63話 ロレッタ、気になるです!

 終わりの鐘が鳴る。

 十六時だ。

 夕方の四時。

 生産者や職人たちが仕事を切り上げ、今日はどこに飲みに行こうかなどと話を始める時間だ。


「では、お二人とも。気を付けて行ってきてくださいね」


 俺とロレッタは、祭りの協賛を募るために再び陽だまり亭を出発する。

 陽だまり亭はまだ営業を続けるためにジネットとマグダは付いてくることは出来ない。

 ……ロレッタと二人か…………不安だ。

 夕闇迫る黄昏時。

 ロレッタと二人。

 向かうは………………


「お兄ちゃん! これだけ条件が揃えば、きっとあたしたちも遭遇出来るですよ、『ヤツ』にっ!」


 ……したくねぇんだっつうの。


 俺たちはこれからレンガ職人のところへ向かう予定だ。

 エステラが代わりに行ってくれるという算段だったのだが……こいつが…………この、なんにでも首を突っ込みたがるロレッタが……


「いえ、大丈夫です! その地区ならばあたしとお兄ちゃんに任せてです!」


 ――と、頑として譲らなかったのだ。……俺を巻き込むなと言いたい。いや、言った。口を酸っぱくして豊齢線がくっきり刻まれるほどに強く言ったのだ。……だが、効果はなかった。


「大丈夫です! お兄ちゃんにはあたしがついているです!」


 ……お前がついているせいで散々な目に遭いそうなんだが…………ついてるって、『憑いてる』って書くんじゃねぇだろうな……


「あ、あの、ヤシロさん」


 先ほどから重いため息が止まらない俺に、ジネットが不安げな表情を向ける。


「あまり、頑張り過ぎないでくださいね。ヤシロさんにもしものことがあったら……わたし、困りますから」


 そんな優しい言葉が身に沁みる。

 じゃあ、ロレッタに首輪をつけて暴走しないようにどこかの柱にでも括りつけておいてくれないかな?

 ったく、誰だよ。ロレッタを実行委員に推薦したヤツは…………俺だよ、俺……


「あの……どうしても元気が出ないようでしたら、…………これを」


 そっと手渡されたのは、俺が作った俺の2.5頭身フィギュアだった。


「いらんわっ!」

「可愛いですよ!?」

「可愛くねぇわ!」

「いいえ、可愛いです!」

「主観じゃなく客観的な視点での話をしているんだ!」


 なんで俺が自作の自分フィギュアを可愛いと思って癒されなきゃいかんのだ。


「どうせならジネットの方を貸してくれよ」

「ヤシロさんはすぐスカートの中を覗くから、ダメです」


 口を尖らせてジネットは拒否権を発動する。

 バカモノ! こういうフィギュアはスカートを覗き込むことに意義があるのだ!

 パンツに始まりパンツに終わる! それがフィギュアというものだ!


 うん。これは伝えておかなければ!


「いいかジネット。フィギュアというのはパンツに始まりパン……」

「お兄ちゃん、早く行くですよ~!」


 …………話の腰を折られた。

 ロレッタめ、あとで頬袋をびろ~んって引っ張ってやる。


「じゃあ、行ってくる」

「はい。いってらっしゃい」


 フィギュアのなんたるかをジネットに説くのは後日に回すとして、今は協賛を募るのが最優先だ。

 街道予定地の長い道を出店とロウソク、そして楽しむ客で埋め尽くすのだ。

 そのためには、まだもう少し出店者が必要だ。

 出展でもいいかもしれないな。自社の製品の見本市だ。メッセ辺りで開かれる企業のエキスポのようなものでも、盛り上がるかもしれない。「四十二区にはこんな産業があるのか」とな。

 レンガなんてのはそれに打ってつけだろう。


「楽しみですね、お兄ちゃん!」

「まぁ、レンガのプランターとか鉢植えがあれば、ちょっとした土産になるだろうし、そこそこの売り上げも期待出来るだろう」

「いえ! 幽霊の方です!」

「…………仕事しろな?」

「はいです! 全力で幽霊の調査をするです!」


 ……この娘、目的とか覚えてないのかね?


