96話 降り過ぎだろ……

 ありえんてぃ……


 地球をアイスピックでつついたとしたら、ちょうどよい感じにカチ割れるんじゃないかというのは…………まさにこのことだ。……あ、そういや今日は十二月十六日だったな。……誰かが消失したりしないだろうな……うん、ないな。ないない。


「なんで昨日の猛暑からいきなり雪がこんなに積もってんだよ!?」

「今年は早かったですね、雪」

「……毎年こんな感じなのか?」

「はい」


 目覚めの鐘はまだ鳴っていない。

 時刻は早朝三時半。

 余りの寒さに起き出した俺は、廊下でジネットに出くわした。

 驚いたことに、ジネットは珍しく寝間着姿だった。


「雪が降ると洗濯が出来ませんから」


 と、困り顔で微笑んで、二階の踊り場から中庭に積もった雪を見下ろす。

 吐く息が白く、吹きつける風に筋肉が縮み上がる。


「この時期は少しだけお寝坊さんなんです」

「いや、十分早起きじゃねぇか」


 まだ四時前だっつの。


「なんで猛暑日の翌日にこんな豪雪なんだよ?」


 中庭の積雪は、1メートル以上は確実にある。

 マグダがまた踊り場から飛び降りても、今度は心配しなくて済みそうだ。


「猛暑が五日以上続くと雪が降るのは当然じゃないですか?」


 当然じゃないです。

 なんでそんな「何がおかしいんですか?」みたいな無邪気な顔してんの?

 なに、リバウンドだとでも言いたいわけ? スッゲェ暑かったから、今度はスッゲェ寒くなるから~って? ここの天気管理してんのは誰だ? 精霊神か? いい加減ぶっ飛ばすぞ。


「この街では、この時期五日から一週間程度猛暑日が続くんです。それで、気温が最高潮の四十二度を超えると、翌日から雪が降るんです」

「川遊びにみんなが賛成したのって……」

「はい。最低でも五日間は猛暑日が続きますから、それに今年は特別暑かったですし、昨日で最後なのかなっていう予感もありましたので」


 それで、みんな大はしゃぎをしていたということらしい。

 ……教えとけよ、俺にも!


「すみません。ヤシロさんがご存じないとは……そうですよね。ヤシロさんは今年初めてこの街に来たんですよね……失念していました」


 可愛く握った拳でぽかりと自分の頭を小突き、ジネットが舌を出す。

 なに、その可愛いの。押し倒すよ?


「……なんだか、ヤシロさんとはずっと昔から、こうして一緒にいるような……そんな気がしていましたもので……」

「押し倒していい?」

「ダメですよっ!?」


 そうか……ダメなのか。

 なんか、プロポーズされたような気がしたんだけどなぁ……


「んで?」

「はい?」


 いや、さすがの俺でも学習するぞ。


「この雪はいつまで続く?」

「今年は十日ほどですね」

「雪が何メートルか積もったら、翌日にはぽかぽか陽気にでもなってるのか?」

「うふふ……そんな急には変わりませんよ?」


 いや、昨日と今日のこの変化! なんでなかったことになってんの!?

 気温差何度だよ!?

 慣れって怖いねぇ!


「毎年、ヒラールの葉が収穫時期を迎えると猛暑期が始まります。多少前後するのですが、だいたいいつも同じくらいの時期ですね。逆に豪雪期が終わる日にちは決まっています」


 先ほどジネットが言っていた通り、猛暑期の中で四十二度を超えると翌日から豪雪期に切り替わるという。

 猛暑期の気温が早く上がれば豪雪気が長く、逆に猛暑期に気温が上がらないと豪雪期は短くなるってわけだ。


 今年は比較的早く豪雪期が訪れたため、雪に閉ざされる期間が長くなる。十日もこんな状況が続くのか……十日?

 今日が十六日だから、豪雪期の終わりは二十五日。クリスマスか。

 ……つっても、こっちにクリスマスなんて文化はないだろうし、広めようにもキリスト教がなけりゃ何の日なのかすら説明出来ん。

 まぁ、チキンとケーキくらいは食ってもいいかもしれんがな。


 ターキー?

 チキンの方が美味いだろうが!


