第67話 山田太郎殺人事件 20
悲鳴。
少し遠いながらも、確かに聞こえた。
「今の声は……サエグサっちじゃないか!?」
ミワが大急ぎで扉を開き、兄と警部がそれに続く。
が、階段で兄は立ち止まる。
それはそうだ。ベビーカーごと持ち運びは兄には出来ない。
すると兄は、ベビーカーの前に立つと、
「来て!」
と、私を持ち上げて、あっという間に背負った。
五歳児にしては凄い。鍛えていたのだろうか。元気に走り回ったのが功を奏したのか。
……お兄ちゃんの背中、あったかいな。
だが、そんな心地よさに浸っているのも一瞬。
やはり背負って階段を下るのは難しいようで、兄はふらふらしてきた。
と、
「おっと。坊主、よく頑張ったな」
階下から走ってきたのは、ヤクモだった。
彼は私ごと兄を持ち上げると、一気に階下へ下って行く。
「ありがとうお兄さん!」
「おうよ」
ヤクモは爽やかに頷くと、そのまま、恐らくは悲鳴が上がった方であろう、そこに走って行った。
「す、すみませえん……」
その後ろを母が、ベビーカーを持って降りてきた。何故持ってきたし。
と思いつつもベビーカーに乗り、私も母と兄と共にとある場所に向かう。
その場所は――懲罰房の前。
その前の光景。
へたり込むサエグサ。
唖然としている周囲の人間。
その視線の先。
そこにあったのは――いや、いたのは、一人。
先程までニイが座っていた椅子の上。
そこに座り込んでいる、青ざめた顔の男性。
その口から血が流れている。
恐らくはもう、死んでいるだろう。
その横には、山田が付けていたのと同様のラバーマスクが落ちていた。
恐らく誰かが外したのであろう。
彼の顔に被されていたモノを。
眼鏡をかけた痩身の男性。
ゴミが息絶えていた。
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