第十九話『部下の報告』
「失礼致します!橘剣吾(たちばな けんご)少尉、参りました!」
霧島晃児は本部の諜報部で此まで調べた資料に目を通していた。 部下の声に書類から目を外し入室を促すと立ち上がり敬礼を返した。
「橘少尉ご苦労だった。では報告を」
言うが早く部下が報告書を手渡した。数枚に渡るそれに視線を走らせながら部下からの報告に耳を傾ける。
「まず一枚目ですが…被検者名簿と患者の病歴、家族構成などの詳細です。主なる対象者は少佐のご推察通り一人のようです。ですが、他にも研究素材として被験者は日本のみならず海外にも居たようです。恐らくは共同開発をしたものなのでしょう」
「確か…雅恵夫人の夫である松平秀光氏は外交官だったな。松平メディカルブランドを、全国の名たる大学病院へ推薦メーカーとして入れたのは今より十年ほど前。丁度再婚した時期か。それ以前の治験者は国内に集中していたが以降は海外が増えたのもその為か。それで…肝心の実験のデータは?」
「二枚目から三枚目に渡ったものがそれになります。二枚目が治験内容となり、三枚目がその結果となります。あの…」
それまではきはきとしていた部下の口調が急にくぐもった。恐らく目の前の上官が美鈴嬢と付き合いがある事を熟知している所為だろう。口ごもった後、最初よりも弱い口調になり報告を続けた。
「…その治験者は主に松平美鈴嬢となっておりました。治験内容と薬剤についての詳細は…」
霧島は二枚目を繰りそこへ目を落とす前に、部下へ視線を向けその表情が何を意味するかを探るも瞬時に理解し、改めて書類に視線を落とした。
「構わない。どうせ目を通すものだ。よく調べてくれた。早速蓮執事に連絡を」
「はっ。蓮様へは既に連絡をさせて頂き被験者に関する資料のみメールにて報告済みです」
「ご苦労橘少尉。だがこれは警察への協力材料が揃っただけだ。我々が探らねばならないのはその先の件だ。引き続き調査を進めるように」
「はっ!それについても目下調査中であります。では、失礼を致します」
橘少尉は最敬礼を上官へ向けた後、夕暮れ迫る茜色の光を背に部屋を出て行った。
「さて…そろそろあの執事さんからも何か連絡があるだろう。それまで残った珈琲をゆっくり楽しませてもらおう」
白い珈琲カップに半分だけ残った、既に冷めたそれをゆっくり喉に流しながら、再度、橘少尉から手渡された書面へと視線を走らせた。
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