137話 第二試合 詰め込む詰め込む

 第一回戦が終わって、ちょっとした悶着が起こった。


「なんで俺が最下位なんだよ!?」


 四十一区のイサークが大会実行委員に噛みついていたのだ。あ、いや、物理的にではなく、比喩的な表現でな。


 積み上げた皿の数は四十区のオースティンも四十一区のイサークも同じ四十九枚。そして、五十皿目の残りはイサークの方が少ない。

 だが……


「イサーク選手は食べこぼしが多く、八皿分減点されます!」

「なん……っだよ、そりゃあ!?」


 あいつはルール説明を聞いてなかったのか?

 あれだけ食い散らかしゃあ当然だ。


 と、隣を見ると……ベルティーナが真っ青な顔をして立っていた。


「もしかして私は……そんなに、頑張らなくても、よかったのでは?」


 みんなー! ルールちゃんと聞いてー!


 イサークが減点になると知っていたら、オースティンにだけ気を配っていればよかったわけで……っていうか、そのオースティンですらも、イサークに引っ張られるようにペースを上げていたわけで…………ルール聞けよ。イサークは最初っから負け確定だったんだからよ。


 まぁ、かくいう俺も、あの雰囲気にのまれてちょっとハラハラしちゃっていたけどもな。


「それより、ベルティーナ」

「はい。ありがとうございます」


 何も言っていないのに礼を言われた。

 それ以上言うなということか。

 分かっているからと。

 へいへい。もう大丈夫だってことでいいんだな。


 チラリとレジーナを見ると、すぐ俺の視線に気付いて、満足そうにこくりと頷きをくれた。


「えぇ、おっぱいやったで」

「なんの頷きだったんだ、今のは!?」

「いや、えぇおっぱいやったっていう……」

「二回も言うな『えぇおっぱい』!」


 つか、なんで胃薬を処方するのにおっぱいを見る必要があるんだ!?

 くっそ。次からは俺が問診と触診をしてやる!


「お兄ちゃん!」


 盛り上げ隊長のロレッタがぴょこりんと、俺の前に跳んでくる。


「次は誰が行くんです? 煽りの文句を考えたいので、教えてです」

「お前って、意外と下準備しっかりする派なんだな」


 ノリと勢いだけで生きているのかと思っていたが。


「もちろんです! 誰が出場することになっても、きっちりしっかり盛り上げてみせるですっ!」

「んじゃ、お前行ってこい」

「それは想定してなかったです!?」


 さすがに、自分が出場している時に、自分で盛り上げるのは無理か。


「大丈夫だ。応援はノーマが覚醒したし、パウラもネフェリーもいる」

「私もいますっ!」


 あえて無視したナタリアが、グイグイと割って入ってくる。


「ま、まさか……あたし、応援団クビですか?」

「そんなことするかよ」


 今こそロレッタが輝く時なのだ!


「ロレッタの盛り上げ力は四十二区には欠かせないものだ。一勝を上げ、ノリに乗っているこの雰囲気をいい具合に持続させるには、ここでお前を投入するのがベストなんだ! 舞台の真ん中で、盛大に盛り上げてきてくれ!」

