第五話『新しいドレス』

 夫人は二日ほど屋敷に滞在し再び海外へ発って行った。  

 彼女が言った通りそれから数日後、洋裁の仕立て職人が屋敷を訪ねて来た。

 が、当の令嬢といえばドレスや洋服にはまるで興味が無いのか、デザインや生地、色の種類を丁寧に見せる職人の話に耳も傾けず、採寸以外は全てアスカが指定していった。 

 それから一ヶ月後、ドレス二着と洋服三着が仕上がり職人は意気揚々と現れた。

「こんにちは執事さん。お嬢様のお洋服とドレスが仕上がりましたのでお持ち致しました」

 品のよい薄いピンクのワンピースに身を包むブラウンショートヘアの女性が小さく頭を下げた。ワンピースは彼女の手製なのだろう。ライトブラウンの髪の色や小麦色の肌によく似合っていた。

「お世話になります。そのワンピース、とてもよくお似合いですね。それもお手製なのでしょうか?」

「ええ。子供の頃から自分の洋服を縫う事が好きでしたので、買った服よりも作ったものの方が多いのです。これも勿論手製ですよ」  

「その髪にもとても合っていますね。貴女をより素敵に見せる…今度是非、私の洋服も仕立てて頂きたいものです」

 リビングテーブルに広げられた洋服やドレスを改めて見れば成る程、それら一枚一枚が令嬢の黒髪や白い肌に似合うような透明感があり品の良い、清楚さをより引き立たせるものだった。  

 洋裁職人が帰った後、早速令嬢に試着をさせてみようと部屋へ向かった。彼女も早く袖を通したいと楽しみに待っている事だろう。

「お嬢様、早速ドレスを着てみましょうか。きっとよくお似合いだと思いますよ?」

 二着の内一着のドレスを手に取り、車椅子に座る令嬢の目の前で広げて見せた。

「まあ素敵…。本当にドレスを仕立てて下さるなんて思いもしませんでした。ドレスのデザインや色を決める時、初めての事で戸惑ってしまって全て貴女にお願いしてしまいました。これはアスカさんが選んで下さったものなのですか?」

「はい。勿論仕立て職人の意見を伺いながら決めさせて頂きましたが。本当に腕の良い職人さんのようです。奥様がお呼びになっただけの事はある」

 ふと令嬢の笑顔が曇った。

「お母様…?」

「はい。先日此方へお戻りになられた際、そろそろお嬢様も社交界デビューをなさるお年頃であるとお話を致しましたところ、ドレスを仕立てる必要があるので腕の良い仕立屋を呼んで下さったのでございます」

 令嬢の表情が曇り小さく首を振ると車椅子を窓辺へと進ませた。窓の外に視線を向けたまま静かに、あの消えそうな声で呟いた。

「そう…」

 まだ日が高い午後の日差しが部屋に射し込む。が、令嬢の背中は暗く寒々とした色が差しているように見えた。

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