「実行委員の仕事をしろつってんだよ」

「実行委員の仕事ですよ、幽霊の調査も」

「どこがだ!?」

「だって、パウラさんが怖がっていたです! 解明して怖いのをなくしてあげたいです!」


 あれ……こいつ。


「なんか、お前やけに気合い入ってるけど……パウラのために頑張ってるのか?」

「はいです!」


 ふんすと鼻息を漏らした後、ロレッタは少しだけ照れくさそうな表情を見せた。


「パウラさんは、あたしに仕事をくれた人ですから」


 囁くような声で、でも、はっきりとした口調で言って、ロレッタはくしゃりと破顔する。


「どこに行ってもスラムの住人って、仕事すら見つけられなかったあたしに、パウラさんだけが手を差し伸べてくれたです。『ウチで雇ってあげる』って」


 そうか。今合点がいった。

 ロレッタがパウラにやたらと絡むのは……


「『その代わりこき使ってやるから覚悟しなさい』って言われたですけどね」


 ……姉を慕う妹のような感情からなんだな。

 子沢山過ぎる家族の長女として、一人でなんでもかんでも背負ってきたロレッタが、初めて出会えた、厳しくも頼れる存在。それがパウラなのだ。


 だから、どんなに邪険にされても、怒鳴られても、ロレッタはパウラを見ると嬉しそうに絡んでいくのだ。

 パウラの方も、心底嫌っているわけではないしな。そんなもん、見てりゃ分かる。


 だから、こいつは必死になっているのだ。

 大好きな『姉』の期待に応えたいと。

 認められたいと、思っているのかもしれない。


 こいつの頑張りに免じて、少しくらいは協力してやってもいい……かも、しれないな。


「幽霊を捕まえて、どうしてさまよっているかを聞き出すです! そして、出来ることなら一緒にお祭りを盛り上げるです!」


 ……やっぱ無理かな!?

 なに勝手に幽霊を引き込もうとしてんの!? 取り憑かれちゃうよ!?


「『みんなー、恨めしいですかー!?』『おぉー!』」


 めっちゃ盛り上がってんじゃん、幽霊!?

 絶対恨めしくないだろ、そいつら!?


「面白そうです!」

「幽霊を冒涜するんじゃねぇよ!」


 祟るならロレッタだけで祟るならロレッタだけで……俺関係ないんで!


「ではお兄ちゃん! さっそく噂の地区の調査を開始するですよ!」

「レンガ職人に会いに行くんだよ! 目的を見失うな!」

「えぇー! ちょっとだけ! ちょっとだけでいいですから!」

「ダメだ!」

「ほんのちょっと、幽霊を探して、遭遇して、話を聞いて、成仏させる代わりにお祭りを手伝ってもらう約束を取り付けるだけですから!」

「がっつり絡んでんじゃねぇか!? つか、お前なに勝手な計画立ててんの!?」

「実行委員権限です!」


 ……こいつ、実行委員から追放してやろうか……俺が入れちゃったんだけど……あぁ、パウラよ、お前の気持ちがよぉ~く分かるわ。これは……ウザい。


「いいからレンガ職人のところに行くぞ! さっさとしないと日が暮れちまうからな」

「おぉ! なるほどです! 幽霊を探すなら日が落ちてから、ってことですね!?」

「違うわっ!」


 なんで探すこと前提になってんだよ!?

 俺は絶対関わらないからな!

 幽霊なんか探しに行かないからな! 行かないんだからな!


 ――それが、俺の最期の言葉になった………………とか、冗談じゃないからな!


 だいたい、一回死んだなら、大人しく死んどけってんだよ!

 …………俺は例外でな。


「っと。そんな話をしている間に、もう大通りか」


 レンガ職人のいる地区はもう少し先だ。

 心なしか、ロレッタの顔がワクテカしてきているような気がする……マジで首輪でもつけてくればよかったか?