「おぉっ! それはあたしにしか出来ない盛り上げ方ですね!?」

「おう! 任せたぜ!」

「はいです! しっかり任されたです!」


 やる気に火が点いたロレッタ。

 うんうん。お前はただ盛り上げることを考えて善戦してくれればいい。


 たぶん、ここで一回負けるし。


 俺の計画では、ベルティーナと、マグダ、そしてデリアに甘い物を任せて、これで三勝出来ると踏んでいる。

 今回、イサークが減点されたことにより、最下位は四十一区。

 あのままイサークが勝っていれば、四十区が最下位となり、次の料理は四十区が担当することになるはずだった。

 四十区の名物と言えばケーキ。


 もし、ここでオースティンが負けていたらデリアを投入していたところだ。

 だが、負けたのはイサークだった。


 四十一区のメニューは、おそらく肉系の物だろう。

 デリアでは少々不安が残る。


 また、俺たちが一勝を上げたことにより、四十区も四十一区も早く一勝を手にしようと、強力な選手を投入してくる可能性が高い。

 下手したら、暴食魚グスターブが出てくる可能性もある。


 ならば、ここは無難に引いて、負けて元々、勝てればラッキーくらいのスタンスでいた方がいい。

 一位か最下位になれれば優勝も見えてくる。

 もし勝てればリーチとなり、マグダで優勝が決まる。

 もし最下位なら、次のターンでレモンパイでも出してやればデリアが一勝を上げてくれる。

 四十区が最下位になった場合も、結果は一緒だ。


 ロレッタが一位になり、四十区が最下位になるのが一番の理想なのだが……まぁ、そこまで上手くは行かないかな。



 そんなわけで、最下位となった四十一区が料理を担当することとなり、第二回戦の準備が始まった。

 観覧客の入れ替えも同時に行われる。


 しばらく時間があくため、ここにいる連中は各々好きなように過ごしている。

 ベルティーナとジネットは一度会場の外へと出て、教会のガキどもと話しに行っている。

 ノーマ率いるチアガール軍団は、何やら応援の練習を開始していた。振りを付けて応援するつもりらしい。


「一時間のインターバルは、ちょっと長かったかな」


 すっかり退屈した様子のエステラが、伸びをしながらそんなことを言う。


「それは、勝ってるから言えることだよ。負けてる方はこの一時間で作戦を立てて、あっちこっち奔走するんだ。短いくらいかもしれんぞ」

「ヤシロはしないのかい、奔走」

「あのな……」


 にやにやと、からかうような目で俺を見てくるエステラ。

 お前は何か勘違いしてないか?


「四十二区の代表者はお前だろうが。奔走ならお前がしろよ」

「じゃあヤシロ。素晴らしい作戦を授けよう」

「なんだよ?」

「『おまかせで』!」

「…………お前なぁ」


 こいつは、ここ最近で色々反省したんじゃなかったのか?

 領主として、きちっと責任を持って行動するよう心がけるのかと思いきや、『おまかせ』と来たか……


「……だから育たないんだよ」

「か、関係ないよね!?」


『どこが』とは言っていないにもかかわらず、エステラはしっかりと両腕で胸を押さえていた。


「お兄ちゃん! ちょっと質問があるです!」


 鼻息を荒らげて、ロレッタがやって来る。

 まゆ毛をキリリと上げ、なんだか勇ましい表情だ。


「物理攻撃は、有りですか!?」

「有りなわけあるか!」


 それを認めたら、真っ先にお前がノックアウトされちまうぞ。向こうは狩猟ギルドや木こりギルドなんだからな。


「ふっ…………ふふふふ……な、なんだか、やる気が満ち満ちてきたです! 思えば、いつもいつもあたしはサポート……隅っこに存在するような、ちょびっと控えめな女の子だったです」


 え、どの辺が?


「しかし! 今回は、あたしが主役です! 見ててです、お兄ちゃん! あたしが、華麗に、盛大に、盛り上げてみせるです!」


 握り拳を突き上げ、ロレッタが天を見上げる。

 なんだか、物凄く盛り上がってるな…………ロレッタが。

 お前じゃなくて、周りを盛り上げてくれな。


「お……おぉぉおお……なんか、急にプレッシャーが…………お腹痛いです」

「おぉーいっ!?」


 こいつ、マジで大丈夫か!?


「しょうがねぇな……レジーナ」

「すまんなぁ……アホの娘につける薬はあらへんわ」

「いや、胃腸薬を頼みたいんだが……」


 アホの娘につける薬なんかがあるんなら、すぐにでも連絡してほしいね。

 つけたいヤツがたくさんいるから。



 そうして時間は流れていき……



 ――カンカンカンカン!



 スタンバイの鐘が打ち鳴らされる。


「よし、ロレッタ! お前の力を見せてやれ!」

「ふんすっ! 頑張ってくるです!」


 拳を握り、気合いを入れて、ロレッタは舞台へと上がる。


「大丈夫かな、ロレッタ」


 エステラが不安そうに言う。

 まぁ、望み薄ではあるな。なにせ、ロレッタは『他の一般人より、ほんのちょっとたくさん食べる』程度なのだ。

 ここに出てくるような、大食い自慢相手に太刀打ち出来るとは思えない。


「まぁ、負けて元々、勝てればラッキーだ」

「なんだ、そういうつもりだったのかい?」


 エステラがため息を漏らす。

 少しは気楽に見ることが出来るようになったんじゃないのか。


 そう思ってチラリと視線を送ると、エステラは凄く真面目な表情をして俺を見つめていた。

 ……え?


「ちゃんと、フォローはしてあげるんだよ。ロレッタは、あれでなかなか負けず嫌いだからね」

「え……」


 負けず嫌い…………か。

 確かに、そういう一面もあるかもしれんが…………

 フォロー……フォローねぇ……


「ロレッタたちは駒じゃないんだよ。ちゃんと、感情の部分を配慮してあげなきゃね」

「ふん……」


 そんなこと、分かってるわい。

 …………分かって、いたかな?

