第8話 私誘拐事件 07

 私の中に無駄にあるこの知識。

 何でもあるというのは便利なモノだ。

 きっと全てではないのだろうけれど。

 しかし、何故覚えていたのだろうか。私の前世は軍事オタクでもあったのだろうか。

 まあ、前世の記憶を何一つ覚えていないから、そんな仮定も仮説を立てることも意味は無いのだろうけれど。

 ――話を戻そう。

 三種類の行動なら、授乳時に起こせる。


 吸う。

 舐める。

 待機する。


 この三種類を活用すれば、どんなに長いメッセージだって、具体的に伝えられる。

 よし。

 母親が胸をはだけたら実行するチャンスだ。

 そこから伝えよう。

 メッセージはこれだ。





 シンプル、かつ、今の時点では最善のメッセージだ。

 ベビーカーを調べれば何かが出る。

 私自身もその目的に判別がついていない以上は、こう伝えるしかない。

 気付いてくれ、頼むから。

 祈りを込めて時を待つ。

 トイレに入室した。


「はいはーい。おっぱいあげまちょうね」


 ――今だ!


『舐める』行為は『短音』。

『吸う』行為は『長音』。


 気持ち吸う方を長めに取ろう。それで『長音』だって気が付いてもらえるかもしれない。

 よし実行だ。



 舐める

 舐める舐める



 これで『ベ』だ。

 次は『ビ』。



 吸う吸う舐める舐める吸う

 舐める舐める



 よし、この調子で行くぞ。



 舐める吸う


 舐める吸う舐める舐め――




「あん」



 感じているんじゃねえよ、この母親。

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