115話 四十区領主としての立場

 四十一区とのいざこざがあった翌日、俺とエステラは四十区に向かって歩いていた。

 想像以上に早くアポイントが取れたことに、俺は正直驚いていたのだが……


「四十一区の通行税導入に関して、オジ様に相談をしようとしていたところに、向こうからコンタクトがあったんだよ。『話があるからすぐに来い』って」

「渡りに船だな」

「おそらく、通行税の話がオジ様の耳に入ったんだろうね。隣接する区だから何も告知しないわけにもいかないだろうし……」

「タイミングがいいのか……俺たちが動いたから話に行ったというか……」


 おそらく後者だろう。

 新制度の導入に関し、他者から情報が漏れたとなれば心象は悪い。

 そうなる前に自分から挨拶をしに行くのは当然の判断だ。特に、相手領の物流や経済に多大な影響を及ぼすような制度であるなら尚のこと。

 ……んだよ。フットワーク軽いんじゃねぇか、あの小物領主め。


「でも、オジ様の方からコンタクトがあったっていうことは、ボクたちのことを心配してくれているんだと思う。上手くいけば四十一区に圧力をかけられるかもしれない。四十区には木こりギルドもあるしね」


 全区を股にかける狩猟ギルド。その発言力は大きく、並みの領主では真っ向から意見出来ない。だが、四十区には木こりギルドがいる。狩猟ギルドに勝るとも劣らない発言力を持つギルドだ。

 エステラの言うように、上手くいけば対等な話し合いくらいは設けられるかもしれない。

 なんなら、海漁ギルドも仲間に引き込んでやるか。


「あれ?」


 不意にエステラが立ち止まる。

 四十二区の中央広場から延びる細い山道。大通りと対比して裏道と呼ばれる一.五車線程度の道の前方に、見慣れた大きな荷車が見えた。

 荷車には、大量の花が積まれている。


「お~い、ミリィ!」

「ぁ……えすてらさん。てんとうむしさんも」


 ミリィが荷車を曳いて裏道を歩いていた。どこかに荷物を届けに行く途中だろうか?


「ぁ……四十一区に、ごようじですか?」

「ううん。ボクたちは四十区だよ」

「たいへん……ですね」

「配達をしてるミリィに比べたら全然だよ。あ、そうだ」


 ポンと手を打ち、エステラは荷車の花を指さす。


「ねぇ、ミリィ。ここにある花、ちょっと売ってもらえないかな?」

「ぁ……ぅん、ぃいよ……花束にしてあげるね」


 エステラの申し出に、ミリィの表情がパアッと明るくなる。相当嬉しそうだ。


「オジ様に花を持っていこう。あぁ見えて、綺麗な花が大好きなんだよ、オジ様は」

「そうなのか?」


 見事にハゲ上がった、人懐っこい笑顔のオッサンの顔が思い浮かぶ。

 うん、別にいいよな。花好きと毛根の有無は関係ないもんな。


「オジ様が喜ぶ花にしよ~っと」

「ミリィ。育毛効果のある花はないのか?」

「ぅえ…………な、ない……かも」

「ヤシロ、余計な気の遣い方しなくていいから! ごめんね、ミリィ。ヤシロの言うことは気にしないで」

「ぅ……うん。気に、しない」


 なんだよ。実在したらめっちゃ喜ぶと思うぞ、育毛花。

 タンポポでも頭皮に植えておけば、秋頃にはみんな綿毛になって、アフロみたいな仕上がりになるだろう。


「ミリィ、タンポポを大量にくれないか?」

「ヤシロは黙ってて! タンポポアフロ大失敗事件は、オジ様の思い出したくないトラウマ事件簿ワーストファイブにランクインしてるんだから!」


 既に実験済み!?