 う~ん……しょうがない。あとで好きなものでも奢ってやるか。


「……つか、責任を丸投げしてきた領主代行に言われたくはねぇな」

「あ、見て見て、他の区の選手も出てきたよ」


 ……こいつ。


「あぁ、よかった。間に合いました」


 ぱたぱたと、ジネットが駆けてくる。

 会場の外から走ってきたのだろう。ベルティーナがまだ戻ってきていないところを見ると、ガキどもに捕まってたな。


「ふふ、ロレッタさん。緊張されてますね」

「声援でも送ってやれ。お前の声で勝利がぐっと近付くかもしれんぞ」

「そうなんですか? ではっ。がんばってくださぁ~い! ロレッタさぁ~ん!」

「……残念ながら、一筋縄ではいかないと思われる」


 ジネットの声援の余韻を断ち切るように、マグダがぬっと現れる。


「どういうことだ?」

「……四十一区の出場選手が分かった」


 こいつはそんなもんを調べに行っていたのか。


「……次に出てくるのは、スイギュウ人族のドリノ。四つの胃を持つ、驚異的な男」


 と、マグダが言った、まさにその時、四十一区の観覧席から歓声が湧き起こった。

 ドリノとかいうスイギュウ人族が舞台に上がってきたからだ。

 頭に太い二本の角を生やした大男だ。

 まさにスイギュウだな。


 見るからによく食いそうな、手強そうなヤツだ。

 だが……


「四つの胃を持ってるっつっても、順番に通っていくんだろ? 別に使い分けられるわけじゃないし、あんま意味ないんじゃないのか?」

「……それが、そうでもない」

「え……?」


 マグダの瞳が妖しく揺らめく。


「……『チェンジ・ザ・ストマック』という、牛系の獣人族の中ででもほんの一握りの者しか使えない技を、ドリノはマスターしている」

「『チェンジ・ザ・ストマック』?」

「……四つの胃を自在に使い分ける、驚異的な技」

「そんな、大食い大会でしか使えないような技があるのか……?」

「……牛系の獣人族の中でも、一握りの者しか使用出来ない、レアな技」

「いや……、需要がないだけじゃないのか、その技?」


 どう考えても他に使いどころが思い浮かばない。

 しかし、四つの胃を自在に使い分けられるとなれば……こりゃ勝てないぞ。四対一みたいなもんだ。


「……四十一区は、勝ちを取りに来た」

「みたいだな」

「四十区の選手も手強いですわよ」


 と、四十区に精通しているイメルダが情報を持ってきてくれる。


「不屈の精神を持つ、キジ人族のゼノビオス。彼は、かなり厄介な男ですわ」


 舞台上に、鮮やかな赤い顔をした、なんとも派手な男がスタイリッシュなポーズで立っていた。

 なんというか、こう……『スタイリッシュッ!』って言いたくなるような立ち姿なのだ。


「……スタイリッシュだな」

「彼を見た人はみんなそう言いますわね」


 線が細く、華美で、どちらかというと、大食いよりも美食の方が似合いそうな、どこかの貴族然とした男だ。

 あいつが、そんなに厄介な相手なのだろうか……


「彼は…………通算二百三十九回ワタクシを食事に誘い、二百四十回断られてもなお食事に誘ってくる、不屈の精神を持っているんですの」

「それ、しつこいだけじゃねぇか!?」


 で、お前はなんで毎回誘われた回数より断った回数が多いんだよ?


「彼のモットーは『ネバーギブアップ』。好きな言葉は『粘着』」

「うわぁ……もう、関わりたくねぇよ……」


 で、肝心の大食いの方はどうなんだよ?

 まぁ、選手に選ばれるくらいなんだから、それなりには凄いのだろうが……


「みんな。準備が出来たみたいだよ」


 エステラが舞台を指さして言う。


 三人の選手が各々座席に座り、それぞれの前に最初の一皿が配られる。

 テーブルに置かれた今回の料理は、実にシンプルな肉料理だ。拳大の肉の塊をこんがりと焼いただけ。各テーブルには四種類のソースが置かれており、お好みで肉にかけて食べるらしい。


 凄くシンプル。故に、誤魔化しの利かない勝負になりそうだ。



 ――ッカーン!



 高らかに鐘が打ち鳴らされ、試合が始まった。


「ぅぉおおおっ! 見るです! これがあたしの、本気ですっ!」


 開始早々、ロレッタが肉へと齧りつく。

 ナイフとフォークで肉の塊を突き刺し、そのまま持ち上げ、丸齧りしていく。

 ……切らないんだ…………


 小さな口で、大きな肉の塊にかぶりつき、ガジガジガジと、前歯で肉をこそげ取っていく。

 その様はまさにハムスター。げっ歯類特有の食べ方だった。


「……なんだろう、ロレッタの食べ方…………かわいい」

「……ふむ、同意」

「なんだか、小動物みたいですね」

「ワタクシも、その気になればあれくらい出来ますわよ?」


 エステラとマグダがロレッタの食べ方にときめいている。

 まぁ、確かに、なんか可愛いけどな。何がかはよく分からんのだが…………なんか可愛い。


 で、イメルダ。張り合わなくていいから。


「あっ、見てください! 一番で食べ終わりますよ!」


 ジネットが興奮気味に声を上げる。


「おかわりくださいですっ!」


 腕をピーンっと伸ばし、高らかに宣言する。

 ロレッタが一足早く、一皿目を完食した。


 いいぞ。今のところはいい感じだ!