「それで食料を大量に買い込んでいたのか」

「はい。この時期、多くのギルドが仕事をお休みしてしまいますので」

「『多くの』ってことは、こんな豪雪の中仕事をする頭の悪いギルドもあるわけだな」

「ぁう……あの…………ウチも、営業は続けます、よ? お客さんはほとんどいらっしゃらないでしょうが」


 あちゃ~……頭の悪い店だったのかぁ、ここ。


「ま、ウーマロは来るだろうな。絶対」

「どうでしょうね。でも、おいでになりそうですね」


 ジネットがくすくすと笑う。

 朝の時間にこんなゆったりと会話をしたのは久しぶりかもしれない。


 しかし、これでようやく合点がいった。

 昨日まで、陽だまり亭に客が来なかったのは暑さのせいだけじゃなかったのだ。

 この豪雪はマジでシャレにならん。

 日本の電車がすべてストップし、大企業が軒並み自宅待機を命じるレベルだ。

 コンビニとかは働くんだろうが……


「あ、そういうことだったのか……」

「何がですか?」

「アッスントが言ってたことだ」

「……?」


 アッスントは、「あと二週間もすれば氷が手に入る」と言っていた。

 ……うん。手に入るよな。すげぇ手遅れだけど。


「ここで出来た氷を、来年の猛暑期まで持たせることが出来れば……かき氷で一儲け……」

「それは、さすがに無理なんじゃないですか?」

「いや、氷室を作れば…………どうやって作るんだろ?」


 穴掘ってワラを敷き詰めればなんとかなるのか? 洞窟とかいるのか?

 くっそ! こうなるって分かってたらあらかじめ氷室が作れそうな場所を下調べしておいたのに!


「氷もさることながらですね」


 むん! と、ジネットが腕まくりをする。


「朝ご飯の前にひと仕事ですよ、ヤシロさん!」

「……は?」


 どこか気合いの入った瞳で俺を見つめるジネット。

 なんだ? 何をやるつもりだ?


「まずは着替えましょう。この格好では風邪を引きます」

「まぁ、……いつまでも寝間着じゃな」

「マグダさんを起こしてきてもらえませんか?」

「…………嫌な予感しかしないんだが……」

「暑いのが苦手なようでしたし……もしかしたら寒いのには強いかもしれませんよ」


 バカヤロウ。

 暑いのが嫌いだってダレてるヤツはな…………寒いのが嫌いだって布団から出てこないヤツなんだよ。


「では、わたしも着替えてきますね」

「へいへい」


 とりあえず、マグダを起こしに行く。

 もしかしたら、雪を見て大はしゃぎするかもしれない。……ま、ないだろうけど。


「マグダぁ、ジネットが起きろってよぉ」


 ドアをドンドンとノックし、起きるように促す。

 …………返事がない。爆睡しているようだ。


 ま、想定内さ。あいつが素直に起きてきたためしなどないのだから。


「入るぞ」


 俺は、マグダ本人に部屋への無断立ち入りを許可されている。

 とはいえ、プライバシーを侵害するつもりも、下着を物色するつもりも、ましてや寝こみを襲うつもりもない。

 要するに「起きる自信がないから入ってきて起こしてほしい」ということだ。

 あと、怖くて眠れない時はベッドに潜り込んでもいいらしい。……実行したことはないけど。


 部屋に入ると、マグダがいなかった。

 …………なんてわけはなく、俺はベッドに近付き、ワラを手で掻き分けた。


「……分かりやすいな、お前は」

「…………さむっ……さむい…………埋めて」

「そんなお願いをされる日が来るとはな。人生何があるか分からんな」


 余りの寒さにワラの中に潜り込んでしまったのだろう。小動物か。


「なんかやるらしいぞ、仕事だとよ」

「……豪雪期は、狩猟ギルドの休業日……」

「残念だったな。陽だまり亭は年中無休なんだそうだ」


 そういえば、以前作った宣伝Tシャツにも年中無休って書いてあったっけな。

 休んじまうと嘘になるのか。気を付けよう。


「……ヤシロ」

「なんだ?」

「…………温めて、人肌で」

「……お前、分かって言ってんのか?」

「…………寒い」


 乾布摩擦でも教えてやろうかな。

 アレが意外とバカに出来なくてな。乾いたタオルで肌をこすると寒さが少しだけ大丈夫になるのだ。……そこにたどり着くまでは地獄なんだがな……上半身裸とか…………


「頑張って起きたら、コーヒーゼリーをやるぞ」

「…………拒否」


 だよなぁ。

 昨日まではこれで起きてたのにな。


 あ、そういや、ジネットが小豆を買っていたな……もち米も買ってたっけ?

