3-(5) ――それはともかくTHE・風呂コーナーはまだかい?――
5
「オール、終わったのか?」
武器庫のなかでセンパイたちを守ってくれていた八咲と音乗が近寄ってくる。
「ああ、とりあえず倒した。それよかセンパイたちは?」
俺は湯かき棒を隠しながらそう答えた。
「まだ全員、目を覚ましませんわ」
「だったら家まで送ってもらってもいいか?」
「お前はどーすんだよ?」
「とりあえず俺は行きたいところがあるんだ。悪いな、わがままばっかり言って」
残った豚顔に視線を落としながら俺は腰をあげた。
「まあいいぜ。その代わり、今度……」
「ああ、デートでもなんでもしてやるよ」
俺はさらりと言ってやった。
「約束ですわよ」
なぜかそれに音乗が反応する。まあいいか。どうせ音乗にも手伝ってもらうわけだし。
音乗は嬉々とした表情で八咲はなぜか顔を赤く染めて無言で武器庫へと戻っていく。
――キミって大胆なのか鈍感なのか、よくわからない男だな――
どういう意味ですか、それ。
言葉の意図がわからない俺は紫苑さんに問いかけるも紫苑さんはなにも答えてくれなかった。
――あ、それよりも寄ってほしいところがあるんだけどいいかな?――
俺が豚顔を抱えて歩き始めると紫苑さんがそう言った。
どこに寄るつもりですか。なにするつもりですか。こんな状況でもしかしてアダルトショップ的なところに俺を連れて行く気じゃないでしょうね?
――違う、違う。キミは変な勘違いをしてるね。――
じゃあ変な勘違いをしないように言葉はつつしんでくださいよ。
――手厳しいね。妹たちの裸を見たいと言ったことをまだ覚えていたのかい――
苦笑いをして、言葉を続ける。
――ちょっと百円ショップに寄って買ってほしいものがあるんだ。早くしないと躑躅が家に帰ってしまうからね。その前にその買ったものをダッシュで届けてほしい――
なにか意図があって言っているのだろう。俺は嘆息しつつもそれに従った。従わなかったらガミガミうるさくなにか言ってくるに違いない。手放してしまいたいがセンパイに返せばすぐさま〔
幸い、この近くには百円ショップが多数存在する。俺は近場の百円ショップへと歩を進める。
――キミは躑躅と紅葉の復讐が間違ってると思うかい?――
俺の想いを読んだのか、紫苑さんが尋ねてくる。
百円ショップに入りがてら俺はこう言った。
――復讐ってのは大概間違ってるものでしょう。
「いらっしゃいませ」と店員の声が店内に響く。
紫苑さんはその店員の挨拶が終わるまで待ってから言葉を発した。
――それはどうだろうか。あ、THE・風呂コーナーに向かってくれ――
俺の意見に紫苑さんは疑問を呈しそして俺を買ってほしいもののところまで誘導する。
数十種類あるハサミを吟味している少年の横を通り過ぎて尋ねる。
それはどういうことですか?
――いや、復讐は正しいか、間違いかの枠で捉えていいものかと思ってね。まあただ一個人の思想さ――
俺はTHE・電気コーナーの角を曲がり一番奥へと進んでいく。
そういえば、センパイの復讐は紫苑さんがそそのかしたんですか?
――そんなわけない。ただ両親が〔
紫苑さんは〔
俺は思い切って尋ねてみた。
――そりゃね、両親を殺されたんだぞ。でもだから復讐しようとは思わなかったね――
じゃあなんでセンパイは? それとあんたは復讐を止めようとしてない。
――あの子は単純で純粋なんだ。しかもそれに影響されて紅葉も復讐を考え始めた。紅葉は紅葉でお姉ちゃん子だからね、真似したがりなのさ。そして自分がふたりが復讐するのを止めないのは、自分も恨んでるからだよ。そんな人間の言葉を聞くと思っているのかい?――
確かにそうかもしれない。けどその恨みをわかっているからこそ、止めるべきじゃないのか?
――それはともかくTHE・風呂コーナーはまだかい?――
もうちょっとです、と俺は伝える。
――キミは躑躅たちの復讐を止めたいのかい?――
俺は止めたいですよ。
断言したところでTHE・風呂コーナーに到着する。陳列棚はプラスチック製品と石鹸や詰め替えシャンプーなどの風呂用品に別れていた。
なにを買うんですか?
――おいおい、THE・風呂コーナーに行ったら買うものはたったひとつだろう。風呂イス? 洗面器? シャンプー? 全部ノーだ。いいかい、買うのは湯かき棒だ。それも水色の――
それを聞いて俺は考える。俺は今、湯かき棒(水色)を持って店に入っている。そんな俺が湯かき棒(水色)を購入し、レジにてお金を支払う。それってとてつもなく恥ずかしいことなんじゃないのか?
――どうした? 早く買うんだ。それがきっと躑躅のためになる――
「どうしてセンパイのためになるんですか?」
買うのをためらっていた俺は思わず声に出して、紫苑さんに言葉の真意を尋ねる。店の隅、THE・風呂コーナーの一角で湯かき棒に語りかける姿を誰かが見ていたら不気味に違いないが今はそんなこと気にしてなどいられない。
――キミが〔
紫苑さんの言うことには一理あった。俺は覚悟を決めて湯かき棒を手に取りレジに向かった。
レジの店員に先程手に取った湯かき棒を渡すと店内に持って入ったもうひとつの湯かき棒を見て、「そちらの商品は違いますか?」と尋ねられた。
「すいません、これと同じものを買ってこいって言われたんで」
それでもいぶかしんだ表情を見せたので、こっちはバーコードがついてないですよ、家から持ってきたんですよと主張して渋々納得してもらった。
もうこの百円ショップには通えない。そんな犠牲と百五円を支払って購入した俺は再び〔
するとちょうどいいタイミングで八咲がセンパイを背負って武器庫から出てきた。
「八咲!」
紫苑さんの宿った湯かき棒を茂みに隠し、俺は八咲を呼んだ。
「オール、用事はすんだのか?」
「すまん、これからだ。湯かき棒をセンパイに返し忘れたんで返しておこうと思ってな」
「そうだったのか。ってかそういや、なんで湯かき棒を持ってたんだ?」
「あの、なんだ……その……なんか勇気が出るんじゃないかなー、って思ってな」
俺がそう言うと、「下手な嘘だな」と八咲は笑った。
「どうせ、あの襲ってきた組織に関係してたりするんだろ」
半分正解の答えを八咲は返してくる。俺は少し驚いてしまう。八咲はそんな表情を見抜いたにもかかわらず、こう言った。
「言えないなら今はいい、でもいつかきっと話せよ」
八咲の思いやりが心に染みた。
「ありがとう。いつか話す」
ただの湯かき棒を八咲に渡した俺はとっさに茂みに隠した湯かき棒を拾い、隠しておいた豚の頭部を回収して走り出す。旋律さんに会いに行くつもりだった。
道すがら、話したいことがあると旋律さんのスマホにメールを送る。了承のメールを受信し、俺は道のりを急ぐ。〔
「これは〔
「そんな〔
「ええとそれには理由があるんですが……そういえば旋律さんは蘆永って知ってますか?」
「えっと……ああ、キミたちのチームメイトだよね。そのぐらいはかるめるから聞いているよ」
「実は、その蘆永が……」
「ちょっと待ってくれ、オールくん。焦らなくてもいい。ボクは話を聞きたくてうずうずしている。とりあえずボクの部屋に行こう」
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