第35話 お腹減った事件 04
どうしてこうなった……。
私の予測では四五度くらいになって、ゆるゆると降りて行く手はずだった。
だが目の前の角度は、少なめに見積もっても六〇度はあるだろう。
敗因は理解している。
思ったよりも最初に落とした布団が外に膨らんでしまったからだ。それにより、思ったよりも角度が付いてしまったのだ。
直で落ちるよりはましだ。
しかしそれでも、怖いものは怖い。
私は手で柵を押してみる。
キイ
「……」
音が鳴ったよ。
しかもちょっとしなった気がしたよ。
そんな柵で、私の体重を支えられるのだろうか?
私は〇歳児にしては体重がお……いや、ちょーっとばかし健康な方だと言われている。というか母親に言われている。
だからちょっと……いや、ほんのちょーっと、ちょこーんとばかし不安なだけなのだ。
うん……大丈夫、だよね?
ぐう。
……うん。大丈夫!
お腹が鳴ったので、私は腹を括った。
ついでに毛布を巻き付けた。
作戦はこうだ。
斜めになった柵を滑り落ちる。
但し、ただ滑り落ちるだけではない。
廻り落ちるのだ。
毛布を纏って、身体をガードしながら回り落ちる。
滑るのは、正直怖い。
というか、滑れる気がしない。
途中で詰まって、変な方向に転がる。その際に首を痛めたりいろんな所を痛めたりしちゃう可能性が高い。
だからこれが一番、安全な方法だ。
……安全な方法だと思う。
少なくとも、想定の中では安全にクリアできていた。
信じろ。私の経験を。
〇歳だけど。
信じよう。私の計算を。
脳内だけだけど。
駄目だ。
ネガティブな考えは捨てろ。
成功のイメージを思い描け。
そう。
私には無限の可能性がある。
だって私はまだ――赤ちゃんなのだから。
ゴロリ。
私は横になる。
毛布が心地いい。
ただ、このままでは寝られない。
今にも叫びだしそうな腹部が、空腹を知らせているからだ。
やるぞ。
私はやる。
足を宙に投げ出す。
うっ……やっぱちょっと怖い。
この足を降ろして勢いを少しつければ、下に転がるだろう。
下には布類がたまっている。
多少ずれても大丈夫なはずだ。
――頭では分かっているはずなのに。
頭の固さがここでは恨めしい。
普通の赤ん坊のように何も考えずに転がり落ちたい。
だが私は考えてしまう。
しかもネガティブな方向に。
……しっかりしろ、私。
そうだ。
進むんだ。
いや、進むんじゃなくて落ちるんだけど。
ここで忠告だ。
危ないから、よい赤ちゃんのみんなは真似しちゃだめだぞ。
〇歳児の私との約束だ――
……って、あ。
私は思考するだけで、すっかりと忘れていた。
私は赤ちゃんだ。
長時間どころかほんの数十秒でも、足を浮かせたままキープさせられる筋力はまだ持ち得ていない。
重力に逆らえない。
だから足が降りる。
意図せず足が落ちるということは、身体が傾いてしまうということ。
つまりは意図せずに――私は行動に映すことになった。
お兄ちゃあああああああああん!
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