第11話 私誘拐事件 10

 自分の中で出した結論に、すっぽりと嵌った。


 歯車が徐々にかみ合い始めた。

 犯人が何も考えていないから、理由が見つからなかった。

 だが、犯人以外の人がそれを指示していれば?

 犯人が捕まろうが、どうでもよかったら?

 それであれば、リスクの高い行動を取らせることにも意義がある。恐らくは金でそういう行動を取る様に指示を出したのであろう。

 そうなると、今回の事件はひも解かれる。

 犯人の男の行動がぶれていたのは、指示されたこと以外をしようとしていたからだ。私を殺そうとしたのは、恐らくは指示になかったのであろう。

 であれば、指示は下記のようにされている可能性がある。


 一、ベビーカーを奪うこと。

 二、ベビーカーに何かを仕込む OR 何かを取ること。


 この二つだけを指示された可能性が高い。

 もし『何かを取ること』だったら、その後にどこかに運ぶ作業が残っている。

 そうなれば、受け取る方にもリスクが高くなる。

 裏に誰かいると考えれば、後者の可能性はグッと低くなる。何故ならば、誰かが裏で動かす場合は、その人物が表に出たくないからというのが定石である。

 故に、あのベビーカーに何かが仕掛けられている、と考える方が正しいだろう。


 では何が仕掛けられているのだろうか?


 そこに私は思考を向ける。

 あの決して大きくないベビーカーの中に仕込むとしたら、相当小さい、もしくは薄いものだろう。


 であれば何だ?


 真っ先に考え付くのは手紙だ。

 母親に対してのラブレター。

 ……有り得ない。

 そんなの直接渡せばいいだろう。

 こんな犯罪まがいのことまでしてやる意味がない。


 では、何か?


 母親に渡すのでなければ何だ?

 渡さないのならば、仕込むだけ。

 仕込んだ後でどう取り出す?

 無理矢理探る?

 だが、誘拐されかけた後にもう一度ベビーカーを探るのは難しいだろう。


 では、中に入れたモノが持ち主に不利になるものだったら?


 例えば時限爆弾。

 時限式の毒ガス。

 しかしそんなものを誘拐というリスクを冒してさせる意味がない。それにそんなの設置するほどのスペースもない。

 では他の考え方だ。


 例えば違法薬物などがあったら?


 その薬物を警察に発見させて、母親に罪を被せようとしたのなら?

 だが、その可能性も低いだろう。

 誘拐されかけたという事例からならば母親に罪が行くことよりも、誘拐犯が仕掛けたという方が信頼性高いだろう。母親が「知らない」と言えば済むことなのだから。家まで捜査を及ばせたいという目的があるのならば分かるが、それならばもっとスマートなやり方で母親を訴えるだろう。


 ならば、残る考えは一つだ。

 それは――




 ――そこまで思考した、その時だった。

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