 じゃあ、ぜんざい……いや、お汁粉でも作るか。うん、お汁粉の方がこっちの連中にはうけるだろう。

 白玉の代わりにモチを入れることにはなるだろうけどな。


 ぐずるマグダを引き摺り出し、着替えるようにと言い聞かせる。……二度寝しそうだなぁ……とはいえ、俺が着替えさせるわけにもなぁ…………獣化してる時ならいざ知らず。


「いいか、寝るなよ?」

「……それは、昨日パーシーに教わった。『寝ろ』という合図」

「あいつの場合はそうなるが、今は違う。さっさと着替えろよ」

「……あいあいさぁ」


 半分くらい眠りながら、マグダがフラフラと行動を開始する。


 俺も部屋に戻り外着に着替える。

 昨日は水泳後の倦怠感のせいで寝落ちしてしまい、服がぐっちゃぐちゃのまま脱ぎ捨てられていた。

 マグダの部屋の簡素さとは真逆の、男の部屋という散らかりようだ。

 外に出られないなら、この機会に片付けてみるか? 年末だしな。


 着替えを済ませて廊下に出ると、すでに準備万端のジネットが待っていた。


「はい、ヤシロさん。それから、マグダさん」


 ジネットは、笑顔で俺とマグダにスコップを渡してくる。

 ジネットは年季の入った古いスコップを持っている。


「………………はい?」

「雪かきですよ。このままでは厨房に行けませんからね。朝はとりあえず中庭の雪を退けて、教会から戻った後で店の前と庭を綺麗にしてしまいましょう」


 …………マジでか。


「雪かきしても翌朝にはリセットされてる……なんてことはないよな?」


 この異常な気候の世界だ。毎晩毎晩1メートル級の積雪を誇る大雪に見舞われる可能性もある。

 だが、俺の懸念はあっさりと否定された。


「豪雪期は、初日にドカッとたくさん降って、あとはパラパラと降り続けるだけですよ。もっとも、少しずつ積もり続けますので、何度か雪かきを行う必要はありますけどね」


 とりあえず、毎朝リセットではないらしい。

 ……逆に拒否しにくいじゃねぇか。「毎日降るならやるだけ無駄だろ」とも、言えない。

 クッソ、どうやったって雪かきからは逃れられないようだな。


「んじゃ、サクッとやっちまうか!」

「はい!」

「……がんばって」

「お前もやるんだよ」

「……ご褒美を期待する」

「あぁ、しておけ。美味いもん食わせてやるから」

「…………交渉成立」


 屋根のない階段に積もった雪を足で蹴落としつつ、中庭へと降り立つ。

 …………ため息が出るほど積もってやがる。

 これで大喜び出来るのは小学生までか……


「……『赤いモヤモヤしたなんか光るヤツ』を使えば、一瞬」

「やめとけ。ただでさえ食糧が制限されるんだ。腹の減ることは避けるべきだな」

「……むぅ、一理ある」


 雪かき如きで食料を浪費するわけにはいかない。

 とりあえず、厨房と、食糧庫への出入りが出来るようにしておくか。


「そういえば、ニワトリはどこ行ったんだ?」


 陽だまり亭の中庭ではニワトリを飼っている。

 ネフェリーんとこの卵が手に入るようになってからは、もっぱらペット扱いなのだが。


「室内用の小屋に入れて、食堂へ避難させてあります」

「寒そうだな……食堂」

「そうですね。早く火を入れてあげないと可哀想ですね」


 陽だまり亭には暖炉のようなものが無い。

 どうやって暖を取るんだ?


