152話 ジネットの悩み事
ジネットの話は、にわかには信じがたいものだった。
「デリアとミリィが、口論?」
「あ、いえ。口論と言いますか……」
ジネットは慌てた様子で訂正の言葉を述べ、それからやや落ち込んだ様子でぽつりぽつりとその時の状況を語り出す。
「ここ最近、ミリィさんのお顔を見ていませんで……でも、ミリィさんはネクター飴の製造とか、新しいお仕事も増えてお忙しいのかなぁ……と、思っていたんです」
けれどそうではなかった。
だからこそ、ジネットは今こんなに沈んだ表情を見せているのだろう。
「それである日――二週間くらい前になりますが……教会へ行った帰り、偶然ミリィさんをお見かけしたんです」
ジネットの表情が一層曇る。
眉根が寄り、悲痛さが漂う。
「ミリィさん……なんだかとてもやつれているように見えました。いつもの、あの可愛らしい笑顔も影を潜め、こう……無理に笑おうとしているような……そんな風に見えました」
一言、言葉にする度に胸が痛むかのように、ジネットは胸を押さえる。両手を握り、まるで祈っているようにも見える格好だ。
「雨が降らないから、お花たちのお世話が大変だと……そんなことをおっしゃっていました」
ミリィたち生花ギルドは、四十二区内の森を管理している。
雨が降らないために、そこや、そこ以外の花々に特別な世話を焼いているのだろう。
雨が降り過ぎても、降らな過ぎてもダメ。
植物を育てるってのは大変だ。
「ですので、今度陽だまり亭に美味しい物を食べに来てくださいねとお伝えしたんです。こっそりと大盛りのサービスをしますからと…………はわゎっ! あの、違うんです、これはその、贔屓とかではなくて、ミリィさんがあまりにもやつれていたのでつい……」
大盛りサービスと言ったところで、たまたま俺と目が合った。それで懸命に言い訳をしているのだろうが……別にいいよ、そんなことを必死に弁解しなくても。
どうせ、注意したってお前はサービスをしちまうんだし。
「それで、ミリィはなんて言ってたんだ?」
ジネットがミリィと話をしたという二週間前から、今日現在に至るまで、ミリィは陽だまり亭にやって来てはいない。
「はい、あの……『時間が出来たら』と」
つまり、ミリィはこの二週間『時間が出来ない』状況にいるということだ。
なるほどな。
だからジネットは、窓の外を眺めてはため息を漏らしていたのか。
来ない待ち人の姿を探して。
「それで、ジネットちゃんが心配するのは分かるよ」
腕を組み、自分も心配だと言わんばかりの表情でエステラが言う。
「けど、デリアと口論していたっていうのが、どうもピンとこないんだよね」
「あ、あの。それは、わたしの表現に問題があるのかもしれません。口論と言っても、お互いに言い合っていたわけではなくて、デリアさんが凄い剣幕で……っていうと、デリアさんが悪いように聞こえてしまうかもしれませんが、決してそういうわけではなくて……あの、つまり……」
「いいから落ち着け。大丈夫だから」
俺たちはどちらのこともよく知っている。
一方向からの情報でデリアやミリィの人格を否定するようなことはないさ。
「とにかく、お前の見たままを話してくれないか」
「はい……語弊があったら、申し訳ないですが……」
そんな前置きをして、ジネットは再び話し始める。
「これは、ミリィさんとお会いしたのとは別の日で、だいたい一週間くらい経った後のことなんですが……」
ということは、今から約一週間前のことだ。
「教会へ伺った帰り、誰かの大声が聞こえて、わたしは川の方へ向かって歩いていきました。そこで見たんです……その…………デリアさんが、ミリィさんに凄く怒っていて……ミリィさんも、なんだか懸命に反論を、されていて……」
「ミリィが、反論?」
にわかには信じがたいという表情を見せるエステラ。
そんなエステラの顔を見て、ジネットは慌ててフォローを入れる。
「決して言い合いという雰囲気ではなく、なんと言いますか…………切実な感じで訴えかける……と、いう感じでした」
どちらも悪くないという点を必要以上に強調するジネットを介してでは、やはり少し要領を得ない。
「実際に会いに行ってみるかい?」