「ぁの……てんとうむしさんのは、みりぃが選んであげるね」

「ん……?」


 え、俺も買う流れなのコレ? タンポポは冗談だったんだけど……

 うん、どう考えても俺は必要ないな。エステラだけが買っておけばいいんだ、こんなもんは…………そんなキラキラした無邪気な目で見ないでくれるか……俺の心が浄化されちゃうから。


「じゃあ、お願いしようかな」

「ぅん!」


 あ~ぁ……笑顔に負けた。

 ミリィには勝てる気がしないな……レジーナだったらぶっ飛ばしてやるところなのに。


 結局、エステラはオレンジ色の温かみのある花を中心に、控えめながらも気分を明るくしてくれる花束を購入した。

 俺のはというと、桃色と白を基調としたなんとも可愛らしい花束で、片思い中の女の子にあげれば大喜びされそうな、そんな仕上がりになっていた。……あの、ミリィ? これ、ハゲ散らかしたオッサンにやる予定なんだけど……?


 花を贈り合う習慣の定着には、ミリィは大いに賛成らしく、お手頃な価格の花束をいくつも取り扱うようになっていた。そのせいか、最近売れ行きがいいらしい。この前、凄くにこにこしながら、そう教えてくれた。


「それじゃあ、みりぃ、こっちだから」

「あぁ。気を付けてな」

「お花、ありがとうね」

「ぅん……、ばいばーい!」


 大きな荷車を引きながら、ミリィがぶんぶんと手を振り遠ざかっていく。

 今日は「ばいばい」は一回だけだった。他所の区だから遠慮したのだろうか。


「それじゃ、ボクたちも行こうか」

「……この花、どうすっかなぁ」

「オジ様にあげるのが躊躇われるなら、好きな人にでもあげればいいんじゃないかな?」


 そんな相手がどこにいるんだよ。

 一体、誰にやれって…………う~っわ、何そのにこにこした顔?

 え、なに? ここで、「じゃあ、お前にやる」とか言えばいいの?

 その後どの面下げてデミリーに会いに行くんだよ?

 もじもじしながら深刻な話し合いなんか出来るか。却下だ却下。


「そうだな。デミリーのところで爆乳を惜しげもなくぶるんぶるんさせた絶世の美女との出会いがあるかもしれんしな」

「むぅ……オジ様のところにそんないかがわしい人がいたら、ボクは凄く複雑な気持ちになるよ……」


 デミリーは領主だぞ? やることはやってるさ、きっと。………………あのハゲ、なんて羨ましいことを……


「どこかに凸レンズはないか? ヤツの毛根を焼き払ってやらねば……っ!」

「君がこれから会いに行くのは領主なんだからね……失礼のないようにね!」


 何を今更。

 一回おちょくり合えば、もはや友達だろうが。


 まぁ、四十一区の時とは違って、多少気楽にお邪魔させてもらえばいいだろう。


 ――なんて、甘い考えが吹っ飛ぶのは、それから間もなくしてのことだった。







 久しぶりに会った四十区の領主、アンブローズ・デミリーは、とても厳しい表情をしていた。


「エステラ。私は、お前にすべての非があるとは思わない。だが、お前にまったく非が無いとも、私には言えない」

「…………オジ様」


 なに抜かしてやがんだよ、このハゲ!

 ……なんて軽口が叩けるような雰囲気ではなかった。


 四十一区の通行税導入は、思った以上にこの四十区に緊張をもたらしていた。

 やはり大きいのは、木こりギルドの存在だった。


「私はお前を実の姪くらいには可愛いと思っている。だが……姪可愛さで済ませられる問題と、そうではない問題がある……」

「……はい」


 イメージにそぐわない、真面目な声でデミリーは続ける。


「支部を作ると、かなりの無理を押し切って取り付けた契約が、すべて無駄になるかもしれんのだ。……これは、憂慮すべき問題だ」

「…………はい」


 街門を作るという条件で、木こりギルドに支部の許可をもらったのだ。

 その街門が撤回されることはあってはならない。

 かと言って、このまま四十一区との間をこじらせて通行税が導入されれば、支部で取った木を運ぶ際に多額の税がかけられてしまうことになる。

 木こりギルドの利益が著しく損なわれてしまうのだ。


 この状況は、木こりギルドにとっては面白くないだろう。

 そもそも、木こりギルドとの間を取り持ってくれたのはこのデミリーであり、デミリーはその後も何かと手を尽くしてくれた。ここで木こりギルドに損害を出させてしまうようなことがあれば……デミリーの顔に泥を塗ることになる。


「もう少し早く、状況を打開することは出来なかったのかな?」

「……それは………………申し訳、ありません……っ」


 エステラが俯いて唇を噛む。

 味方になってくれると思った『オジ様』から、まさかのキツい言葉をもらったのだ……結構ダメージが大きいんじゃないだろうか?