 だが、最初からこんなに飛ばして、あとが持つのか?


「食事は、ゆっくりすると量を食べられないからね。最初に詰め込めるだけ詰め込んで、後半は調整して食べるってやり方がいいんじゃないかな」


 エステラが、独自の考えを披露する。

 それはつまり、ベルティーナ戦法だな。


 それが通用する相手なら……いいんだけどな。


「オラにも、おかわりくれダ!」


 すぐ後を、四十一区のスイギュウ人族ドリノが追従する。

 キジ人族のスタイリッシュ・ゼノビオスは……ナイフとフォークを器用に使い、スタイリッシュに食事を楽しんでいた。……あいつ、やる気あんのか?


「ロレッタ! 負けたら承知しないからねー!」


 パウラの激励に、ロレッタが一瞬肩をビクッと震わせる。

 と、パウラの背後から伸びてきた拳骨が、こつんとパウラを小突いた。


「こら、パウラ。選手を脅す応援団がどこにいるんだい? 応援は、心の支えになるようにしなきゃダメさね」


 なんか、精神面でもノーマがチアガールとして開花している。


「もっとロレッタが喜ぶようなことを言ってやるのが、アタシらチアガールの務めだよ」

「喜ぶって…………」


 ノーマに諭され、パウラが腕組みをして考える……


「い、一位になったら……ウチのソーセージ一ヶ月間食べ放題―!」

「燃えてきたですっ!」


 ロレッタの食べる速度が格段に上がった。

 お前、どんだけ好きなんだよ、カンタルチカの魔獣ソーセージ。


 ――パチンッ!


 と、舞台の上で乾いた音がする。

 見ると、四十区のゼノビオスが右腕を高く上げていた。どうやら指を鳴らしたようだ。

 そして、鮮やかな赤い顔を、前髪を掻き上げるような仕草で撫でて少し斜に構えて言う。


「ヘイ、シェフ! これ、もう一皿もらえるぅ?」


 スタイリッシュッ!


 ……いや、そんなこと言ってる場合じゃないんだ。

 もうあいつは気にしないでおこう。大食い的には取るに足らない相手のようだし。

 ……なのに、視界の端っこでチラチラ見切れて……気になるんだよなぁ、あの赤い顔!


「おかわり、お願いするです!」


 そうこうしている間にも、ロレッタは三皿目に突入した。

 いいペースだ。

 肉の塊は、見た目以上に重量があるらしく、どの選手も思いのほか食が進んでいない。


 砂時計の砂はどんどんと落ちていき、現在、十分が過ぎたところだ。


 約四分の一が経過した時点で、一皿近いリードか…………このまま何事もなく終わればいいのだが。

 ロレッタのげっ歯類食いも、今のところは衰えを見せない。軽快に飛ばしている。


「ぁ……ふ、ふれー、ふれー! がんばってー!」


 ミリィが懸命に声を張り上げる。

 小さな体を大きく見せようと、腕を振り上げてぴょんぴょんと跳ねる。


 なにこれ。テイクアウトしたい。

 こういう目覚まし、どこかにないかなぁ?


「ロレッタさん、頑張ってください……」


 胸の前で手を組み、ジネットが祈りを捧げている。


「……けれど、どうか、無理だけはしないでください」


 祈っているのは、勝利ではなく、ロレッタの体のことのようだが。


「ほらほら! あんたたちも声を出すさね! ウチの、四十二区の代表が戦ってるんだよ! もっと気合い入れて応援するんさよ!」


 ノーマが観客席に向かって檄を飛ばす。

 腰に手を当て、ビシッと腕を伸ばし、なんとも勇ましく群衆を指導している。

 ……の、だが。男性客の八割以上が、ノーマの荒ぶる谷間に視線が釘付けだった。

 試合見ろ、お前ら。そして応援くらいしてやれ。


「いいぞー!」

「俺たちが見守っているぞー!」

「もっとやれー!」

「揺れろー!」

「暴れ狂えー!」


 って、お前ら、おっぱいの応援してんじゃねぇよ! ロレッタの応援するの!

 ほら見ろ! ロレッタも、なんか言われたから、よく分かんないけどとりあえず揺れてみちゃってるじゃねぇか! 「なんで揺れるんだろう?」みたいなキョトンとした顔しちゃってんじゃねぇか!