「そうだな」
俺はエステラの意見に賛同する。現状ではなんとも判断しづらい。
それに、二人とも、ここしばらく顔を見ていない。
セロンの結婚式の頃から雨が少ないという話は聞いていたが……
あの後、一度まとまった雨が降ったこともあったが、それ以降はまたずっと雨は降っていない。となれば、現在の水不足は相当深刻なはずだ。
その対策で忙しいのだろうか。
「……デリアは一週間ほど前、ポップコーンを大量購入していった」
「甘い物を買いだめしていったのか?」
「……そう。しばらく時間が取れなくなるからと」
ポップコーンなんか日持ちのしないものを買いだめなんかして……しけって美味くなくなるぞ。
何か、甘い物でも差し入れてやれば話を聞かせてくれるかもしれない。
しかし、やつれていたというミリィの方も心配だ……
「あの、ヤシロさん……」
自分が話したことを後悔でもしているかのように、ジネットの表情が曇っている。
湧き上がる不安を押さえつけるように自分の胸を押さえつけるジネット。瞳が揺らいでいる。
「わたしも、何度も会いに行こうとは考えていました……でも、お忙しい時にお邪魔したりしたら……ご迷惑になるのではないかと思うと、躊躇ってしまって……」
ミリィなら、忙しくてもこちらに気を遣って時間を作ってくれそうだ。
その埋め合わせで、自身の睡眠時間や休息時間を削ったとしても。
そう思ったから、ジネットはじっと待つことを選択したのだろう。この陽だまり亭で。
「でも、もし倒れてたりしたら、助けも呼べずに一人で大変かもです」
「――っ!?」
ロレッタの言葉に、ジネットが息をのむ。
その可能性には思い至ってなかったようで……
「ど、どうしましょう……わたし、知っていたのに…………こんな見捨てるような、なんて酷いことを……っ」
「待て待て待て! まだそうと決まったわけじゃないだろう!」
「でも……っ」
「よし、分かったよジネットちゃん! それじゃあ、まずはミリィのところへ行ってみようじゃないか」
今にも泣き出しそうなジネットを宥めるように、エステラがその大きな瞳を覗き込んで話しかける。
「それでいいかな、ジネットちゃん?」
「……はい」
倒れている心配があるのはミリィの方だ。
デリアはそういう心配がないからな。
これまで、誰にも言えずに一人で溜め込んでいた不安が溢れ出したジネットを安心させるには、その方がいいだろう。
「……もっと早く相談してくれればよかった」
「そうですよ、店長さん。あたしたち仲間じゃないですか」
「すみません……雨不足に端を発することですので、みなさんに余計な不安を与えるだけになるのではないかと……」
自然災害が相手では手の打ちようがない。
そう思って黙っていたようだ。やきもきさせてはいけないと。
「けど……そうですね。もっと早くにお話していればよかったですね……すみません」
深々と頭を下げるジネット。
「あぅっ、そ、そんなつもりじゃ……、あ、あたし、責めているわけではないですからね!」
「はい。それはよく分かっていますよ」
微かに、ジネットが微笑みを見せる。
話したことで、ほんの少しでも心が軽くなったのかもしれない。
ジネットの顔に笑みが戻ると、食堂内の雰囲気が少しだけほっこりと和らいだ。
やはり、「あるところ」に「あるべきもの」がないと収まりが悪いよな。
「……早急に対処が必要と、認識を新たにした」
マグダがトラ耳をピンと伸ばして俺たちを見渡す。
「……笑顔は最高の調味料」
ふんすっと、鼻息を漏らすマグダ。
上手く言ったつもり、らしい。……が、周りの反応がイマイチと見るや、トラ耳をピコピコと揺らして……
「……なんちゃって」
と、誤魔化した。
「いや、その通りですよマグダっちょ! マグダっちょいいこと言ったです! みなさん、マグダちょに拍手です!」
パチパチと、一人で拍手を始めるロレッタ。
エステラがそれにつられ拍手を始め、俺もなんとなく追従し、しまいにはなぜかジネットまでもが拍手に加わった。
「……ロレッタ。はしゃぎ過ぎ」
「フォローしたのにたしなめられたです!?」
そのフォローが少し強引で恥ずかしかったのだろう。マグダが率先して拍手をやめさせていた。