 泣き出さないのが不思議なくらいに、エステラは落ち込んでいる。

 ……このハゲオヤジ……「キュッキュッ!」ってなるくらいに磨き上げてやろうか!?


 エステラが落ち込んで心を痛めたのは俺だけではなかったようで、デミリーは慌てた様子でエステラに駆け寄った。

 腰を屈めエステラの顔を覗き込む。


「あぁ、エステラ……そんな悲しい顔をしないでおくれ……何もお前を責めているわけではないんだ」

「…………はい。分かっています…………」

「あぁ……お前にそんな顔をされると、私は切なくなって……お前をペロペロしたくなるじゃないか」

「なに抜かしてんだ、このハゲオヤジ」


 良識と常識をどこで無くしてきたんだ。

 無くすのは毛根だけにしとけ。


「オオバ君……今は領主同士の真面目な話をしているんだ。割り込むのはよしたまえ」

「今ののどこが真面目な話だ、この妖怪つるぺたペロペロが!」


 エステラがへこんでいる分、俺がなんとかフォローしないとな。


「こっちは出来る限りの礼を尽くしたつもりだぞ。それを突っぱねたのは向こうだ。それでエステラを責めるのはお門違いじゃないか?」


 あの状況で、エステラに何が出来たというのか……

 まぁ、あの状況になる前になら、いくらか手を打てたのではないか、という気はしないでもないが……その辺は俺が口を挟んでいい場所じゃないからな。

 だからせめて、俺が見た範囲で精一杯擁護してやるさ。


「俺が見た感じ、あれは話を聞く態度じゃなかった。攻撃的で、何を言っても結果は変わらなかったろうよ。エステラが努力を怠ったってんなら、四十一区の領主だって相当問題があるんじゃないのか?」


 話をすればした分だけ、こちらに不利益を与えてくるようなヤツだ。

 距離を取るのも、一つの手段だと俺は思う。


「あからさまな嫌がらせを何度もされりゃ、細やかな配慮なんか出来るもんじゃないだろう?」


 俺はまっとうな意見を述べたつもりだ。

 いくら相手を敬う気持ちがなかったと指摘されようが、その相手があんなろくでなしだったら話は別だろう。敬える人間でなければ、敬うような態度は取れん。


 だが……


「シーゲンターラーの息子は、そんな嫌がらせをするような器の小さい男ではないと思うが」

「…………は?」


 このハゲは何を言ってるんだ?

 あれほどの器の小さい男を、俺は見たことがないくらいだぞ。


「確かに、前領主の親父に似て口もいいとは言えんし態度もアレなところがあるが、筋を通す律義さは持っている。まぁ、少々生意気ではあるが、それも若さ故だろう」

「……それは、オジ様が四十区の領主だから…………」


 デミリーがリカルドを庇うのが気に入らないのか、エステラが吐き捨てるように言う。

 まぁ、目上の者にはキチンとした態度を取り、下には本性をさらけ出す嫌なヤツってのはいるよな。上司とか先輩とか、微妙に立場が上のヤツで。


「アレはそんな裏表を使い分けられるような器用な男じゃないぞ?」

「…………」


 ここまでの反応を見るに、今回の騒動に関しデミリーは、エステラの努力が足りないがために引き起こされたものだと判断しているようだ。

 ……なんか、気に入らねぇな。


「そうか。つまり、四十二区側からもっと歩み寄れば、今回の騒動は収束すると、ミスター・デミリーはおっしゃるわけですね」

「お? ん、あ、あぁ。まぁ、どうだろうか。事はそう単純ではないだろう。だが、どうしたね、急に改まった口調になって? オオバ君らしくもない」


 改まった口調?