「ロレッタ! お前のペースでいい! 自分のペースを守って食い進めろ!」

「はいです!」


 観客席の野郎どもがあまりにもアホ揃いなので、俺がきちんと応援してやる。

 ロレッタだって頑張ってんだ。

 応援してやらなきゃ可哀想じゃねぇか。


「ふふ……」

「なんだよ、エステラ?」

「いや、『負けて元々』って言ってた割には、熱心に応援するなって思ってね」

「……うっせぇな。悪いかよ」

「その反対さ」


 エステラが俺の肩に手を載せ、もたれかかるようにして身を寄せてくる。


「ヤシロは、そうやって親心を発揮してる方が『らしい』よ」


 嬉しそうに笑って、俺の背中をぽんぽんと叩く。

 ……何が『らしい』だ。本来の俺は、もっとクールでダーティーな男だっつの。

 知らないだけなんだよ、お前らが。


「おかわりお願いするです!」

「オラも頼むダ!」


 そして、ロレッタ優勢のまま、三十分が経過した…………異変は、そこから始まった。


「…………う…………っぷ」


 ロレッタの手が完全に止まってしまったのだ。

 三十分間、脂っこい肉の塊をひたすら食べ続けたのだ、無理もない。

 しかし、結構なリードをしているから、このまま逃げ切れれば……


「むぁあ、もう駄目ダ。ほダら、いくダ! 『チェンジ・ザ・ストマック』!」


 ドリノが叫ぶと、ドリノの全身が真っ白に輝いた。


「ふぅーむ! 胃がすっきりしたダ! おねーさん、おかわり頼むダ!」


 ドリノの『チェンジ・ザ・ストマック』は、本当に胃を自在に切り替えることが出来る技のようだった。

 さっきまで苦しそうだったドリノが、また空腹時のような勢いで食べ始めたのだ。


「おかわり頼むダ! どんどん持ってくるダ!」

「む、むむ! あたしも、ま、負けない……ですっ!」


 懸命に肉の塊に齧りつくロレッタ。しかし、一口食べては気分が悪そうに顔を歪める。

 ……あれはもう、食えないだろうな。

 無理して詰め込んでも、きっと吐き出してしまう。そんな食い方は体に悪い……


「……ロレッタを棄権させるか」


 これ以上無理はさせられない。


「いいのかい?」

「しょうがないだろ」


 エステラへの答えは、必死に頑張るロレッタを見ながら、自然と口から零れ落ちていた。


「ここでの一勝より、ロレッタの体の方が大事だからな」


 ぽろりと言って……ハッとした。


「あ、いや! 変な意味じゃないぞ?」


 振り返ると、…………あぁ遅かった。


「ヤシロさん……」

「君も、言うねぇ」

「……だから、ハムっ子に懐かれる」

「てんとうむしさん……やさしい」


 みんながニヤニヤした目で俺を見つめていた。

 ……くっ、キャラじゃない発言を、そんな温かい眼差しで肯定的に取らないでくれ。すっげぇ恥ずかしい!


「ヤシロさん。今の言葉、ロレッタさんが聞いたら、きっと喜ばれますよ」

「言えるか! んな恥ずかしいこと! お前ら、絶対言うなよ!?」


 とにかく、棄権させよう。

 そう思った時……


「おおおおおおっ!?」


 会場が揺れ動くようなどよめきが湧き起こった。


「なんだ!?」

「ヤシロさん、見てくださいまし! ゼノビオスが!」


 イメルダに言われ視線を向けると……


「おかわりプリーズ……どうも。パクリ……もぐもぐ…………おかわりプリーズ! ありがとう、こネコちゃん。パクリ…………むしゃむしゃ…………おかわりプリーズ!」


 凄まじい勢いで、スタイリッシュに、肉を平らげていた。

 速いっ!? なんなんだ、あの速さは!?


「おそらく、胃を慣らすために、最初は小さく切ったお肉をゆっくりと食べていたんですわ。そして、残り十五分になったところで、本来の早食いを解禁したと、そういうわけに違いありませんわ!」

「そんなバカなっ!?」

「あれは、いわば……食前肉!」

「酒じゃなくて!?」


 スタイリッシュ・ゼノビオスは、どうやらちょっと変わった人種のようだ。

 肉を食うことで食欲を刺激し、さらに食う。スロースターターというヤツらしい。


「くっ、負けないダ! オラにもおかわりダ! そして、『チェンジ・ザ・ストマック』!」


 ドリノの体が白く発光し、再び食べる速度が上がる。


 一人リードしていたロレッタだったが、瞬く間に差が縮まっていく。

 三皿差……二皿差…………一皿差………………逆転されたっ!?