しかし、マグダの言うことは間違いではない。
ジネットの笑顔は、間違いなく陽だまり亭の売りの一つなのだ。
ジネットの笑顔を目当てに来る客も大勢いる。ムム婆さんやその周りのジジイども。
四十二区の街門を目当てにやって来る木こり共も、夕方にはここに来てジネットの笑顔に癒されていたりする。
仕事中は努めて笑顔を心がけているようだが、やはり燻る不安はふとした時に表情に表れる。
無理をした笑顔なんか、すぐに見破られてしまうものなのだ。
ジネットみたいに単純なヤツならなおのこと。
だからこそ、マグダの言う通り、ジネットの悩みはすぐにでも解消してやらないといけない。
俺も、どうせ見るなら元気な笑顔の方がいいしな。
……って、何言ってんだ、俺。
「ジネットに元気がないと、陽だまり亭の売り上げに影響が出るかもしれない。これは由々しき事態だ」
そう、こいつは利益のためだ、うん。
ジネットの不安を取り除いてやるのは、広い視野で見れば俺の利益に繋がるのだ。
なにせ……
「ジネットを見ていると、食欲が湧くからな」
条件反射みたいなもんだ。
ジネットの笑顔を見ると、美味い物が食いたくなる。
そんな客は少なくないはずだ。
そういう固定客のためにも、ジネットにはもっと自然に笑っていてもらわないとな。
「……ヤシロ」
「お兄ちゃん」
「ヤシロ」
マグダにロレッタ、それからエステラが俺を見つめる。
よせよ。たまには俺だっていいことくらい言うんだ。感動とか、すんじゃねぇよ。
「「「こんな時までおっぱいの話をしないように」」です」
「誰がジネットのおっぱいを見て食欲が湧いとるか!」
おっぱいはおかずだとでもいうのか?
バカモノ! 主食だ!
いや、そういうことでもないな……
あ~ぁ、俺のこのイメージもどうにか払拭出来ないもんかねぇ。
「あの、ヤシロさん……」
少し不安げに、ジネットが俺の顔を覗き込んでくる。
「……違ったんですか?」
「お前もか、ジネット」
谷間をガン見しながら握り飯を食うぞコノヤロウ。
「くすっ……うふふ」
思わずといった感じで、ジネットは噴き出し、肩を微かに震わせて笑い出す。
そして、思わずといった感じで……目尻から涙を零した。
「え……あ、あれ?」
涙を零した本人が一番驚いた様子で、慌てて目尻を押さえるが、一度自覚すると涙は止まらなくなるもので……
「ごめんなさい……あの…………違うんです……これは、そうじゃなくて……」
必死に笑顔を作ろうとするジネットの頭を、エステラがそっと抱きしめる。
ぽんぽんと、優しく頭を叩いて、「大丈夫だよ」と言葉をかける。
「……すみま………………うぅ……っ」
小さな呻きを漏らし、ジネットが身を震わせる。
泣き顔を見られまいと、エステラの胸に顔を埋めて、声を必死にこらえて……
忙しさから体を壊し、自分の知らないところで倒れているかもしれない。
それは、ジネットにとっては最もつらく、もっとも恐ろしいことだ。
きっと、祖父さんの時のことを思い出してしまったのだろう。マグダが大怪我をした時にも、こいつはかなり取り乱していたからな。
祖父さんが倒れた原因が過労かどうかは、今となっては知りようがないが、ジネットのことだ、「自分がいたから無理をさせた」と思い込んでいても不思議ではない。
こいつの無茶をしてしまう性格は、そういうところからきているのかもしれない。
少しでも他人に負担をかけまいとして……
これは、いよいよ猶予がなくなったな。
早急に手を打たなければ。
ジネットが落ち着くには時間がかかるだろう。
しかし、それをただ待っているわけにもいかない。
午後の、比較的客の少ないこの時間を無駄に浪費するわけにはいかない。
行動を起こすと決めたら、即実行だ。
効率悪く先延ばしにしてしまえば、その分解決が遅くなる。
「エステラ。雨不足はそんなに深刻なのか?」
陽だまり亭で使用する水は井戸から汲み上げる地下水なので、それほど水不足は感じていない。
場所によっては、伏流水を使った浅井戸なんかもあるようだが、陽だまり亭の井戸はもっと深層にある地下水を汲み上げているため、あまり水不足を実感はしていない。
