第66話 山田太郎殺人事件 19
◆
「……そこまで調べたか」
私達(というよりもミワ一人)が今まで聞いたことを話すと、老警部はそう苦々しい顔になった。
今、私達がいるのはイチノセの部屋だ。老警部はずっとシバの部屋にいたのだが、恐らくは女子供に首無し死体と同じ部屋には居させられないという配慮だろう。
因みにポンコツ刑事は代わりにシバの部屋に行くこととなった。泣く程嫌がっていたが、刑事なのだから仕方ない。頑張ってほしい。
「他の人にも気が付くように配慮していたが、やはり嬢ちゃん探偵が最初に気が付いたか」
「まあ、ここに来るまではさっぱりだったけどねー」
ひどくフランクにミワは話し掛ける。やはりサエグサに言っていた、刑事とは親しくない、と言葉を嘘だったか。刑事さん、って言い方をしていたのにいつの間にか、警部、と言っていたし、想像はついた。
「でもさ、ニイさんとも知り合いだったの?」
「いいや。まさかニイさんがあの事件の被害者の一人とは認識は無かった」
「あれ? そうなの?」
ミワが目を丸くすると老警部は頷く。
「私はあの事件の後処理に当たったから関係者は覚えているはずなのだが……年を取ったかのう……」
「またまたー、でおじいちゃん警部さんさあ」
「お、おじいちゃん警部?」
何でそこで驚く。
……まさか自分が老人ではなく、もっと若いと思っていた?
前に私に対して「おじちゃん」とか言っていたし……
「いいじゃん。呼び名なんて。でさ、あんな言い方をしたってことはさ」
にやり、とミワが口の端を上げる。
「他にいた人を知っている、ってことでしょ?」
「……相変わらず察しがいいな」
老警部は深く息を吐く。
「お察しの通り。あの事件に関わっていた人間を、三人、知っている」
「で、誰なのさ?」
「一人目と二人目は、イチノセさんとシバさんだ。彼らはあの事件の館の主である少年の友人だった」
予想通り。
今回の事件で姿を見せていない二人は、やはり『現実館事件』に関わっていたようだ。イチノセは分かりやすかったが、シバもだったのか。
「……ともだちー」と兄がそう呟く。落ち着く。
私が空気を読まずにほっこりしている横で、老警部は告げる。
「そして三人目は――ゴミさんだ」
「ゴミさん? マジで」
ミワは予想外だという声を放つが、私は、三人知っているという縛りの時点で、ある程度予想していた。
「あたしはてっきりロクジョウさんだと思っていたよ」
ミワの言う通り、老警部が刑事だと知った時の反応から、ロクジョウが何か後ろめたいことをしている印象は受けた。
だが、彼は老警部のことを知らなかったからこそ、逆の方からも知らないのだという結論を付けた。
「ロクジョウさんについては、もしかしたらいたのかもしれないが、何分、記憶に残らなかったようだ。だから分からない、というのが正直な所だ」
「じゃあ何で三人は知っていたのさ」
「それは印象に残ったからだ」
老警部は指を四本立てる。
「あの三人は火事の最中の事件についての容疑者だ」
「へえ、容疑者だったんだ」
ミワが平坦な返答をする。彼女も予想が付いていたようだ。
「で、どの事件の容疑者なの?」
「イチノセさんとシバさんは『館から大金が盗まれた事件』。ゴミさんは『首を吊られた焼死体』の容疑者だ」
「ふーん」
ミワが唇を尖らせる。
「イチノセさんとシバさんは事件後に金遣いが荒くなったとかで分かるだろうけど、ゴミさんは何で容疑者になっているの?」
「殺された女性に対して怨恨があったからだよ。証拠はないから、三人共嫌疑不十分で逮捕などされなかったけどね」
というよりも、と老警部は表情を陰らせる。
「あの事件は上から揉み消されて、碌な捜査も出来ず……私は悔しいよ。屈してしまった当時の自分もね。あの事件の被害者は浮かばれないだろうさ」
――それが動機か。
私は瞬時に悟る。
今回の事件については、ほぼ間違いなく、過去の事件に対しての恨みだろう。
そうなると真っ先に思い浮かぶ言葉がある。
『私をこんな状態にさせたあの事件そのものを、徹底的に』
山田太郎。
彼がタッチパッドに記載した言葉。
事件に対して、もっとも恨みを表にしている。
顔などは隠しているけれど。
しかし。
過去の事件にて容疑者となっていた人物を狙った犯行。
となると――
「……ちょっと待ってよ、警部さん?」
ミワも思い当たったようだ。
「だったら次に狙われるのは――」
「きゃああああああああああああああああああああああ!」
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