「は、はぅわぅ……た、食べるですっ!」


 涙目で肉に齧りつくロレッタ。


「待てロレッタ! いい! 勝たなくていいから!」

「無理だヤシロ。観客席を見てごらんよ」

「え?」


 振り返ると……


「いいぞロレッター!」

「がんばれー!」

「かっこいいよー!」

「せーの!」

「「ロレッタおねーちゃんがんばってー!」」

「イケイケ! ロレッター!」

「俺は今、猛烈に感動しているぞぉ! ロレッタァー!」


 観客が、健気に頑張るロレッタに熱い声援を送っていた。

 大きな熱い『想い』が、一人で戦うロレッタを後押しする。


 これは、引けない。


 あいつは、声援にはきっちり応えるヤツだ。

 相手の希望を敏感に読み取り、そしてそれを着実に実行するヤツだ。


 俺が言ったんじゃないか……盛り上げてくれって。


「さぁ! ヤシロも応援しよう!」

「あ……あぁ!」


 こうなったら、残りの時間全部、声を張り上げて応援してやる。


「ロレッタ、頑張れっ!」

「ロレッタさーん!」

「……ゆくのだっ、ロレッタ」

「ロレッター! 君ならイケる! ボクは信じてるよ!」


 俺たちの声が届いたのか、ロレッタの耳がぴくぴくと動く。

 獣特徴の何もない、人間と変わらない耳。


 良くも悪くも普通のロレッタが、今、この瞬間だけは誰よりも特別な存在になっている。

 全員の注目を一身に集め、ロレッタは肉に齧りつく。


「くっ…………えぇい、これで最後ダ! 『チェンジ・ザ・ストマック』!」


 ドリノが三度目の発光をする。四つ目の胃に切り替わった。

 ヤツも、これが最後だ。


「んん~……さすがに、もう……ムリっぽ……です、ねぇ……」


 スタイリッシュ・ゼノビオスがここにきて急激なペースダウン。

 仕方がないのだ。誰も、こんな限界まで食事をしたことがないのだから。


 ゼノビオスの皿は二十枚で止まった。

 ドリノが二十五枚。ロレッタは……十八枚…………ダメか……


「ヤッ、ヤシロさん!?」


 ジネットが俺の袖を引き、珍しく声を張り上げる。

 ジネットの視線の先には…………マジかよ……


「ロレッタが…………復活?」


 怒涛の勢いで肉を飲み込んでいくロレッタがいた。


「おかわりお願いするです!」


 まるでわんこそばのような、リズミカルなテンポで、どんどんと肉が運ばれてくる。

 運ばれてきた肉を掴んでは口へと押し込んでいく。いや、詰め込むと言った方がより正確だ。


 ロレッタは、何かが吹っ切れたかのように、無心で肉を口の中へと詰め込んでいた。


「す……すごい…………一体、どこにあんな力が……」


 ごくりと、エステラの喉が鳴る。

 見ているこっちが息苦しくなるような、鬼気迫る食いっぷりに、観客席は静まり返っていた。


 目が離せない。


 ロレッタが、目に涙を溜めて、頬をパンパンに膨れ上がらせて、それでも懸命に肉を詰め込んでいく……その姿は…………感動すら覚え………………ん?


「お、おかわりっ、お願いっ、です!」


 運ばれてくる肉を掴んでは、口へと詰め込み……頬が膨らみ…………首が膨らみ………………胴体が膨らんでいく………………


「ま、まだまだ入るです! おかわりです!」

「ぐ……なんダ、こいつは…………抜かれるダ……っ!?」


 そして、ついに、『チェンジ・ザ・ストマック』のドリノに並び……再逆転した。



 ――カンカンカンカーン!



 そこで、試合終了の鐘が打ち鳴らされた。


 結果は、四十区のゼノビオスが二十皿。四十一区のドリノが三十八皿。そして、四十二区のロレッタが三十九皿…………なの、だが。


「ロレッタ……大丈夫か?」

「…………(こくこく)」


 俺の問いかけに、ロレッタは小さく頷くのみだった。

 おそらくしゃべれないのだろう。


 なにせ、ロレッタは口も、頬も、首も、脇腹も、体全体がパンパンに膨れ上がっていて、口を開けようものならそこからお肉が飛び出してきてしまうのだから。


 必死に口を押さえ、涙目でこっちを見つめるロレッタ。

 いや、可愛いよ? ウルウルした目は可愛いけどさ…………お前誰だよってくらいにまん丸だからな? 普段なら、大爆笑してるところだからな?


