第63話 山田太郎殺人事件 16

    ◆





 懲罰房。

 外からしか鍵が掛からない構造。

 故に内部からの防衛手段は無いに等しい。

 そんな所に、一人、山田は入るとのこと。

 私だったら嫌だね。絶対。

 何もない所にずっといるのは流石に発狂しそうだ。知識の中では確か、人は七二時間しか何もない所で正常に過ごせないというが、一日ですら私は無理だと思う。実証された方、ご苦労様です。

 そして私達は、いったん、各部屋に戻ることとなった。


 さて。

 今は昼ごろだ。

 ここから、ようやく調べることが出来そうだ。


『ソトニデヨウ』


 私は兄にメッセージを送る。

 兄は母親に向かって声を掛ける。


「じゃあ散歩行ってくるねー」

「塔に近づいちゃ駄目よぉ。気を付けてねぇ」

「はーい」


 私と兄は部屋の外に出る。

 ……あっさりと部屋の外に出れたよ。

 びっくりだよ。

 ここまで何も障害がないとは思わなかった。

 色々な言い訳をしようと準備していたのが無駄になってしまった。

 しかし、外に出ておいてだが、母よ。

 殺人犯が外でうろついているという可能性もまだ無きにしもあらずなのだぞ。

 それに、この島にいることは確定しているのだ。

 そんな状態で五歳児と〇歳児を外に出すなんて、ちょっとおかしいのではないか。

 ……まあ、そのおかしさのおかげで助かるんですけれど。

 どちらにしろ、私達は狙われないと踏んでいる。

 何故ならば、この事件は無差別殺人ではなく、計画殺人だからである。

 計画的無差別殺人、ということもあるだろうが、今回の場合には当てはまらない。

 理由は、明らかに今回の事件には、とある別の事件が関わっているからである。


『現実館事件』。


 この事件の関係者が殺害されている。

 そう見て間違いはないだろう。

 イチノセ。

 シバ。

 イチノセは間違いないが、シバも、友人として何か関わっていたのかもしれない。少なくともこのモニターに参加しているだけあって関係はありそうだ。

 となると、このモニターの参加者は全員、関係あると見られているのかもしれない。

 ミワは自分では関係していない、と言っていたが、本当はどうかは分からない。

 その為にも、あの事件について詳しく訊く必要がある。

 しかし、イチノセ亡き今、訊ねられる人は一人だけだ。

 その為に、私はとある人物の所に行くことを兄に提案する。


『ミワノトコ イコウ』


「ミワさん? 何で?」

『カノジョトイツシヨニ ジケンキク』

「あ、そっかあ。僕とだけだったら話聞けないかもしれないからね」


 兄の物わかりが非常にいい。

 他の理由もあるが、とりあえずは彼女の所に行くのが第一ステップだ。


「了解。行こう」


 兄は迷わずにミワの部屋に向かっていき、その扉を叩く。


「ミワおねーさん。ちょっといーい?」


 ガチャリ、とドアが内側に開く。


「お、最年少探偵君ではないか。入りたまえ」


 ミワは快く中に入れてくれた。


「で、どうしたのかね? 私に用とは?」

「うん、あのねー、えっとねー」

「ん? どうしたの?」


 ミワが覗き込んでくる。

 ……あ、忘れてた。


『イツシヨニ ソウサシヨウ』

「ミワおねーさん。お願いがあるんだ」

「なになに? 何でもは聞かないよ」

「一緒にそうさしようよ」

「いいよ」


 あっさりと了解された。


「君と一緒なら相手も緩むだろうし、ちょうどいいなと思っていたんだ。むしろこっちから提案したいくらい」

「ありがとう」

「どういたしまして」


 兄の頭を撫でるミワ。ひどく気に入られたようだ。

 しかし、ミワの考えも分かる。

 兄が捜査するということは、探偵ごっこをしているように思われるだろう。そうなればふとした時にぽろりと思わず話してしまう、ということもあり得るかもしれない。


「さてさて、共同探偵君。まずはどうしようかね?」

「うーんとねー」

『ゲンバ イコウ』

「まずは現場に行こうよ」

「だね。現場百回って言うしね。行こうか」


 そう言ってミワがベビーカーを押す。

 が、


「ベビーカーは僕が押す! 僕がやる!」

「あ、そうなの? ごめんごめん」


 ミワが手を離す。

 兄は意地でも譲らない。

 ……そこにちょっとほっこりしたりして。


 ともかく。

 兄と私に加えて、ミワ。

 そんな三人で、事件現場へと向かった。

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