「小さな薪ストーブがあるんです。お爺さんの頃から使っている年代ものなんですが、暖かいんですよ」

「あぁ……それ見たことあるな。物置の奥の方で埃被ってたやつか」

「この時期しか使いませんからね」


 高さと横幅が40センチくらいで奥行きが60センチくらいの小さな鉄製のストーブだ。小窓がついていたから、あそこから薪を放り込んで暖めるのだろう。


「じゃあ、急ぐか。終わったらストーブに当たれるんだろ?」

「そうですね。上にお鍋が置けるので、温かいスープも作れますよ」


 暖を取りながら温かいスープも作る。いいね。俺好みの無駄のない調理法だ。

 豚汁とか甘酒とか、そういうのがいいなぁ。


 ザックザックと、雪を掻いては放り投げる。人が一人、余裕を持って歩ける程度の道を作っておけばいいだろう。


「しかし、腕と腰にくるな、この作業は……」


 昨日大はしゃぎしてあんなに泳ぐんじゃなかった。

 筋肉痛で腕を振り上げるのがつらい。


「…………寒い」

「体を動かしてれば、そのうち温かくなってくるぞ」

「……マグダクラスになると、この程度では運動にすらならないレベル……」

「さいで……」


 なんとも、凄いんだか不便なんだか分からないな、超人ってのは。

 しかし、マグダの寒がり方が少々異常だ。体はぶるぶる震えているし、唇も真っ青だ。


「部屋に戻っててもいいぞ?」

「……部屋も、寒い」

「けど、外よりマシ……」

「……ヤシロ。人肌」

「俺、ここで遭難しちゃうぞ?」


 さっさと雪かきを終わらせてストーブでも出してやらないと……


「でも、ヤシロさん。ストーブを使うためには煙突の設置とか……結構時間がかかりますよ?」

「マジでか?」

「すみません……昨日のうちにやっておくべきでしたのに……わたし、凄い眠気に襲われてしまいまして……」


 水泳がほとんど初めてだったジネットにとって、あの眠気に抗うのは不可能といってもいいだろう。

 しかしまいったな。

 これじゃあ、マジで人肌で温めてやらなけりゃいけないレベルだ。

 風呂を沸かすにも、この雪じゃあ………………雪?


「そうだ!」


 俺は、いまだ雪かきが終わっていない積雪1メートルの雪を這い上がり、強引に厨房へと転がり込む。


「こけー!」


 ニワトリが厨房で寒そうにしていた。

 お前は、もうちょっと待っててくれな。


「確か、この辺りに…………あ、あったあった!」


 まさかこんなに早く出番が来るとはな。


「あとは……マグダサイズならすぐに作れるか…………よし!」


 筋肉痛で悲鳴を上げる全身に鞭を打って、俺はもうひと踏ん張りすることを誓う。

 厨房から使えそうな炭をいくつか拝借し、再び雪深い中庭へと戻る。


「ヤシロさん、一体何を……」

「ジネット、悪いがこいつに火を起こしておいてくれ」

「これ……」


 俺は、厨房で手に入れた物をジネットに手渡す。


「確か……七輪、でしたっけ?」

「あぁ。マグダ、ちょっと待ってろよ。今すぐ、暖かい『部屋』を作ってやる」


 積雪は1メートル。雪をわざわざ積み上げなくても、横穴を掘ればそれっぽいものになるだろう。

 雪の中の暖かい部屋。

 そう、『かまくら』だ!


 とはいえ、多少は叩いて固めないとな。


 あまり深くは考えず、とにかくスピード第一で簡易的なかまくらを作る。

 その間、マグダは七輪に齧りついてなんとか暖を取っている。

 かまくらに七輪を入れればもっと暖かくなる。

 俺が雪かきをしている間くらいは持つだろう。


「手伝います」

「助かる!」


 ジネットの協力を得て、マグダが一人、すっぽりと収まるような小さな横穴が完成した。

『雪上ホテル・かまくら亭』ってとこだな。


「さぁ、マグダ。入ってみろ」

「……雪の中に……?」

「いいから。騙されたと思って」

「…………了解」


 おそるおそる、簡易かまくらへと入るマグダ。腰をかがめて中へと入り、尻尾をぴくっと揺らす。


「…………暖かい」

「だろ? で、七輪を入れると……」


 簡易かまくらの中に七輪を置いてやる。

 炭が燃える赤い色が、かまくらの壁を照らす。


「…………これは、いいもの」

「本当ですね。そばにいるだけで暖かいです」

「雪かきが終わったら、もっと本格的なものを作ってもいいかもしれんな」

「オープンテラスですね!」


 食堂に、かまくらのオープンテラス? そもそも、かまくらはオープンなのか?