 当たり前じゃないか。

 特別親しくもない相手に馴れ馴れしくするのは失礼だろう?


「エステラ。ミスター・デミリーのおっしゃることももっともだ。一度出直して、俺たちで出来ることを模索し直そう。多忙であらせられるミスター・デミリーが、わざわざ素晴らしいこの館にご招待くださり、俺たちのためにアドバイスまでくださったんだ。俺たちはそれに報いるべきだろう」

「あ、あの、オオバ君? 何か、怒ってるかい?」


 は?

 別に?

 ただまぁ、自分の意見以外を封殺しておいて、よくもまぁ偉そうなことを抜かせるよなぁとは思うけれど、怒ってなんかいないぜ。


「俺から見れば、エステラは十分気の遣えるヤツに見えるんだがな。例えば、困り果てて泣きそうな時に優しく声をかけてきてくれた頼りになる知人に、少しでも喜んでもらおうといそいそ綺麗な花を『自分で』見繕って持ってくるくらいにはな」


 俺が指を鳴らすと、デミリーの家のメイドが俺とエステラの花束を持って部屋に入ってきた。

 話し合いの邪魔になるだろうからと、一旦預かってもらっていたものだ。

 話し合いを終え、お礼という形で渡したいと、エステラは言っていたのだが……


「台無しだな、このハゲのせいで。……おっと、これは声に出しちゃいけないヤツだ」

「こ、この花は……エステラが?」

「……はい」

「わ、私に贈るために……か?」

「……はい。オジ様は、よく野山に花を見に行くと伺いましたので……喜んでいただければと」


 ぱぁぁああっと、デミリーの顔が明るくなる。


「嬉しいよ、エステラ! そうなんだ。こう見えて私は花が大好きなんだ」

「だからハゲるんだ」

「関係ないだろ、オオバ君!?」

「栄養持ってかれてんだよ」

「そんなことがあるわけ………………ない、よね?」


 あるわけねぇだろ。


 デミリーがそわそわとし始め、エステラの前に立つ。

 エステラは花束をメイドから受け取り、少し沈んだ表情のまま、それをデミリーに手渡した。


「……エステラよ。折角の綺麗な花なんだ。笑顔で渡してくれないかい?」

「……ですが…………これではまるで、便宜を図ってもらおうという狡賢い策略だと思われそうで……」


 確かに。

 協力を得られるように、相手の好きなものを贈る。小狡い策略であり、エステラが嫌いそうな手段だ。


「何を言っているんだ。私がそのようなことを思うわけがないだろう? エステラの真っ直ぐな性格は、私が一番よく知っている。これは、親しい友人からの贈り物として、ありがたく受け取っておくよ」

「……オジ様」


 デミリーがエステラの髪をそっと撫でる。

 ようやく、エステラの表情が少しだけ柔らかくなった。


 ……まったく。エステラの性格を知っているなら、まず最初に再会を喜んでやれっつの。いきなり領主モードで「私は中立だ!」じゃ、エステラがへこむに決まってんだろうが。


 散々へこまされて、なんとか気力だけで持っていたのだ。

 寄り添えると思っていた大木が思いのほか冷たかったら……心は一気に萎れてしまうだろう。


「エステラ。勘違いをしないで聞いておくれ。私は四十区の領主として、お前にも、シーゲンターラーの息子にも、肩入れ出来ない立場の人間だ。私がどちらかに加担すれば、バランスは一気に崩れ、この辺り一帯の治安は急激に悪くなってしまうだろう」

「はい。それは、承知しております」


 親が子を見つめるように、優しくも少し厳しい瞳で、デミリーはエステラを見つめる。

 胸に沁み込むような柔らかい声で、ゆっくりと語りかける。


「けれどね。領主ではない、ただのアンブローズ・デミリーは、誰よりもエステラを大切に思っているということだけは、忘れないでほしい」

「……はい。オジ様」


 エステラの鼻が少し赤くなっている。

 涙こそ零れはしなかったが……つらかったんだろうな。


「お前のために怒ってくれる……いい友人を持ったな、エステラよ」

「え……」


 デミリーとエステラが揃ってこちらを向く。

 ……見んな。穴があいたらどうする。


「……はい。いい友人だと、思っています」


 …………っ、そういうこと、本人の目の前で言うのやめてくれる?


