第9話 私誘拐事件 08

 ……って、あ。


 そこで唐突に、私は冷静になった。

 感じたということは、全く考えていない。



 つまり――



 何という愚かしさ。

 よく考えれば分かっただろうに。

 確かに、モールス信号はいい伝達手段だ。

 私もよく知っていたと思う。

 だからこそ、こう気が付くべきであっただろう。


 この母親がモールス信号を知っているわけがないじゃないか。


 知っていたとしても、あのおっとりとした母親がこんな所まで考えられるわけがない。

 完全に人選ミス。

 というよりも、作戦ミスだ。

 ああ、しくじった。

 思い切りしくじった、私は馬鹿だ。

 相手のことを考えていなかった。

 未熟だった。

 知識があっても何の意味がないじゃないか。

 自分の愚策について反省すべきところしかない。

 頭を抱えたい。


 ……頭まで手が上がらないけれど。


 すっかりと意気が消沈してしまったため、モールス信号――授乳をそこで止める。


「……何か今日はリズミカルだったわねぇ」


 そこまで気が付いているのならば変化点から推理してくれよ。頼むよ。

 その願いは聞き届けられず。

 母親は再び事務所へと戻ってしまった。

 どうすればいい……考えろ……

 私は思考を深くする。

 伝える手段は他にないのか?

 いや、それよりも他に考えることは無いのか?

 ぐるぐるぐると思考が駆け巡る。

 やがて、私の中で落ち着いた結論が出た。


 ――とりあえず、警察が来るまでは、別のことを考えよう。

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