 会場中の視線がロレッタに集まる。

 途中から不穏な空気は漂っていたんだ。

「あれ、あいつ、なんかおかしくね?」って……


 うん、これはきっと…………ダメ、だろうな。


「ロレッタ、ちょっと来い」


 ちょいちょいと手招きをすると、ロレッタは口をキュッと結び、目をウルウルさせつつ、パンパンに膨らんだ体でちょこちょこちょこっとこちらへ歩いてきた。


「よく頑張ったな。皿の数で言えばお前が優勝だ」

「…………(こくこく)」

「……だがな」


 俺は、ロレッタの体をくるっと半回転させ、……観客席に背を向けてやるのはせめてもの情けだ……ロレッタの体を両サイドから押し、圧迫した。


「にょにょっ!?」


 とかいう、奇妙な音を発したかと思うと、ロレッタの口から大量のお肉が「ぴゅーっ!」っと吐き出されていった。……それは、まるで肉汁のレインボーブリッジのようだった。


「お前……頬袋に詰め込んでただけじゃねぇか!?」

「な、何するです!? 折角たくさん詰め込んだですのに!」


 涙目のまま、こちらを振り返り抗議してくるロレッタ。

 頬袋が空になって、いつものスッキリとした輪郭に戻っている。……どんだけ詰め込んでたんだよ。


「オイ、コラ! オオバヤシロ!」

「オオバ君! それはいくらなんでもないんじゃないかな!?」


 舞台奥の通用口から、リカルドとデミリーが飛び出してくる。

 物言いだな。


「頬袋に詰めるなんざ、反則じゃねぇか!」


 詰め寄ってくるリカルド。

 あぁ、怖い怖い。こういう、勝ちに執着してるヤツは、なんつうかこう、目がマジなんだよな。誰も居直ったりしてないってのに、キャンキャン吠えんじゃねぇよ。


「で、でもでも! 四十一区の牛さんも獣人族の獣特徴使ってたです!」

「う~ん。お嬢さん。気持ちは分かるんだけどねぇ……」

「あれ? 四十区の領主さん…………髪型変えたです? さっきと、ちょっとだけ角度が……」

「わぁぁああっ!? なんでもないよ!? 慌ててただけだから! いや、ずっとだと、蒸れるからさ!」


 偽髪だと知らないロレッタの悪意のない一言でデミリーは重大なダメージを受ける。

 もう、認めちゃえばいいのに。


「とにかく! 獣特徴を使って『食べる』のは有りだ! だが、お前のは食べてなかった! 一時的に違う場所に保管しただけだ!」

「で、でもでも! あとで食べるですし!」

「ロレッタ」


 反論するロレッタの頭にポンと手を置き、少し落ち着かせる。


「ちょっと見てろ」


 と、俺は懐からキャラメルポップコーンを取り出す。

 それを放り投げて口でキャッチする。


「こういう食い方をするとして、デリアやマグダが獣特徴を使って、体のずーっと上の方まで食材を放り投げたとしよう…………それは、『食べた』ことになるか?」

「え? ……いや、それは…………ならない……です」

「あとで食べるってのは、それと同じなんじゃないかな?」

「…………でも、あたしのは、口の中ですし…………」

「だぁかぁらぁよぉ! 頬袋の場合は、一回出さなきゃ食えねぇだろうが! 頬袋から直接口に入れられるんならここで実践してみせろよ、こら!」

「ひぐ……っ!」


 リカルドに怒鳴られ、ロレッタが肩をキュッとすぼめる。


「リカルド……」

「んだよ!?」

「………………言い方ってもんがあんだろうが、あ?」

「ぅ…………っ」


 ロレッタをイジメてんじゃねぇよ…………泣かすぞ? コラ。


「……と、とにかくっ! 獣特徴を使って『食べる』行為は有りだが、『あとで食べる』は禁止だ! 異論はあるか!?」


 何かを誤魔化すように、リカルドは声を荒らげ俺とデミリーを見る。

 髪型の微調整を終えたデミリーは、異論はないと頷き、俺も賛同した。


「じゃあ、四十二区は失格! 次の試合の料理は四十区が担当する! いいな!」


 それだけ吐き捨てると、リカルドはさっさと通用口へと向かって歩いていった。


「えっ、あ、あのっ! 失格なら、せめて、次の料理は四十二区に……!」

「ロレッタ」

「……お兄ちゃん」

「…………もういい」

「………………はい、です」


 がっくりと肩を落とし、ロレッタはうな垂れてしまった。


「まぁ、明確なルールを決めておかなかった我々の落ち度もある。どうか、気に病まないでおくれね、お嬢さん」

「……はいです。髪型のステキな領主様……」

「うん…………素直に、受け取っていい、のかな?」

「ロレッタは素直ないい娘だ。他意はない」

「そうかい。それじゃあ、そういうことにしておくよ」


 にこやかに手を振り、デミリーも通用口へと戻っていった。


「俺たちも戻ろうか」

「…………はいです」


 俯くロレッタの背中をさすりながら、俺たちは舞台を降りた。


「惜しかったなぁ、ロレッタ!」


 デリアが言う。


「でもさ、最初にきちんと説明しておかない方も悪いよね!」


 ネフェリーが憤慨している。


「今回のことは仕方ないさね。次で取り返しゃいいんさよ!」


 ノーマが前向きに励ます。


「っていうか、試合自体は凄く盛り上がったんだしいいじゃん! あんた、賑やかなの好きでしょ?」


 パウラがそうやってロレッタを元気づけようとしている。


 温かい言葉に迎えられ……ロレッタは、照れくさそうに鼻をかいた。

 そして、ぺこりと頭を下げて……


「えへへ……負けちゃったです」


 そう言って笑った。


「ドンマイドンマイ。まだ一勝一敗だ」

「……これは、みんなの戦い。まだ落ち込む時じゃない」

「そうですよ。ロレッタさんが頑張っていたこと、わたしたちはみんな分かっていますからね」

「エステラさん……マグダっちょ……店長さん…………はいです! あたし、全然落ち込んでないですよ! 試合は残念な結果に終わったですけど、あたしの本分は応援です! こっからは盛り上げて盛り上げて、みなさんにパワーを分け与えてあげるです!」

