩をリミスが軽く叩く。


「グレシャ。自己紹介は?」


「……」


 不審そうな表情でグレシャがリミスの方を見る。口を開きそうにないグレシャに、リミスが深いため息をついた。

 想像通りの結果に、藤堂が苦笑いで続ける。


「言葉は話せるんだけど、まだあまり慣れてなくて……」


「小さいけど力が強くて……後は、そう。食べるのが好きね」


 藤堂の言葉を引き取り、リミスが説明する。

 グレシャと一番接しているのはリミスだ。共に後ろの方にいるというのもあるし、リミスが自分よりも小さいグレシャに対して世話を焼いているという事もある。

 全く気を払う様子もないグレシャを置いて、リミスが紹介を続ける。


「後は……いつもお腹空かせていて――」


「お腹すいてないです」


「!?」


 急に出されたその言葉に、リミスが目を見開いた。

 視線がグレシャに集中する。干し肉を口の中に全て入れ、もぐもぐと咀嚼し、グレシャがもう一度言う。

 まつ毛が震え、その透き通る翠の眼が順番にメンバーに向けられる。


「お腹……すいてない……です」


「……らしいわ」


 困ったような表情でリミスが藤堂を見る。藤堂が困ったような眼をアリアに向ける。アリアは困惑した。


「……と、まぁこんな感じでたまに話すわけだ……」


「そ、そうなんですか……」


「お腹……すいてない」


 言い終わるとほぼ同時にグレシャの腹からぐるるるという音が響き渡る。

 リミスが立ち上がり、部屋の隅に置いてあった袋から買ったばかりの干し肉を一枚取り出し、グレシャに渡した。

 グレシャが無言でそれを受け取って、再び齧り始めた。


「まぁ……よろしくしてあげてよ。基本的に戦闘には参加しないから」


「はい……わかりました」


 スピカはこの不思議なメンバーと一緒にやっていけるかどうか不安になったが、一端それは頭の隅に追いやる事にした。現実逃避とも言う。

 そんなスピカの事を穏やかな眼で見ていた藤堂が、アリアの方に話しかけた。


「アリア、スピカのレベル上げはどうするべきだ?」


「……レベル10の僧侶、ですか……」


 藤堂の問いに、アリアの視線がスピカに向く。

 そのまましばらくスピカをじっと見つめ沈黙していたが、やがて言いづらそうに唇を開いた。


「正直……レベル上げの方法はかなり限定されるかと思います」


 スピカが一言たりとも聞き逃すまいと、真剣な表情で息を飲む。

 僧侶としてパーティに参加することの危険性は聞いていたが、スピカの持つ僧侶についての知識は少ない。元々スピカを育ててくれたシスターもスピカを僧侶にするつもりはなかったためだ。

 だから、アリアの話し始めた情報は初めて聞くものだった。


「そもそも、攻撃手段の乏しい僧侶プリーストはレベルを上げづらいものですが……スピカは若すぎるのです。通常、子供がレベル上げをするには、大人が魔物を半殺しにしてとどめだけ子供に任せるといった方法を取ります」


「あるいは、檻に入れた魔物に攻撃魔法を当てたり、ね」


 リミスが自分が初めてレベルを上げた時の事を想起しながら言う。

 元々、人族の身体能力は魔物よりも低い。子供ともなれば尚更だ。子供のレベルを上げるには手間がいる。それこそが、余裕のないピュリフの村でスピカのレベルがたった3だった理由でもあった。


 アリアがスピカの方をじっと観察する。折れそうな程華奢な腕。リミスと比べても小さい身体。リミスと異なりやせ細った身体はその生育環境があまり豊かではない事を示している。


「ある程度成長すれば筋肉もつきますが、十二歳では身体能力も成長しきれていない。リミスのように魔法を使えれば話は別ですが、剣術も魔法もある程度形にするには長くの訓練が必要です。今からやっても形になるのは随分後でしょうし、そもそも僧侶は……教義により、剣を握れません」


 アリアのその言葉に、藤堂はアレスがいつも持ち歩いていた武器を思い出した。


「あー……あれ、かぁ……」


 棘付きの鉄球のついた長い錫杖。アレスがバトルメイスと呼んでいた凶悪な武器を。

 その重量を利用して叩き潰す武器であり、実際にそれで戦っている姿は見ていないものの、振り回すのを見せてもらった事があった。


 アレスはまるで木の棒か何かのように軽々と振り回してみせたが、目の前の少女にそれが出来るとは思えない。そもそも、アレスの使っていたバトルメイスは目の前の少女の身長よりも大きかった。