 歩幅を大きくし、速度を上げ、ロレッタが俺より先行して歩く。

 そして、問題の地区へ入るなり、両手を広げて高らかに言い放つ。


「出でよ幽霊! 我らの前に姿を現し、その恨み、未練を存分に語るです!」

「お前、何やってんの!?」

「さすれば、そなたの悩みは、全部、まるっと、一切合財、綺麗さっぱり、弁当箱の隅っこを突っつくような勢いで、見事解決してやるです――」

「無責任なこと言ってんじゃねぇよ!」

「――お兄ちゃんがっ!」

「しかも丸投げかよ!?」


 どこで覚えてきたのか、痛い中二丸出しなセリフを吐いて、鼻息をふんすと吐き出すロレッタ。……こいつ、マジで解任するぞ。


「アホなことやってないで、さっさと行くぞ!」

「いーやーでーすー! あたしは幽霊が見たいですー! 絶対面白そうですー!」

「面白くない! めっちゃ怖い! お前、おしっこちびるぞ!」

「それはそれで需要があるって、レジーナさんが言っていたです!」

「何吹き込んでんだ、あのアホ薬剤師!?」


 陽だまり亭への出入り禁止処置も、真剣に検討しなければいけないかもしれない。


「見たいです見たいです見たいです見たいです見たいです!」

「子供かっ!?」

「子供です! あたしはお兄ちゃんの子供ですもん!」

「俺の子じゃねぇだろ!」

「お兄ちゃんの子ですもん! 誰がなんと言おうとお兄ちゃんの子ですもん!」

「って! この会話は他人に聞かれると誤解されるからやめようか!?」

「じゃあ、幽霊探すですか?」

「それとこれとは別だ!」

「見たいです見たいです見たいです見たいです見たいです!」


 あぁ、ウザいっ!


「お前、パウラのために幽霊調査したいんじゃなかったのかよ!?」

「パウラさんなんかどうでもいいです! 面白そうだから見たいです!」


 俺のちょっとした感動を返せ、コノヤロウ!


 俺はギャーギャー騒ぐロレッタの首根っこを掴まえ、ずるずると引き摺るように人気のない地区を進んでいく。

 ……本当に人がいないな。

 この付近で幽霊の目撃情報が頻発しているらしいが……なんか納得だな。

 こういう寂れた場所では、よく見るって言うしな。

 …………もちろん、怖いという先入観がなんの関係もない、他愛もない、意味もないものをそれっぽく見せているだけで、本当に幽霊などというものは存在しないのが大前提だけどな!


「あっ! お兄ちゃん! 今向こうの角に何か影みたいなものが横切ったです!」

「きっ、ききき、気のせいだ! 見間違いだ! ネコかなんかだ!」

「ちょっと調べに行くです!」

「行かん!」

「なぜ影が横切ったのに見に行かないです? お兄ちゃんは、巨乳が揺れたら一も二もなく見に行くですのに!」

「何を勝手なイメージ持ってくれてんだ!?」

「レジーナさんがそう言っていたです」

「ホント、ぶっ飛ばすぞ、あのアホ薬剤師!?」


 今度会ったら無表情でエンドレスデコピンの刑を執行することを心に決め、俺はズンズンと人気のない細い路地を進む。

 この先にレンガ職人が住んでいるのだ。もう少しだ。


「あ、そこ曲がってです! 曲がった先が一番目撃情報の多いところです!」

「いつの間に情報収集なんかしたんだよ!?」

「仕事中に、お客さんに聞きまくったです!」

「仕事しろ!」


 だからカンタルチカをクビになったんだよ、お前は!


