第4話 私誘拐事件 03

 ――やられる。


 真っ先に脳裏によぎったのは、泣いていることをうるさいと思われて殺害されることだ。赤子の泣き声はストレスになるというのは理解できる。

 どうしようか。

 結論は瞬時に出た

 私にはどうしようもない。

 考え方を伝えるすべがない今では、私を殺害することのデメリットなどを男に説くことが出来ない。

 抵抗するには身体が幼すぎる。

 生後半年。

 ここまで無力な自分に後悔したことは無い。

 本当に泣きたい気分だ。

 泣いているけれど。


「必要なのはアレだけだし、もうここでいいよな」


 元に戻す、という行為を放置して、彼は私に手を伸ばす。

 恐らくここではなく、先程のトイレかなんかで殺害するのだろう。

 待て、早まるな。

 誘拐と殺人とでは刑期が違う。一時の感情で何かするのは得策ではない。

 そう訴えたいのに訴えられない。


 ……ここで終わりか。


 ある意味悟ってしまった。

 私の人生、短かったな。

 半年で終わるとは思わなかった。

 次に生まれる時は、事件に巻き込まれない子に生まれたい。


 そう絶望していた――その時だった。





「あれー? どうしておじさん、ウチのベビーカー持っているの?」

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