「本当に、いい『友人』だな」


 ……なんでそこそんなに強調した?


「いつまでも、いつまでもいい『友人』でいてもらいなさい。ずっと、『ゆ・う・じ・ん』で」


 ……お前はいつからエステラの父親になったんだ?

 お前らに血縁関係があるのだとしたら、男が生まれても女が生まれても悩み多き遺伝子が組み込まれてることになるじゃねぇか……


「ところでオオバ君。素敵な花束だねぇ」


 デミリーが俺の持つ花束を指さして言う。

 俺もさっき、メイドからついでとばかりに渡されてしまったのだ。


 ……んだよ。催促してんのか、この太陽光リフレクション。


「……まさかそれ、エステラに…………じゃ、ないよね?」

「お前は父親か?」

「君にお父さんと呼ばれる筋合いはない!」

「呼んでねぇだろ!」


 泣きそうなエステラを見て、急に可愛くて仕方なくなったのだろう。

 ……初っ端に言ってた「姪可愛さで済ませられる問題と、そうではない問題がある……」とかいうセリフがアホ臭くなってくるな、おい。


「これは、この館に爆乳をぶるんぶるんさせている女がいたらくれてやろうとわざわざ持ってきた花束だ! お前のじゃない!」

「我が館に、そんないかがわしい女性はいないのだが?」


 んだよ、いねぇのかよ!? 愛人の一人や二人囲っとけよ!

 あ、エステラがスゲェほっとした顔してる。


「なんにせよ。四十一区が通行税を取るような事態になれば、三区揃って痛手を負うことになる」


 そうだ。

 通行税なんてものを始めた四十一区にだってダメージは行くのだ。

 少なくとも、外交や交易には摩擦が生じる。


 そうまでして導入を強行しようとしているわけは……やはり四十二区の街門か。

 それが四十一区の利益を阻害しないものだと分からせられれば事は解決するのかもしれんが…………


「お戻りください! 旦那様は現在お客様と面会中でございます!」


 突然、館の廊下が騒がしくなる。

 なんだ?


「そうだぞ! いいから落ち着け! いくらなんでもこれは無茶が過ぎる! ワシでも庇いきれんぞ、さすがに!」


 この声は……木こりギルドのギルド長、スチュアート・ハビエル?

 あの筋肉ダルマが、なんでここに?


「いいから退きな! 責任は全部アタシが取る! 不満があるなら裁判にでも審判にでもかけりゃあいいさ!」


 そして、しわがれた女の声……


 ギャーギャーと騒ぐそれらの声と、けたたましく鳴り響く足音はやがて俺たちのいる応接室の前にまでやって来て……


「アタシだ! 入るよ!」


 そんな声と共に、大きなドアが轟音を立てて開け放たれる。


「――っ!?」


 そこにいたのは、グリズリー級の筋肉を誇るハビエルといい勝負をしそうな逞し過ぎるガタイの、可愛らしい真っ赤なぼんぼりで真っ白な長髪を肩口で二つに結んだ……ゴリラみたいなオバサンだった。


「四十区領主、アンブローズ・デミリー、並びに、四十二区領主代行エステラ・クレアモナに話があるっ!」


 ゴリラババアが鼻息荒くそんな言葉を叫ぶ。

 状況がのみ込めず空気が固まった応接室の中で、俺は、今すぐに言わなければいけない言葉を、なんとか声に出して訴えた。



「とりあえず、死んだフリをしろー!」



 ……ゴリラに通用するかどうかは、知らないけれど。






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