「でもみなさん、こういう話は好きみたいで、いっぱい情報くれたですよ」

「どいつもこいつも祟られればいい。関わったヤツ全員被害に遭え! 俺以外!」

「お兄ちゃん、本当に怖がりさんですねぇ。萌え路線狙ってんじゃないかってレジーナさん言ってたですよ?」

「あいつ、ホンット余計なことしか口にしないな!?」

「お兄ちゃん、可愛いです。キュってして寝たいです! ……って言えば喜ぶんじゃないかって、レジーナさんが……」

「お前、ホント、黙らないとしゃべれなくなるまで頬袋に生野菜詰め込むぞ」

「なっ!? ななな、なんであたしの頬袋のこと知ってるですか!? 誰にも話したことないですのに!?」


 ハムスター人族ならあるだろうと思っただけだよ。


「お兄ちゃんのエッチ!」


 頬袋でエッチ呼ばわりされたの初めてだわ、俺。


「さては、あたしが寝ている間に『あたしの中』に変な物を出したり入れたりしていたですねっ!? レジーナさんの言うような、そういう趣味を持っていたですね!?」

「お前、しばらくレジーナとの接触禁止!」


 こんなに汚染が進んでいるとは思わなかった……

 レジーナ……要注意だな、あいつは。


「店長さんに報告しなくちゃです」

「おいバカ、やめろ! 変な誤解を受けるだろうが!」

「じゃあ、店長さんに黙っていてあげるですから、幽霊を探しに行くです!」


 ……イライラ…………


「見たいです見たいです見たいです! 幽霊見たいです!」


 あぁ、もう、無理…………怒~鳴ろ~うっと。


「「いい加減にしろぉ!」」


 ……と、力任せに怒鳴った声が、誰かの怒鳴り声と被った。

 なんだ?


 振り返ると、そこはレンガ工房の入り口だった。

 怒鳴り声はこの中から聞こえてきたようだ。


「……幽霊です?」

「なわけねぇだろ。入ってみるぞ」

「はいです! ……こっちはこっちで興味あるです。修羅場です」


 ……こいつ、一回ちゃんと躾けなきゃいけないかもな。


 ともあれ、俺とロレッタはレンガ工房へと足を踏み入れた。

 何やら言い争う男の声が聞こえる。

 一人は老齢の、もう一人は若い男の声だ。


 粘土や赤土が山のように盛られた庭を進むと、大きな入り口が全開放された建物があった。

 声はその中から聞こえてくる。

 どうやら大きな窯があるらしく、おそらくレンガを焼く場所なのだろう。


「お兄ちゃん。あそこに人がいるです」


 ロレッタの指さした先に、声から受けたイメージ通りの男が二人、向かい合って言い争いをしていた。

 頑強な体つきの、いかにも頑固そうな職人気質の銀髪のオッサンと、すらっとした印象を受ける若い青年だ。青年の方は、サラサラな銀髪で……誠に残念なことに結構なイケメンだ。


「工房を救うには、もうそれしか方法がないんだぞ!」

「僕は、そんなことのためにレンガを作りたくはないんだよ! どうして分かってくれないのさ!?」

「そのレンガが作れなくなるということが、なぜ分からん!?」

「分かってないのは父さんの方だ!」

「いいや、お前の方だ!」

「あ、あのぉ……」


 俺は激しく言い争う二人に声をかけた。

 凄く気が進まなかったが、これも仕事なので仕方ない。


「誰だっ!?」


 職人気質なオッサンの方が、物凄く怖い顔で俺を睨む。

 ……声、かけるんじゃなかった!


「なんでもないです。お邪魔しました」


 うん。出直そう。

 今日は日が悪い。

 こんな状況で交渉しても決裂するに決まってる。はい、出直し出直し。


「ちょっといいですか?」


 俺が踵を返すのとほぼ同時に、ロレッタが二人の前へと進み出た。

 お前は空気が読めないのか!?

 空気が『触るな危険』って文字に見えるくらい、触れちゃいけない雰囲気を醸し出してるだろうが!


「何を言い争っているです? よかったらあたしたちに話してみるといいです」

「……あんたらは、何もんだ?」

「あたしと、お兄ちゃんです!」


 なんの説明にもなってねぇぞ、ロレッタよ。


「……そうか。いや、恥ずかしいところを見られちまったな」


 職人さんが納得したぁ!?