 アリアも藤堂の連想したものがわかったのか、深刻そうな表情で頷く。


「そう。あれです」


「……確かに、無理だよね……スピカにあれは……」


「……まぁ、バトルメイスは普通の僧侶が扱う武器ではありませんが……そういう意味で彼は……本当に『例外』でした」


 僧侶は後衛であり、あくまで補助職であり、その真髄は神聖術である。敵を撲殺する必要はないため、バトルメイスのような重量のある武器を使う者は多くない。

 そういう意味で、あの元パーティメンバーは異常だった。アリアはその事を改めて噛み締め、しかしすぐに思考を戻す。今はスピカの、目の前の見習いシスターの話だ。


 傭兵パーティをいくつも見てきたアリアには、スピカのレベル上げが如何に難事であるのかがわかっていた。そもそも、自分達のレベル上げさえ予定通りに進んでいないのだ。だが、僧侶抜きで旅を進めるリスクを考えるとそれは、いずれぶつかる壁でもある。


「次に向かう予定だったゴレーム・バレーの敵は恐らくスピカの攻撃では……倒せないでしょう。あそこの敵は硬い事で有名ですから……例え倒せたとしても、かなりの手間と時間がかかってしまいます」


 藤堂とアリアにはトップクラスの武器があるし、リミスには高位の火精がいるが、スピカにはそれがない。


「……他の場所でいい場所がある?」


「いくつか心当たりはありますが――」


 ルークス王国は広い。

 レベルアップに使える地はいくつもあるが、現在知られている中でゴーレム・バレーよりも効率のいい地はなかった。少なくともアリアには心当たりがない。


 藤堂の難しい顔を見て、アリアはそこで深くため息をついた。まるでその身体の中の弱気を吐き出すように。

 長く時間をかけて息を履き終えると、何時も通りの表情に戻し、藤堂に告げる。


「一番いいのは……その……ここでレベルを上げる事かと思います」


「……ゔぇ!?」


「ここは……その、元々、僧侶のレベル上げの効率としてはトップクラスの地ですから……」


 蛙が潰れたような声。一気に藤堂の表情から血の気が引く。

 忘れよう忘れようとしていた大墳墓の光景が蘇った。具体的にはリビングデッドとレイス、アンデッドの姿が。


 元々聞いていた話とはいえ、目の前で起こったその表情の変化にスピカが目を見開き、凝視する。

 その視線を受け、居たたまれなそうに藤堂が顔を背けた。


「その……私も正直気が進みませんが……」


「……い、いい。最後まで聞こう。聞いてから判断しよう」


 藤堂の言葉に、アリアが一度頷き、


「ここのアンデッドは……下位のアンデッドは、防御力が皆無に等しく、対策さえ十分にとれば恐れるような相手ではありません。対策さえ十分にとれば」


「対策……ね。怖いのって消せるかな?」


「……ナオ、貴女何言ってるの?」


 リミスの呆れの滲んだ言葉に、藤堂がそっぽを向く。そして、偶然スピカと視線が合い、下を向いた。

 そんな藤堂の様子を無視して、アリアが続ける。


「特に……アンデッドは神聖術、退魔術を最大の弱点とします。ヴェールの森で仮面の男が放った光の矢――あれほどではなかったとしても、最低限の退魔術でも、最下位のアンデッドならば十分に倒せるでしょう」


「……使えないじゃん。退魔術」


 そもそも、藤堂はその当の退魔術を手に入れるためにユーティス大墳墓を次の目的地と定めたのだ。

 ようやく仲間に出来た僧侶も見習いで、神聖術すら使えない。

  

 そこで、アリアが一度水を飲み喉を潤し、まるで子供に道理を説くかのような超えで言った。


「そこです。使えないのならば……教えて貰えばいいんですよ。使える人に」


「……あー、なる程ね」


 アリアの言葉の意図に気づき、藤堂がその視線をスピカに向けた。


 神聖術は教義により、僧侶にしか教えられないが、今は見習いとはいえ、スピカがいる。

 アリアの言葉。それに納得の様相を見せる藤堂とリミスを見て、スピカが首を傾げた。

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