「そうそう! その意気よ!」


 ロレッタがいつものように元気な声を出し、パウラが背中をバシンと叩く。「痛いですぅ! パウラさん手加減下手過ぎです!」とかなんとかふざけ合って、敗戦ムードはすっかり掻き消えていた。


「そうです! あたしもチア服着たいです! こっからは応援に全力ですからね!」

「それじゃ、私が着せてあげましょう」

「あぁ、大丈夫です。自分で出来るですよ!」


 ウクリネスの申し出を辞退して、ロレッタは一人で更衣室へと向かう。

 大きく手を振り、向こうを向くその瞬間までずっと笑顔で。


「…………じゃ、行ってくる」

「はい……お願いしますね」

「頼んだよ」

「……ヤシロ、グッドラック」


 静かに会話を交わし、俺は一人でロレッタの後を追った。


 やっぱり、みんなロレッタのことをよく見てるよな。

 あいつの笑顔の種類はもう把握している。

 さっきの笑顔は……ムリをしている時の笑顔だ。


「ロレッタ」

「ふにょっ!? な、なんですか、お兄ちゃん。あたしはこれから着替えるですよ?」

「あぁ。だから、こっそり覗きに来た」

「それ、言っちゃったらこっそりじゃなくなるです」

「おぉ、そうか。盲点だったな」


 ロレッタはこちらを向かない。

 俺も、覗き込むようなことはしない。


 ただ、頭に手を載せ、細くて柔らかいふわふわした髪の毛をもっしゃもっしゃと撫で回す。


「ぁ、あう……なんです? もぅ……」

「俺は、嫌いじゃなかったぞ」

「…………っ」


 ロレッタの動きが止まる。

 もう一言二言は耳を貸してくれるかもしれないな。


「面白くて、奇抜で、お前にしか出来ない、エンターテイメントだった。……結果はちょっと残念だったけどな」

「…………ぐす」

「まっ、次はもっと上手くやれ」

「………………はい、です」


 頭を撫でる俺の手を、ロレッタは両手で掴んでくる。


「……ごめんです」

「何がだよ」

「…………勝て……なかったです…………」

「俺がいつ『勝て』なんて言ったよ?」

「……でも」

「俺は『盛り上げてくれ』って言ったんだよ。大成功じゃねぇか」

「…………失格だったです……」

「計算通りだな」

「え……」


 耳を澄ませば、遠くで盛り上がる仲間たちの声が聞こえる。


「あいつら、お前のために何がなんでも勝とうって盛り上がってるぞ」

「…………」

「お前が、みんなの心を一つにしてくれたんだ」


 ロレッタの頑張りが、純粋な思いが、見ている者にはダイレクトに伝わった。

 ロレッタは、十分過ぎるほど役に立ってくれた。

 それは、一勝なんてけち臭いものよりも、もっとずっと価値のある、得難いものだ。


「ロレッタ。ありがとな」

「…………っ……おにいちゃん…………このタイミングで、それは…………ズルいです……っ」


 ロレッタは俺の手を振り解き、更衣室へと駆け込んでいった。

 ドアを開けて中に入り、こちらへ背を向けたまま、声だけを俺に向けてくる。


「次の試合からは、あたしがもっともっと盛り上げるです! 盛り上げ隊長ロレッタの本領発揮です! 乞うご期待です!」


 それは、正真正銘、いつも通りのロレッタの声で……なんだか凄くほっとした。


「それからですね…………」


 ドアがゆっくりと閉じていく。

 徐々にロレッタの背中が見えなくなり、ドアが閉まる直前……とんでもないことを言いやがった。


「実は聞こえてたです……あたしも一応獣人族ですから、耳、ちょっとだけいいです…………だから、つまり、その…………『ここでの一勝より、ロレッタの体の方が大事だからな』って、言ってくれて、嬉しかったですっ!」


 バタンッ!


 ――と、ドアが閉められた。


「…………え?」


 …………聞こえて…………


「ちょっと待てぇえ! おま、お前!? き、聞いて…………ぅおおお!? 忘れろぉ!」


 そんなもん、まるで俺がいい人みたいじゃねぇか!


「勝ちの方が大事だから! 俺、俺の利益が一番大事だからな! 聞こえてるか!? なぁ!」


 更衣室のドアをドンドンと叩くその様は、さぞ変質者に見えたことだろう。だが構うか!

 いい人だと思われるくらいなら、変質者の方がはるかにマシだ!




 最後の最後に手痛いカウンターを喰らい……本日あと一戦を残して、俺の体力はほぼ尽きかけていた。






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