 なに、今のアホの娘発言のどこにそんな説得力が!?


 気まずそうに刈り上げた銀髪を掻く職人気質のオッサンと、苦虫を噛み潰したような表情で視線を逸らすイケメン。……くそ、そんな悩んでる様すら絵になるのかよ、イケメンは。詳しくは知らないけど、全面的にお前が悪い。俺はオッサンを支持するね。


「よく分からんが、子供は親の言うことを聞くべきだ。一人前になるまではな」

「おぉっ! 話が分かるじゃないか、あんた!」


 アンチイケメンのDNAが騒ぎ出した俺に、オッサンが好印象を持ってくれたようだ。

 俺に歩み寄ってきて握手を求め、そして、俺の肩をバシバシと叩く。賛同が得られたことがこの上もなく嬉しいのだろう。


「あんたからも言ってやってくれねぇか、このバカ息子に」

「任せろ」


 俺は勇んで一歩踏み出し、銀髪の青年に向かって言い放つ。


「イケメンは多少の困難を甘受すべき運命なのだ!」

「あ、お兄ちゃんのはただの僻みなんで、右から左にスルーしていいですよ」


 くそ、ロレッタめ! イケメンの肩を持つのか!?

 やっぱり顔か!? 顔が決め手なのか!?


「ロレッタ……お前もイケメン至上主義だったのか……」

「なっ!? ち、違うですよ! 今のは明らかにお兄ちゃんの偏見が前面に出ていたですから、そう言っただけで…………あたしは、顔なんかどうでもよくて、お兄ちゃんみたいな……頼れる人が…………あたしが、生まれて初めて甘えられると思った人ですし……」


 パウラでなく、俺に対してそんな感情を抱いていたのか、こいつは。

 まぁ、悪い気はしないが…………けどな、ロレッタ。今のお前の発言、俺のルックス完全否定してるからな? ちょっと心抉られちゃってるからな、俺。


「なんなんですか、あなたたちは? いきなりやって来て、他人の家庭のことに口を挟むなんて……非常識じゃないですか!?」

「イケメン相手に常識など必要ない!」

「ごめんです。お兄ちゃん、ちょっとだけ可哀想な人なんです」


 おいコラ、ロレッタ。……あとで話あるからな?


「とにかく、あなたたちには関係のない話です。口を挟まないでくれますか!?」


 イケメンが正論を言う。

 なぜだろう。正論なのに、「イケメンが正論垂れてんじゃねぇよ!」と思ってしまうのは……


「とにかく僕は、自分が納得したレンガ以外は作りたくないんだ! たとえ、このレンガ工房が潰れることになっても!」


 え……? 今、なんつった?


 レンガ工房が潰れる?

 えっと…………それ、困るんですけど?


 なんだか、嫌な予感がする。こう……見えない力に引き摺り込まれていくような……そんな嫌な感じが…………


「分かったですっ!」


 突然、ロレッタが大きな声を上げる。


「何一つよく分からないですけど、概ね分かったです!」


 なぁ……なんでそんな矛盾したことを堂々と言えるの、お前?


「要するに、お二人の考えが真っ向から衝突して今このレンガ工房は存続の危機に瀕しているですね!?」

「……まぁ、平たく言えば、そうですね」

せがれが分からず屋で困ってんだ」

「分からず屋は父さんだろう!?」

「そこまでです!」


 再び言い争いに発展しかけた親子をロレッタが南町奉行所のお奉行様のように仲裁する。


「双方の言い分、相分かったです!」


 まだ双方何一つ言い分を言っていないのにか?


「ここは、お互いの主張を聞かせてもらうとするです」


 言い分、分かってないんじゃん。


「そして、見事に二人の間のわだかまりを取り払ってみせるです!」


 大きく出たな……引っ掻き回すのが落ちだろうに。


「そこにいる、お兄ちゃんがっ!」

「丸投げだとぅっ!?」


 この時俺は確信した。

 先ほど感じた予感が、現実のものとなったのはこの瞬間だったと。






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