もっとも、それも時間の問題かもしれんが。
「そうだね……川の水位は随分と下がってきているようだね」
「あ、それならあたしもそう思っていたです」
ロレッタが挙手してエステラの話に補足を付ける。
「ウチの近所の川も随分と水位が下がって、飛び込みが出来なくなったって弟たちが言っていたです」
ロレッタの住むニュータウンには、二十九区から繋がる川がある。
その川は数度大きくうねりながら、デリアたち川漁ギルドが漁をする川に通じているのだ。
そこの水位が下がっているのだそうだ。
「で、お前ら兄妹はまだ川で水浴びをしてんのか?」
「はぅっ!? いや、その……小さい子たちは、タライみたいな狭いのは好きじゃないみたいで……川遊びついでに水浴びも済ませてるです……」
かつて、ニュータウンがスラムと呼ばれていた頃、こいつらには金がなく、川での水浴びを余儀なくされていたわけだが……今は結構稼いでるだろうが。家で入れよ。
「まさか、密漁はしてないだろうね?」
「それはないですっ! 誓って!」
エステラの指摘に、ロレッタは渾身の力で両腕を大きく振る。
「川漁ギルドのお手伝いに行った弟たちが、それはそれは厳しく躾けてますですから!」
あぁ、なるほど……デリアの怖さに直接触れた連中が命がけで教え込んでるんだな。
「デリアさん……お兄ちゃんがいないところではホント……シャレにならない人物みたいです……我が家では、副ギルド長のオメロさんが英雄視されているです」
デリアは常にフルパワーだからな。しかも自分基準の。
常人には耐えられないことも多々あるのだろう。
そんな時、身代わりになってくれるのがオメロなのか……よかったなオメロ。お前、下には相当慕われているみたいだぞ。
ちっとも羨ましくないけれど。
「前は、『滝に当たれば一瞬で綺麗になるー』とか言って、『滝洗い』が流行ってたですけど……」
「そんな危険なことしてんのか、お前んとこの弟たち……」
「妹もしてるです。すっぽんぽんで滝を通過すると綺麗になるです」
……周りにハビエルとかいないか、よく見張っとけよ。
「もしかして、ロレッタもやってんのか?」
「してないですよ!? あたしはちゃんと家でお風呂入ってるです!」
あぁそうかい。
なんか安心したよ。
「コ、コホンです!」
頬を薄く染め、ロレッタが咳払いをする。
ちらりと軽く睨まれた。
なんだよ。自分で言い出したくせに。
「弟たちによるとですね、『滝のパワーが弱くなった』だそうなんです」
「おそらくだけど、二十九区でも水不足が起きているんだろうね」
エステラが推論を補足として述べる。
まぁ、日照りはどこでも同じだろうしな。上流が干上がれば下流も干上がる。当然のことだ。
「それで、崖を崩して水をもっと流れるようにしようとか言ってたです」
「ダメだよ!? 全力でやめさせてね!? 無許可でそんなことしたら戦争になるから!」
二十九区にも川漁ギルドがいるのだろうし、川の形を変えてしまったら大問題になるだろう。
ロレッタの弟たちは、崖に穴を掘って巨大な洞窟を作っていたりした。
ロレッタ一家の避難場所になっていたり、去年の大雨の時にウーマロたちが作業場にしていたりしたわけだが……
「あの洞窟って、今どうなってるんだ?」
「今は緊急避難場所になってるです」
ウーマロたちに建ててもらった新居は雨漏りの心配も床が抜ける心配もないため、ロレッタの家族が避難することはもうほとんどない。
そこで、万が一の災害の際、ニュータウンの住民が避難出来る場所となっているらしい。
要するに、今では使用されていないってことだな。
「近所の子供たちが遊び場所にしてたりするです。雨の日でも走り回れるですから」
まぁ、その雨が降らないって話をしてるんだけどな。
「あの……ぐすっ」
鼻を鳴らし、ジネットがゆっくりと顔を上げる。
「ジネットちゃん。もう平気?」
「はい……すみませんでした。お洋服を汚してしまって」
「いいよ」
目を赤く腫らしたジネットをエステラが撫でる。
ジネットが慰められている光景ってのはなんだか新鮮だ。
あんまり見たいものではないけどな。
