第34話 お腹減った事件 03

 まずはこのベビーベッドからの脱出だ。

 脱出にあたっての障害は先に述べた通り、遮っている柵と、地面までの高さだ。

 だが、その二つのうち一つの障害は、簡単に取り除ける。

 というか物理的に取り除ける。

 よっ、と。

 私はベッドの隅の方まで移動すると、柵に捕まって立ち上がる。

 そして。


 ――カチリ。


 策の隙間から、鍵を外す。


 そう。

 私は


 回して解除するタイプの鍵が、前面に二つあるのだ。

 事前に確認しておいた。

 そしてその鍵は、私の手が届く所にある。

 赤ちゃんの手に届く所にあるなんて危ない構造だと言う人もいるかもしれないが、前面の二か所は左右で離れている、かつ、ただ回すだけでは解除できず、所謂、廻してストッパーと鍵がちょうど垂直になった時に抜ける構造なので、偶然でもいじっていて簡単に抜けることはないだろう。だから問題ないと言える。

 そんなわけで、もう片方の鍵を外せば前面の柵は無くなる。


 だが――


 出来ないのではなくてしない。

 その理由は、二つ目に掛かる。

 この柵は、そのまま鍵を外すと、ちょうど私が寝ているベッド部の所に蝶番があるので、その高さを中心にしてぐるりと前面が倒れる構造となっている。柵の大きさはちょうど地面からベッドの高さまでになっているので、このまま倒すと、ベッドの下部に柵の上部がくっつくような形となっている。

 それでは駄目だ。

 それだと、高さを克服できない。

 ベッドから地面までの高さんなて大した高さではないと思われるかもしれないが、そんな人には想像してほしい。

 自分と同じくらいの身長の高さから飛び降りることに。

 しかも赤ちゃんだから、二足歩行状態でジャンプしては降りられないのだ。

 じゃあどうすれば降りられるのだ?

 そこで私が考えた方法は一つだ。

 ここにたくさんある布団。

 それを落とせば?

 落としてそこにジャンプする。

 それも考えたが、少し危ないのではないかと危惧する。意外とふかふかではないし、薄い箇所に当たればそれこそないのと同じようになる。積み重ねてやろうにも、バランスが取れなくて二次被害がありそうだ。積み重ねて意外と弾力を持って弾けたりしないかと。

 ……まあ、でもやろうとしているのもリスクがあるが。ただ私の中では布団にジャンプよりも少ないと思っている。

 では、何をしようとしているのか。

 行動としては簡単だ。

 実行しよう。

 まずベッドに数多くある布団やシーツ、毛布の半分を下に降ろす。その際には先程に開いた鍵の隙間から徐々に落としていく。流石に柵を付けた状態で布団を持ち上げられるほどの筋力はまだない。

 とはいえ、布団を落とす行為自体は飛び降りる場合と同様だが、ここからが違う。

 布類を半分落とした所で、私はその光景を見る。

 片方に偏って重なったそれらは、かなりの体積になって堆積していた。


 さあ、ここからが本番だ。


 そして私は掴み歩きをし、もう片方の鍵を開ける。

 開けた瞬間に当然、ベッドの方向に倒れる。これでそのままは落ちない。

 では、柵はどうなる。

 先に述べた通り、柵はベッドの高さと同じだ。普通に倒しても柵が無くなるだけ。

 だが、もしそこにある程度の高さまで積み上がった布団があったら?

 布団に引っ掛かり、柵は斜めになる。

 そう。



 まるで滑り台のように。



 布団は私を受け止めるために落としたわけではない。

柵を受け止めるためのモノだった。


 よし。

 じゃあ次の行動だ。

 残っている布類をあらかた中央部から落とす。

 そうすることで端のみで支えていて浮いている状態だった中央部が柔らかい布で埋まっていくはずだ。


 そして私は、一つの毛布を残して全ての布類を落とした。

 これで準備は出来た。


 出来た、のだが……



「……」



 私は出来た滑り台を見て息を呑む。

 想定通り。

 いつかやろうと思っていたことが実行出来て、少し誇らしい。

 ……だけど。

 ちょっと、少し、本当に少しだ。

 嘘です。正直に言いましょう。




 ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る