「まァ、そんな感じだな」


 ちょっと頑張り過ぎて疲れたので、適当に答えておく。

 ジネットがそのように認識したなら、別にそれで問題ないのだ。


「お兄ちゃん! 店長さん!」


 突然、厨房からロレッタが飛び出してきた。

 こいつ、この雪の中を出てきやがったのか? まだ四時前だぞ?


「ロレッタさん。大丈夫でしたか、こんな雪の中。ロレッタさんはお休みでもよかったのですが……」

「そんなのイヤです! 大雨でも大雪でも休まないのが陽だまり亭です! 仕事がある限り、あたしは働くです!」


 そういえば、こいつは働きたくても働けない時期があったんだっけな。

 仕事に関しては真面目で一生懸命なんだよな。ただ、傍目から見るとそう見えにくいだけで。


「弟を三人連れてきたので、雪かきはお任せです!」

「おまかせー!」

「おまかしー!」

「雪かき界の便利屋やー!」


 これは頼もしい助っ人だ。

 俺なんかがえっちらおっちらやるよりも断然早く済む。


「ロレッタも。ここまで雪を掻きつつやって来たのか?」

「いいえです。早く着きたかったので、雪の上をザックザック歩いてきたです」

「雪、退けてこいよ! この後教会に行かなきゃいけないんだから!」

「さすがに、この距離はちょっとしんどいですよ……」


 まぁ、分からんでもないが………………ん?


「なぁ、ジネット」

「はい?」

「こんなに雪が積もってたら、いつもの荷車は使えないよな?」

「そうですね。車輪が雪に埋もれてしまいますね」

「……じゃあ、どうやって食材を運ぶんだ?」

「それでしたら、これです!」


 いつの間に用意していたのか、ジネットは階段下から背負い籠を三つ取り出した。

 ………………マジか?


「とても大変ですが、十日間の辛抱です」


 その十日間を辛抱出来ないのが現代っ子なんです。


 カラーン! カラーン!


 遠くで鐘が鳴る。

 目覚めの鐘だ。


「それでは、わたしは下ごしらえをしてきますね」

「……マグダはもうしばらくここにいる」

「あぁ、マグダっちょ!? それなんです!? いい感じです! あたしも入れてです!」

「……穴が小さいから、無理」

「弟が拡張するです!」

「ひろげるー!」

「しんしょくー!」

「異物の混入やー!」


 ダメだ。

 どいつもこいつも、このあり得ない雪を普通に受け入れてやがる。

 仕方ないからと諦めモードだ。

 なぜ抗わない?

 この雪に立ち向かおうと、なぜ考えない!?


 俺は御免だ。

 背負い籠に重い食材を詰め込んで、雪に足を取られつつ十日間も教会との道を往復するなんて…………


 そっと、積もった雪に手を触れる。

 スキー場で見るようなふかふかとした雪質だ。……これなら滑ったり沈み込んだりはしないか…………


「うん。二時間でなんとかする!」


 ちょうど竹もある。流しそうめんで使ったアレだ。

 そいつを使って俺は……この雪を攻略してやる!


「弟たち!」

「「「なーにー?」」」

「ウーマロのところで仕事をしたヤツはいるか?」

「「「はーい!」」」


 全員か。

 なら、多少は技術を叩き込まれているかもしれん。


「よし、お前ら、ちょっと俺を手伝え!」

「「「おっぱーい!」」」

「……え、俺ってそういう認識なの?」

「あぁ……昨日、水着を見た時のお兄ちゃんのはしゃぎようを弟たちに教えちゃったです」

「随分と悪意ある歪曲がなされていたようだな?」

「そんなことないです! ありのままです!」

「それでこの反応だとしたら、余計悲しいわ!」


 と、そんなことはどうでもいい!


「弟たち! これからある二つの物を作る」

「「「なーにー?」」」

「ソリと、かんじきだ!」



 雪に埋もれた世界の中で、雪国の知識を大いに生かさせてもらおうかっ!






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