「あの……ミリィさんのところへ行くなら、わたしも一緒に連れて行ってくれませんか?」
ミリィのことが心配で仕方ない。そう顔に書いてある。
「もとよりそのつもりだ。お前がいた方が、ミリィも元気が出るだろう」
「……そうだと、いいんですが」
「そうに決まってる」
あの、極度の人見知りだったミリィが最初から心を開いていた数少ない友人なんだからな。
「向こうも、心配かけていることを心苦しく思っているかもしれん。陽だまり亭に顔を出せずにいることもな」
「でしたら、何か精の付く物でも作って持って行きましょうか?」
陽だまり亭の味をデリバリーか。
金さえ取らなきゃ問題ないだろう。
「すぐに作れるか?」
「はい。お野菜たっぷりのコンソメスープがあります。温めてきますね!」
さっきまでの反動か、いつも以上に元気に言って、ジネットは厨房へと駆け込んでいった。
「料理をすれば、少しは元気になってくれるかな?」
「まぁ、大丈夫だろう」
ジネットはそこまで弱いヤツじゃない。少なくとも、俺はそう思っている。
「……ヤシロ」
ジネットの後ろに付いて厨房に入っていったマグダが、一人ですぐに戻ってきた。
手には二つの袋が持たれている。
「……ミリィとデリアに。ハニーポップコーンの差し入れ」
「あたしたちがお店をしっかり守ってるですから、お兄ちゃんたちはミリリっちょたちの話を聞いてきてです」
ジネットが抜けるとなれば、店を守るのは自分たちの仕事だ――と、こいつらの中ではそんな自覚が芽生えているのかもしれない。
なんとも頼もしく成長してくれたもんだ。
このハニーポップコーンは、一緒に行けないことに対する、せめてもの気遣いというわけか。
「分かった。お前らが心配してたってこと、きちんと伝えておく」
「……任せておく」
「だから、こっちも任せておいてです」
あぁ。しっかり頼むぞ、二人とも。
「すみません。お待たせしました」
少し大きめのバスケットを持って、ジネットが厨房から出てくる。
随分と急いで作ったようだ。早くミリィの元へ行きたいという表れか?
「準備だけして持ってきました。必要があれば、ミリィさんの家の台所を借りて調理します」
なるほど。そっちの方が温かい物を提供出来るか。
「それじゃあ、行くのはボクとジネットちゃんとヤシロでいいね?」
「あんま大人数で行ってもプレッシャーになるだろうしな」
「はい。わたしもそう思います。まずはミリィさんのお話を聞いて、その後デリアさんのところへ行きましょう」
ジネットが積極的に意見を言う。
やはり、こいつは少し変わった。待つだけの人間ではなくなったのだ。
「ヤシロさん……もし、わたしが間違ったことをしようとしたら、いつものように止めてくださいね」
少しだけ、緊張したような面持ちでそんなことを言う。
いつものように……
言われてみれば、こいつが不用意な発言をしかけたのを何度も止めていたっけな。
ミリィの負担になるかもと、誰にも相談しなかったことを失敗だと、相当悔やんでいるようだ。
そのため、少しだけ気持ちが前のめりになっているのだろう。
そして、それをジネット自身が自覚している。
間違ったことをしようとしたら止めろ……か。
随分と信用されてるんだな、俺は。
「……エステラ」
「エステラさん」
「ん? どうしたんだい、二人とも?」
ジネットが俺に「わたし、信じてます」みたいな視線を送っている横で、マグダとロレッタがエステラに視線を送りつけていた。
「……マグダはエステラを信じている」
「頼れるのはエステラさんだけです」
「そ、そうなのかい? そう言われると、ボクも頑張っちゃいそうだな」
「……最近の店長はぼーっとし過ぎでヤシロのセクハラに気付かないことが多い」
「でもエステラさんなら、お兄ちゃんをきちんと阻止してくれるって、あたし信じてるです!」
「え、そこなの……ボクの信用されてるとこって?」
というか、俺は信用されてないんだな…………覚えてろよ、お前ら。
二人へのお仕置きは帰ってから考えるとして……
俺たちは、ミリィの家を目指して陽だまり亭を出発した。
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